砕氷船とは、船舶のうち砕氷機能を持つもの。
概要
広義には凍結状態の氷結面を破砕しながら航行可能な船舶のことをいう。また狭義には、砕氷能力を持つ船舶のうち軍艦でないものをさしていう。
通常は北極海、バルト海、オホーツク海などの海面を航行するために建造されたものが多いが、五大湖では湖沼用の砕氷船が運用されている。
特徴
近代的な砕氷船には、
- チャージング時に氷板に乗り上げて砕くためのスプーン型船首
- 船首と氷板との間に海水を噴射するハル・ウォッシュや、船底部から気泡を出して船体と氷の接触を減らすエアー・バブルなどの砕氷抵抗軽減システム
- オイル・タンクの間でオイルを移動し、ピッチング/ローリングを行うためのヒーリング・タンク
などを装備したものが多い。
用語解説
ピッチング/ローリング - 船体を前後左右に傾けて氷を割る。
チャージング(ラミング) - いったん船体を後退させ、氷に体当たりするとともに氷に乗り上げ、船の自重で氷を砕く。
スクリューが氷を切り刻む抵抗に対処するため、強大な低速トルクが必要となる。それゆえ低速で最大トルクを発揮する電気モーター推進(ディーゼル機関で発電した電力でモーターを駆動するディーゼル・エレクトリックというタイプが多い)を採用する砕氷船も多く、また民生原子力船がペイする唯一の分野とも言われる。
近代的な砕氷船は帝政ロシアのタグボート「パイロット」が元祖と言われ、国土が北極海に面するロシア/ソ連は特に砕氷船の開発に熱心であった。現在もアメリカ合衆国、カナダ、ロシア、北欧諸国などで数多くの砕氷船が運用されている。
砕氷船はその特殊な構造のために新造できる造船所が少なく、また非常に頑丈な船体をもつことから、時に長きにわたって運用される事がある。1898年から1963年まで運用されたイェルマーク(ロシア帝国→ソ連)、 1914年に建造され100年以上経った今なお健在(1985年退役)なスールトール(ロシア帝国→エストニア→ソ連→フィンランド→エストニア→ソ連→エストニア)などはその代表的な例である。
日本の砕氷船
現在の日本で運用されている砕氷船は、自衛艦たる南極観測船1隻(しらせ)と、巡視船2隻(そうや、てしお)と、観光遊覧船3隻(おーろら、おーろらII、ガリンコ号)とごく少数であるが、南樺太を領有していた戦前の日本は比較的多くの砕氷商船を保有していた(→幸運船の記事で、太平洋戦争を生き延びた砕氷船が紹介されている)。