『誰も（ U N ）知らない（ K N O W N ）』
単行本6巻以降の内容に関するネタバレにつき、閲覧注意！
「彼らがいるから...オレは生きてる‼」
「だから今度は――ボクが助けるんだ‼」
概要
少女漫画『君に伝われ』の作者・安野雲。過去と未来の出来事を知り、アンディや風子の能力を強化するための方法を伝えるなど、その正体は謎に包まれていた。
安野雲の正体。それは否定能力によって存在を消された男・九能明であった。
幼少期
これは、ある家族の物語。
少年の名は九能明(くのう あきら)。母子家庭で育ち、想像の物語が大好きな子どもだった。漫画の読み聞かせで寝つく変わった子で、自分でもキャラを作り、話を作り、絵を描き、いつしか母に自分の作った物語を読み聞かせるようになった。それで笑顔になる母を見るのが明は好きだった。
彼が小学生の時、下校中に道端で古代遺物(アーティファクト)：Gライナーを拾う。この古代遺物に触れたことで、今回のループで起こる過去や未来、世界にまつわる全てを知ることになる。
この時はただ新しい物語を閃いただけだと認識しており「すげー！！ 何このお話！」と目を輝かせて興奮していた。
しかしこの瞬間、明は否定者にも選ばれる。
記憶が鮮明な内にと急いで帰宅し、頭へ浮かんだ登場人物たちをたくさん描き起こしていく。明は母が帰ってきた事に気づき、意気揚々と描いたお気に入りの絵をみせようとするが、自分の体が母の体をすり抜けてしまう事実に気付く。
常時彼の言動行動及び
それで起こった外的変化は
自身以外の生物に
感知されない
どれだけ叫んでも
どれだけ触れても
誰も気づきはしない
これ以降、九能明の姿や声、彼の行動により起きる外的変化は誰からも感知されなくなってしまい、完全な行方不明者として孤独な人生を歩むこととなる。
漫画の道へ
その後、九能明は誰からも感知されないまま長い月日を我が家で過ごした。我が子の消失を嘆く母親を目の前にしながら、一切干渉できない生活に苦しんでいた。
母親「どこにいるの…」
息子「いるよ…」
母親「生きてるの？」
息子「生きてるよ」
母親「神様…どうかお願いします」
" 明がどこかで… 笑顔で生きていますように… "
" 大好きな漫画が沢山… 描けてますように… "
息子「 」
母親の願いを聞いた明は、ある冬の日、家を出た。自身が否定者であることを自覚し、Gライナーの記憶で見たアンディや風子の生き様に心を励まされ、自分自身の能力と戦うことを決意。その手段として選んだのが「漫画」だった。
否定能力と戦うアンディたちの勇姿をいつか母に知ってもらうために努力を重ね、読み切り漫画『君に伝われ』を脱稿した。
この時『誰も（ U N ）知らない（ K N O W N ）』と皮肉を込めて「安野雲」のペンネームで編集部に投稿した。
すると名義が九能明（当人）ではなく「安野雲」（別人）として認知され、努力が実り一発で本誌掲載に成功する。
" 安野雲(あんの うん)として…且つ "
" 九能明(くのう あきら)と繋がるものさえ描かなければ ボクは… "
〝ボクは皆に 知ってもらえる！！〟
この思い付きで動いた事が、自分の否定能力にある理屈(ルール)の抜け道を知るきっかけとなり、久しぶりに人との絆を実感し、涙を流す明。
この漫画は明の予想を超えて、大ヒット作となった。それはドラマ化されるほど注目され、大人にも読まれ、ある病室にて、病弱な患者にも勧められるほどだった。
" あら ふふ 素敵な絵ねぇ "
まるで懐かしいものを見るような穏やかな表情で、九能という老いた女性患者(=明の母親)は、著・安野雲(＝九能明)の漫画『君に伝われ』を手に取り微笑んだ。
明は、Gライナーを拾った時から『風子やアンディ達の勇姿をいつか知ってもらいたい』という願いを抱き続けていた。彼はいつもGライナーから得た知見(イメージ)から風子やアンディ達の姿に助けられており、いつしか『今度は彼らを助けたい』と考えていた。
否定者たちが、アンディと風子を失うことで神に敗北する未来を知った明は、この悲劇を回避するための方法を模索する。その手段とは、『君に伝われ』に未来の情報を詰め込むこと。しかし全ての情報をそのまま描けば、本来すべき成長も止まってしまう。
"取捨選択しろ…！！ "
"最善に向けて…未来を変えるために！！ "
"皆も頑張ってる…！！ "
"僕だって同じ否定者だ！！ "
"今度はボクが助ける！！ "
そうして決死の努力と葛藤しながらの覚悟をもって、アンディと風子の悲劇を防ぐための情報集めを続け、不撓不屈(ふとうふくつ)な日々を過ごしてきたのだった。
そしてXデイである2020年12月5日。「安野雲」となった明はアンディと風子の能力をオータムの能力を利用することによって成長させる。
ついにはショーン・ダッツによる襲撃を防ぐことによって、風子が死ぬ未来を回避させる。
両腕を失いながらも、安野の表情は晴れ晴れとした笑顔であった。
「やった…！！ここからは ボクの知らない物語だ」
容姿
過去回想で描かれた若い頃の姿。安野雲と同じジャージを身につけているが、胸元にある刺繡「安野雲」は付けていない。
安野雲と大きな相違点として、黒系の無造作に伸ばした長髪であること。アホ毛のような結び方はせず、うなじ辺りで一つ結びにしている。
アンディと風子の前へ姿を現した時と過去回想では、髪色と髪型が異なっている。
能力
自己対象 強制発動型
「自分が他人に認知されること」を否定される能力。
常時、明の発言・行動および、それで起こった外的変化は自分以外の生物に感知されない。いくら彼が声をかけようが、触れようが、他人がそれを認知することはない。作中では、上記のように明(あきら)が他人に触れようとしても、まるで幽霊(ゴースト)のようにすり抜けてしまう現象が起きてしまう。
ただしこの否定能力には抜け道があり、余人から本人「九能明(くのう あきら)」と思われなければ干渉が可能になる。
上記で触れた通り、彼の場合はペンネームである『安野雲』という別人として動くことで、風子などの人物たちに話しかけるといった活動が出来ていたと推測される。
また明の活動を観察すると、自然現象など環境的な影響（例：冬の寒さに凍えたり、川の中を進めば水の抵抗を受ける）は普通の人間と同じく受けており、他人をすり抜ける現象(ルール)は起きていない。その為、幼少期からの生活は自給自足だけでなく、外的要因で怪我や病気の危険に1人だけで対処しなければならない、まったくの孤独で過ごしてきたのだと推察される。
所持品
九能明(＝安野雲)が所持している古代遺物(アーティファクト)の一つ。Gペン(付けペンの一種で、漫画やイラストをアナログで描く際の代表的な道具)の形をしている。
最初に触れた者は、現行で起きる世界の過去と未来の出来事(ループ)を全て見ることができる。
また、使用者1人につき1つまで物体を具現化する能力や、描いた内容が世界改変に影響されない効果がある。
その為、安野雲(＝九能明)の著である漫画『君に伝われ』が言語統一の影響を受けていない事－英語で統一された後の世界で、君に伝われの生原稿が日本語のままだった－で、これが古代遺物で描かれたものだと判明する経緯を辿った。
魂の口径(ソウルキャリバー)
九能明(＝安野雲)が所持している古代遺物の一つ。形状は片手で持てる大きさの水晶玉。魂に干渉して物質に閉じ込める効果を持つ。
明の回想から、否定能力を利用して組織(ユニオン)に潜入して得た情報により、自力で探し出して手に入れたようだ。入手後は、自分の左胸に埋め込んで所持している。
関連項目2
世界(アンデラ) UMA(アンデラ) 否定者 古代遺物(アンデラ)
世界再編成エンド・・・九能明(＝安野雲)が見たいであろう最高のエンド
他作品における似た境遇の者たち
メレオロン（HUNTER×HUNTERより）…キメラアントという種族で人型カメレオンの男。陽気な性格だが、身内のために復讐を誓う人情家な所がある。超能力をもっており、制約付きで『誰にも自分の存在を気付かれないまま動ける』特質系能力者。彼のノリがいい性格や能力の性質が九能明(＝安野雲)と似ている。
ゴースト/ニューヨークの幻…1990年公開のアメリカ映画。恋愛・ファンタジーなどいくつかのジャンルを含んだ作品(ラブストーリー)。不運な出来事で幽霊(ゴースト)となってしまった主人公の男性は、そのままで最愛の女性の前に現れるが、彼女は彼の姿・声を認知することは出来ない…。それでも不変の愛情と不屈の精神で現状を打破しようと動く姿勢・状況が九能明(＝安野雲)と似ている。作品の事は知らないまでも、主題歌「Unchained Melody（アンチェインド・メロディ）」を聴いたことのある方はいるのではないか。
ファントム・ストレンジャー…アメリカンコミックスの大手・DCコミックスのキャラクター。かつて自分の犯した裏切りの罪によって、世界の誰からも認知されない存在となり、世界の運命を知りながらも手出しはできず永遠に生きる罰を与えられた。
怒りの雷兵（ONEPIECE_ドレスローザ編より）…ホビホビの実の力により、体をブリキの人形にされ、本来の姿を世界の誰からも忘れられてしまった男。ブリキの体ゆえに愛する者の温もりすら感じられない生き地獄の中、彼は残された娘を助けるため、僅かな希望を信じて、不撓不屈(ふとうふくつ)の日を過ごす。後の大革命へ繋げた裏の英雄（アンチヒーロー）である。
関連サイト(外部リンク)
備考
- 九能明は、物語の読者に近い等身大のキャラクターとも言える。もし好きな漫画が現実にあると知り、その作品の展開を全て知ることができ、登場人物たちを助ける事ができる立場にいるとしたら…。
明の場合は、その物語が辿る悲惨な未来を危惧し、迷わず助けようとする道を選んだのだった。
- 単行本の【第6巻】は、後半で九能明の活躍が描かれる。そのためか、表紙の巻数表記「06」に重なっている真っ黄色な飛沫をよく観察すると九能明に似た人型の飛沫が隠れている。カバー下を観察するとより分かり易い。
それだけ第6巻は「君に伝われ」と強い意志が込められている物語なのだろう。
「大丈夫…ボクはまた…独りに戻るだけだから」
- 「安野雲」
実は主人公達に接触した「安野雲」は九能明本人ではない。
元々は九能明が、自分は具現化能力が扱える事を知った時期に思い付きで「安野雲という人間」を分身として創造したというのが真相である。作家・安野雲（別人）としての行動は他人にも認知可能という否定能力(ルール)の抜け穴をそのまま引き継いだ、いわば対外用アバターとしての役割を持った人間と発覚（本体をモデルにした人造人間とでもいう人物だろうか）。
以降、主人公達へのコンタクトは全てこの分身が担っていた。両腕を失っても平然としていられたのは、分身体なので痛覚などが存在していなかったからだと考えられる。
20年も連載を続けていることからも分かるとおり、彼の本来の姿は中高年の男性である。
「安野雲」は、UMAオータムの捕獲にはリップの力が不可欠であるため、Gライナーで複製した古代遺物(アーティファクト)：ライフ・イズ・ストレンジを使用し、幼児化していたリップを大人の姿に戻す。しかしその副作用により、操作した時間の１０倍の老化をその身に受けてしまう。これが歴史改変の決め手になったからか、強い関係性のあるGライナーは破損。
「安野雲」の分身体は消滅することになる。
この後、アンディと風子はリップとラトラの協力を経てUMAオータムの捕獲に成功。
これは九能明が、自身の残酷な運命に抗い全てを伝えたからこそ導き出された未来だった。
オータムを捕獲した後、誰もいない場所に向かって拳を突き出すアンディ。
「安野 勝ったぞ」
もう二度と、誰にも干渉することができなくなってしまった明。
しかし彼を覚えている者たちがいる限り、彼はいなくなったことにはならない。
アンディの拳に自分の拳を重ね、年老いた明は涙を流した。
―これはヒーローたちを導いた1人のヒーローの物語―
―タイトルは ＿＿＿＿君に伝われ―
「後は任せたよ ボクのカッコイイヒーロー達」
最期の罰（ペナルティ）ラグナロク。
否定者たちの力を結集し、神の手による悪夢の数十分を乗り越えた出雲風子が100回目のループに旅立った直後。
一体を数十分足止めするだけでも多数の犠牲を強いた神（サン）がおびただしい数の大群で現れる絶望的な光景。誰もがその光景に諦めを覚える中、ただ一人抗う戦神の不死(ヴィクトール)。
その滅びを最後まで見届けていた否定者の中には、UNKNOWN-不明-の九能明もいた。
そう、彼もまた最後の最後まで否定者たちの戦いを、すぐ傍で見届けていたのである。
「もしまた不明のボクに」
「物語を綴る事が許されるなら」
「今度は」「今度はキミたちの」
「勝利の物語を…」
ヴィクトールの姿をスケッチブックに描き起こしながら、他の否定者たちと共に最期の時を迎えるのだった。
そして101回目の世界。
前回のループと同じように、九能明がGライナーを見つけ、不幸な物語(みらい)が始まるかに思われたが・・・
「私はその未来を 止めに来た」
昭和47年9月。
裏路地に落ちたGライナーを拾おうとする明の悲劇を阻止する一人の少女、出雲風子がそこにいた。
「君に伝われ」を読み込んでいた風子は、その冒頭に年月日と時刻を細かく表記しているシーンの存在があり、またそこで描写されていたのが実在する場所でファンの間で聖地化していた事から九能明が否定能力を発言した瞬間だと予測しており、その悲劇を回避しに来たのである。
だが漫画の描写では4月、101回目のループでは9月となり時期は数ヶ月ずれ込んでいたが、諦めずに毎日同時刻に同じ場所で張り込んでいたのだという。
流石の明も、風子のループの話に懐疑的であったが、UMAムーブの能力(ワープ)を体験した事で信じ、自分の運命を救ってくれた彼女に感謝する。そしてお礼の意も込めて、漫画を描いて否定者たちを応援する事を誓った。
その後、再びムーブの能力(ワープ)で自宅に帰宅。こうして今ループでは否定能力・不明の能力者となることから免れ、母と離れ離れになる事なく普通の少年としての人生に戻る事が出来たのだった。
しかしそれは同時に、風子が今ループでUNKNOWN-不明-（安野雲/九能明）の助けを得ることは出来なくなったことも意味する。それを指摘するUMASムーヴに対し風子は「十分だよ」と返す。
明によって未来を改変されたからこそ、次のループに旅立つことができた風子。
彼の救済を以て今のループを勝ち抜く「攻略書（ロードマップ）」のスタートを切ったのである。
