500系900番台
ごひゃっけいきゅうひゃくばんだい
最高速度350km/hの営業運転を目標に、各種データを収集するために開発された。同年6月8日より試験走行開始。
「WIN350」の愛称を持ち、どちらかといえばこちらの方が一般に浸透している。
これはWest Japan Railway's Innovation for the operation at 350km/h(350km/h運転の為のJR西日本の革新的な技術開発)の略である。
他社の高速試験車両(JR東海の955形など)と異なり、500系900番台と名乗る。これは将来、量産車が500系として登場する事を前提として製造されたため。ただし、いわゆる先行量産車や試作車の類ではなく、技術検証のための試験車両であるため、500系量産車とは車体形状、構造、外観塗装などに共通点は無い。
JR西日本の所管する山陽新幹線は東海道新幹線ほど鉄道のシェアが高くなく、飛行機に対抗するためには列車の速度向上が不可欠だった事が本車両の開発の背景としてある。
実際にJR西日本では、270kmの営業運転も可能な100系V編成を1989年に投入し(実際に試験走行では270km運転も行われたが、想定よりも時短効果が薄く、車体側で環境性能をクリア出来なかった事から、営業時は230km運転にとどまった)、更に初のフルモデルチェンジ車である300系の試作車両を1990年に投入して(1992年より営業運転開始)本格的な270km運転も実現したものの、それだけではまだ不十分であり、そのためJR西日本では1990年に新幹線高速化プロジェクトを立ち上げ、更なる技術的検討を行う事となった。
本プロジェクトでの目標速度は350km/hであり、その技術的検証を実車により行う事を目的に500系900番台は開発された。
様々な試験を行う関係上、車両構成に余裕をもたせた6両編成で製造され、高速運転を実現するために全ての車両がモーター搭載の電動車。主回路制御方式は、300系と同じGTOサイリスタ素子によるVVVFインバータ制御を採用するなど、走行関係の機器は信頼性に重きをおいた設計となっている。ただし、車体構造に関しては350km運転の実現及び環境性能のクリアを目的として、後述の通り、かなり極端な構体レイアウトを採用している。
あくまで純粋な試験車両であり、営業用には使用しない事から居住性を考慮せず、走行性能や空力性能を重視して車体の高さを大幅に縮めて車体高3,300mmとしており、300系と比べて35cmも低い。最大幅は3,380mmで、高さよりも幅の方が広いという、レースカーのように平べったい形状をしている。
なお、車体高の違いによる影響を調べるため、屋根上に模擬屋根を設置する事も可能だった。
パンタグラフ・パンタカバーも様々なタイプが試験され、時期によって個数、形状、設置場所が変化していた。基本的に2~3機搭載。
また、窓や扉の段差の騒音への影響を調査するため、窓がほとんど、又は全く無い車両と窓をフル装備した車両(4号車)を設定している。側扉は3号車と4号車に1対ずつ設置している。
先頭部の形状は両端で異なる形状とし、比較検討が出来るようにしている。1号車は極力平滑化したタイプ(メイン画像)で、6号車は更に先頭部の勾配をなだらかにして、運転台部をキャノピー状に張り出させた形状である(500系量産車に特徴が受け継がれ、本車両の面影が残るのはこちらの方である)。
また、かつては0系の試作車両である新幹線1000形でも試験が行われた全周幌も当車両にて試験されたが、この時点でも耐久性などの技術的問題が解決せず、将来的な技術進歩に委ねるとして500系量産車でも採用が見送られた。後に、JR東海が300系9000番台や955形にて引き続き試験が行われ、2007年に営業運転を開始したN700系にてようやく採用された。
1995年に試験を終え、500系W1編成落成後の1996年5月31日に廃車となった。
中間車4両は解体されたが、平滑タイプの1号車が滋賀県米原市にある鉄道総合技術研究所風洞技術センターに955形(300X) 952・953形(Star21)と共に静態保存されている。
また、キャノピー形状の6号車が、長らく博多総合車両所に静態保存され、通常は非公開ながらも毎年秋頃に開催される「新幹線ふれあいデー」に於いて一般公開されていたが、惜しくも2024年3月14日に解体処分された。
なお、500系での350km/h運転はパンタグラフからの騒音が基準値を越えるため、320km/h運転をする計画に改められた。しかし、阪神・淡路大震災の発生により、非常制動距離の厳守が必須となり、最終的に営業運転は300km/hとなった。
- タカラトミー(当時はトミー)の玩具プラレールで製品化されていた。(2009年まで発売。現在はサウンドN700系と入れ替えで販売終了)ただし、シャーシはリニアモーターカーと共用のため、床下機器に相当する部分に超電導磁石の造形があり、先頭形状も実車と異なる。
- アニメ超特急ヒカリアンに「ウィンダッシュ」として登場。キャノピータイプの6号車がロボットに変形する。また、アニメオリジナル車両として、WIN350をパトカーカラーにした「ポリスウィン」、消防車カラーにした「レスキューウィン」(「のりもの王国ブーブーカンカン」のデザインコンテスト大賞作品を製品化した限定品でポリスウィンのリデコ。テレビシリーズには未登場)もおり、トミーから玩具も発売されていた。続編である「電光超特急ヒカリアン」では、ポリスウィンのみ登場。ただし、ウィンダッシュの玩具は継続販売されていた。