概要
彷徨海に所属している魔術師の弟子であり、エルゴの親友を名乗る男。
エルゴの「幻手」と酷似した「幻翼(ファンイー)」を持つ他、夜劫から夜劫アキラを連れ去った、とされている。
人物
外見年齢は20に満たない若々しさを備えた青年。実年齢は不明。
彫りの深い整った顔立ちに青い色の交じった黒瞳、日焼けではない生来の褐色の肌をしており、アジア系に映るが中東の血も混じっているのではとされる。
アキラと約1週間ほどホームレスである佐野の元で生活しており、その時はTシャツとダメージジーンズを履いていたものの、彼の元を去ってからはアルバイト先を見つけたことでバーテンダーの服装をすることが多くなっている。
言動も魔術師としての割り切りを除けば面倒見が良く、両儀親子の取りなしでロード・エルメロイⅡ世達と休戦した際には自ら炒飯を作って振舞うなど、家庭的な作業も手慣れている。
なお、彼の作る炒飯は中華料理なら衛宮士郎(というかとある理由による苦手意識の為中華料理に関してはほぼ素人)を上回る腕前を持つ遠坂凛をして思わず唸らせる程の絶品である。
能力
ムシキ同様、並の魔術師をメインどころかサブの魔術回路による魔力生成量でも大きく上回る凛をして『底が見えない』と思わせる莫大な量の魔力を有する他、エルゴの幻手と酷似した幻翼(ファンイー)を持つ。
半透明の翼であり、宗教画で見るような美しさと温かさを備えているのが特徴だが、翼を振り下ろすだけでも鉄筋コンクリートを紙よりも容易く切り裂き、その威力は魔剣に比するとされる。
物理的・神秘的な強度も凄まじく、エルゴから放たれた戦車の主砲じみた一撃を難なく防ぎ、小揺ぎもしていない。
翼であるため飛行も可能だが、その方法は『重力が絶えたかのような、天使を思わせる飛翔』であり、時速数百kmで自由に飛行するなど明らかに物理法則に従わないものである。
飛行時の瞬間的な加速や近接戦闘の速度も視覚を『強化』した凛の動体視力でも追いきれず、特に『ステップからのストレートは、手が霞んだとしか見えなかった』ほどに速い。
加えて白若瓏本人も頑丈であり、柏手によって相手の体内から生じ、内部から爆殺することも可能な夜劫の術者達が行使する術式も『密度』の問題で全く有効打になっていない。
さらに、凛の対物理・対魔力による二重拘束(宝石魔術によって生じる茨であり、蒼玉の茨で相手の魔力を搾り取り、紅玉の茨である拘束術式に転用する。相手自身の魔力を用いる拘束であるため、理論上は地力で上回る相手をも無力化できる)も白若瓏曰く「性質の問題」から茨を腐食させることであっさりと脱出しており、これらの交戦の結果から凛は彼のことをサーヴァント級であると評した。
彷徨海の魔術師からエルゴが暴走した時用の術式を渡されており、その際に思想鍵紋へ接続しているが、彼が好んで使うのはムシキの使うような大規模なものではなく、一般的な思想魔術である。
なお凛の前では幻翼による戦闘くらいしか見せておらず、それでもなおサーヴァント級と称された白若瓏だが、彼は中国拳法のひとつである八卦掌の使い手でもあり、エルゴの放った人間どころか堅牢な車両や建築物でも破壊する威力を持つ拳を葉底蔵華による化勁でいなしたり、大鵬展翅を放つ際の身体運用をそのまま魔術の構成要素と成す、大鵬展翅を幻翼で放つなど、魔術や神秘と現実の拳法を組み合わせた複合戦闘を得意としている。
関連人物
夜劫家の子供であり、彼女を拐った。…ということになっているが、実際は彼女自身の意思を尊重した結果であり、実質的に匿っている状態である。
佐野
白若瓏と夜劫アキラの面倒を見ていたホームレスの男性。話し方からインテリといった印象を与える人物で、本人曰く「院は出た」とのこと。
最終的に借金の取り立てに来たヤクザからの暴行を受けていたところを白若瓏に助けられ、その後の人生で二度と会うことのない彼らを時折ひどく切実な気持ちとともに思い返すことになった、という。
彼のことを親友と呼んでいる。また、彼の幻手と似た幻翼を持つことから、凛は白若瓏もまたエルゴと同じく神を喰らったのではないかと推察した。
白若瓏が彷徨海の用意したエルゴの代用品であることを看破した。
白若瓏の方も彼のことを自分の師と同じく、魔術師らしすぎて魔術師らしくないと評している。
白若瓏の師にあたる人物であり、「クソオヤジ」と呼ばれている。彷徨海の所属なのはこの人物であり、白若瓏はその弟子、という扱いである。
自分の事も道具と言い切る傲慢な態度から慕ってはいない。
聖杯戦争に召喚された彼らの存在を噂として聞いており、ムシキやジズ、エルゴと同様に自身と同等の戦力を持つ存在と見做している。
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以下一部ネタバレ有
凛は白若瓏もまた神を喰らったのではないかと考えたが、エルメロイⅡ世はそこに違和感を抱いた。
『手』とは人の進化の最たるものであり、神において複数の手は『くまなく手が届く』ことの象徴であり、千手観音などにとっては救いのシンボル、逆に阿修羅などの戦神にとっては破壊の象徴とされ、神の手を持つということは人の手が届かぬ情報までアクセスできるということでもある。
白若瓏はエルゴの代用品として作られた存在ではあるが、エルゴの設計コンセプトが「人の進化」である以上、そのスペアである白若瓏が『翼』を持つことは本来不自然なのである。
これらのことに加え、白若瓏の師である彷徨海の魔術師がアトラス院を過剰に意識していることなどから、Ⅱ世は白若瓏が喰らったのは地中海沿岸の地域に根付いた有翼神や天使ではなく、もっと別のものであると推察した。
東洋においては神と区別なく語られ、西洋においては神に対立するものとして、あるいは神に打ち倒されるものとして括られた存在・・・即ち龍、あるいは竜である。
白若瓏の名前にある瓏という字こそがその証拠であり、そう名づけされることにより彼を形作る術式を安定させている他、喰らった龍はエルゴの喰らった二柱目の神と関連が深く、同時に夜劫の神體とも縁深いのでは、ともされている。
以下さらなるネタバレ
『竜炉点火・■■■』──点火/竜の炉心。
『竜路展開・■■■■■』──展開/竜の回路。
『竜牢具現・■■■■』──具現/我が翼は、竜が自由となることを許さず──!
やはり、ここまでは本気ではなかった。
いや本気ではあったのだろうが、少なくとも奥の手ではなかった。エルゴにおける神核装塡──竜の神髄を、若瓏は露わにしていなかった。
誰もが、彼の本気を知らなかった。
彷徨海の魔人を知らなかった。
その果てがどこにあるのか、その神髄がどこにあるのかを見誤っていた。
今、ここに。 彷徨海の魔人が、初めて本来の力を振るう。
夜劫の神體であるオオナムチの兵主神としてのルーツにあたる蚩尤と応龍の戦いは、世界中に広がる牛種と竜種の戦いに纏わる神話のひとつでもあるとされる。
さらに、ライネスからのアトラス院がエルゴに喰らわせるべく選んだ神の情報により、習合の結果から同一視される存在がエジプトにも存在する竜である、という推測も成り立つ。
これらの事からⅡ世は、白若瓏がかつて喰らった竜を特定した。
ギリシャにおいて本人が牛に変身した逸話や、その子供が牛種の筆頭とも言うべきミノタウロスであるなど様々な牛の属性をもつゼウスと対立し、殺しかけた竜種——太祖竜テュフォンである。
厳密には西洋における竜種のさらに源、ガイアの復讐心が産み出した、生物というより超兵器という趣さえある神獣であり、腐食の特性を持つのは、テュフォンがヘラクレスをその毒で蝕んだヒュドラの父にあたるため。
また、『肩から百の蛇を生やした』というテュフォンの逸話はヒュドラを始めとして、世界中に多くの派生を生み出している。
モンゴルにおける多頭蛇である蟒古斯(マングス)や日本における八岐大蛇(ヤマタノオロチ)、そして場合によっては、クチナワ(蛇)としてのオオナムチさえもここに含まれる。
能力(ネタバレ有)
凛、エルゴとの初戦闘時においてさえ神話の魔剣にも匹敵する力を振い、サーヴァント級の実力者であると称された白若瓏だが、その時の彼はエルゴで言うところの神核装塡を行っていない状態であった。
つまるところ、サーヴァント級と呼ばれた時点での実力さえ本気ではない、あるいは本気ではあったが全力ではなかったのである。
彷徨海の魔人である彼が本来の力を振うのは、後述する竜牢を具現化してからとなる。
- 灰燼灼鎧(ブレイズ・オブ・エトナ)
「竜炉点火」「竜路展開」「竜牢具現」の三段階で作られる竜の肉体・竜牢外殻。テュフォンがエトナ火山に封じられていたことに由来する拘束具。
鱗とも金属ともつかない物質であり、これを鎧のように纏っているが、実態は白若瓏をヒトガタに留めるためのものとされ、それ故に拘束具であるとされる。
太祖竜テュフォンが封印されているエトナ火山の概念を反転させた武装であり、封印を反転させて竜の力をヒトガタに留め、テュフォンを制御するための装置としている。
それは即ち、この外殻を打ち砕くためにはエトナ火山を破壊するほどの威力が必要であることを意味する。
作中ではこの鎧を纏う際に『炉心から火が回った、とでも言うしかない灼熱の魔力』が放出され、それまで彼を拘束していた夜劫の操る蛇神の分霊である大蛇を腐食させる現象を引き起こした。
鎧の展開後はその影響から半透明だった幻翼が完全に実体化し、色が芽生えるのと同時にそれまでは認識することができなかった『鱗』を視認することができるようになる。
神の力を振うエルゴの幻手が神腕であるのならば、竜の力を宿す白若瓏の幻翼は竜翼とでも呼ぶべきものであり、その正体は竜鱗が翼に変じたものである。
半透明時の幻翼がそうであったように、竜翼から射出される無数の羽は標的を細断する攻撃のための武器としても使用することができ、エルゴの逃げ込んだ森の樹々を一切の抵抗なく切り倒す、不自然とさえ思えるほどの鋭い切れ味を持つ。
さらにこの竜翼の羽は、白若瓏の意思で射出後の軌道を操ることが可能である。
防御面もかなりの耐久性を持ち、限界まで身体強化を行い、破城槌に変形したアッドからサーヴァントのスキルに換算してDランクに相当する魔力放出でさらに加速をつけ、迅雷の矢と化したグレイの攻撃でもびくともせず、逆に『まるで、堅固極まりない城壁を、殴りつけてしまったかのよう』という印象を彼女に与えている。
さらに灰燼灼鎧―――禍竜、落涙と呼ばれる、握力によって極限まで力を圧縮することで一滴の雫を精製し、落下地点から何万倍ものエネルギーを放出する攻撃も行える。
放出されるエネルギーは緋色の羽根の形をとり、羽根に触れた木々が延焼や崩れ去る間もなく焼き尽くされるなど神秘の常軌さえ逸した火力を持つ。
- 〈汝、宙を裂く雷霆(ネガ・ケラウノス)〉
今や、若瓏の内側で、権能は臨界に達した。
いざ開け、神代の門。
仰ぎ見よ、定命の者。
平伏すがいい、現代の魔術師どもよ。
自然界において、最大の恐怖とともに語られたその名を──
神話上において、テュフォンがゼウスから奪い取った権能であるとされる雷霆。
その実態は太祖竜テュフォンがゼウスの設計図をハックして、新たに作り上げた破壊機構である。その仕様上、ゼウスが制限していたところまでしか威力は出ないが、むしろテュフォンからすれば好都合だった。
出力が制限されているとはいえ、白若瓏がこれを使うのは殆ど自滅に等しい。ほぼ全ての魔力と魔術回路を動員して、ようやく成せる必殺技である。
外殻『灰燼灼鎧』の半分を主砲へと変換。炎と風の元素をもって、反転した魔力を帯びた荷電粒子を誘導。赤と黒の入り混じった稲妻が、一気に対象へ向けて放出される。
赤と黒の力の奔流であり、物理法則を無視した渦重振動を発しながら万物を分子へと分解するそれは最果てにて輝ける槍に匹敵するどころか凌駕しかねないほどの魔力を有し、エルゴの行使した戦神セトの権能である〈神王屠る十四棺(ペル・ジェト)〉と衝突した際には、凛の熾天覆う七つの円環を模した宝石魔術の防壁を余波だけで最後の一枚を残して粉砕するなど、凄まじい威力を見せている。
なお、本来であれば不死殺しの鎌であるハルペーも権能として行使可能であるはずだとされているが、何故か作中では使用されていない。
以下さらなるネタバレ(その2)
モナコの海上で白若瓏と対峙したヴァン=フェムは、決定的な事実を口にした。王の軍勢も、イスカンダルの死後に発生した後継者戦争もこの目で見てきた。だが、白若瓏などという人間は見たことがないと。歴史の闇に葬られた征服王の影武者すら知る歴史の生き証人が、君のような人間は知らないと断言したのである。
無論、ヴァンも全員の顔を覚えているわけではない。しかし、エルゴの正体であるアレクサンドロス四世は征服王の母であるオリュンピアスが健在のころは彼女の手元に、敗れた後はアンフィポリスの要塞に幽閉され、ほぼ誰とも会わない生涯を過ごした。そのような中で親友になり得るのは、ごく僅かな者に限られる。テュフォンを喰らう器になれるとなると、尚更である。
加えて、彼の師であるジズはメルヴィン・ウェインズと螺旋館の葉思真を弟子にとり、半日で神代の魔術を習得させている。
神代の魔術は神と契約することで行使するものであり、地表を満たす魔力が第五真説要素から第五架空要素へ変わった後もこの契約が可能なのは夜劫や現代に召喚されたサーヴァントの例からも明らかである。だが、それならばジズの弟子達が契約した神はどこにいるのか。
さらに不思議なことに、白若瓏はエルゴのような喰神衝動こそあるが、記憶飽和は起こしていないのである。テュフォンはひとつの神話を相手取れる程の怪物であり、喰らったのはエルゴが三柱に対して白若瓏は一柱にすぎない…などという理屈は意味を為さない。
これら3つの疑問——なぜジズは神代の魔術を使う弟子を作れたのか、なぜ神喰らいの実験にスペアがいるのか、なぜ白若瓏は記憶飽和を起こさないのかを、ヴァンはたった1つの仮説で解消した。
それは白若瓏こそが保存(ゲノン)の扉の秘匿神理——時計塔の霊墓アルビオンやアトラス院の七大兵器にも等しい、彷徨海の依って立つ『秘密』。その1つである生きている神そのものだからである。
真名を、ザグレウス。
オリュンピアスの傾倒していたディオニュソス信仰における生肉喰らいの儀式、オモファギアにおいて必ず登場する神であり、マケドニア王家とも縁深い、ゼウスの後継者にあたる神である。
即ち、白若瓏がジズの弟子というこれまでの前提は嘘であり、白若瓏こそがジズと契約した神だったのである。
ザグレウスがテュフォンの器として選ばれたのは、エルゴがイスカンダルの嫡男であるようにザグレウスもゼウスの後継者であり、どちらも伝説の中心にいながら本人が成したことは殆どないという共通点によって照応させたためである。
白若瓏がエルゴを親友と呼ぶのもこの点が関係しており、人と神が近しい時代において、ザグレウスは自分と似た境遇のアレクサンドロス四世を文字通り見守っていたのである。
能力(ネタバレ有2)
日本での交戦時にグレイの〈最果てにて礎なる夢の塔(ロンゴミニアド・ミュトス)〉にテュフォンの力を封印された事により、モナコでヴァンと交戦した際に使用できるテュフォン由来の力は竜翼の展開に留まっている。
しかしテュフォンとは無関係の、彼本来の力であるザグレウスの権能は健在であり、そちらをメインにした戦闘を行う。
ザグレウスは全能神ゼウスの後継者としてそれに準ずる権能を有しており、その1つとして自らを作り変える、多様な生物に変身する権能を有する。
肉体を作り変えることをメインとする中東圏の呪術と似た能力だが、神の力であるため当然ながら精度も次元もそれらとは段違いの代物である。
作中ではこの権能によって右腕の細胞一つひとつを再構築し、十数個の魔眼を展開した。これらはひとつずつがノウブルカラーに匹敵ないし凌駕するとされる。
白若瓏と契約した魔術師達の魔術形式は西洋魔術、思想魔術などバラバラであるが、これもザグレウスの権能の特徴。全能神の後継者であり、ゼウスに準ずる権能であるということは、契約相手の魔術形式が何であっても対応しやすいということでもある。
まさしく、神代の魔術の保存を旨とする彷徨海にうってつけの神であったと言えるだろう。