概要
フルネームはジェーン・マープル。
アガサ・クリスティが生みだしたエルキュール・ポワロに次ぐ世界的に有名な名探偵の素質を持つ老婆。
日本語特有のカタカナのせいで勘違いしやすいが、「マープル」であって、「マーブル」ではない。
綴りで書くと、「marple」。
作中の登場人物のほとんどは年下という事もありミス・マープルと呼ぶが、同年代の友人やマープルを敬愛する「サー・ヘンリー」ことスコットランドヤードの元・警視総監のヘンリー・クリザリング卿は「ジェーン」と名前で呼んでいる。
来歴
ヴィクトリア朝後期のロンドン近郊の中流階級の家に生まれ、人並みの人生を送るも両親に結婚を反対された事を切っ掛けに独身を貫くことを決めると、ロンドンから25マイルほど離れたセント・メアリ・ミード村へと移住。
但し、この時に反対された男性は、「非常につまらない人間だった」ということが判明しており、彼女自身、両親の判断は正しかったことを認めざるを得ないという結論に達している。
以上は原作での経緯だが、映像メディアでは、原作とは違った人生を歩んだとされる。
映像メディアでは、若き日(作品にもよるが、彼女が20代前半の年頃であった第一次世界大戦中とされる)に所帯持ちの陸軍将校と恋に落ち、彼は「必ず、君のもとに帰ってくるよ」と思い切り死亡フラグな台詞を言い残して出征したが、配属先は不運にも西部戦線であり、程なくして、あえなく戦死してしまう。彼への思いは戦後も絶ち難く、結果的に独身を通したというキャラ付けがされる場合が多い。
老後は編み物や刺繍、庭いじり(や人間観察)を趣味として村で静かな暮らしを送るが、よくロンドンや英国各地に出かけ、そこで割と気軽に他人に話しかける事も多く(そして事件に巻き込まれるのがお約束)、意外と活動的かつ社交的。
人物像
ポワロのシリーズの一つ、『アクロイド殺し』に登場した噂好きなキャロラインがミス・マープルの原型とクリスティ自身が述べている。
一作目の『牧師館の殺人』では詮索好きで辛辣な性格だったが、その後の作品では詮索好きには変わりはないものの温厚であり、人好きするタイプに変わり、一般にイメージされるような優しい老婦人になっている。
近代教育を受けていない無学な人間だとして謙遜することがあるが、『ポケットにライ麦を』によるとイタリアの寄宿女学校に留学していた経験を持っていり、登場人物達が「道理で博識でいらっしゃる」と褒めたように一通りの教養は備えているようだ。
また彼女の家では孤児を引き取ってお屋敷勤めが出来るように教育を施しており、作中登場するメイドもピンからキリまでおり時にはメイドの質の低下に嘆くこともある。
尚、前述のように普段は温和な性格だが、『ポケットにライ麦を』の連続殺人はかつて自分の教え子だったメイドのグラディス・マーティンの遺体がマザーグースの童話『6ペンスの唄』に見立てて鼻を洗濯バサミで挟まれているという侮辱的な状態で発見された為、珍しく怒りと悲しみの感情を露わにした事件である。
エルキュール・ポアロに匹敵する推理力や、いざとなれば自身が犯行を食い止めようとする行動力がある。
しかしながら、元ベルギー警察の警官だったポアロに比べると身体的な弱さと肉体的老いは否定できず、戦後の設定である『パディントン発4時50分』『鏡は横にひび割れて』では、大好きな庭仕事が膝に致命傷を与えてしまうということでドクターストップを受けているほど、身体の老いが顕著である。
原作では、1930年代が設定とされる『牧師館の殺人』の時点でおばあさん扱いされている。また、1960年代初頭(原作でビートルズの名称が出てくる為、この年代)の長編『バートラム・ホテルにて』では、(TVドラマ版ではあるが)ホテルの宿泊客が「90歳くらいに見えるわね」と話のネタにするほどの高齢者である。
マープル・シリーズの最終作とされる『復讐の女神』(アガサが生前に書き終えており、アガサの死後発表された)の時点で、80歳を越えているというのが一般的な見解。
探偵として
ある日、作家である甥のレイモンド・ウェストらによって作られた“火曜クラブ”で、家を会合の場所として貸し、当初こそ村以外の事は何も知らない無知な老婆とみられていたが、参加者が話す迷宮入りの事件を次々に解決して行き、探偵としての才能を周囲に認知される事となった(ちなみにそれ以前から村の中で起こった小さな事件などを解決しているらしい)。姉か妹かは設定されていないが、彼女の姉妹の子である甥と姪がいるという位置づけは便利なようで、メディアによっては、警察官になった甥もいるとされる場合がある。
実際に、映画『クリスタル殺人事件』(原作は『鏡は横にひび割れて』)では、刑事になっていた甥が事実上の助手となっている。
その後、様々な難事件に遭遇しては解決して行くようになり、少なくとも3つの州の警察署を手の内に抑えているといわれるほどに関係者の間でその名が知られるようになった。
なお、安楽椅子探偵と思われがちだが、大部分の作品では他の探偵ものと同じく自分から事件現場に赴いたり、出掛けた先で事件に遭遇したりしている事が多い。
この
- 遠出先で事件に度々遭遇する。
- 最初は不審者だと思っていた警察の現場責任者が上層部から「この人は数々の事件解決に協力してくれた名探偵だぞ!!」と怒鳴られると、途端に手の平を返した態度をとる……というパターンは日本でも『金田一耕助』シリーズ、『浅見光彦』シリーズなどでも取り入れられている。なお、当の現場責任者達からは煙たがれているが、腐れ縁になってしまった数人からは「また、あのばーさんだぞ…」と諦め半分ながらも、なんだかんだで協力を仰がれる立場である。(彼女は前任の警視総監の親友なため、態度如何で自分の人事考査に響くという事情もあるが)
但し先述の通り、相当な高齢者である為、信用出来る人物に調べ物をしてもらったり、犯行を食い止めるため、事件とは無関係の他者に協力を要請したりすることも多い。
『パディントン発4時50分』では自身が怪我した事もあり、あらゆる男性から求婚されるほどの美貌を持つ若きスーパーメイドのルーシー・アイルズバロウにある屋敷に潜入し、遺体を捜索するよう依頼している。
一方で、犯人に襲われかけた女性を助けるために、息を切らせながら急いで庭から階段を駆け上がったりしたり、わざと喉に食事と詰まらせたと見せ掛けて、犯人に犯行の自供を引き出したりと、なかなか精強な老婦人でもある。
推理方法論
「村の~に似ている」というように、まずは自分が知る様々な相手の中から、その事件中の行動や些細な事象が思い起こさせる人物を想像。それをもとに「犯人はどのような人物だったのか」「なぜ/どのようにしてその行為は行われたのか」を推理していくスタイルをとる。
彼女が侮られる原因としては、彼女が「人畜無害な村のおばあさん」に見えるという点が大きい。しかし彼女曰く「村にも多くの邪悪がある」「人間はどこでもたいがい同じ物」であり、人間に対して透徹した見方をもつ探偵である。
ポワロとの関係
ファンの間では、古くから(同じくアガサの生み出した代表的な名探偵である)エルキュール・ポワロとしばしば比較されることが多く、「もしも2人が居合わせたらどうなっていたのか」という話題が持ち上がることも多い。しかし生みの親のアガサは「ポワロとマープルは性格が合わないので無理だろう」として、両者の共演には否定的であったといい、実際、両者が共演する作品は1つとして世に送り出されることはなかった。
その発言の関係か、TVドラマ版では、ポワロが1948~49年に病死し、亡くなった彼と入れ代わる形で、1950年代以降の英国で探偵として活躍していたという位置づけになっていたりする。
なお、ポワロの『青列車の秘密』ではセント・メアリ・ミード村の存在が語られていることから、2つのシリーズが同一の世界線上のものではないかとする説もある(メタ的に言えば作者の一種のファンサービスなのだろうが)。加えて、一部両方の作品に共通して登場した人物もいる。
また、日本で制作されたアニメ『名探偵ポワロとマープル』では、両方の作品が同一の世界線上で展開されているという前提で物語が構築されており、原作同様、両者が直接顔を合わせる機会こそなかったものの、マープルの家の前をポワロの乗った車が走り去るという映像があったりする。
関連項目
八千草薫…アニメ『名探偵ポワロとマープル』でミス・マープルを演じた。