流氷とは、海の水(ただし海水ではない。汽水または河口部の淡水に近い水である)が凍ってできた氷のことである。生成過程のなりゆき上、海に浮かんでいる。
多くは北極海または南極海で冬季に作られ、沿岸部を中心に漂っている。
気象条件・地形条件から北緯50度~60度の低緯度で生成されることもあり、それがさらに低緯度の地方へ流れてくることもある。日本の北海道の宗谷・オホーツク両総合振興局と、カナダのノヴァスコシア州は、北緯45度以南の低緯度で流氷を観測できる世界でも珍しいポイントである。
流氷のできかた
流氷は海水が凍ってできるわけではない。流氷は大きな川の河口部で作られる。すなわち、おもに淡水や汽水が凍ることによって流氷が出来上がるのである。本稿の出だしに「海水」ではなく「海の水」と書いたのはそういうわけである。
河口部で流氷ができるのにはちゃんとした理屈がある。
まず、海水は塩分がかなり高濃度に含まれているため凍結しにくい。
また、河口付近では川から流れだしてきた淡水が海水の上に乗るため、重たい海水は海底に沈み、浅層にある淡水や汽水が寒気にさらされることになる。
また、河口部周辺の海は海底・河底までの距離が浅いため、水の蓄えている熱が地面に逃げてしまいやすい。
これらの現象が重なって、河口付近では水が凍りやすい条件が整うのである。この氷が割れて流れ始めると流氷になる。
したがって、河口周辺にはできたばかりの流氷がたむろしていることが多く、そんなときに嵐でも起きようものなら河口に流氷が押し寄せて川を塞いでしまい、周辺に川の水があふれ出して洪水をおこすことがある。
ちなみに流氷と似たようなものに「氷山」があるが、こちらは陸に降り積もった雪が圧縮されてできた氷河が海に流れ出して、その一部が砕けたものである。海面で水が凍った流氷とはでき方のメカニズムが異なっている。
流氷と生活・文化
日本で流氷と言えば、たいていは北海道のオホーツク海沿岸地域に来るものを指す。
毎年流氷が来るたびに、流氷が見えた「初日」と流氷がなくなった「海明け」の日とが気象庁により報告され、マスコミでも報道される。
この氷はロシアのサハリン近くのアムール川河口域で作られたものが流れてきているという説が一般である。
「流氷」とは、漢字で書くとおり、流れて動くものである。意外にもこのことを見逃している人が多い。とくに南のほうの人に、「流氷は海が凍るもの、水たまりに氷が張るように海の上に氷が張り詰めていて、春が来るまでそこから動かないのだ」と勘違いしている人がいるようだがそれは誤解もいいところ。そりゃあ流氷が押し寄せたときには浜まで真っ白になってまるで氷の平原のように見えるが、それを期待して観光に出向いても、風向きによっては浜辺から押し流されて、海がきれいさっぱり紺碧になっていることだってあるのだ(それはそれで美しくはある。また海に流氷がないと漁師さんが漁に出られるので、おいしい海の幸が手に入るという利点も忘れてはいけない)。
ちなみに流氷がオホーツク海側にばかり来て日本海には全くと言ってよいほど流れてこないのも、流氷が移動可能なものであるということを示唆している。宗谷海峡を抜ける対馬暖流に乗ってオホーツク海側へと流れてしまうので、日本海側へはやって来られないのである。
漁師さんといえば、流氷は川に乗って流れてきた養分や海中の微生物などを集めてくるため、流氷の下は栄養が豊富な豊かな漁場になっているという。
流氷は淡水や汽水が凍ったものなので、塩分はほとんど含まれない。なので、なめても塩辛くないし、飲み水にもできる。
観光資源としては、陸や船の上から眺めるのはもちろんだが、流氷の下に潜って魚などを鑑賞するのも最近では人気が出てきている。
知床のツアーガイド、藤崎達也氏が始めたドライスーツを着て流氷の上を歩く「流氷ウォーキング」等も近年では人気。