獣人雪男
じゅうじんゆきおとこ
『ゴジラ』『透明人間』『ゴジラの逆襲』と続く戦後東宝特撮映画の第4作目。
原作は『ゴジラ』に引き続き香山滋が担当し、本多猪四郎と円谷英二のコンビが監督したほか、当時無名だった岡本喜八がチーフ助監督兼脇役として参加。キャストやスタッフもゴジラから多く続投している。
そして『ゴジラ』以上に秘境探検物の要素が強くなっている。
物語は、ある雨の日にかつて日本アルプスで怪事件に遭遇したというK大山岳部が新聞記者の取材に応える形で回想する場面から始まる。
東京にあるK大学の山岳部は、冬の日本アルプスへとスキー合宿へとやって来た。
ところが2名の部員が行方不明になる。1人は遺体で発見されたが、もう1人は行方不明のままで、山荘の周りに奇妙な足跡が残っていた。
やがて夏になり、山岳部は捜索隊を結成。行方不明になった部員の弟信介や妹の道子、生物学者の小泉博士、そして彼らを追う悪徳興行師の大場たちと共に山へと入った。
山中にキャンプを張った一同の前に謎の生き物が出現。後を追った部長の飯島は、生物の捕獲を企む大場たちに怪我を負わされてしまった。
彼を救ったのは、昨年出会った部落の娘チカだった。しかしよそ者を嫌う部落人たちは飯島を断崖につるし上げにする。それを助けたのは、あの謎の生物雪男だった。
しかし雪男は追って来た大場たちに捕らえられ、親を助けようとした子供の雪男が殺されてしまう。怒り狂った雪男は部落で大暴れを始めた。
身長:3m、体重:200kg
日本アルプスの閉ざされた秘境ガラン谷の鍾乳洞に長らく生きていた獣人の末裔。部落の人間からは山の主と崇められていた。
かつては沢山種族がいたらしいが、現在はベニテングダケの影響で劇中に登場した親子の個体のみしか存在しない。
遭難した人間を助け、洞窟に住まわせるなど温厚な性格だが怒らせると非常に凶暴で、大場の策略で檻に入れられたものの輸送中に子供が殺された事に怒り狂い、檻を破壊して大場を殺害。人間への復讐のためにチカの部落を襲撃した。
最後はチカと共に火山の火口に落下した。
スーツアクターを務めた相良三四郎とは大橋史典の芸名であるが、当時のニュースではコンクールで選ばれた日本一の巨人と紹介され、本多猪四郎の公式サイトでも同様の記述がみられ一部の資料では大橋と相良は別人とされている。一方当時のニュースでの相良のプロフィールは大橋と一致しており、大橋が雪男のスーツを試着しているスチール写真も確認されている。
本作でチーフ助監督を務めた岡本喜八だが、東宝特撮映画への参加はこれが唯一となった。岡本は自身の手が届かない領域が存在しないことから特撮映画には消極的だったためとされている。ただし岡本自らが特撮に挑戦しようとしたことはある。
本作の撮影では山に慣れている岡本はすいすい登っていき、宝田明はついて行くことが出来なかったと語っている。
封印作品扱いについて
今作は公開されてから一切のソフト化、メディア化がされていない作品として知られている。一時期は音声だけを収録したドラマCDや海賊版ビデオが発売されるなどきな臭い話も多い。また一時期には過去の東宝特撮を扱った書籍に掲載されていないこともあった。「ゴジラ画報」では「表現上の諸問題によりソフト化されていない」といった主旨の記述がされていたが、この海賊版ビデオ発売以降の重版では本作そのものの記述が削除されてしまっている。
理由としては「部落の中で近親婚を繰り返し、障害者が増えてしまったような場面」等部落に対する描写に問題があることが考えられている。日本にそういう部落があるという描写は当時は山窩という山に住む部族がいる考えが、少なくとも知識人の間では一般的だった為と考えられている。
ただし劇場で公開する分には問題ないらしく、現在でも一部劇場で公開されている事がある。またサントラCDも発売されている。
『ノストラダムスの大予言』とは違い各種団体からクレームが来たという話は今のところないが、無暗にソフト化して問題を起こしたくないと東宝が二の足を踏んでしまっているのかもしれない。
また東宝は長らくシリーズもの以外の旧作映画のソフト化には消極的であり、怪獣映画としては派手な都市破壊シーンがあるわけではない本作は特撮ファンから「期待外れ」の烙印を押されることを恐れているのではとの見方もある。
アメリカでは『Half human(半人間)』というタイトルで公開され、DVDも出ているがジョン・キャラダイン演じるジョン・ライバーン博士が「日本でこんな出来事があった」と回想する本作の後日談・解説編のような内容となっている。宝田は現地の特撮イベントに呼ばれた際にこの海外版のDVDを頂いたことがあるという。