作品解説
前作『天 天和通りの快男児』最終回から3年後。もう一人の主人公だった井川ひろゆきを主人公として物語は進む。
赤木しげるの死をきっかけに麻雀の世界に戻ってきたひろゆきは、自分の麻雀打ちとしての3年間を試そうと天貴史に挑むが、勝負の途中で天が失踪。
若手代打ちの岸辺忍と共に天を探すうちに第2次東西対決に関わる事になる。そして今回の東西対決が東日本対西日本ではなく、日本対香港のカジノ利権を巡る戦いと知って驚くのだった。
竹書房の『近代麻雀』にて福本伸行の協力の下、前田治郎の作画で2009年11月号より連載開始。2021年8月号にて最終回、完結。
登場人物
主要人物
井川ひろゆき(いがわ ひろゆき)
前作『天』に引き続き、本編では主人公を務める。前田の「近視はひろゆきの精神が死んでいたという描写」という解釈から、前作終盤でかけていた眼鏡は今作ではしていない。「神眼」とまで称される観察眼を習得し、アカギの領域に近づいている。
天貴史(てん たかし)
前作『天』の主人公。本作では裏雀士の現四天王の一人に数えられている。最序盤で失踪するが、第2次東西対決交渉の重要な役割を担っていたが故のことが判明する。交渉の都合上人質となったためほとんど登場しないが、物語を通じてひろゆきは彼を赤木しげるとともに意識し続けることになる。
沢田(さわだ)
前作『天』の序盤に登場する主要人物の1人。見届け人として第2次東西決戦に同行。
岸辺忍(きしべしのぶ)
沢田が連れてきた若手代打ちの1人。ひろゆきの相棒役を務める。序盤に彼の凄さを知り、心酔するようになる。前作『天』のひろゆきポジションに近いが、後半はほぼモブ状態になる。
赤木しげる
前作『天』の主要人物であり、ひろゆきに自分の本心や進むべき道に気付かせてくれた人物。
作中ではすでに故人であり、回想のみで登場する。詳細は本人記事を参照。
東陣営
五十嵐健
第1次東西戦の経験者で、今回の東側のリーダー。通称「大阪の悪鬼」。
風采の上がらなかった前作とは異なり、麻雀やビジネスで成功したようで派手な成金風のキンキラキンの衣装で登場する。
卓上卓外問わず勝つためにイカサマを駆使する剛腕ぶりも健在。
西方京介
長髪で天才肌の美青年。
ひろゆきも舌を巻く程の、ズバ抜けた雀力と勝負度胸を持つ。
その正体は第1次麻雀東西戦で西軍の大将だった男の息子だった。
中田翔平
北海道出身の短髪の若い雀士。元高校球児で、先輩の大柳とともにバッテリーを組んでいた。
その後紆余曲折あって、前作で東陣営にいた北海道一の雀士・鷲尾仁の弟子となる。
前作で師匠をハメたひろゆきに復讐するため、大柳とともに上京し、予選でひろゆきを迎え撃った。
とあるイカサマの使い手で、コンビ打ちでその本領を発揮する。
柳生清麿
ガングロにピアスのマッチョという、見るからに危ない関西ヤクザ。
初登場時は天を拉致するために巨大ハンマーで大暴れしていたが、これは東西対決の交渉で東京だけが利するのを防ぐためであった。関西ヤクザの首領である原田克美が交渉に関わっていると知って引き下がるが、彼の気持ちを汲んだ原田の計らいより麻雀対決の東側のメンバーとして加わることができた。
元々は両投げ両打ちの高校球児で、素行の悪さが無ければプロ野球選手になれたほどの超人的身体能力の持ち主で、決戦直前には大柳が何年もかけて習得したイカサマを、たった2日間で習得する器用さを見せており、相方を失っていた中田のイカサマの新たな相棒として、西を翻弄した。
また意外と協調性はあり、中田や健と共に大胆な連携プレイを披露している。
平良学
いかにも内気でオタクっぽい見た目の、ポニーテールの雀士。
超計算派で、常に小型パソコン「ブルーベリー」でシミュレーションと確率計算をしながら打っている。また音楽(特にアニソン)をイヤホンで聞いていないと実力が発揮できない。
博識で、決戦会場のデザインのモチーフとなった神話などについても解説している。
いかにも弱そうで実際ひろゆきよりは格下だが、熾烈な東西対決予選を自力で勝ち上がるポテンシャルはある。またデジタル雀士が弱い(と言うより、裏麻雀が舞台なので、命や高い代償が伴うために最終的に腰が引けてスタイルを崩してしまうため)傾向にある福本作品では珍しく持論に沿ったプライドを持っているため、鋭さとそれに殉じる気概を持っており、コンビ打ちやイカサマ看破もこなす。しかし、裏の実践的な経験は未熟なため、イカサマに対する発想には後手を踏んでしまう。
西方は平良のことを高く買っているようで、「さすが平良」という台詞や、ひろゆきの代打として平良を推薦しようとする場面もあった。
敗退後も、変則ルールをいち早く察して理論的に解説するため、チームのブレーン役として機能する。
狩野龍二
かつては天と共に裏雀士の四天王の一人に数えられ、東日本では天に次ぐNo.2の実力を持つといわれていた裏プロ。ツキや流れを掴むと大物手を立て続けに上がり出し、勢いが止まらなくなる事から名前の龍二にかけて「東北の昇り龍」の異名で呼ばれていた。顔の傷跡もあいまって、外見はさしづめ長髪を下ろした天のようである。
回想から察するに、年齢的には天より歳上。
裏プロを引退後は故郷の青森でマグロ漁の漁師をしていたが、天の頼みもあり第2次麻雀東西対決に参加する。
娘を救うために肝臓の半分を移植しており、定期的に薬を飲まないと体調が危うくなる。
また高所恐怖症で、ヘリコプターには涙目になりながら乗っていた。
引退試合で役満ラッシュを止めてきた、現四天王の佐伯との間に因縁があり、本作では彼との対決が大きな見どころとなる。
佐伯の読みを外すべく様々な手を駆使するが、一方で大物手を狙う腰の重さで、スピードと連携が求められる場面ではそのスタンスが仇となってしまう事も少なくなかった。
西陣営
大湾(ダーワン)
マカオ最大のカジノグループ「湾グループ」の総帥にして、終盤で登場した西側の真のリーダー。常識外れの強さからマカオでは賭神(ドゥーシェン)とすら呼ばれている。
勝負の最中に突然関西弁で話しかけ、ひろゆき達東側陣営を「日本語を話せるのかっ!?」と驚かせた。その正体は………。
湾凰(小湾)
「カジノ王」の異名を持つ、西側のリーダー。圧倒的雀力と残酷さの持ち主。中医(鍼治療)の心得があるが、鍼を刺して殺傷することにばかり使っている。
暇さえあれば酒に入っている梅?を鍼で突き刺してペロペロしている。
ひろゆきが助けようとしていた手負いのカモメさんの頭を躊躇なく鍼で貫いて殺した上で、赤木しげるを「自殺した卑怯者」と罵ったことから、ひろゆきの恨みを買う。
中国人メンバーに共通しているが、実は八卦にちなんだガン牌を施しており、それを使って巧みに狭い待ちをピンポイントに狙い撃ち、同時に大物手も兼ねて何人もの東のメンバーを打ち取り苦しめていった。
実は大湾の息子で、父を崇拝している。
佐伯
現四天王の一人で、現役裏プロでは最強とも目されている。長髪が特徴。
鷹の目(ホークアイ)を自負し、百発百中で相手の聴牌形や上がり牌を読む打法は「卓上のレーザービーム」と呼ばれる。
麻熊
現四天王の一人。
摸打するごとに打点を上げる様はマグマの噴火を思わせ「マグマ溜まり打法」と呼ばれる高打点型。
四宮
現四天王の一人。サングラスが特徴。
ブー麻雀仕込みのスピードと戦略を重視した打ち筋で、巧みに伸びる手を広げて相手より一手早くアガることを得意とするから「ソード・マスター」の異名をとる。そのため彼の対局では、対局者たちが果たし合いをする侍の姿でのイメージがよく描かれる。
李
西軍の一人。
元雑技団出身で、常人離れした腕の長さとスピード、精密さで牌のすり替えが出来る。
しかし自分の技術にあまりに自信を持ちすぎていたことが仇となり、ひろゆきからその技を逆利用され、更に迂闊な暴走から中国人メンバーのみのガン牌の秘密が暴かれることを危惧し、怒った湾の制裁を受け、負傷退場した。
張
西軍の一人。西側の大将・大湾の代打ち。
黄
西軍の一人。サングラスの男。
陳
西軍の一人。常に風水盤を持っており、「吉兆」「凶兆」といつも呟いている。
派手さは無いがリーチ、鳴きを駆使して卓上を自在にコントロールする。
その実態は三流占い師であり、中国人メンバーのみが通じるガン牌で演出しながら場を掻き乱していただけで、ガン牌なき後は東の強豪達に及ばなかった。
その他
荒木
最序盤に岸辺とともに登場する若手雀士。清麿の名前を笑ってしまったことで右手をハンマーで破壊され、本編ではほぼ登場しない。
市川
若き日の赤木しげると死闘を繰り広げた盲目の老雀士。失踪した天の行方を探すひろゆきの前に立ちはだかる。
川尻
ホラー級に不気味なギョロ目が特徴の、ボンボンの御曹司。人を徹底的に見下すのが大好きで、特に貧乏人とおじさんが惨めな姿になることを想像すると涙が出るほどにワクワクする陰湿な男。
天の行方を探すひろゆきに、「負けたら身ぐるみ剥がされて全裸のまま帰れ」という条件を持ちかけて雀荘で対局する。
若者の耳にしか届かないモスキート音の通しを使ったイカサマでひろゆきを追い詰めるが、雀荘内にいた猫の動きからイカサマを見破ったひろゆきに敗れ去り、最後は人が変わったように脱帽していた。
大柳
中田の野球部時代の先輩で、鷲尾の弟子。帽子と髭がトレードマーク。中田からは「アニキ」と呼ばれ慕われている。予選で中田とともに、ひろゆきと対戦する。
原田克美
前作『天』でも登場した、関西ヤクザを一手に纏める首領。前作では卓越した雀力と胆力で、天と一騎打ちの死闘を繰り広げた。関西では暴れん坊の清麿すらも逆らえない絶対的存在。
今作では陰で猪瀬と共に「第2次東西対決」の交渉を纏めた。
猪原慎ノ介
東京都知事。名前と風貌から、明らかに石原慎太郎と猪瀬直樹がモデルと思われる。
金融事業の中で香港マフィアと絡んだ末に失敗するが、そのゴタゴタが世間に公になる前に巻き返しを図るべく、彼が仕掛けた「第2次東西対決」が、本作の舞台となっている。
このような経緯や、序盤で東の勝利を見込んでさっさと湯河原に遊びに行く様子などから、身勝手で無責任な性格が読み取れる。
ワン・リー
チャイナ服で大きな扇子を持つ、第2次東西対決の司会進行役、及び対決の舞台となった超豪華客船『九龍城』の船長を務める、気の強い女性。
その正体は大湾の娘であった。
余談
「第2次東西対決」の表記は「東西戦」「東西決戦」などの揺れがある。
本作は2002年が舞台のためスマホは無いがガラケーは普及し始めており、ひろゆきが「携帯で音楽を聴く時代なのか」と驚くシーンがあった。