イスラム革命防衛隊
いらんのもうひとつのぐんたい
イスラム革命防衛隊とは、イラン・イスラム共和国(以下「イラン」)が保有する軍事組織の一つで、ペルシャ語ではسپاه-پاسداران-انقلاب-اسلامیという。
表向きの存在理由は共和国軍(以下「国軍」)の補助であるが、実際には独自の陸軍・海軍・空軍部隊から諜報機関や特殊部隊を持ち、さらには戦時には最大百万人単位で大量動員できる民兵組織『バスィージ』の統率まで委ねられていて、事実上のイランのもう一つの軍隊として機能している。
革命によって成立した共和国の首脳陣にとって、かつて帝政(旧パフラヴィー朝)に忠節を尽くしていた国軍は、必ずしも信頼できる軍事力ではなかった。そのため、国軍への対抗組織として、革命に参加した種々の準軍事勢力を統合・再編成され、革命防衛隊が成立した。
ゆえに憲法において国軍の役割が「独立の領土の保全」と位置付けられる一方、革命防衛隊は「革命とその成果の守護」を役割とした組織であると位置付けられている。
しかし時代が経過するに従い、帝政時代を知らない世代が台頭してきたこともあって、国軍は正規戦を、革命防衛隊は非正規戦を得意とする組織として、両組織が並列して共存していくための住み分けがはかられている。
前提知識として、現在のイランはイスラム共和制の名の下に「法学者の統治」理論に基づくイスラム法学者(ウラマー)が直接統治をして宗教だけでなく政治をも監督するという独自の政治体制をとっている。元首は先述のイスラム法学者によって構成される指導者選出専門家会議(略称「専門家会議」)より選出される最高指導者(ラフバル)が終身制でもってこれを担い、これを補佐するために行政府の長官として大統領(4年任期・連続3選は禁止)が置かれる。この場合の大統領の立場は普通の民主制や君主制における首相職に近く、行政全般への監督権こそもつものの絶対的な権力を有している訳ではない。
無理な例えをするならば、現在のイタリアが枢機卿団を率いるローマ教皇(あるいは教皇庁)によって統治されているようなものと考えればいいかもしれない。
特筆するべきは、この最高指導者には国家元首の立場だけでなく「大統領の解任権」や実質的な上院に位置する「監督者評議会のイスラーム法学者6名の選出権」に加えて「最高司法権長の任命権」という三権(立法権、行政権、司法権)を総覧・掌握する権利をもち、同時に国軍と革命防衛隊の最高司令官でもあり宣戦布告の権限も持つ--つまり軍事組織の統帥権をも掌握していることである。
繰り返しになるが、イランの大統領の権限はあくまで行政全般の監督であり、その中には国軍と革命防衛隊を束ねる国防軍需省も含まれるが、マジな話としてイランの場合は行政府は軍を統括しないことになっている。
国軍は、最高指導者の麾下にある国家安全保障最高評議会と全軍最高司令部を経て編成されるが、革命防衛隊の場合は全軍最高司令部の直隷となり、指揮系統からして別物扱いになっている。そして、(原則に従うなら)国軍の存在理由が「国家の安全保障」であり忠誠の対象が国家および元首とするならば、「革命とその成果の守護」を目的とした革命防衛隊は設立時にはその忠誠の対象をイスラム法学者としている…言い換えるならば思想こそが存在理由であることがこの組織の最大の特異的である。
(ただし、イラン憲法では防衛武装力の基盤と原理はイスラム教の信仰と教義であるとされていて、その理論は国軍・革命防衛隊双方に適用される。)