自動車工業
じどしゃこうぎょう
概要
自動車工業(automotive industry)とは、自動車を製造(生産)する工業のことである。
2021年の日本の自動車生産台数は7,846,955台で、中国(26,082,220台)・アメリカ合衆国(9,167,214台)に次いで世界第3位であった(国際統計データ)。日本で最も自動車生産が盛んな都道府県は、トヨタ自動車などで知られる愛知県である。
自動車産業の歴史
モータリゼーションは1910年代のアメリカ合衆国で本格化し、フォード・モデルTの大量生産が始まった。英国では1920年代のオースチン・セブンにより自動車の大衆化が進み、日本でも1960年代ごろから自動車製造が本格化した。自動車技術が未熟であった第二次世界大戦前(日本では1950年代ごろまで)は田舎の町工場レベルでも自動車が作れたため、大小数多の自動車メーカーが存在した。
しかし第二次世界大戦後は徐々に求められる技術が高度化し、弱小メーカーは淘汰された。また各国でモータリゼーションが進んだことで、販売・メンテナンスの拠点となる販売網の整備が不可欠になったため、メーカーの合併や系列化が進んだ。1960年代には自動車の普及とともに交通事故が激増し、シートベルトなどの安全装備の導入が始まった。自動車の排気ガスによる大気汚染の問題が世界的に深刻化すると、1970年の米カリフォルニア州の「マスキー法」をはじめ西側諸国で排気ガス規制が厳しくなり、各自動車メーカーはその開発に追われた。また1970年代のオイルショック以降は燃費の改善が強く求められ、1980年代以降は排出ガスの制御やエンジンの燃料噴射をコンピューターで行う電子制御技術が一般化した。こうした自動車技術の大変動の中で、燃費と信頼性に優れる日本車が台頭した。
1990年代には「年間400万台生産しない自動車メーカーや部品メーカーは淘汰される」と説く「400万台クラブ」なるキーワードが流行、スケールメリットを求めて国境を超えた自動車メーカーによる連携や買収が進んだものの、期待ほどの成果はなく、次第に死語となった。2000年代には中国・タイ・インドなど新興国にも本格的なモータリゼーションが到来し、ガソリン需要の激増により燃油価格が高騰した。これにより日本では燃費競争が過熱しハイブリッドカーが一般化するとともに、コンパクトカーや軽自動車に乗り換えるダウンサイジングの流れが進んだ。欧州ではダウンサイジングの流れはそれほど目立たなかったものの、燃費の改善を求めて乗用車へのダウンサイジングターボとディーゼルエンジンの導入が進んだ。ところがガソリン価格の安価な北米ではピックアップトラックやSUVが流行するなど乗用車の肥大化・大型化が進んだ。日米欧の自動車のニーズの乖離が激しくなったため、世界に進出している日本の自動車メーカーも、地域ごとに全く別の車種を開発し作り分けるようになった。世界の自動車メーカーが日本の品質管理を取り入れ、また世界各地に日本のサプライヤー(部品メーカー)が進出したこともあり、アメ車や欧州各国ブランドの「個性」が薄れた一方、それらの車の信頼性や品質も日本車に劣らないレベルに向上した。
2015年、フォルクスワーゲンのディーゼルエンジンの排ガステスト不正問題、いわゆる「ディーゼルゲート」が発覚。以降、欧州の自動車業界は電動化(電気自動車、プラグインハイブリッド)へと急激に舵を切り、中国も自動車産業の主導権を握る思惑から「EVシフト」に同調、2020年ごろからは米国、日本も追随することになった。
将来
今日、四輪自動車業界はコネクティビティ(接続性)・オートノマス(自動運転)・シェアード(共有)・エレクトリック(電動化)のそれぞれの頭文字をとった「CASEの時代」が叫ばれる(CASEという言葉自体は2016年にメルセデス・ベンツが発表したものであるが、どれもそれ以前から開発が進められている技術ばかりである)。CASEの各要素とも開発には莫大な資源(資金・人・時間)を費やす必要があり、各自動車メーカーは開発コストの節減のため、自社で生産する車種の車台(プラットフォーム)や部品をなるべく共通化するとともに、他の企業と提携して金と技術を持ち寄って開発を進めたり、サプライヤーの開発した出来合いの技術を購入したりするのが当たり前になっている。さらに年々厳しくなる衝突安全基準は外観のデザインに大きな縛りを加えている。カーマニアらから近年の自動車が「昔に比べて高い」「どれも同じでつまらない」と言われるのは、こうした激しい競争と厳しい規制によるものである。
二輪業界は四輪に比べると比較的ローテクでも許されているが、それでも徐々に安全規制と燃費・排気ガス規制が強められている。ほぼ日本にしか需要のない50ccの原付バイクも、排気ガス規制をクリアしつつ採算を取ることが難しくなってきており、将来は電動バイクが取って代わる可能性が示唆されている。