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'75年、桜花賞

「後ろからは何にも来ない」とアナウンサーは3度叫んだ。

10馬身でもおさまらない歴史的大差のゴール。

テスコガビー -スピードの美学-

美しさはいつも他を置き去りにする。

桜の女王へ。桜花賞

2013年 JRACM「THE LEGEND」桜花賞


※馬齢は2000年以前の旧表記で記載する。


生涯編集

1972年4月14日生まれ。

父のテスコボーイは、トウショウボーイキタノカチドキを輩出した名種牡馬。

母キタノリュウ。母の父モンタヴァル。モンタヴァルの母系の子孫にはアイネスフウジンメジロドーベルがいる。

生まれた頃から牡馬と見紛うほど筋肉質で、性格も大人しかったという。

名前の「ガビー」は「ガブリエル」の愛称である。


1974年(3歳)編集

9月14日東京競馬場での新馬戦で初勝利。騎手は全戦一貫して菅原泰夫が務めた。

2週間後の3歳ステークスも圧勝し、京成杯3歳ステークス(現・GⅡ京王杯2歳ステークス)も2着に6馬身差をつける圧勝。3戦3勝で、最優秀3歳牝馬を受賞した。


1975年(4歳)編集

年明け初戦の京成杯(現GⅢ)も唯一の牝馬ながら牡馬をも蹴散らしこれで4連勝。

次に出走したのは、東京4歳ステークス(現・GⅢ共同通信杯)。

ここに出走してきたのは、同じく菅原が主戦のカブラヤオーだった。

関係者間での話し合いの結果、カブラヤオーの調教師が「テスコガビーは騎乗を断ったらもう乗れなくなるかもしれない。カブラヤオーは所属厩舎の馬だからいつでも乗れる」と気を使ってくれたため、菅原はテスコガビーを選択。

カブラヤオーは菅原の弟弟子にあたる菅野澄男が代理で騎乗した。

互いに逃げ馬同士の大接戦の末、結果はカブラヤオーがクビ差で勝利し、テスコガビーは2着で初黒星を喫した。

しかし菅原騎手はカブラヤオーの臆病な性格が世間に知られないよう、スタート直後競り合わずに控えたり、カブラヤオーが右へ寄れたらテスコガビーをそちらへ行かせて軌道修正させたりと、かなり気を使って勝負していた。


阪神4歳特別(現・GⅡフィリーズレビュー)もレコードタイムで圧勝。

そして、第35回桜花賞では、単勝1.1倍の圧倒的支持で単枠指定された。

2着ジョーケンプトンに10馬身を超える着差を付ける圧巻のレースを見せ、他の21頭に影すらも踏ませなかった。

実況の杉本清はその独走ぶりに言うことがなくなってしまい、「後ろからは何にも来ない!!」と3度叫んで間を保たせた。

杉本アナウンサーとしては苦し紛れの実況だったが、視聴者からの評判は良く、後に上記のCMでも語られている。


陣営は優駿牝馬を目指して、前哨戦の4歳牝馬特別(現・GⅡフローラステークス)に出走するが、初めて連対を外す3着に敗れた。


前走で敗れるも、オークスでも1番人気(単勝2.3倍)に推された。

いざ本番が始まると心配は杞憂に終わり、2着のソシアルトウショウ(同じテスコボーイ産駒であるトウショウボーイの半姉)に8馬身もの大差をつける圧勝で二冠を達成した。

なお、東京4歳ステークスで戦ったカブラヤオーも皐月賞日本ダービーの二冠を達成し、菅原は同一年春クラシック四冠の偉業を達成した。これは武豊でも成し得ていない快挙である。


オークスから4か月後、陣営はビクトリアカップ(エリザベス女王杯の前身。この年で最後の開催となった。)を目指して調教するも、故障を発生してしまい、全治約1年を余儀なくされる。

この年の活躍が評価され、最優秀4歳牝馬を受賞した。


1976年1977年(5歳~6歳)編集

年が明けた1976年5月2日のオープン戦で1年ぶりに復帰するが、6着に惨敗。これが生涯最低の着順にして最後の競走となった。

1年の休養は競走能力を大きく奪い、さらに調教中にまたも故障が発生したため、陣営は引退し繁殖入りを勧めたが、馬主が現役続行を希望したため再度調教を行うことになったとされる。


6歳になった1977年1月19日、テスコガビーは調教中に突如前のめりに倒れた。

その原因は脚の故障ではなく、心臓麻痺だった。

すぐさま獣医師が駆け付けるもテスコガビーは既に息絶えていた。わずか6歳(現5歳)の短い馬生だった。

その後遺骨は生まれ育った北海道静内町に戻り、父テスコボーイと共に眠っている。


名馬の肖像編集

【春をひとり占め】

桜花舞い散る阪神を行く。

春風の中を、ひとり、行く。


単枠指定の3枠。ただ1頭の赤い帽子。

ゲートが開けば先頭。

誰もついて来ない、誰もついて来られない。


先頭で廻る第4コーナー。

そこから差が広がっていく。3馬身、5馬身、8馬身。

神に選ばれし娘の豪脚。天賦の才。桁違いの速さ。

ゲートからゴールまで、桜の舞台を独占する。

見よ、この走りを。

記憶せよ、この桜花賞を。


歴史的名牝に捧げる杉本清アナ、驚嘆の絶叫。

テスコガビー独走、うしろからはなあーんにも来ない!

桜花賞史上唯一、仰天の大差勝ち。

ひとりで刻んだレコードタイム。


テスコガビー。

満開の春をひとり占め。


語り継がれる、永遠のあの日。


       ───名馬の肖像 2013年「桜花賞 テスコガビー」より


関連タグ編集

競走馬


カブラヤオー:同期の二冠馬。テスコガビーとは対照的に31歳という長寿を誇り、天寿を全うした。

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