概要
湿地とは、一時的あるいは常時を問わず、水に浸かるか水分の含有が非常に多い土地のこと。いわゆる沼地がイメージされがちだが、実際には湿原や沼のみならず、池や河川、地下水系、更には干潟や藻場、珊瑚礁などの浅海域も含む概念である。田んぼも人工的な湿地と言えるが、もともとは自然の湿地だった場所が人間の都合で水の出し入れができるよう改変されたものが多い。
水鳥の繁殖地となったり独自の植生(水生植物)が見られ、陸地と水域を繋ぎ汚染された水を浄化するとともに養分の供給を担う、生物多様性にとって極めて重要な地形である。
湿地と人間
上述の通り、自然環境にとって重要な役割を持ち、人間にとっても多くの小魚やエビや貝類を育む漁場ともなってきた。現在では多くの人々が生活する関東平野や大阪平野にも、かつては氾濫原からなる広大な湿地帯があった。古事記などに記される日本神話において地上が「葦原の中つ国」と称されたのも、葦の生い茂る湿地帯がいたるところに広がっていた日本古来の風景を反映したものではないかと考えられている。
一方で、古くから干拓や埋め立てで農地に変えられ、多くの湿地が失われてきたのも事実である。湿地は自然の下水処理場の役割を担っているのだが、大量のし尿や動物の死体が捨てられるなど処理のキャパシティを超えると生物は死滅し「汚い湿地」として病気の発生源にもなってしまう。高度経済成長期の都市近郊ではゴミで埋め尽くされた汚い沼地というイメージが嫌われ、多くの湿地帯が埋め立てられてしまった。
近年の都市部では下水道の整備により汚水が垂れ流されることはほぼなくなったが、畜産業が盛んな北海道では、畜産排水による湿地の土壌汚染や地下水汚染が問題になっている。
また、治水対策では水域と乾燥した陸地を明確に区分する護岸整備がなされることが多いため、「グレーゾーン」の小規模湿地が姿を消している。コンクリート護岸化による水生植物群落の喪失は、生物多様性に大きな打撃を与えるほか、水質汚染など人間生活にも直接的な害をもたらす。
残り少なくなった大規模な湿地は生物多様性の保全や、洪水時に遊水地の役割を果たすとして自然保護区の指定を受けているものもある半面で、まとまった開発用地がとれるということで物流拠点やソーラーパネル建設敷地として目をつけられ、指定を解除されてしまう湿地も出ている。
なお、地盤の弱い干拓・埋立地は住宅などの建設には適さない。湿地を埋め立てて造成した土地に一戸建て住宅などを建ててしまった日には地震の際に液状化現象で家が傾いたりして悲惨なことになるので、干潟や湖沼を埋め立てて間もない土地に建てられた物件は絶対に購入してはならないのはもちろんのこと、100年以上前に埋め立てられた土地であっても液状化現象が発生しないとは言い切れないことに留意する必要がある。
多くの水産物の減少にも、湿地帯の破壊が影響している。一例を挙げると、干潟の代表的な生物であるアサリは、生息地の劣化や減少によって漁獲量が昭和末期の1割以下に激減しており、国内需要のほとんどを中国や朝鮮半島からの輸入に頼っている。同様に日本各地に生息していたハマグリも有明海と周防灘の僅かな範囲を除いて絶滅に近い状態であり、市場に出回るものは殆どが食味の異なるチョウセンハマグリやシナハマグリなどの代替品である。 このように、本来ならば当たり前に採れるはずのものが海外から買わざるを得ない状態になり富の流出を招いたり、当たり前に嗜まれていた味覚が失われて他のものしか選べなくなるなど、湿地環境の劣化は経済的にも文化的にも負の影響を与えていると考えられる。
創作における湿地
創作における湿地の描写は、殆どの場合、湿地の中でも沼地や湿原と呼称されるものに限定されている。こうした泥々でジメジメとした沼地や湿原のイメージから、「毒沼」「瘴気」などのギミックや、グロテスクなモンスターや毒持ち、アンデッドなどの生理的嫌悪感を催させる魔物の徘徊するなどの設定がなされる事が多い。
とりわけデモンズソウルの腐れ谷は病やスラムなど湿地の負の側面を凝縮した色んな意味でゲーム史上最低最悪のダンジョンの一つである。
関連イラスト
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水害 ゼロメートル地帯 液状化現象:湿地帯を造成した土地につきものの現象。湿地帯だった土地は災害リスクが高いのでなるべく住まない方がよい。遊休地であれば農地や太陽光発電用地としての活用や、可能であれば湿地帯に戻すなどの対策が考えられる。
ネルソフ湿地帯 瀑布湿原 腐れ谷:創作における「汚い湿地」の一例。
甲府盆地:現実に存在した「汚い湿地」の代表例。甲府の歴史は日本住血吸虫症との戦いの歴史であり、汚染された土地から離れることは武田信玄の覇道の原動力の一つでもあった。病にとどめの一撃を与えたのは、皮肉にも戦後の環境破壊であった。