「ジャンプって、ワンピース終わったらどうするんだろ?」
概要
週刊少年ジャンプは、日本が世界に誇る人気漫画雑誌であり、それ故にジャンプの看板漫画の影響力は大きい。
しかし、それは裏を返せば人気漫画の終了がすなわち、少年ジャンプの人気低迷に陥るのではないか?という潜在的な疑問につながっているということでもある。
特に、00年代に人気を博した作品が、『ONEPIECE』・『NARUTO』・『BLEACH』・『銀魂』・『HUNTER×HUNTER』と、かなりの長期連載作品ばかりであった為、この、いま連載されている作品が終わったらどうするんだろう?という疑問は、ジャンプファンならずとも思わずにいられなかった。特に、この時期のジャンプは、同様に長期連載を抱えるライバルであるマガジン、サンデー、チャンピオンと言う他の週刊少年漫画誌に比較しても、長期連載の数が多く、殊更にその疑問に対する不安は大きかった。
ネット上で軽く漁っただけでも、ジャンプ編集部でも「ワンピースが終わったらどうするんだろう?」という疑問は事あるごとに口に出されていた。という情報が簡単に出てくる。
その為、人気漫画の連載終了時期が重なることは、暗黒時代扱いされることが多い。
何より、この疑問と不安は根拠のない事ではなく、いわゆるジャンプ黄金期と呼ばれる時代、ジャンプは雑誌の発行部数が653万部の歴代最高記録に達し、ギネスブックに登録されるなど全盛を誇ったが、その黄金期に連載されていた漫画が次々と連載を終了していくとと共に発行部数も減少。
遂には、1998年新年号には415万部にまで落ち込み、ライバルである『週刊少年マガジン』の445万部を下回ることになる。
この事から、人気漫画の連載終了が重なると、ジャンプの暗黒期と言われるようになった。
世代交代期の変遷
ジャンプは黄金期の終了と共に、人気漫画の連載終了時期を暗黒期と言われることが多いのは概要の項目で述べた。
しかし、実際には暗黒期と言われる作品にもそれなりの人気作品が連載されており、意外にも後から振り返ってみれば、そこまでひどく言われるほど人気や雑誌のクオリティが下がった訳ではない。
この辺りは少年ジャンプと言う漫画雑誌の持つ底力と言えるだろう。
ただ、人気漫画の連載終了時期が重なることはその後も往々にしており、これは一種のサイクルとも言える。
また、このサイクルに対しても時代の変遷に伴って評価が変わっており、このサイクルに対する価値観の変化も、暗黒期と言うものの見方に影響を与えている。
90年代
この時代、最初に少年ジャンプが暗黒期と言われる事になる。
これは、ジャンプ黄金期に連載をしていた人気漫画が続々と連載終了していただけでなく、少年マガジンに雑誌発行部数が逆転されたことも由来している。
この「暗黒期」はここから再びマガジンに逆転するまで続き、人気漫画の連載終了が如何に雑誌にとって致命的なダメージであるのかということが如実となってしまった。
しかし、この期間には後に実写映画化もされるるろうに剣心や、日本最大のカードゲームの発祥となった遊戯王が連載され、何よりも連載開始から20年以上経過した現在も連載中の看板作品である『ONEPIECE』の連載が始まっている。
そして、ONEPIECEの連載に続くように、HUNTER×HUNTER、NARUTO、BLEACH、銀魂と言ったのちの長期連載作品が連載を開始する。
これらの作品が安定してくる00年代になると、これらの作品には及ばずとも、大ヒット作と言える作品が複数連載される第二黄金期とも言える時代が来たのである。
だがこの第二黄金期は、第一黄金期にはない特徴を兼ね合わせていた。
それが、連載の超長期化である。
基本的に、黄金期と呼ばれる時代に連載されていた人気漫画は、短くて3年程度、長くても10年を超える作品はほぼなかった。
連載10年を超える作品は1話完結式のギャグ漫画である『こち亀』か、主人公交代型の作品である『ジョジョの奇妙な冒険』くらいなもので、5年ほどの連載期間でも超長期連載と言っても過言ではなかった。
しかし、ONEPIECEをはじめとするこの時代の看板漫画は連載10年を超えても完結の様子を見せることはなく、次第に人気漫画の連載長期化を当然とする風潮が続く。
10年代
この時期、「暗黒期」と呼ばれる状態になったことが二回存在する。
しかし、この「暗黒期」をくぐり抜けたことで、逆に少年ジャンプは世界的なムーブメントを起こすことに成功しており、それに伴って「暗黒期」が、人気漫画の連載終了に伴って起こるものではない。と言うことが認知されるようになった。
人気漫画の連載長期化が続き、次第に作者はおろか読者すらも漫画の連載が延びることが当たり前となった頃、連載長期化による弊害が幾つか出始めるようになった。
それが読者の脱落と、新人枠の圧迫である。
まず、10年以上の連載によって、そもそも作品についていけない層が一定の数出現した。
特に、バトルに多かれ少なかれ力を入れていた当時の看板漫画は、結果として作品世界そのものが複雑かつ巨大な世界観を構築していった事から、単行本を読まなければそもそも何を言ってるのかも理解できない状態だが、その単行本の数が多過ぎてちょっとやそっとでは新規ファンには楽しめない状態になってしまったのだ。
その事から、この時期のジャンプの看板漫画は、王道の人気少年漫画でありながらも、初心者には手が出しづらいと言う特殊な状態に置かれる事になった。
また、別の問題として限られた数しかない連載枠が長い間一定数埋まってしまうと言う紙面の問題も発生した。
少年ジャンプは、若手育成に殊更に熱心な漫画雑誌である事から、新人漫画の登竜門としての側面もある。
しかし、連載5年ですらも長期連載であった黄金期と比べ、長ければ10年以上の連載は当然と化したことで、新人作家の連載枠が削られてしまう事態に陥った。
更に、この当時は看板でこそなかったが、伝説とも言える人気漫画の『こち亀』もまだ連載されており、漫画家を目指す新人作家にとっては、超えるべき壁の数が増える事につながっていた。
この頃ジャンプに持ち込まれた作品の一つに進撃の巨人が存在しており、ジャンプらしくないと言う理由で追い返されたと言う逸話がある。
この件が直接的に影響した訳ではないが、ただでさえ連載の機会が少ない新人から連載枠が潰れると言うことの弊害を端的に表しているようでもある。
これらの問題が組み合わさり、この時期の少年ジャンプは、ファン・作家共に新陳代謝が停滞し始めた時期と言う、別の形での「暗黒期」とも言える事態に直面していた。
無論、その間にも看板漫画以外のヒット作は生まれていたし、先の進撃の巨人はあくまでも例外的な出来事である。
また、この時期には、少年ジャンププラスと言った無料Web漫画誌の開設を行うなど、紙媒体での形での作品発表に拘らない形での新人発掘も行い始めており、連載枠の拡張と言う事に本腰を入れ始めている。
そんな中、こち亀、NARUTO、BLEACH、銀魂と言った10年以上の連載作品が終了を行い始める。
それと入れ替わるように連載され始めたのが、鬼滅の刃、約束のネバーランド、ゆらぎ荘の幽奈さんであった。
しかし、これらの作品が連載終了し始めたのが、およそ4年後の2020年であった。
この出来事で衝撃的だったのは、連載期間がこれらの作品よりも短いチェンソーマンですらも同時期に連載終了しており、人気絶頂で連載を終える漫画が続出していたことである。
だが、この時期には既に呪術廻戦が連載されており、次世代のジャンプを担う漫画として既に世界的な人気を獲得している。
加えて、ジャンププラスでの連載でも、SPY×FAMILYを筆頭に発行部数を重ねた漫画がいくつも存在しており、人気漫画の連載終了が重なることは、雑誌にとって必ずしも悪い事ではないのではないか?と言う認識が生まれるようになった。
読者を含む漫画業界全体が、連載は長ければ長いほど良いのではなく、5年を目処に作者最も面白いと言う形で連載を終えることが最適ではないのか?と言うのが、主な論調になっている。
20年代
暗黒期とまでこそは言われないが、人気のうちに完結する作品が増えたために看板作品の入れ替わりが激しくなっていった。
2020年、前述の鬼滅、約ネバ、幽奈さんに加えてハイキュー!!の連載が終了。これらの相次ぐ看板作品の終了により当時の読者からはこち亀が終了し、鬼滅、約ネバ、幽奈さんが開始した4年前(2016年)を思い出すとの声が挙がり、新たな看板作品の誕生を予感させる動きが読者の間で漂い始める。
その予感が的中するようにこの年はアンデッドアンラック、マッシュル-MASHLE-、あやかしトライアングル、僕とロボコ、SAKAMOTODAYSと後にアニメ化される作品が5本も開始するなど稀代の当たり年となった。
同年には呪術廻戦のアニメも開始し、単行本の売り上げを大きく伸ばし名実ともに鬼滅なきあとの新看板と呼ばれるようになる一方、舞台化を控え主力として期待されていたアクタージュact-ageの原作者逮捕による打ち切りというトラブルにも見舞われることになる。
一方この時期にはジャンプの名物ともいえる「実績のある漫画家の新作の不振」が特に目立つようになり、島袋光年(BUILDKING)や田村隆平(灼熱のニライカナイ)、佐伯俊・附田祐斗コンビ(テンマクキネマ)などが辛酸をなめる結果となってしまった。
さらにジャンププラスで実績を出した漫画家のWJ参戦も見られるようになってきたが、それらの作家陣でも賀来ゆうじ(アヤシモン)などが上記の島袋らと同じ状況に陥ってしまう。
これらの期待されていた実績のある作家陣の早期打ち切りがより主力争奪戦の激化に拍車をかけることになる。
一方で実績のある作家陣でも松井優征(逃げ上手の若君)や藤巻忠俊(キルアオ)、プラスからWJへの復帰組である篠原健太(ウィッチウォッチ)など奮闘している作家陣も存在している。
さらに2024年には和久井健(願いのアストロ)、西修(魔男のイチ)といった他誌の看板作家の加入が相次ぎ、下記の看板作品の立て続けの完結による読者離れへの策となり、より看板争いは激化していく。
そしてナルトの完結以降すっかりスタンダードとなった上記の「人気絶頂のうちの完結」でいえばDr.STONEや上記のマッシュルが前者は5年、後者は3年半という期間で完結している。
そのほか、チェンソーマンやあやトラのように続編をプラスで掲載するケースや連載途中でのプラスへの移籍も見られ、編集部としてもプラスにより力を入れていることが見て取れる。
この他、ブラッククローバーも2023年末にジャンプGIGAへ移籍するなどより主力の座の争奪戦は激しいものになっていく形相をみせている。
ジャンププラスでは上記のスパイファミリーのほか、怪獣8号など引き続き多数のヒット作が生まれ、すっかりWeb漫画の最右翼として定着しており、WJ本誌との境界線もなくなりつつある。
2024年にはついに「ヒロアカ」「呪術」の2枚看板が立て続けに完結。ワンピースも最終章に突入していることから「ワンピースが終わったらどうするんだろ?」が現実のものとなる年代になるかもしれない。