落斯馬
らしま
イエズス会の宣教師フェルディナント・フェルビーストが著したといわれる漢訳世界地誌『坤輿外紀』などに記載される幻獣の一種。
体長が四丈(約12m)程ある海獣で、尾は短く、普段は海底奥深くに住んでおり、滅多に海上に姿を現さないとされる。
その皮膚や鱗は刀などで刺し貫く事ができない程に硬く、頭には先が湾曲した鉤のようになっている角が二本有り、稀に磯に上がって来てこの角を岸辺の岩に引っ掛けて眠ることがあり、終始起きることは無いという。
これについて明治27年発行の「通報」誌に載ったガスタヴ・シュレッゲルの論文に出てくる、「『正字通』にある 落斯馬という生き物はイッカクであろう」説に対し、南方熊楠は、
ラシマは恐らくノルウェー辺の語「ロス・マー」( Ros Marセイウチ。直訳すると海馬)である
記述は恐らくヨーロッパの資料の孫引きで、原典も「伝聞」によって書くというお約束に基づく。
落斯馬の描写で書かれる「角」は、イッカクよりセイウチの牙に近い
という論を展開したところ、G・シュレッゲルからの反論があった為、(「オランダ人」シュレッゲル大先生に対するヘイトスピーチ込みで)
明朝の中国には欧州からの伝道師が多数入って著書を発表しており、外来語が多数出た可能性はかなり高く、
ていうか資料Aとして『坤輿外紀』があり、さらにそこの文章は16世紀のローマで書かれた本の記述にかなり近い、
というエビデンスを開陳し、相手へ認めさせた(『人魚の話』『地突き唄の文句』『古谷氏の謝意に答え三たび火斉珠について述ぶ〈上〉』『履歴』)。
中国の文献に出るので、その情報は江戸時代すでに日本へ来ていたらしく、朝里樹『日本怪異妖怪事典 北海道編』によれば尾張藩の学者秦鼎の『一宵話』に、蝦夷の海にいるとか、「シカツイタシベ」と蝦夷が言う海獣に関する、海底に生息、稀に上陸して角を岩へかけて寝る、というだいたいあってる生態が伝えられ、同シリーズ『九州・沖縄編』(闇の中のジェイ)によれば京都の蘭方医が書いた本に、落斯馬について身の丈4丈(12mくらい)、前足は短く、鱗甲は固く、鉤状の角を持つという記述があるという。
なおキャロル・ローズによれば、ノルウェーの海にはセイウチの皮を被った、「ロス・マー」と呼ばれる巨人がいると伝えられている。 こちらは、英国のエドマンド・スペンサーが書いた小説『妖精の女王』で、ロスマリンと呼ばれる、牙が生えたおっさんの顔と人間の上半身、セイウチの下半身を持つ巨人の資料になった。