「邪魔立てするか、御子の忍びよ」
概要
CV.津田健次郎
戦国末期の日本をモデルにした架空の国、葦名の国の国主・葦名一心の義理の孫。
主人公・狼の腕を斬り、その主である竜胤の御子、九郎を連れ去った張本人である。
一心の正当な跡取りと認められているが、元は市井の生まれ。母が死んだのちに一心が引き取る形で葦名城にやって来た。鬼庭刑部雅孝は幼い頃の彼の傅役(教育係)。
巴という女性を剣の師にもち、一心の『葦名流』に属する剣術『巴流』の使い手であり、加えて葦名城内でも噂されるほどの弓の名手でもある。
故国への忠誠と執着は凄まじく「葦名は俺の全て」と断言し、葦名を守るためにあらゆる手を尽くし手段を選ばない。故に内輪で対立が起きている。
作中にも弦一郎一派と思われる侍大将や寄鷹衆などの手下がいる。
ゲーム本編開始の時点で、葦名の国はすでに外敵内府軍をどうにか撃退出来たというところまで追い詰められていた。国主・葦名一心も病床にあり、多くの将兵が死した葦名に反撃する力は残されていない。故に弦一郎は「もはや尋常な術では葦名は守れない」と考え、九郎の血に宿る不死の力『竜胤』を求めた。
年頃は20代後半~30代前半ごろと推定され、狼やエマと同世代。義理の血筋の育ちや、我欲ではなく忠誠の為に戦うという背景が狼と共通し、物語では幾度も刃を交え、最終盤では狼の武器と対になる刀を手にして立ちはだかる。
*以下、ゲーム内容のネタバレを含む*
物語での関わり
第一戦
葦名弦一郎、参る…
プロローグにて、葦名を脱するべく九郎と狼は「葦名本城 水手曲輪」の抜け穴へと向かう。
しかし行く手には弦一郎が待ち受けていた。ここでの戦いで狼は弦一郎に敗れ、九郎をさらわれて腕も失うことになる。
チュートリアルの負けイベントボス。勝てば専用の負けムービーが見られる。
第二戦
忍よ、再び見えようとはな…
葦名城天守閣にて弦一郎は、九郎に不死の契りを迫るが、竜胤が『竜咳(りゅうがい)』と呼ばれる病を広め、生死の理を歪めてしまうことを理由に拒否される。
そこに、竜胤を危険視するさる人物の手引きで現れた狼と対峙する。
忍殺ゲージ2回の真剣勝負。中盤でやっとゲームに慣れてきたプレイヤーに基本を叩き込んでくるボス。
2段階目では少々動きが変わり、今までの敵とは一線を画する強さを誇る。
巴流 葦名弦一郎
巴の雷、見せてやろう
狼に膝をついた弦一郎だったが、鎧兜を脱ぎ巴流の本領を発揮する。この時点で刀の構えが多少変わる。
技が所々大きく変化しており、初めて戦う際はここで阻まれることも多い。
狼との戦いに敗れた弦一郎は死んだかに思われた。しかし、力のためなら己すら捨てる弦一郎は変若水の澱(おちみずのおり)を飲んだことによって強靭な肉体を得ており、再び立ち上がり稲光と共に天守閣を去った。
第三戦
俺が、葦名を生かす!
葦名城を囲む内府の軍勢は葦名一心が事切れたことを察知し、この機に乗じて城に攻め寄せる。
城内にて竜胤の問題を解決する方法を探る九郎だったが、内府の火攻めにより落城した芦名城から脱出。狼もその後を追う。しかし抜け穴の先には、葦名の地に隠された不死を殺す刀、黒の不死斬りを手にした弦一郎が再び現れ、ある条件を満たす為に九郎を斬りつける。
これで葦名の夜は、明ける…
狼に敗北すると、弦一郎は自ら斬首する。すると傷口から禍々しい靄と共に全盛期の剣聖 葦名一心が黄泉帰る。
黒の不死斬りの銘は『開門』、ある条件とは自らの命と御子の血を供物に黄泉への門を開くことだったのだ。
本人も自覚したように結局彼は何も為せず、最期まで葦名一心に頼るしかなかったのである。
行方不明
SEKIROは、条件により複数のルートに分岐する。
弦一郎の登場する場面、ボス戦の回数もルートに従い変化するが4つあるルートのうち、修羅ルートに入ると弦一郎は再登場しない。
が、とある場面で狼の義父、梟が弦一郎の持っていた黒の不死斬りを手に「こちらの首尾も上々じゃ」と言って現れる為、梟に討たれたとも考えられる。
※上記シーンの際、カメラワーク上は画面上に映ってはいないが、ゲーム内で弦一郎の行方が判明している。閲覧注意※
戦闘
剣撃と弓を巧みに織り交ぜ、こちらから攻めないと強力な攻撃を次々に放ってくるので、後隙を狙った一撃離脱戦法よりも攻撃を許さずとにかく攻め続ける戦法が有効。勝利するためには的確に攻撃を弾き、突きと下段の危険攻撃を見極めながらの攻めが重要になる。
武器
- 太刀
弦一郎が初登場から二戦目まで帯刀していた太刀。
互の目刃に葵形の鐔が付いており、朱漆塗の鞘には蛭巻に薄金大小二筋が施されている。
後半は黒の不死斬りに持ち変えてしまうため、最終戦では帯刀していない。
- 短弓
弦一郎が常に背負っている漆で固めた複合弓。
靫という種類の矢筒を腰に付け、淤加美の武者の弓使いと同じく桜の透かしが入った平根鏃の矢を使用している。
腕前は葦名城でも随一と有名。
- 黒の不死斬り
銘は『開門』、狼が手にする赤の不死斬りと対をなす蓮の花形の鐔が付いた諸刃造りの大太刀。
死なぬ者さえ殺す力の他に、条件を満たせば死者を黄泉帰らせる力がある。
変若水や不死斬りに関する書物である『小姓の日記』を居室で読み、知識を得た弦一郎は黒の不死斬りを求めた。
弦一郎は黒い蛭巻の鞘も揃いで持っているが、赤の不死斬りのように、抜いた者を殺す力があるかは不明。
入手時期は不明で、少なくとも葦名城へ忍軍が襲来した際には、弦一郎はすでに黒の不死斬りを手に入れていた。
技
- 巴流
元祖は源の宮にいる淤加美の女武者のもので、淤加美の血を引く巴が『巴流』として葦名に伝来させた流派。
刀を右手側に持ち、刃先に左手を添えて構える。剣術だけでなく弓術も取り入れ、葦名流の系譜ではあるが異端とされる流派。
実直な太刀筋の葦名流に対し、回転斬りや乱舞などの舞いに通ずる流れるような動きで刀を振るうのが特徴の剣術。しかしその神髄たる異端性は雷を操る力にあり、武器に雷を纏わせて放つ事ができる。
優れた使い手だった巴の剣技を幼い頃から見ていた弦一郎は、失った巴を追い求めて城の裏から見える雷を纏った大きな渦雲を睨みながら日々刀を振るっていた。故に技のほぼすべてが『巴流』の剣技であり、弦一郎の弓術にもそれが垣間見える。
- 弓矢
一戦目のみ使用しない。
矢をつがえて放つ、長射程かつ連射が利く強力な飛び道具で、当然弾いても体幹は崩せない。
間合いを詰めるまでの牽制、斬り合いからの離脱時など様々な局面で放ち、跳び4連打ちや溜め打ち等は的確な弾き・回避が要求されるが、弓を構えている間は無防備。
- 通常攻撃
袈裟斬りから始まる連続攻撃。『袈裟→逆袈裟→肘打ち→左薙』逆袈裟からの別派生で『十字斬り→刺突』になる。
ガードではなく弾く事で攻撃は止まる。
- 飛び込み斬り
ダッシュ攻撃の要領で飛び込みながら、✕字に斬りつける。
- 兜割り
その場で高く跳び、落下と共に刀を振り下ろし叩き斬る。
剣戟で防戦時に繰り出し、この技から『突き・下段・回転斬り上げ』のいずれかに派生する。
一戦目や二戦目は危険攻撃の2種だけで、二戦目の1段階目は突きの頻度がかなり高く、2段階目から下段が多くなる。以降の戦闘は3つの技に派生するので、下段と間違えて回転斬り上げでジャンプすると斬り落とされる。
- 突き
防戦の際に単発で放ったり技の派生でも出す事がある。
巴流 葦名弦一郎では飛び込み突きや、浮舟渡りの7撃目を弾いた際の大怯み後に刺突を放つようになる。
- 下段
移動しつつ左から右に凪ぎ払い、さらに右に移動しながら弓も放つ。
単発で出す際は隙が大きいがその後の弓をジャンプで受けないよう注意。一戦目の第2形態以降は、剣戟中に回転して隙の少ない単発下段を出す。
- 掴み
掴みかかって腹パンを入れる。直前の回転斬りを含めた1つの技。
二戦目の第2形態以降は、飛び込み突きが当たると掴み技を出して走って追いかけてくる。掴まれてしまうと大外刈りで倒されそのまま刀で一突にされる。
- 追い討ち(特殊突き)
こちらの体幹が崩れたり、倒れたままの状態だと刀を突き立て追い討ちをかける。弾ける危険攻撃だが見切りは出来ない
- 奥技・浮舟渡り
流れ舞うように7連撃を放つ巴流の奥技。
淤加美の武者や狼も流派技として使用でき、淤加美の武者は全部で6連撃、狼が出すと5連撃となる。
6撃目が弾きになりづらく、体幹ギリギリの状態で弾きを失敗すると高威力の7連撃目を受けてしまう。
4連撃目にキャンセルができ、弓など様々な技に派生出来る。
- 纏い斬り(打雷)
淤加美の武者が使用する技で、跳び上がって武器に雷を落とし広範囲の雷撃を放つ、巴流の中では『巴の雷』と呼ばれている大技。
一撃必殺の強力な技だが、特定の手順で『雷返し』で技を返すことができ、成功すれば大きなチャンスとなる。
- 秘伝・不死斬り/溜め不死斬り
念を込めて力を引き出した黒の不死斬りによる霊属性の斬撃で相手をなぎ払う。
高威力・広範囲の斬撃で、通常防御及び弾き等で防ぐことはできず、直撃しなくてもかなりのダメージになる。
続けて2撃まで出すことができ、浮舟渡りなどから連携として繋げて出す事もできる。
狼も赤の不死斬りで同じ技を出す事ができる。
心中の葦名弦一郎
発売から一年が経つ2020年10月29日。SEKIROの無料アップデートが実施され、過去のボスと記憶の中で再戦・連戦できる要素が新たに増え、連戦・御子奪還編にて巴流を極めた葦名弦一郎が登場する。
技
- 兜割り
直後に出す危険攻撃は突きの割合が高くなっており、第2段階でも下段はほとんど出さない。
- 下段
妙に伸びる飛び込み斬りの後、突如下段を放ってくる。今までに無い技構成。
- 追い討ち(特殊突き)
倒れてなくても使ってくる様になり、不意に出されると刺されやすい。弓も構えず遠方から走ってきた際は注意。避けるか弾いて対処。
- 追い斬り
遠間の敵に弓を放った後、つかさず前方に大きく踏み込む忍びの体術。
高い前進性能を持ち、走って逃げるのは困難。
- 奥技・浮舟渡り
浮舟渡り自体に変化はないが、4連撃目のキャンセル率が高くなり、下段や桜舞いなど他の技に移ることが多くなった。
- 秘伝・渦雲渡り
浮舟渡りを嫌って離れると4連撃目から突如間合いを詰め、追加の5連撃を放つ計9連撃の大技。周囲に真空波を巻き起こす事は無いが斬撃時に白い太刀筋が出る。
間合いがかなり離れていても至近距離まで接近するので、浮舟から逃げる際は渦雲に注意。浮舟を回避したのならば、円を描くようにダッシュしていれば避けることが可能。ただ浮舟より弾きやすい。
間合いが離れてなくとも繰り出す事がある。
- 秘伝・桜舞い
回転の勢いで空中に飛び上がり、舞いの如く3回転斬りを放つ大技。広範囲・高威力、鋭い斬撃なので弾かないと防御を貫通してしまう非常に強力な攻撃。
特に最後の一撃の威力が高く、ガードしていても体力を大きく削られてしまう。弾きのタイミングはそこまで難しくはない。
様々な技から出す事ができ、特に追い斬り後に繰り出す際は落ち着いて弾かなければ直撃し、体力十分でも即死もあり得る。しかし隙は大きいので弾いたりかわしたりすればチャンスになる。
- 雷返し(秘伝・桜舞い)
桜舞いは空中での攻防にも使え、桜舞いで滞空中に雷を受けると『雷返し』となる。故にこちらの『雷返し』を桜舞いで『雷返し』するようになった。
弦一郎が返してきた雷返し返しをさらに返す『雷返し返し返し』も可能。他にも霧がらすで雷返しを行った特殊な場合、雷は返して来ない。
巴流を皆伝し、葦名家の当主「葦名弦一郎」そして「巴流 葦名弦一郎」として相応しい力を手にしているが、それは狼の記憶の中のみ。
葦名を生かす為に強くあろうとした弦一郎が巴の高みに届く事はとうとう無かった。
プレイヤーからの評価
フロム作品には非常に珍しい、正統派イケメンライバルキャラである。……が、それゆえに訓練されたフロムプレイヤーからはネタにされる宿命にあり、「弦ちゃん」と呼ばれ親しまれている。
一部の海外ファンが使う "Genny" なる愛称も、おそらく同じノリであろう。
ネタにされる理由
- 大ボスらしく様々な攻撃手段を備えるが動きにクセが少なく、一発ごとの威力も比較的小さめ。故にこちらは即死しづらく、体勢を立て直してプレーを続けやすい。ゲームデザイン的に、物語序盤の壁となる彼との対戦は1回分がすぐ終わらないようにし、各基本操作の腕を磨いて欲しいという制作側の意向であろう
- 合計3戦もするのに攻撃モーションがほぼ変わらないため、後半になるとどのプレイヤーも慣れてくる。特に最後の弦一郎戦は非常に強い最終ボスの前座とも言える登場の仕方なので、最終ボスに何度も敗退し続けるとプレイヤーの多くが「弦一郎なんかにダメージをもらってるようではクリアできない」と自然と思えるようになるほどの損な役回り
- 巴流奥義であり、弦一郎自身にとって切り札になるはずの雷攻撃だったが、「雷返し」のテクニックによりプレイヤーにとって非常に有利な反撃チャンスと化す。心中バージョンになると対抗策を編み出してきたが、結局また「雷返し返し返し」をすればいいので慣れれば危険度は変わらない
- そもそも雷返しの方法が攻略ヒントとして本拠地である葦名城内の掛け軸に載っている。おかげで「弦一郎は掛け軸を取り外そうとしたが甚助(掛け軸の番をしている中ボス)に勝てなかった」などのネタ解釈が一部のプレイヤーの間で広まる
- 上述のように最後の対決では狼と同じく伝説の刀・不死斬りを携えて現れるが、不死斬りを用いた斬撃はボス敵の技らしい派手な見た目ながらも予備動作があまりに大きく、さほど苦労せず避けて反撃できる
- こうした、ストーリー上において彼が強敵となる理由設定のはずの巴流の剣術や雷の奥義、不死斬りの威力よりも、そうした説明描写が一段弱い、弓を使った攻撃の方がゲーム的には厄介に感じるプレイヤーが少なくないため「こちらに勝ちたいなら雷なんかより弓を鍛えろ」などと評される。そうしたキャラ設定と実際のゲーム挙動の微妙な噛み合わなさ(あるいは制作側の意図的なものか)はますます彼の空回りぶり・計画の裏目ぶりを強調することになった
- 1戦目で敗北すると手下に不意打ちさせてドヤる。その場面の「忍びよ、卑怯とは言うまいな」は彼および本作の名セリフのひとつにまで認知される
- 2戦目以降、常に半裸。グラフィック制作の都合と思われるが、一時撤退し時間が経った後の再登場時は服くらい着て来てもよかったろうに
- 年上からも親からもその他部下の侍たちからも、恐れや尊敬や信頼よりも心配されている話の方が多い
- 「踏みにじらせは、せぬぞ…!」(体や刀を踏み付けられながら)
- 回復潰し行動の遅さや対戦ステージの地形などを利用したハメ技が複数発見されている。おかげでRTA動画等ではまともな打ち合いは一合も許されず、一方的に滅多打ちにされて敗れる姿が日常茶飯事に
- 強化版である「心中の弦一郎」に至っては実装された当日にハメ技が発見されてしまい、心中お察し弦一郎なんて言われる始末。後に挙動修正アップデートが行われている。
- その最期は「葦名弦一郎を生贄に捧げ、葦名一心を墓地から特殊召喚する!」
- CVが同社の過去作品でやはりネタキャラとして親しまれたキャラと同じ
クセの強い登場人物が多いなか、あくまで一途に、ひたむきに、己の故郷を守るため戦い続けるその姿、しかし何もかも裏目に出て凋落し、ストーリーの本筋からも外されてしまう不遇さ、たとえ敗北者となろうとも戦いを止めないその姿、なにもかも世を拗ねたフロムプレイヤーの心を打たずにはいられない。しまいには無料アップデート前には、鬼畜難易度で知られるSEKIROで唯一、強化パッチを望まれるほどであった。
とはいえ、これはSEKIROを遊び尽くした熟練プレイヤーたちからの評価。初心者にとっては序盤の壁として立ちはだかる強敵であり、ゲームに慣れた後も本作の醍醐味である激しい剣戟をテンポよく爽快に楽しめる良ボスである。
余談
- 狼のことは一貫して「御子の忍び」と肩書で呼び続けていたが、最後に対面した際に「狼」と呼ぶくだりがある。
(ライバルキャラだけが主人公を特別な名前で呼ぶ、というのは伝統的なキャラ造形の手法のひとつであろう。例えばドラゴンボールの主要キャラの中でベジータだけが孫悟空を「カカロット」と呼んでいたり、ガンダム00でグラハム・エーカーだけが刹那を「少年」と呼び続けたりする等々。)
- 心中の葦名弦一郎は発売から一年。かつて強敵だったはずの彼を「弦ちゃん」だの「芦名復興大臣」だの散々ネタにしていた狼達も多くいたことであろう。しかし、彼らが知っているはずの「弦ちゃん」はそこにおらず、新技+派生モーションの追加による超強化で「どうせいつもの弦ちゃんだろう」とたかを括っていたプレーヤーをしっかりと鬼仏送りにした。なお、この心中の弦一郎を、親しみと敬意を込め、「弦さん」「弦兄ぃ」と呼ぶプレーヤーもいる。