概要
古今東西のSF小説へのオマージュ(手塚治虫『火の鳥』、アルフレッド・ベスター『虎よ、虎よ!』、カート・ヴォネガット『スローターハウス5』、グレッグ・イーガン『万物理論』など)が盛り込まれ、内容自体もワイドスクリーン・バロック的な構造を取っている。
2010年からはイラストを担当した綱島志朗による漫画版が「コミック電撃大王」にて連載された。
全3巻。第3巻にはうえお久光が書き下ろした「箱の中の手紙」が収録されている。
特に『1/1,000,000,000のキス』は高く評価されており、
「SFが読みたい!」2010年度版国内篇ランキングでは10位にランクインした。
ストーリー
紫色の瞳を持つあたしの友だち、毬井ゆかりは人間が“ロボット”に見えるという──
自分以外の人間が“ロボット”に見えるという紫色の瞳を持った中学生・毬井ゆかり。
クラスでは天然系(?)少女としてマスコット的扱いを受けるゆかりだが、彼女の周囲では、確かに奇妙な出来事が起こっているような・・・?
注意:以降の記述には物語・作品・登場人物に関するネタバレが含まれます。予めご注意ください
『毬井についてのエトセトラ』
「人間がロボットに見える」という少女毬井ゆかり。偶然その秘密を知った波濤学は、ゆかりと関わるようになり、徐々に親しくなっていく。
そんな中、彼女達に舞い込んだ連続猟奇殺人事件。ゆかりと波濤学は、ゆかりの「見え方」を巡って事件に巻き込まれるはめになる――
『1/1,000,000,000のキス』
二学期の始業式。ゆかりの秘密を知る数学の天才少女、アリスがやってくる。彼女は天才児保護組織「ジョウント」にゆかりを勧誘するが、勧誘を受け「ジョウント」に参加し、転校したゆかりには、思わぬ悲劇が待っていた。
一方、猟奇殺人事件より左腕に携帯電話を埋め込まれた学。ゆかりの転校後、学はそのケータイで 平行世界/別の可能性 の自分と交信できるようになる。
自分と通話しながらも平和な日常を送る中、突如知らされたゆかりの急逝。学はその不可解な死に対し、無限に存在する 平行世界/別の可能性 の自分を用い、「ジョウント」に戦いを挑むことを決意する。
ゆかりを取り戻す、ただそれだけのために。さあ、トライ&エラーを始めよう。
登場人物
- 毬井ゆかり(まりい ゆかり)
- 波濤学(はとう まなぶ)
愛称は「ガク」。ゆかりから見た彼女は「最強の汎用性」を持つロボットに映るらしい。
ゆかりによって埋め込まれた携帯電話を通じて 平行世界/別の可能性 の自分と交信できるようになる。この能力で、無限の自分と協力して無限の可能性をたどり、ゆかりのために奔走する。
自身を光になぞらえ、光が全てのルートの中から最短ルートのみを通るように、全ての可能性の中から目的へ最短でたどり着く可能性を探す。
偶然の事故からファーストキスの相手はゆかり。
- 天条七美(てんじょう ななみ)
ゆかりの幼馴染。過去の出来事から、ゆかりを蛇蝎の如く嫌う少女。
元は仲が良かったのだが。量子力学に精通している。
「ジョウント」という組織に所属している転校生の少女。
ゆかりや学よりも年下だが飛び級で進級している。
「ジョウント」は様々な天才を保護し、(普通の学校では不可能な)彼等の特殊能力を育成しているという。
アリス自身も「数式が絵に見え、絵を描くことで計算を行う」という特異な能力を持つ。「万物理論」に到達しうるのではないか、と期待されている。
転校してきたのはジョウントの使者として毬井ゆかりをスカウトするため。
- 加則智典(かそく とものり)
ゆかりが密かに思いを寄せている男子。
ゆかりの目で見た彼は、「大きくて、ぎらぎらしていて、見ているだけで震えちゃうような、いまは止まっているけれど、いざ回転しだしたらもうどうにもできないぞ、って感じ」のドリルを持つロマン溢れるロボットに映るらしい。
名前は波濤学、天条七美、加則智典、と合わせ、日本初のロボット「学天則」に由来している。
余談
「魔法少女まどか☆マギカ」(2011年)が放送された際、類似点が幾つかあると話題になった。