曖昧さ回避
- 戸塚慶文の漫画『アンデッドアンラック』第8話【No.008 変わる私は好きですか?】で描かれた出来事。
- アメリカのミュージシャン「ジーナショック(Gina_Schock)」(1957年生まれ)のこと
- もしかして……レジーナショック?
本稿では1.について解説する。
※以下、漫画『アンデッドアンラック』第8話とアニメ第4~5話の重大なネタバレを含みます。未読者は閲覧注意。
概要
戸塚慶文の漫画『アンデッドアンラック』第8話【No.008 変わる私は好きですか?】で描かれた出来事。
それは、
▼ No.005~No.007と続く主人公達・アンディと出雲風子と組織(ユニオン)の否定者(ひていしゃ:世界の理(ルール)を否定する超能力者)・ジーナとの交流・闘いに決着がつけられる。
▼ それまで主人公達の「逃走劇」から、組織(ユニオン)に加入し他の否定者や関連人物たちとの「群像劇」へ繋がれる。
それは一話の中で登場人物達の心情の変化が多く描かれる回である。
経緯
主人公達・出雲風子とアンディは組織(ユニオン)の追撃から逃れるため、唯一の方法である『組織(ユニオン)内の円卓メンバーに入るため、円卓の否定者(だれか一人)を殺す』を達成しなければならなかった。そのために2020年8月5日にUMA調査があるロシアの世界で一番透明で深く古い湖「バイカル湖」へやってきた(因みに鹵獲した戦闘機での不法入国である)。
一先ず別行動を取る事になり、風子は初海外の土地で、日本のJK服を着た少女と出会う。彼女たちはお互い絵描きという共通の趣味もあってすぐさま打ち解け、満月が昇るまでスケッチをしながらバイカル湖の浜辺で過ごした。
だがこの地にいる組織(ユニオン)の否定者とは、50年前にアンディを捕獲したジーナで、先ほどまで風子と交流していた少女であった。それは不可視のバリアを発現させる相手で、アンディにとって不利な闘いになると予想されていた。更に戦闘経験皆無の風子を守りながらの戦いだったが、彼女の協力もあって攻略の糸口を見つけていく。
それは─
- UNCHANGE-不変-の否定者・ジーナの「物の形の〝変化〟を否定する能力」は光を防げない。→光属性の攻撃が通る。
- 不可視のバリアは不死の否定者・アンディの血飛沫で可視化できる。→ジーナの視界を防げる。
- 不可視の拘束(空気の手)はそれほど早く動かず、また能力の制約なのか、バリアを発動中のジーナは早歩き以上のスピードが出せない。→彼女の攻撃を掻い潜れるタイミングはある。
- 不可視のバリア内にいるジーナの足元に頭一つ分の穴が空いている。→彼女のバリア内に入る事が可能。
🎥最大の変化…いいよなぁ...!! [中村悠一 VS 悠木碧] #undeadunluck #アンデッドアンラック - 公式shorts・YouTube
そして戦闘の最中、アンディと風子はバイカル湖上空にステルスで隠れていた組織(ユニオン)のUFOを発見。それはジーナの固定能力で固めた湖を持ち上げ、UMA調査をしていたUFOだった。これを好機とみたアンディは不運の否定者・風子と協力してジーナとの闘いに決着をつける賭けにでるのだった。
以上がNo.005~No.007のあらすじ。
※※以下、原作第8話・アニメ第4~5話の内容。ネタバレにつき閲覧注意。※※
変わろうぜジーナ
" さあ… 変わろう(死のう)ぜ ジーナ "
風子の協力でジーナの不可視のバリア内に、風子の不運をチャージした頭部だけのアンディが入る事に成功。彼はバリアの外で不運が発動しても、仮に隕石が来ようと不変の壁(バリア)は破れないだろうと予想していた。ならば不死のアンディがバリアの中に入れば、不変の壁(バリア)を通過する〝必死〟の不運が訪れると踏んだ作戦だった。これまでの闘いで彼は、バリアの正体は不変の能力で固定した空気だと読んだ。それならば光は通る。
" 光に関する不運……!! 一か八か…… "
UFOにかける
とっさにアンディの頭部を受け止めてしまうジーナ。アンディは体を再生させながら、一か八かの不運に正面から対峙する。ジーナが身に付けている無線からは、UFO内の部下達から焦りの声が流れてきた。
《ジーナ様!!ディスクが勝手に変形を…!!》
《何だこの武装は…‼ 緊急停止だ!!》
《ダメです‼ 受け付けません‼》
UFOは割れて、何かを発射するかのように変形していく。
そして……特大のビームがアンディとジーナを襲った。
またな
今まで足場だった固定された湖は液体に戻り、取り残されていた風子は湖に落ちてしまった。彼女は不変能力が解けた事を察し、急ぎアンディとジーナを追いかける。
場面は湖周辺の森林へ変わり、そこで一直線に抉れた跡にポツンと二つの人影。ビームで剝き出しになった地面に横たわる男女。ジーナは弱々しく仰向けになって血混じりの咳をする。不死者のアンディは体を再生させながら起き上がる。
アンディはジーナに跨り、彼女のシャツの胸元を開けて右拳を心臓の位置に当て狙いを定めた。
" フフ エッチ "
そして噛んで出血させた左人差し指を右腕に差し込む。これはもしもジーナがアンディを固定能力で固めても、彼女の能力は体内を固められないと見抜いていた彼の対策だった。固定化が及ばない腕の中(彼曰く〝肉の道〟)で部位弾を放ち、攻撃(ショック)を与える構えだった。
〝またな〟
お互いを見つめ合う不死と不変の否定者。
そこに追いついた風子が駆け寄りながら、「待って!!」と制止の声を振り絞る。
風子の制止する声を遮るように、重低音が鳴り響く。アンディの右手首から排出される部位弾の弾。ジーナは静かに自分の胸元を確認する。
アンディはトドメを刺さなかった。しかしジーナの命はもう長くない。
バカが
" 覚悟があって戦ったんじゃないの? "
何か出来ないかと困惑する風子に、困っている少女を宥める年上の女性のように笑い言葉をかけるジーナ。眉根を寄せ困惑する風子へ、ジーナはアドバイスを送るかのように語りかける。
" フフ… いいのよ 私も最初はそうだった "
" 変わりたかったの… "
今までのジーナは為すがまま組織(ユニオン)に入って、為すがまま働いていた。任務で沢山捕らえて殺した。人も獣も…。でも…何も変わらなかった。世界も。彼女自身も。きっといつかまたルールが増えて、世界は大きく変わってしまうだろう。
ただこの世界が変わらないように、それが彼女達・組織(ユニオン)の使命だと思っていた。だけども今日の事でそれは違うかもしれないと思ったと、静かに血を吐きながら語るジーナ。
それは風子が描いた絵の事だった。その水彩画は彼女たちの〝今の世界〟では絶対に観られない景色が描かれていた。ジーナは「あなたの絵… とっても素敵だった…」と褒めた。宇宙に月と太陽以外何もない〝彼女たちの世界〟で、お月様が寂しくないように月の周りをキラキラと光る友達がいるなんて考えた事もなかったと。そんな絵画に感動とショックを受けていたのだ。ジーナ自身は結局変われなかったが、変わるのも悪くないのかもしれないと思うことができた。
" もう行って アンチエイジングが切れてきた… 醜い姿を見られたくないの… "
年齢操作(アンチエイジング)していた少女は、徐々にその効果が切れ始め、16歳から実年齢の姿に戻っていく。その最中でもジーナは、自分を変えた(殺した)男女へ無事に組織(ユニオン)に入れるから安心するよう告げる。
だが、その言葉が最後まで言われる事はなかった……
……
" やめて…この姿じゃ… "
アンディは静かにジーナのもとへ近づき、今にも崩れそうで大切な愛おしいものへ寄り添うように跪き、横たわる彼女を優しく抱き寄せ、手を握り、彼女の言葉を遮る。
〝 バカが シワの数でお前の魅力は変わらない 〟
ジーナの言葉を遮ったキスの後に、目の前にいるのは不変の美女だと評したアンディ。涙目で一組の男女を見ていた風子は、最後の時を邪魔しまいと身を引き背を向けた。
それは50年ぶりに訪れた二人だけの束の間の時間。
目の前の男に恋焦がれた女が静かなハグをする、いつまでも変わらない不死と不変の男女。そして永遠の16歳の少女が静かに眠りにつくまで見守るアンディ。
だが彼の左前頭部に刺さるカードの根本から一筋の血が流れ、それが目を伝い表情を崩さないアンディの心情を表しているかのようだった。
二人だけの時間が終わった事を察した風子は、背中を向けたままに、
" アンディ… "
" …何だ "
" お願いがあるの… "
お願い
場面は湖のある森林地帯から変わり、ロシアの飲食店内で向かい合わせに二人掛けのテーブルに座るアンディと風子。アンディはロシア語で、ビーフストロガノフ2つと食前にウォッカを3つオーダーする。
ジーナの遺品である上着を抱きしめながら慟哭する風子と無言で付き合うアンディ。そしてアンディは、静かに今思っている事を語る。
" アイツは…… 死にたがってた "
50年前(1970年代)、ジーナに捕らわれたアンディ。彼は組織(ユニオン)へ監禁され実験台になっていた。その管理を任されたジーナとの出来事を振り返る。彼女は気丈に振るまっていたが、いつも彼のケースの前に来ては、懺悔するかのように相談事をしていたのだ。生きるために、殺す事に悩んでいた。いっそ自分が死んでしまえばとも話していた。だからアンディは冗談で言ってやった。
" そんなに死にてーなら俺が外に出たら真っ先に殺してやるよ "
" ホント!?約束だよ!! "
ジーナは頬を赤らめ、夢見る乙女のような嬉しそうな表情で答えた。今思えばあれは本心の言葉だったのかもしれないともアンディは振り返った。
" お前の不運でジーナは救われた ありがとな "
" …… "
向かいに座り、泣き止んだ少女へ礼を告げるアンディ。風子はジーナの上着を改めて見つめ、先ほどの「お願い」について再び語る。
変えらんないのかな? ジーナさんみたいに苦しむ人が出ないように… 私達で… 組織を…!!
それは独りだった少女が、もう一人ではない女性に変わった決意の言葉だった。これを愉快そうに聞いていたアンディは、
いいぜ!ノッた!! その方が俺もお前も口説き易いしな
二人はお互いの気持ちを改めて確かめ合った後、とりあえず運ばれてきたウォッカのグラスを手に取り、ジーナへの献杯に臨んだ。
献ぱ……
ジーナへ
Ⅸ(ナイン)…… Ⅹ(テン)……
い!!
突然、天井の何もない空間がヒビ割れて現れた謎の生物。それは不気味に数字を喋りながら、アンディと風子を掴んで出てきた異空間の中へ引きずり込んでしまった。
🎥挨拶代わりだ / 手荒いご挨拶 #アンデッドアンラック 名シーン紹介 第5話「我々は否定する」より #undeadunluck - 公式shorts・YouTube
異空間の出口から落下する主人公達が見たのは、眼下にⅠ~Ⅹの数字が刻印されている円卓机。そして円卓沿いに並ぶ8名の姿。アンディは「挨拶代わりだ」と不意討ちで部位弾を放つが、銃撃された8名は問題なく応対した。
そのまま円卓のイスへ風子(Ⅸの席にバランスを崩してひっくり返り)とアンディ(Ⅹの席に堂々と不遜な態度で難なく)は落下する形で着席する。改めて敵地・組織(ユニオン)にて、円卓の否定者達と対峙するのだった。
ようこそ 組織(ユニオン)へ
不敵な笑みの不死と不安気に強張った表情の不運の否定者達は、落下中も無くさず持っていた互いのウォッカのグラスを打ち合わせて、
ジーナへの献杯、
そして自分達が次の物語へ進む決意の音を鳴らすのだった。
備考
総括すると第8話はジーナとの邂逅で、主人公達が目的を新たに世界(アンデラ)と向き合う事になるターニングポイントであり、物語を次章に繋ぐ役割もある重要な回である。丸々1話で主要キャラの絆を深める要素がたっぷりなわけで、ネームを読んだ担当が「おもしれ…」と感想を抱いたのも納得である。
サブヒロイン要素いっぱいだったジーナが退場する展開となった本話にショックを受けた読者もいたのではないか。しかし彼女は約50年も組織(ユニオン)に在籍しており、円卓の否定者達の会話(ジーナ様(おばさま)と呼ぶ女性やジーナのばっちゃんと呼ぶ少年など)からジーナが否定者に慕われていた様子が窺える。
実際に関連人物たちの回想では、画(コマ)の中で初登場した時のように流行りの漫画にエモくなる乙女(JK)なジーナなど、意外な場面で再登場している。
『またな』と不死者のアンディが、ジーナを変える(死なせる)シーン。これは何があっても死ねない運命の男が、どのような心境で発した言葉なのか。
アンディが『絶対に死んでおまえに会いに行ってやる』とも解釈され……色々な想像が膨らむ場面である。