おとなって、かわいそうだね。自分より大きなものがいないもの。
よりかかってあまえたり、しかってくれる人がいないんだもの。
概要
藤子・F・不二雄原作の漫画・アニメ作品『ドラえもん』のエピソードの一つ。
初出は『小学六年生』1977年9月号。TC16巻収録。
「おばあちゃんのおもいで」の続編にして、のび太のパパとおばあちゃんの関係性を描いたエピソードであり、同時に「子供だけでなく大人も誰かに愚痴を言いたい、甘えたい時もある」という、身近な感情や大人の社会の大変さを端的に描いたエピソードでもある。
あらすじ
おやつの時間、好きな葡萄が目の前にあるのに元気がないのび太。その様子を見たドラえもんは「食べないなら僕がもらうよ?」と言うが、のび太はその言葉に気分を悪くして部屋を出て行ってしまう。
心配したママがのび太を追いかけ、ドラえもんもついて行くと、のび太がママに「どんなに叱られるかと心配で……」と泣きながら甘えていた。これに対しママは「これに懲りて二度と繰り返さないことね」と優しく言い、ひとしきり泣いて気分が晴れたのび太は葡萄を食べようと部屋に戻った。
途中、その光景を眺めていたドラえもんに「やあい、あまえんぼ」とからかわれるも、のび太は恥ずかしがりながら「時々赤ん坊みたく甘えたくなることがある」「温かい気持ちになれる」「普段はガミガミ怖いけどやはりママだから」と言い、葡萄を食べたのだった。
その夜、パパが泥酔して帰宅した。酔った勢いで「僕はこの家の主だぞ!」と威張り散らすパパの姿に怒ったママは、そのまま彼を放置して部屋に戻ってしまう。ドラえもんとのび太が駆け付けてパパに「ダメだよ」と言うが、彼は「うるさい!子供の癖に親に向かって!」と怒鳴るため、話が通じない。
そこでのび太が「だったらパパのママ、つまりおばあちゃんに叱ってもらおう」と言い出し、その提案に賛成したドラえもんはパパをひみつ道具で運びつつ、のび太とパパを連れて「タイムマシン」に乗り込み、おばあちゃんが生きていた頃の時代へ向かう。
過去に到着したドラえもん達は一度パパを部屋に寝かせ、おばあちゃんを探しに行く。しかしその間に過去のママが現在のパパを発見してしまい、「この時間は会社にいるはずなのに、どうして家にいるの!?」と大慌てしてしまう。
パパが「水をくれ」と頼んだ為、過去のママは困惑しながらも水を汲みに行く。そのことに気付いたドラえもん達は急いでパパを押し入れに隠す。すると過去のママはパパが消えたと大騒ぎし、会社に電話をすると過去のパパが出て「ずっと会社にいた」と答えた為、ますます訳が分からなくなる。
その様子を見ていたおばあちゃんは、過去のママに「のびちゃんを連れて散歩に出かけて来たら?」と助言し、過去のママは過去ののび太を連れて散歩に出かける。
その直後、のび太はおばあちゃんと対面する。おばあちゃんは「この前来てくれた未来ののびちゃんね」と言った為、のび太はおばあちゃんが自分のことを覚えていてくれていたことに感激する。
それを眺めていたドラえもんは「気持ちは分かるけど今は…」と言い、のび太と共におばあちゃんに「パパを叱ってほしい」と話す。
早速パパを起こそうとするおばあちゃん。パパは「ぼかぁこの家で一番…」と言って威張り散らそうとしたが、目の前には他界して2度と会えないはずの母親がいた。これに対しパパは「母ちゃん!?」と驚愕すると、そのまま懐かしさと感動のあまり涙を流し、彼女に抱き着きながら「凄くいじわるな部長が僕のこと虐めるの」と言い、日頃の愚痴を吐き出す。彼女は優しい笑顔でパパを撫でながら、彼の愚痴を全て受け止めた。
そんなパパの様子を見たドラえもんは「大人って可哀想だね。自分より大きな者がいないもの。よりかかって甘えたり、叱ってくれる人がいないんだもの」と呟き、のび太は「そういう考え方もあるか」と考える。
するとパパが泣き疲れて眠ってしまったため、ドラえもんとのび太はパパを連れて現代へ戻る。
翌朝、パパとママは無事に仲直りする。そしてパパは朝食の最中「昨夜、久しぶりにお袋の夢を見たよ。懐かしかったなぁ」と、母親と再会できた嬉しさを語るのだった。
余談
上記のエピソードは大山のぶ代版及び水田わさび版アニメで映像化されており、前者は1986年、後者は2014年に放送された。
- 1986年版
サブタイトルが「パパだって甘えんぼ」に変更されているが、基本的には原作版通りの展開になっているが、変更されている点も存在する。
ドラえもんの「大人ってかわいそうだね。だって辛いことや悲しいことがあっても、寄りかかって甘えたり叱ってくれる人がいないんだもの」に対して、のび太は「そうか、自分より大きなものがいないんだね」と返している。その後、ドラえもんが「のび太くん、眠いだろ?そろそろ帰ろうか?」と言うが、のび太はのび助を気遣って「もう少しここにいようよ」と言う。
エピローグでは、のび助が母親のことだけでなく「夢の中にドラえもんとのび太もいた」と言ったことで、2人が焦る場面が描かれている。
- 2014年版
こちらも基本的には原作版通りの展開になっているが、泥酔したのび助の威張り方がかなりマイルドになっている。
母親と顔を合わせたのび助は最初は驚きながらも「夢、だよな…?」と言いながら冷静さを保っておりしばらく会話を交わしたが、「でも、何でも1人で抱えこんじゃダメだよ」と優しく心配の声をかけられたことに感極まって泣きじゃくる流れになっている。
「大人ってかわいそうだね」のやり取りは原作に忠実だが、のび太の「そういう考え方もあるか」の後にドラえもんの「きっとパパは嫌なことや辛いことがあっても毎日頑張っているんだよ」という一言が追加されている。
エピローグではのび助が玉子に対し、昨夜は酔った自分が迷惑をかけたと謝る場面や出勤する場面が描かれており、その様子を眺めていたドラえもんとのび太が「まさかパパがあんなに甘えん坊だったなんてね」と言いながら微笑む展開になっている。