概要
『超時空要塞マクロス』10周年記念作品として1992年に発売されたOVA作品。制作はAICによる。
キャラクターデザインに美樹本晴彦、シリーズ構成に富田祐弘を起用するが、一方で河森正治及びスタジオぬえが携わっておらず、河森に代わり藤田一己、大畑晃一がメカニックデザインとして関わっており、また大張正己がオープニングアニメーションを手がけた事もあって以降のマクロスシリーズの中では異彩を放つ作品となっている。
内容的には初代マクロスを意識したストーリー構成となっているが、主人公が民間のジャーナリストであり、軍のエースパイロットと敵方の歌姫がヒロインに位置づけられ、更に敵側が歌を使って兵を操るなど、マクロスとは逆の設定が盛り込まれた。
初代マクロスから80年後の世界情勢を描いており、以降制作されたシリーズはそれ以前の時系列を描いた事もあって関わりも薄く、その異色さもあって長らく扱いに難色を示すファンも多かったが、本作はマクロスシリーズの「戦闘「歌」「三角関係」の三大要素を明確化した作品として捉えられており、『マクロスF』終了後の年表では本作を盛り込んだ公式年表が公表されている。
なお公式年表に盛り込まれる以前には、河森正治が関わっていない事に加えて、いくつものタイムパラドックスが発生している(本作よりも後に製作された『マクロス7』でも本作の曲が歌われている、本作が『7』よりも後の時代設定のはずなのに『7』よりも旧式の兵器が使用されている、等)事から本作が他のマクロスシリーズのパラレルワールドだとする説が多く見られていた。
ただし、機体に関しては『マクロスプラス』および『7』の中で旧式の機体を使用する理由が語られているし、曲に関してもマクロスシリーズは「ある世界で起きた史実を基に後世に製作された映像作品であり、別世界の人間である我々はどこからが史実でどこからがフィクションなのかを知ることができない」という世界観なので、「(作中世界の)『マクロス7』のスタッフの時代考証ミス」、あるいは「タイアップの都合で同じ曲を使った」で解決する。
元々OVAとして製作された作品でありながら、1993年にはテレビシリーズ用に編集されたものがテレビせとうち枠(当時はビックウエストが広告代理を手掛けた)でテレビ東京系列で放送された。このバージョンは後にNHKやアニマックスでも放送された。
あらすじ
2090年代。
地球には何度となく異星人(ゼントラーディ)が押し寄せるが歌によるカルチャー攻撃「ミンメイディフェンス」によりその脅威を乗り越えてきた。
ところが新たに現れた敵「マルドゥーク軍」にはそれが通用しなかったのだ。
そう、彼らは歌を武器として扱うのであった。
戦場を取材中だった主人公神崎ヒビキは偶然異星人の少女イシュタルを発見し連れ帰ることになる。
地球文化に触れて心情が変化したイシュタルは戦争を止めるべく「愛の歌」を伝えようとするが……。
登場人物
主要キャラクター
CV:高山勉
SNN(スクランブル・ニュース・ネットワーク)所属の芸能レポーター。功名心から取材対象のプライバシーも顧みないが、戦争取材を通じてジャーナリストとしての使命に目覚めていく。
バルキリーの操縦ライセンスを持つが、積極的に戦闘に参加する事は無い。
CV:笠原弘子
マルドゥークのイミュレーター(歌巫女)。
ひょんな事からヒビキと共に地球へ渡り、地球の文化に戸惑いながらも強い感銘を受け、自分達の在り方に疑問を抱くようになる。
CV:冬馬由美
統合軍のエースパイロット。VF-2SSを駆るメルトランディ系三世。
軍総司令との密会現場をスクープされて以来ヒビキと反目していたが、戦いを通じて心を通わせ合う。
地球統合軍
ネックス・ギルバート
CV:島田敏
統合軍大尉。太陽系バルキリー操縦選手権の総合優勝者。
シルビーの同僚であり、彼女にアプローチしてるがあまり相手にされない。
マルドゥーク軍
フェフ
CV:古谷徹
マルドゥーク軍第3先鋒艦隊司令官。イシュタルに任務以上の思いを抱いており、地球側に連れ去られたイシュタル奪還に燃える。
イングス
CV:置鮎龍太郎
マルドゥークのイングス艦隊司令官。征服のためには手段を選ばぬ冷酷な独裁者。
他文化がマルドゥークへ影響をおよぼす事を恐れている。
地球人
マッシュ
ニューハーフの美容師。ヒビキから地球に連れてきたイシュタルの面倒を任せられるほど信頼されている。イシュタルにマクロスのことを教えた。
地球で絶大な人気を誇るアイドル歌手。ライブでウェンディーの歌を聴いたイシュタルは歌の素晴らしさを知ることになる。
専門用語
- マルドゥーク
2080年代、歌巫女の発する歌によってゼントラーディを制御し、地球に侵攻して来た異星種族。
彼らの持つ文化はアルスの星からもたらされたとされ、自らの文明を神聖視するが、それ故に「下等な文化」である異文明との接触を拒む傾向が強く、接触して来た文明は容赦なく殲滅して来た。
- 歌巫女
イミュレーター。
ゼントラーディを洗脳・制御する任を担った歌い手。
彼女達が奏でる歌は一曲のみだが、その歌には、ゼントラーディ人を戦闘に駆り立てる一種の興奮剤の力がある。
また、歌巫女は複数おり、彼女たちは正当なマルドゥーク人の血を受け継いでいる者が多いらしい。
- ミンメイディフェンス
第一次星間大戦で用いられたミンメイアタックを応用した防衛システム。
防衛ライン上の中継ステーションから歌やライブ映像を配信し、文化に免疫を持たない異星人が動揺した隙に迎撃する。