二十八宿
にじゅうはちしゅく
概要
天の赤道(地球上の赤道をそのまま垂直方向に押し広げて天球に当てはめた際にできる円形のライン)あるいは白道(地球から見た月の通り道)に点在する恒星群を多数の星官(星群、アステリズム)として繋ぎ、それをさらに28のグループにまとめたもの。星官の集合体とこれが分布する天球上のエリアを「星宿」「宿」と呼称する。
古代中国式の星図においては、天の極(地球の地軸の北側をまっすぐ伸ばした先の、天球に当たる点。そこに一番近い星が北極星として扱われる)を包括する三垣をぐるりと取り囲むように並んで見える。
二十八宿を構成する星宿を7つずつ纏める事でアステリズムとしての四神(青龍、白虎、朱雀、玄武)となる。四神は7つの星官の集合体であると同時に、その7つの星官(の神々)を率いる存在ともされる。
各星宿はその筆頭となる星官名+宿、というネーミングになっている(例:青龍の角にあたる二つの星からなる星官「角」+「宿」で「角宿」)。
また、この筆頭の星官単体で星宿とカウントされるケースもある(例:神誠館、1912年『安部晴明簠簋内傳圖解』掲載の図)。
ナクシャトラとの関係
インド占星術の用語に「ナクシャトラ」があり、天の赤道または白道を27のエリア(月の宿、月宿)に分割したものである。擬人化され、月神チャンドラの妃たちともされている。
これに男性として擬人化されるアビジット(Abhijit、勝利、勝者、征服者)を加え28宿とされることもある。
インド占星術が漢訳仏典の形で中国に紹介される際に中国側の二十八宿の各名称が割り当てられ、28宿バージョンにおいてアビジットは「牛宿」と表記された。
ナクシャトラを28宿とする場合、アビジットは22番目の宿であり、星図上の位置関係的には西洋の星座における山羊座の辺りに相当する。
また、アビジットはこと座のα星ベガのサンスクリット語名でもある。「牛宿」は山羊座のエリアと重なり、ベガを含む織女も包括している。
白道を28に分割する発想はアラビアにも見られ、古くはシュメールにも同様な概念が存在した。
ただし、地球から見たこのエリアに見える恒星のまとめ方、アステリズムとしての繋げ方は各文化ごとにバラバラであり、ナクシャトラと二十八宿も完全には一致せず、
漢訳における割り当ても一種の意訳と言える。
二十八宿
東方青龍七宿
北方玄武七宿
西方白虎七宿
宗教における二十八宿
道教
二十八宿は擬人化され星神とされる。後漢王朝の始祖光武帝に仕えた雲台二十八将は二十八宿の生まれ変わりとされる。
二十八将の前世が二十八宿であるという話は南宋の歴史家・范曄(398~446)の『後漢書』巻二十二にも報告されている。
『道法会元』巻二百三十五に収録された「正一玄壇飛虎都督趙元帥祕法」においては趙公明に仕える「二十八宿神王」とされている。
巻二百三十二収録「正一玄壇趙元帥祕法」では趙公明の役職として「二十八宿都總管」として挙げられ、二十八将が七名ずつ四方の飛天大将に分けられ、方角に対応する体色の虎に騎乗すると記されている。
飛天大将リスト部分は以下の通り
- 東方飛天大將
鄧禹,吳漢,賈復,耿貪,寇恂,岑彭,馮異。已上七員領兵九萬眾。
- 南方飛天大將:
朱祐,蔡遵,景丹,蓋延,姚期,耿純,藏恭(※1)。已上七員領兵三萬眾。
- 西方飛天大將:
馬武,劉隆,馬成,王良(※2),陳俊,杜茂,傅俊。已上七員領兵七萬眾。
- 北方飛天大將:
堅鐔,王霸,任光,李忠,萬脩,劉植,邳彤。已上七員領兵五萬眾。
※1本来は「臧宮」がここに入るポジションだが、この道書では
臧(「蔵」の異体字、参考)あるいは「蔵」からくさかんむりの部首を抜いたような字が姓として表記されている(参考)。
※2史実側では「王梁」。
明代の小説『両漢開国中興伝誌』第四十三回では、より詳細に各星宿に対応させた記述がある。ただし「正一玄壇趙元帥祕法」のリストとは所属する方角が異なっている箇所がある。
序列 | 武将名 | 『道法会元』巻232 | 両漢開国中興伝志 |
1 | 鄧禹 | 東方 | 角木蛟(東方青龍) |
---|---|---|---|
2 | 呉漢 | 東方 | 亢金龙(東方青龍) |
3 | 賈復 | 東方 | 氏土狢(東方青龍) |
4 | 耿弇 | 東方 | 房日兔(東方青龍) |
5 | 寇恂 | 東方 | 心月狐(東方青龍) |
6 | 岑彭 | 東方 | 尾火虎(東方青龍) |
7 | 馮異 | 東方 | 箕水豹(東方青龍) |
8 | 朱祜 | 南方 | 斗木獬(北方玄武) |
9 | 祭遵 | 南方 | 午金牛(北方玄武) |
10 | 景丹 | 南方 | 女土蝠(北方玄武) |
11 | 蓋延 | 南方 | 虚日鼠(北方玄武) |
12 | 銚期 | 南方 | 井水牛(井木犴は南方) |
13 | 耿純 | 南方 | 室火猪(北方玄武) |
14 | 臧宮/臧恭 | 南方 | 壁水狮(壁水貐は北方) |
15 | 馬武 | 西方 | 奎木狼(西方白虎) |
16 | 劉隆 | 西方 | 娄金狗(西方白虎) |
17 | 馬成 | 西方 | 胃土鸡(西方白虎) |
18 | 王梁/王良 | 西方 | 昴日雉(西方白虎) |
19 | 陳俊 | 西方 | 畢月烏(西方白虎) |
20 | 杜茂 | 西方 | 参水猿(西方白虎) |
21 | 傅俊 | 西方 | 觜火象(觜火猴は西方) |
22 | 堅鐔 | 北方 | 危月燕(北方玄武) |
23 | 王覇 | 北方 | 鬼金牛(鬼金羊は南方) |
24 | 任光 | 北方 | 柳土獐(南方朱雀) |
25 | 李忠 | 北方 | 星日馬(南方朱雀) |
26 | 萬脩 | 北方 | 張月鹿(南方朱雀) |
27 | 邳彤 | 北方 | 翊火蛇(翼火蛇は南方) |
28 | 劉植 | 北方 | 軫水蚓(南方朱雀) |
『両漢開国中興伝志』での不正確な表記を直したようなバージョンのリストが実際の信仰の場で用いられている例がある(大甲鎮瀾宮)。
仏教
インド占星術は漢訳仏典という形で中国などの漢字文化圏に紹介された。空海等の密教僧侶らによって『文殊師利菩薩及諸仙所説吉凶時日善悪宿曜経』(宿曜経)等のテキストが日本に持ち帰られ、
それらに記された占法は「宿曜道」として体系化され、寺院建立や仏像作成、密教儀礼を行うにふさわしい吉日を探るために用いられた。
日本社会への影響は大きく、密教系でない日蓮系の宗派でも星宿にちなんだ暦を用いる所がある。日蓮系では牛宿を除いた二十七宿バージョンが使用されている。
明治期の神仏分離令の際、日蓮宗系教団で用いられてきた「三十番神幣(日本の神々を『法華経』の守護神とする三十番神信仰に基づく御幣)」が規制された為、代わりに「二十八宿幣」を使用するようになった。
作品における二十八宿
古典
- 『西遊記』
百回本の第五回において西王母の蟠桃会にて仙桃と仙酒を盗み喰い呑みまくり大騒ぎを起こした斉天大聖(孫悟空)を成敗する為の天界の大軍に参加。
その後、昴日鶏が昴日星官、と奎木狼が黄袍怪の名で再登場する。
- 『水滸伝』
梁山泊108星の一人・郝思文は、井宿が胎内に宿る夢を見た母から生まれた事から「井木犴」の綽名がある。
また、終盤に登場する敵側の将軍兀顏統の部下として、「十一曜大將(十一曜=九曜星に紫氣星と月孛星を加えたもの)」と「二十八宿將軍」が登場する。
- 『封神演义』
物語の最終盤で作中の死没者たちが封神される新たな神々として「二十八宿」が言及される。ただし尾火虎、室火猪、觜火猴、翼火蛇は火徳星君(火を司る火星神)の部下として、
箕水豹、壁水貐、参水猿、軫水蚓は水徳星君(水を司る水星神)の部下として纏められ、残る二十人が「二十八宿」のパートで紹介されるという形になっている。
- 『鏡花録』
清代の作家李汝珍による神魔小説『鏡花録』では心月狐(心宿)が武則天に生まれ変わったという設定。