散文によって書かれた物語で、初版ではグリム童話にも収録されていたが、第二版以降は消えている。
これについては「内容が残虐であったため」と考えられがちだか、ある程度ストーリーが近い上に主人公の姉達が身体を切り刻まれるというグロテスクな場面も出てくる「フィッチャーの鳥」という類話が後の版まで残っていることから青髭については「ペロー童話の物と内容がほとんど被っていたため」というのが実情に近いと見られる。
決して剃り残しの事ではない。
内容
ある所に父親と三人の息子、そして一人の美しい娘が暮らしていた。
ある日一人の金持ちの男が美しい娘を見初め、嫁に欲しいと申し出てきた。
その男は青い髭を蓄えたその風貌から『青髭』と恐れられており、今までの妻が行方不明になっているという噂もあったため、娘は当初結婚を嫌がった。
しかし青髭の熱意に家族共々根負けして遂に承諾した。
青髭の家は豪勢で、彼との暮らしは何一つ不自由がなかった。
ところがある日、青髭が家をしばらく留守にすることになる。青髭は家の鍵全てを娘に預けたが、小さな(グリム童話では金色の)鍵の部屋だけは入ってはいけないときつく念を押して出かけていった。
娘は屋敷に友人を招いたり、珍しい物のある部屋を見て回ったりとしばらくは楽しんでいたが、やがて飽きてしまう。
すると入ってはいけないと言われた部屋のことが気になりだし、遂には好奇心に負けてその部屋の扉を開けてしまう。
娘は期待しながら鍵を開けたが、次の瞬間言葉を失った。なんとその部屋には大量の女の死体がぶら下がり、床や壁には血がベッタリとついていたのだ。
それは青髭の過去の妻達の変わり果てた姿であった。
娘は恐ろしさのあまり部屋の鍵を血溜まりに落としてしまい、染みをつけてしまう。必死にその血を落とそうとあらゆる方法を試したが、鍵には一度血が付くと二度と元に戻らないよう魔法がかけられていた。
染みがどうしても落とせなかった娘は、血を吸わせようと干し草の中に部屋の鍵を隠すがそこで青髭が帰って来る。
娘は震えながら鍵の束を青髭に返すが、小さな金色の鍵がないことに気付かれてしまう。
娘が約束を破ったことを悟った青髭は激高し、その場で彼女を殺そうとする。
娘は必死に許しを請うが聞き入れられず、ならせめて死ぬ前にお祈りの時間が欲しいと頼み、青髭もその願いは聞き入れる。
しかし娘が祈っている最中、偶然彼女の様子を見にきた兄達が異変に気付き、颯爽と駆け付けると持っていた剣で青髭を刺し殺す。
間一髪助かった娘は青髭の遺産を手に入れ、家族と共に実家に帰った。そしてその財産の一部は兄達が出世するための資金に使われたという。
‥といった具合に、素直にめでたしめでたしとは言い難い内容である。
ちなみに、登場人物の設定や娘が助け出される経緯は話によって若干異なる。
モデル
作中の登場人物である青髭のモデルは、フランス百年戦争においてジャンヌ・ダルクに助力し共に戦った、フランス地方領主の「ジル・ド・レ」という説がある。
彼は救国の英雄とまで讃えられておきながら、戦争終結後に錬金術や黒魔術に傾倒(一説には、火刑に処されたジャンヌを見て心を病んでしまったという)。
詐欺師まがいの魔術師プレラーティらにそそのかされ、領内の子供(大半は少年だったらしい)を次々と城にさらい、性的倒錯に基づいて殺害していたという。
しかし、周囲の告発によりついにその所業が明るみに出る。
城内に立ち入り検査が行われた際は、数百とも数千とも言われる子供の亡骸が見つかったという。
その後彼は宗教裁判にかけられたが、泣いて赦しを乞うたために、絞首刑にしてから遺体を火刑にされたという(本来なら生きたまま火刑)。
しかし、このときの起訴者はジルの政敵であった司教であったうえ、議事録にも不審点があり、本当に彼がこのような悪行を行っていたかは今となっては誰も知ることはできない。
その一方でイギリステューダー朝の王、ヘンリー8世をモデルとする説もある。
これは彼が生涯に6度も妃を変えていること、当時タブーとされていた離婚をするために時には妻に無実の罪を着せて刑死させていること、自身の意に沿わない側近を処刑していることなどに由来していると思われる。