概要
『ビッグコミックスペリオール』で連載されていた柳本光晴の漫画作品。主人公・鮎喰響の高校3年間での活躍を描く。単行本は全13巻。
響は10代半ばという年齢ながら人智を凌駕する文才と常軌を逸した行動力を持ち、それにより彼女は次第に世間に名を轟かせ、大きく翻弄していく。彼女のその生き様は、肩書きや名声、名誉などといった他者からの評価を気にしがちな人々の心を大きく揺さ振り、その人生観を変えていく。また物語中盤に入ると、響の名声が高まったことで各業界の様々なトップがそのブランドを自らの目的のために利用しようと目論み、そうした人物らとの互いの信念がぶつかり合った戦いも描かれる。
2017年にはマンガ大賞を受賞し、2018年には『響-HIBIKI-』というタイトルで実写映画化した。
あらすじ
出版不況に悩む現代日本。そんな中、小論社の「木蓮」編集部に『お伽の庭』という新人賞応募作が届く。作者の名前は「鮎喰響」。この『お伽の庭』、そしてその作者である鮎喰響は、その圧倒的な才能と予想の付かない行動で世間に絶大な影響力を及ぼしていく。
登場人物
鮎喰響(演:平手友梨奈)
本作の主人公。一見地味で物静かな少女だが、驚異的な文才と理不尽には暴力で対抗してしまう凶暴性を持ち、その才覚と性格は世間を翻弄していく。
詳細は当該記事を参照。
北瀬戸高校
祖父江凛夏(演:アヤカ・ウィルソン)
文芸部の部長。日本トップクラスの小説家・祖父江秋人の一人娘。響の学年の一学年上の先輩。母親がフィンランド人のハーフ。同じく文芸部の部員である塩崎隆也とは幼馴染。
ギャルっぽい見た目をしているが(原作では金髪に褐色肌というガングロギャル風な容姿に対して、映画版では色白で茶髪という演じている役者をそのまま反映させた容姿となっている)、責任感強くしっかり者というリーダー格に相応しい性格で、ふみと共に響の面倒見係を務めている。
父への憧れから幼い頃より小説家を夢見ており、高2の秋頃に『四季降る塔』でデビューを果たす。祖父江秋人の娘ということで世間から注目され宣伝のためにTV出演もしたが、響から「つまらない」と酷評されその年の芥川賞のノミネートにも落選してしまい激しく落胆する。しかし響に諭され自分に自信が持てずふみのアドバイスに言われるがまま執筆していたことを悟り、彼女らに自らの本心を打ち明け立ち直る(映画版では秋人に「手放しで褒められるクオリティではない」と言われつつも面白いと絶賛されたことも励みの一つとなった)。
その後、高校卒業直前に『竜と冒険』を発表し響からは高評価を受ける。結局芥川賞にノミネートされることはなかったが、前回の挫折を教訓に己の作風を見出だし始めていたことや、『四季降る塔』以上に反響が大きかったことで重版が掛かったこともあり大して落ち込むことはなかった。
そして文芸部部長の座を花代子に託し、高校卒業後、フィンランドの大学に進学した。
椿諒太郎(演:板垣瑞生)
響の幼馴染の男子生徒。イケメンかつ文武両道で誰に対しても愛想よく接するというハイスペックの持ち主であり、女子生徒からの人気は高い。だが本人は響に惚れ込んでおり、女子生徒らのアプローチには全く気に留めていない。
物語当初は響に平凡に生きて欲しいと望むなど、至って普通の慕情と思われる素振りを見せていたが、実は彼の彼女への恋愛感情はストーカーレベルにまで達しており、それ故に彼女のこととなれば常軌を逸した狂気の沙汰と言える行動も珍しくない。例えば自室の壁には四面全体に彼女の写真を大量に貼り付けていたり(しかも本人は「好きな子の写真貼るくらい普通だろ!」と開き直る有様)、響が身バレしてからは彼女に手を出そうとする輩に問答無用で殴り掛かるなど、その様は完全に異常者のそれである。当然彼のそんな一面を見た他者からの反応はドン引き以外の何物もなく、秋人からは「お前気持ち悪いな」と言われたことから、彼とは険悪の関係である。受験シーズンに入ると将来的には国際弁護士を目指すと響に打ち明けた。
塩崎隆也
文芸部の男子生徒で、凛夏の幼馴染。響の一学年上の先輩にあたる。不良染みた性格をしているが、自らが心を許した人物には不器用ながら優しさと寛大さを見せるなど、根は心優しく思い遣りがある。
文芸部に入部を希望してきた響に「殺すぞ」と脅迫した際に、胸ぐらを掴んだ右手の小指を彼女にへし折られ、突出した響の才覚と行動力に圧倒され動揺する。しかしそれがきっかけで己が特に秀でていなかったことを悟り、素直さや面倒見の良さも見せるなど、性格が丸みを帯びていき、以前よりも周囲と打ち解け合った結果、花代子とは恋仲となる。高校卒業後は都内の工業大学へと進学する。
関口花代子
響と同学年の女子生徒の一人。文芸部に入部を希望しようとした際に、物々しい雰囲気に怖気付き最初は入部を躊躇うも、響の勧誘を受け彼女の才覚に魅了され入部する。後述のように様々な騒動のきっかけを作ってしまってはいるが、その最もたる被害者である響を含めた部員達との関係は良く、特に隆也とは恋人関係にまで発展している。
小説よりもライトノベルが好きであり、文芸部入部後は自作のラノベを執筆して二度新人賞に挑戦するも落選。そのことを響、凛夏、ふみの三人に相談した際、思いつきで響が書き提供された『漆黒のヴァンパイアと眠る月』を面白半分で新人賞に応募した結果、それが新人賞大賞に入賞するという大騒動に発展する羽目になる。結局『漆黒のヴァンパイアと眠る月』は響の新作として発表されることで解決したが、響は彼女のこの暴挙がきっかけとなり津久井に無断で自身のドキュメンタリー番組を製作されそうになっている。
凛夏の引退後は、彼女から任命される形で新たに文芸部の部長に就任。その最初の活動として、これからは部としての活動にも力を入れたい目論見から高校文芸コンクールに部員一丸となって参加するも、それがきっかけで今度は響が身バレした挙句高校を一時退学してしまう羽目になり、またしても彼女の些細な行動が原因で響が災難を被ることになった。文芸部の引退時には、部長の座を咲希に託すと宣言した。
なお、響が一学年時の文芸部員メンバーの中では唯一実写映画版に登場していない。
柊咲希
響の一学年下にあたる女子生徒。読書好きの文学少女(最も好きなのは推理小説で、それ故か推理力も高い)で『お伽の庭』の作者である「響」には神と思っているほど憧れを抱いていた。
文芸部の入部初日に自分が憧れていた「響」の正体が先輩である鮎喰響であることを知る。小説家になりたい意思は抱いてはいるものの、自分と響との才能の差などから本当に目指すべきか思い悩んでいた。そんな中、その年の芥川賞の候補作家である山本春平と近所の本屋で出くわし、その後彼が芥川賞の授賞式でのインタビューで放った言葉に感銘を受け、本格的に小説家を目指す決意をする。その後、文芸部の夏合宿の際に花代子から任命を受けて次期部長に就任する。
西嶋嗣郎
響の一学年下にあたる男子生徒。気に入らない他者を脅迫するなど不良染みた性格で、自身の溜まり場にするために文芸部に入部を希望するが、響に制裁を受け以降は問題行動はなりを潜めるようになる。当初は不良染みた性格だが、響と出会ったのを機に次第に性格が丸くなるなど、隆也とは境遇が共通している。
宇佐見典子、由良かなえ
響の一学年下にあたる女子生徒たち。二人とも明るく天真爛漫な性格で、部のムードメーカー的な存在。典子は高校文芸コンクールで入選を果たすという実力を見せている。
小池望唯
響の二学年下にあたる女子生徒。兵庫県出身であり、進学先の北瀬戸高校が響の通う高校だという事実を知らずにいた。
入学初日にマスコミの強引なインタビューを受けていたところを悠音に助けられ、以降彼と一緒に行動するようになる。彼と共に文芸部に入部しようとしたが、響の身元判明騒動があり部が新入部員の募集を中止していたことで一旦は断られる。しかし最終的に悠音とともに根気強さを見せて入部を許可され、その後は響のバイト先である中華料理屋「来々軒」に他の文芸部メンバーと共に来店するなど、打ち解けあっている模様。卒業式の際には、出席を渋る響を悠音と共に強引に会場の体育館へと運び込んだ。
安達悠音
響の二学年下にあたる男子生徒。マスコミに絡まれていた望唯を助け、以降彼女と行動することが多くなる。文学少年で中学時代は「図書館王子」とあだ名されていた。
望唯と共に文芸部に入部を希望するも、部が新入部員の募集を中止していたことで一度は断られる。しかし望唯と共に根気の強さを見せ結局は入部を果たし、響が復学した日には文芸部の部室に居た響を不審者と誤解しお姫様抱っこで追い出そうとしたために、彼女と諒太郎から暴行を受けた。とはいえ現在はなんだかんだで望唯と共に文芸部の一員として受け入れられ、他の部員たちと打ち解け合っている様子。卒業式の際には、出席を渋る響を望唯と共に強引に会場の体育館へと運び込んだ。
笹木
響と同学年にあたる女子生徒。諒太郎に好意を抱いている。
二学年時の修学旅行の際に響と同じ班になり、彼女の他者に無関心な態度から嫌悪感を抱く。その翌月に行われた学園祭では仲直りと称して響が諒太郎の幼馴染であることから、彼女に自分と諒太郎の橋渡しを要求するも、「来月楽しみなイベント(津久井製作の自身のドキュメンタリー番組のスタジオ乱入)があるし、あなたの色恋に興味持てない」という理不尽な返答をされて断れ、益々響を嫌悪する。その後テレビ局襲撃に向かう響に興味本位で同行した結果案の定彼女のその暴挙に巻き込まれた挙句、響の命令で人質にとったテレビ局の社長の喉にボールペンを泣く泣く突き立てるという役割をさせられる羽目になった。その後響の素性が世間に露呈したことで彼女が高校を一時退学した際には、「ムカつくし酷い目に遭ったけど、カッコいい奴だった」と友人達に自身の響に対する印象を述べていた。
塚本真希
響の三学年時の北瀬戸高校の生徒会長。インパクトになるという理由から卒業式の答辞を響にやるよう頼み込むが、本人から頑なに固辞される。当日、結局響が式に出席しなかったことから仕方なく代わりに答辞を務めるも、その役目を終えた直後に小池と安達によって体育館に無理矢理運び込まれた響に卒業の言葉を(アドリブで本人が行うと宣言する形で)述べるよう指示。言われるがまま壇上に上がった彼女に「スピーチが好きじゃない」という理由から直々に「感謝はしていないが、自分は先のことが楽しみだ」と自分に対する言葉を述べられた後、「恩知らずと罵っていい」と言われると「感謝されたくて生徒会をやっていたわけじゃない」と返し、響から「心が広い」と評された。
小論社
花井ふみ(演:北川景子)
「木蓮」編集部の編集者で、響と凛夏の担当編集者。
出版不況の中、小説の力で世界を変えるような作家の出現を夢見ていた。そんな最中、新人賞の応募作である『お伽の庭』を読んでこれこそが自分が求めていた世界を変える小説家であると確信し、その作者である「鮎喰響」の捜索に奔走する。そして凛夏を介して念願の鮎喰響との対面を果たし、彼女の担当編集者となってからは次第に若手ながら実力編集者として特格を表す様になる。最終的にその働きが小論社の上層部に認められ、50年ぶりの純文学の新雑誌「雛菊」の編集長に就任した。
響の担当編集者である立場上想像のつかない彼女の暴挙に振り回される劇中1番の苦労人だが、そんな彼女も響と再度接触するために制服を着て彼女の高校に侵入したり(なお、この制服は花代子から借りたもの)、頑固で融通が利かず自分の意見を聞こうとしない「木蓮」編集長の神田正則に突っかかったり、芥川賞・直木賞の授賞式では響に駆け寄るマスコミの一人をつい感情的になって殴りつけるなど、響には及ばないまでも常識外れな行動力と凶暴性の持ち主だったりする(実写映画版ではこれらの行動はカットされている)。
大坪正人(演:黒田大輔)
「木蓮」編集部の編集者。鬼島、吉野、中原、田中の担当編集者。ふみの先輩であると同時に良き理解者でもあり、仕事で悩みが絶えないふみを気に掛けている。「雛菊」の発足時にはその編集部に異動となり、立場的にはふみの部下となった。
矢野浩明(演:野間口徹)
「週刊実報」の記者。響の芥川賞・直木賞の授賞式の取材に来た際、『お伽の庭』や『四季降る塔』が実は響や凛夏が執筆したものではなく、花井は彼女らのゴーストライターだったのではないかという疑問を持ち、そのことを彼女に追求した結果、激昂した響にマイクを投げつけられるという制裁を受けた。
実写映画版では後述の須田と同一人物となっており、木蓮の新人賞授賞式で響が田中を暴行する場面に居合わせた際には、その様子を咄嗟の判断で動画撮影し『お伽の庭』が芥川賞と直木賞にノミネートされたタイミングでその映像を世間に流出させた他、芥川賞・直木賞の授賞式の場面ではふみに上記の質問する前に「鮎喰響は筆を折るべきだ」という意見を述べていた。人物像は須田のものとなっている。
幾田海斗
「週刊少年スキップ」の漫画編集者。ふみとは同期の関係だが、太った体型から当の彼女からは内心「豚」と軽蔑視されている。鏑木の担当であり、目的のためであれば如何なる過激な行動も辞さない彼女に頭を悩ませている。
鏑木が『お伽の庭』を漫画化を目論み響の担当編集者であるふみにその話を持ち掛けるも、当の本人が小説家としての活動を一時休止にする方針をとっていたことで断られる。しかしそれでも諦め切れず今度は響本人に接触を図るも、案の定彼女と諒太郎から暴行を受ける。その際、何故漫画編集者になったのか響に尋ねられ「本当は漫画家になりたかったが、絵が上達しなかったため編集者の道を選んだ」と答えた。
小説家
祖父江秋人(演:吉田栄作)
世界的に絶大な影響力を持つ劇中の日本随一の小説家で、凛夏の父。妻はフィンランド人。初登場時、50歳。「木蓮」の編集長である神田とは旧知の仲。
人付き合いは苦手でありメディアへの露出も少なく同業の友人は少ないが、家族に対しては多大な愛情を持ち、凛夏が小説家デビューした際には「大変だよ」と忠告しながらも応援する素振りを見せた。
高3の頃は小説家を志望しておらず周囲に流される形で大学に進学するも、結局は中退。その後はベルギーを始めとするヨーロッパ各地を放浪したのち、26歳の時にフィンランドでカフェを開業し翌年現在の妻と結婚。29歳の時に『デ・レイケパークヒルズ』で小説家デビューを飾り木蓮新人賞と芥川賞を受賞。37歳の時に経営していたカフェを閉め日本に帰国し、現在に至る。
実写映画版では芥川賞に落選して落ち込んでいる彼女を励ますなど、原作よりも良識的となっている。
鬼島仁(演:北村有起哉)
木蓮新人賞選考委員の小説家。初登場時42歳。芥川賞作家だが、受賞以降は自身の才能に限界を感じ、作家活動は続けつつも現在はコメンテーターとしての仕事がメインとなりつつあり、響はそんな彼を「昔売れてた小説家」と揶揄している。また自分と違いメディアに頼らず現在もなお文学界の最前線を行く祖父江秋人には嫉妬心を抱き、敬遠している。
ある日小論社で吉野との対談に向かう途中に偶然凛夏と出くわし、彼女にセクハラめいた心無い言葉を投げ掛けていたところを響に顔面を蹴り飛ばされる。当初はそのことで彼女に怒りを募らせていたが、『お伽の庭』を読んだ途端その出来栄え感激し、その日の夜、行きつけのバー「蟹工船」で吉野と大坪と一緒に居たところを再び現れた響に今後の文学界の行く末を託すと同時に、「自分の世界と現実に折り合いが付いた感覚がいつかお前にも分かる時が来る」という忠告を送った。その後も彼女とは様々な事情で交流を続けている。
田中康平(演:柳楽優弥)
響と共に木蓮新人賞を受賞した新人作家。28歳。自身を天才と思い込み他者を凡人と見下す自惚れが強い性格であり、初登場時はそれまでのバイト先の店長を「凡人」と罵ったことで解雇された。
新人賞を受賞した際は漸く自分にも芽が出たと喜びを露わにしていたが、授賞式の控え室でまだ10代半ばの響が自分と肩を並べているという事実を思い知らされたことでプライドが傷付けられ、彼女が握手を求めてきた際にその手を強く握り締めるという大人気ない行動に出る。そのことで響の怒りを買い、授賞式では大勢の観衆(その中には小論社の社長や大物小説家、マスコミなどもいた)がいる前で彼女に後ろからパイプ椅子で殴打させるという制裁を受ける。その後式の最中にも関わらず面目を潰された恥からそのまま帰路に着くも、帰りの地下鉄の車内(映画版ではプラットホーム)で自身を尾行してきた響から授賞式でのことを警察に言わないよう脅迫を受け、彼女の威圧感に怖気付きそれを呑んだ。後日、響に『お伽の庭』の感想を伝えに北瀬戸高校の学園祭を訪れ、絶賛のコメントを彼女に告げたのち「俺はいつかお前を超える」という小説家としての目標を宣言した。その後、『お伽の庭』が芥川賞・直木賞にノミネートされた際には、自身を取材しにきた須田にうっかり響の通う高校を話したことで、彼に響の身元が特定されてしまう羽目になる。
実写映画版では自惚れの強さや他者を見下した態度がより一層強調されており、原作以上に傲慢かつ自己中心的な性格となっている。また響が芥川賞・直木賞を同時受賞したことを伝えるTV番組を街頭ビジョンで観て、『お伽の庭』を読んだことがないどころか文学さえもろくに知らないにも関わらず「なんかやだ」、「結局さ、話題優先の出来レースってことじゃね?」、「もう可愛いからよくね?」など、散々なことをほざくモブの大学生たちに対して「読んだこともねぇ奴が批判すんじゃねぇよ!」と叱咤し、結果として彼女を庇ったと捉えられる行動を見せた。
山本春平(演:小栗旬)
芥川賞受賞を夢見る小説家。初登場時、33歳。愛読者はそれなりにいるが、芥川賞を受賞するまでは小説だけで食べていけなかったことから、自身を小説家だとは認めていなかった節がある。
デビュー以来4度芥川賞にノミネートされていたものの、いずれも結局は受賞に至らなかった。それを憂い遂には踏切で自殺を図ろうとしたところを響と出会い、自殺を感付いた彼女から「小説家なら傑作一本書いて死になさい」と諭され、再出発を決意。その1年後、新作『百年前の一目惚れ』で念願の芥川賞受賞を果たし、その受賞式でのインタビューで「何年も努力して書き続けて、ただ小説のことだけ考えて、そうやって俺は芥川を取れた」とコメントし、それ以前に出会い「小説家ってどうやったらなれるんですか?」と自身に尋ねてきた咲希を感激させた。その後アルバイト先を探していた響に自身が直前まで勤務していた「来々軒」を紹介し、初日から店内で柴田と揉める彼女の様子を見て「俺よりは上手くやれそうだな」と呟いていた。
吉野桔梗
「恋愛小説の神」と謳われる小説家。39歳。周囲からは「ゴリラ」、「化け物」などと揶揄される大柄な体格をした醜女。本人は女性らしく生きることを望んでいたが、醜い容姿や人見知りで不器用な性格から社会人としては上手くいかず、小説家の道を選ぶ。自身を初めて真っ当な女性として認識した凛夏には特別な感情を抱いている。
「蟹工船」で鬼島と大坪の飲み合いに付き合っていたところ店内に乱入してきた響を目にし、彼女のことをどことなく自分と似ていると評す。その翌日、気晴らしで原宿を訪れていたところ響と出くわし、彼女にクレープを奢ったり可愛らしいロリータファッションを買ってあげたりするなどして行動を共にする。その最中、響に何故小説家を志したのか尋ねられ、それを話すと最後に結婚して幸せな家庭を築く選択肢もあることを告げた。その後、木蓮新人賞の控え室で響と再会し、『お伽の庭』を絶賛した他その時彼女が自分が買い与えたロリータファッションを着用していたことから「その服やっぱりよく似合ってる」と褒め称えた。
実写映画版では登場せず、彼女が響に授けたロリータファッションは凛夏が元々所有していたものを響に勧めた経緯に変更されている。
豊増幸
『屍と花』で響と共に芥川賞を受賞した小説家。一人娘であるハナを女手一つで育てるシングルマザー。35歳。同時に受賞した響の影響の大きさから世間からの注目は薄かったが、ハナと共に受賞の喜びを分かち合った。また響とは授賞式の際に互いの小説を絶賛し合い、握手を交わした。
中原愛佳
ライター兼小説家。初登場時、30歳。世間からの知名度は低いが、文学界隈では特徴的な文体(大坪曰く魅せるタイプ、山本曰くザクザクした)からそれなりに人気がある。
28歳でデビューしてから2作発表するも、売り上げは不振であり小説家としての自信を失っていた。そんな中、図書館を訪れたところ北瀬戸高校の文芸部誌を目にし気分転換で読んでみた結果、響作の『千年楼』に感銘を受ける。その時、部誌の様子見に来た響と凛夏に出会い、無名の自分を目にして歓喜し握手を求めてきた響に嬉し涙を流す。それによって「本物の才能」を目の当たりにした彼女は自分はもう要らないと悟り引退を決意。その後は就職、結婚、出産など順風満帆な人生を送った。一方それなりに愛読者はいたことから引退を残念がられており、ふみからは「文芸界に勢いがあったならちゃんと日の目を見た作家」と評された。響とはその後も交流を続けており、お互いの近況を知り合っていることから関係は良い模様。
子安紡
『異世界建国ライフ』シリーズで人気を博しているライトノベル作家。新人の頃は安泰の人生を謳歌している「人生上がりの作家」を嫌悪し、自分の文体で彼らを見返そうと意気込んでいたが、現在はそういう彼自身もまたその安泰を悟るうちにその志を失い精神的に堕落しつつある。
出版社で担当と打ち合わせに来ていたところを響と花代子と出会い、彼女らにセクハラ染みた握手をしたことで響に殴り倒される。その後『漆黒のヴァンパイアと眠る月』を読みその文才に圧倒され、かつての志が再燃する。そして新人賞受賞式では大賞を受賞した青年に「『漆黒のヴァンパイアと眠る月』と比べたら君の小説は落書きに見える」と厳格な一言を告げ自分に対する敵愾心を抱かせ、彼と睨み合いながら「俺はこれでいい」と心中でそう呟いた。売れっ子作家ではあるもの現在は精神的に自堕落だったが、響と出会って本来の作家としての志を取り戻した点、鬼島と共通している。
その他
響の家族
公務員の父と専業主婦の母、大阪の大学に通う兄の健の3人。家族仲は良好。
父は普段は謙虚かつ生真面目で物静かだが、理不尽を目にすると暴力は振るわないが相手を威圧するという響に似た性格の持ち主で、ふみからは「確かに、響の親だ」と評される。母は天真爛漫かつ能天気な性格で、健共々響のことを「ひーちゃん」と呼び溺愛している。
須田
「週刊文衆」の記者。田中を取材した際に、彼が響の通う学校を証言したことから彼女の身元を突き止め、道端で響を見つけると彼女に取材を試みるもカメラを破壊され失敗。その後、自宅に帰宅した際尾行してきた響に押入られ、「自分のことを記事にするな」と子供を人質に取ることを示唆する脅迫を受け、家族の大事を優先してその要求を呑む。彼女の去り際に、「どんな天才にも人間らしい欠点があると伝えることで普通の人間たちを救いたい」という自らの仕事に対する理念を述べた。棚に沢山の小説が並んでいたことから、元は彼もまた小説家志望だったと思われる。また前述の通り妻子持ちだが、現在は離婚しており、7歳の息子・勇太は別れた嫁に引き取られているという。
実写映画版では上記の矢野と同一化されている(名前は「矢野浩明」で勤め先は「週刊実報」という設定)。
津久井淳二
「一ツ橋テレビ」のプロデューサー。ドラマ部で数々のヒットを生み出している遣り手だが、近年のアニメーションの台頭ぶりに目をつけ、1年前にアニメ制作部へと異動する。目的の為であればあらゆる手段も辞さない心構えを持つ。鏑木とも親交を持つ。
『お伽の庭』の作者である「響」に匹敵する逸材を探していた最中、NF文庫新人賞の大賞受賞作である『漆黒のヴァンパイアと眠る月』の件で出版社に事情説明と謝罪に訪れていた響と花代子と出会い、彼女らの去り際に花代子が響の名前を口走ったことから、『漆黒のヴァンパイアと眠る月』の作者が「響」だと感付く。そして彼女こそがテレビの隆盛を取り戻す鍵になると確信した彼は、「響」を題材にした特番の製作を目論む。当然本人がそれを承諾するはずもないことは目に見えいたことから、企画は彼女が収録の最中に乱入することも想定して響に無断で進められることになる。収録当日、案の定響の襲撃を受けるが、彼女は一ツ橋テレビの社長を人質に取るという想定外の奇策を用いて彼に収録を止めるよう脅迫し、挙げ句の果てに響は社長の指を一本へし折ったことから已む無く収録を中断する。しかし彼女が折ったのは実は自分の左手の小指であり、目的の為であれば自らを傷つけることすらも厭わない彼女の妥協の無さと覚悟の強さに唖然とした。その後、響のドキュメンタリー番組は収録中止となり、彼もまた3ヶ月の減給と謹慎1ヶ月の懲戒処分を受ける。しかし本人は響の芯の強さに敬意を抱き、「本当にあいつはカッコよかった」と友人の廣川益章に話した後、再出発を意気込んだ。その後も響とは交流を続けており、彼女が鏑木と対立した際には「あのおばさんは強いぞ」と、忠告とも応援ともとれる言葉を送った。
月島初子
NF文庫の編集者で、『漆黒のヴァンパイアと眠る月』の担当。『漆黒のヴァンパイアと眠る月』の出来栄えの良さに感激し、その作者とされていた花代子と出会った時は絶賛のコメントを述べながら歓喜していたが、彼女の口から実は『漆黒のヴァンパイアと眠る月』は響の著作であることを知る。その際、花代子と同行していた響を「台風みたいな子だった」と評し、その後、出版社を訪れたふみの口から彼女が『お伽の庭』の作者である「響」であることを知り驚愕。後日、霧雨との打ち合わせの際に、彼に『漆黒のヴァンパイアと眠る月』の作者が「響」であることを告げる。
霧雨アメ
業界トップクラスのイラストレーターで、『異世界建国ライフ』シリーズなど様々なライトノベルのイラストを担当している。
『漆黒のヴァンパイアと眠る月』のイラストも担当することになったものの、多忙を理由にそれを一切読むことなくキャラクターのデザインをイメージとはかけ離れたものにし、それを強引に通そうとする。しかし打ち合わせの現場に現れた響にダメ出しを喰らった挙句その原画をビリビリに破かれて描き直すよう命じられたことに腹を立てて「仕事を降りる」と言ってその場から立ち去ろうとしたところ響に暴行を受ける。帰宅後、響と電話越しで再度会話し自分の地位を説明するも「モノを創るのに何割とか言う奴が本当にいたのなら、そいつは作家じゃないから相手にしなくていい」という正論に感慨し、彼女を「カッコいいな君は…」と評し、その後『漆黒のヴァンパイアと眠る月』を読んで再度その担当イラストの仕事を承る。そして『漆黒のヴァンパイアと眠る月』のアニメ化が決定したタイミングで月島の口から作者の正体が『お伽の庭』の「響」と聞かされ動揺し、彼女の前で自分のステータスを誇らし気に語ったことを後悔した。
加賀美祥吾
劇中の与党「民自党」所属の国会議員で、文部科学大臣を務めている。
総理大臣の早期辞職に伴って行われることになった総裁選で自身の所属する派閥の勝利の鍵となる決め手を欲しがっていた最中、高校文芸コンクールの最優秀賞受賞者である鮎喰響が『お伽の庭』の作者である「響」と確信し、彼女と自身が繋がりがあると世間にアピールしようと目論む。式が始まる直前に自身の控え室に彼女を呼び寄せてそこでの会話をボイスレコーダーに録音するも、それを響に感付かれ式の最中壇上でそのボイスレコーダーを自分に渡すよう要求されるが、「コンクールに応募した時点で世間にバレるのは時間の問題」と応じず彼女の正体が「響」だと宣言しようとしたところを、響に殴り倒され再度ボイスレコーダーを要求される。結局その要求を呑み秘書に指示してボイスレコーダーを付添人であった凛夏に受け取らせると、仕切り直しで彼女の投稿作であった『11月誰そ彼』の感想を述べようとするが、響に実はそれを読んでいなかったことを見抜かれ指摘される。その後、『11月誰そ彼』を読んだ後その感想を伝えるために響の自宅を訪れ、響とババ抜きをしながらそれを語る。実はその場面の会話もボイスレコーダーで密かに録音しており響に見抜かれていたが、彼女はその録音データを好きに使っていいと許可し、3日後記者会見の席でそれを世間に公表する。結果としてそれが決め手となり、総裁選で勝利し民自党総裁に就任する。その後内閣総理大臣に就任し、響の受験期にはイメージアップのために首相官邸へと呼び出し、彼女がイギリスに留学することを知ると、響が外国で騒ぎを起こしたら日本政府が全力で対応することを告げた。
藤代琴子
聖メアリー女学院の3年生の生徒。自分を「100年に一人の天才」と過大評価する傲岸不遜な性格故に、周囲からは「性格が悪い」と揶揄されている。
高校文芸コンクールでは一学年と二学年時に最優秀賞を受賞していたが、三学年時では響の『11月誰そ彼』が最優秀賞を受賞したことで優秀賞に留まってしまう。それ故に、その年の高校文芸コンクールの受賞式は受賞者の誰よりも気を引き締めていた。受賞式当日、響が自分の正体を公表しようとした文部科学大臣の加賀美を暴行したことで結果として式が台無しにされてしまい、その怒りから彼女が会場を立ち去るとその後を追って響に詰め寄り彼女に平手打ちを食らわす。そして自分が今日の式に本気で望んでいたことを号泣しながら伝えると響から謝罪を受け、直後、側にいたマスコミが彼女に「響」かどうか尋ねたこと、そして響自身が彼女に対して小声で自らの正体を明かしたことから、感情を抑えきれず「私、『お伽の庭』大好きです!」と口走ってしまったことで「響」の正体が世間に露呈することになった。
柴田
中華料理屋「来々軒」の店員。高校卒業後は碌な進路に有り付けなかった結果、高校の先輩が経営している来々軒で渋々働くことになり、その後も何かに挑戦しても長続きせず上手くいかなったことから、そんな自分の現状を悲観してる。そのため現役高校生で大成している響に大いなる嫉妬心を抱いており、彼女が来々軒でのアルバイト初日に横暴に振る舞ったことから、響に中華鍋で後頭部を殴打される。その後、彼女に何故自分が気に入らないのか尋ねられ、自分が響に及ばないことを悟ると上記の本音を打ち明ける。そして彼女に解決策として小説を一作書くことを提案され、響の評判を知るうちに自分にも何か才能があるのではないかと思い、執筆を始める。なんとか一作を書き上げるも、結局自分には向いていないと悟り、響の退職時にそのことを彼女に告げるが、響から他に夢中になれそうなものを探そうと背中を押され、満更でもない表情を見せた。
鏑木紫
『カナタの刃』という漫画作品で人気を博している女性漫画家。響と同様に、目的のためならばあらゆる手段を辞さない妥協を許さぬ性分の持ち主。故に敵対はしつつも彼女には何処かシンパシーを感じている節がある。津久井とは親交がある。
『御伽の庭』を読んだ際に、ずっと自身が勝負したいと思っていた情景描写に挑戦できると踏んだことから、『御伽の庭』の漫画化を目論む。担当の幾田がその交渉に失敗したことから、自ら交渉に乗り出し、響の通う北瀬戸高校に堂々と侵入し、彼女と対面すると強引に許諾書を書かせようとしたことから響と乱闘になったのち、教師が現れたことで逃亡。その後も無許可で『御伽の庭』のコミカライズ化の計画を着々と進めて行くが、入稿直前になって響に1話の原稿用紙を盗まれ、仕事場に帰ると響と花井が侵入しており響から勝負を挑まれ、それに応じる。大柄な体格で終始優勢に進めるが、勝ちを確信したところで彼女にスタンガンを食らって気を失い敗北。潔く負けを認め、響に第1話の原稿を焼却することを許可するが、密かにコピーを取っていたことで連載は予定通り行った。
高梨琴子
アイドルグループ『檸檬畑48』のメンバーの一人。年齢は響と同い年。アニメ好きであることから、声優の養成所にも通っている。
自身がグループの中でそれほど目立たない立場にいることに焦りを感じており、そんな最中『御伽の庭』の漫画化の話を訊いてその主役を任せるよう頼み込むために響と対面する。しかし彼女の素っ気ない対応に逆上して響に蹴りを食らわし挑発するが、当の彼女はその時小説と受験以外に関心を持っていなかったためになんら反応を示さず、それに不貞腐れてその場を去る。後日、TV番組の収録の際に活気を取り戻した響が乱入して来て彼女から仕返しとして暴行を受ける。その後、この出来事が自身の名声を高める切っ掛けになると踏んでプロデューサーにその映像を使うよう要求し、それが公の場に示されると自身と響との関係性を世間に猛アピールした。
シャーロッテ・ブラント
響の渡英先のルームメイトの一人。愛称は「ロッテ」。22歳。日本人の友人がおり、そこから響の情報を得ていたため、彼女の存在を把握していた。響が作詞し提供したヴィヴが所属しているロックバンドの曲の歌詞を見た際にその文才に驚愕し、ふと響のことが頭をよぎり、ライブ終了後に彼女に名を訪ねた。
ヴィヴィアン・クーパー
響の渡英先のルームメイトの一人。愛称は「ヴィヴ」。18歳。ロックバンドに所属しており、響とロッテが鑑賞したライブの終了後、彼女が作詞した歌詞をメンバーとともに見せられ、その文才に驚愕する。
実写映画
2018年9月14日に『響-HIBIKI-』というタイトルで実写映画化。主演は当時欅坂46のメンバーだった平手友梨奈。響の高校一学年時のエピソードが描かれる。
興行こそ振るわなかったが作品自体の評価は極めて高く、平手の女優業の出世作となった。
関連タグ
龍と苺:同作者による将棋漫画