概要
馬名 | ヤマニンウルス |
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由来 | 冠名(屋号やまにんべんの短縮)+熊(仏語) |
英名 | Yamanin Ours |
性別 | 牡 |
生誕 | 2020年5月21日(4歳) |
父 | ジャスタウェイ |
母 | ヤマニンパピオネ |
母父 | スウェプトオーヴァーボード |
毛色 | 鹿毛 |
生産牧場 | 錦岡牧場(泊津繁殖場) |
馬主 | 土井肇 |
調教師 | 斉藤崇史(栗東) |
調教助手 | 嶋津篤 |
デビュー前
誕生
2020年5月21日、錦岡牧場にて父ジャスタウェイ(GI3勝。2014年のワールドベストレースホース)と母ヤマニンパピオネ(中央4勝。繁殖牝馬としてOP馬ヤマニンサンパを出しており、ウルスは6番仔)との間に生まれる。
故郷の錦岡牧場(泊津繁殖場)はヤマニン冠で知られるオーナーブリーダー土井一族が経営し、ヤマニンゼファーも輩出したヤマニン軍団の生産拠点である。
三代母(曾祖母)ワンオブアクラインは米国から輸入され、産駒13頭中12頭が中央で勝ち上がるという繁殖成績を収めた錦岡牧場の基礎繁殖牝馬の1頭。彼女の子孫は全てヤマニン冠である。現役時代は米GIオークリーフSを勝利している。
錦岡牧場が大切につないできた血統であることに加え、祖母ヤマニンメルティは武邦彦厩舎所属で武幸四郎騎手が主戦騎手であり、オーナーや父らいろいろな人を思い浮かべることができることから、本馬の主戦騎手である武豊騎手曰く「個人的に思い入れのある血統」とのこと。
育成
他のヤマニン軍団と同様に錦岡牧場泊津繁殖場での誕生後、半年ほど(2020年秋頃?)でヤマニンの馴致・中期育成・後期育成を行う育成拠点たる錦岡牧場新和育成場に移ったと思われる。
育成を担当した和田氏が1歳(2021年)2月に初めて見た時は、小さくて薄い馬体であり、大丈夫だろうかと心配したほどであった。
1歳秋の終わり頃からトラックコースで騎乗育成をスタート。育成を担当した和田氏は当時のヤマニンウルスについて「当時は身体が薄くて、まだ後躯(とも)も緩かったですが、跳びが大きく背中も柔らかい。フットワークのバランスが良かった馬でした」と語る。和田氏含め牧場での騎乗者4名が声を揃えて「オープン位まではいくはず」という逸材だったという。
2022年3月28日、デビューに向けた調教を積むため、錦岡牧場を出発し、京都・宇治田原優駿ステーブルに移動。1年前にその小さな体を心配された子馬は、馬体重544kgを誇る巨漢馬へと変貌を遂げ、巣立っていった。
現役時代
2歳(2022年):衝撃の新馬戦
7月20日、栗東トレセン・斉藤崇史厩舎へ入厩。代表的な管理馬としてはクロノジェネシスやジェラルディーナが挙げられる。また、斉藤厩舎の所属馬の1世代上にはJRA重賞最大馬体重勝利記録(594kg)を持つドンフランキーがいる(嶋津助手曰くヤマニンウルスについては「ドンがいるんでね、僕らはそんな驚きはないです」とのこと)。
そして2022年8月20日小倉6R・2歳新馬(ダート1700m)にてデビュー。馬体重は536kg。鞍上は今村聖奈騎手を迎えた。単勝2.7倍の1番人気に支持されるが、本馬含め4頭が10倍以下の混戦。また、枠入り中にテングクラブのゲート内での転倒があり、発走時刻は7分遅延した。それでも一切動じず、落ち着き払ってゲートイン。
レースでは2番手追走から3コーナー過ぎで早々と先頭に立つと、脚色が鈍ることなく、後続をグングンと引き離して大差勝ちを収めた。2歳ダート1700mのJRAレコードを更新するタイム(1分44秒3)を叩き出したことに加え、2着ゴライコウとの4.3秒差(21馬身差)という着差はJRA平地競走史上、最大着差記録を更新するものであった(グレード制導入以降)。
その2ヶ月余り後、ゴライコウがJpnIIIJBC2歳優駿を勝利したことで、ヤマニンウルスの評価は更に高まることとなる。
2戦目としては11月26日OPカトレアS (東京ダ1600m) に参戦を予定していたが、11月11日、一頓挫あり予定を白紙に戻す旨の発表が陣営より行われた。ヤマニンウルスは宇治田原優駿ステーブルに放牧に出され長期休養となった。
3歳(2023年)春:1勝クラス
3月30日、放牧先から帰厩。
4月4日、2戦目として4月23日の京都6R、3歳1勝クラス(ダ1800m)を出走予定である旨が報じられた。
そして迎えた4月23日。鞍上には「いざというときに頼む」と先代オーナーが語るなどヤマニンとの関係が深い武豊騎手を新たに迎えた。人気は単勝オッズ1.2倍の圧倒的一番人気。一方、一頓挫挟んで8ヶ月ぶりの出走、前走から斤量6kg増(50kg→56kg)に加え、前走から24kg増となる馬体重560kgも不安視されていた。
レースでは前走同様2番手につける。4コーナーで先頭に立つと、気を抜かさないようにステッキ一発で一気に差を広げ、最後には軽く流す余裕を見せ、2着に6馬身差で圧勝した。
レース後、武豊騎手の「正直、調教に乗った時に大丈夫かなと思いました。まだ体がしっかりしていませんし、フォームも定まっていません。それでもこれだけやれるのですから大したものです。和製フライトラインになってもらいたいですね」とのコメントに対し、斉藤調教師は「なれればいいね」とコメントするなど、今後への期待が示された。
その後はやはり放牧に出され、5月の武豊TVで前走の裏話が明かされた。「こんな状態でレースを使うの?」と思う程度には状態は良くなかった様子。また「通常ならユニコーン、JDDの路線になるのですが、この状態ではとてもレースの進言はできなかった。ただこんな状態でも(権利を取るための)ユニコーンは勝てると思うけど、まだ先のある馬なんでね」と語り、現時点でも3歳重賞を勝てるだけのポテンシャルがあることが示される一方、馬体や走行フォームの完成を待つ必要があることが語られた。
3歳(2023年)秋:2勝クラス
3戦目となったのは11月12日京都8Rの3歳以上2勝クラス(ダ1900m)。鞍上は引き続き武豊騎手を予定していたが、10月29日に負傷したため「豊さんと同じように大事に乗ってくれる」としてルメール騎手が代打となった。馬体重は前走比16kg増の576kgとまたしても2桁増も、2番人気以下を単勝オッズ2桁に抑え込む圧倒的一番人気(1.2倍)に支持される。
レースでは出負け気味だったが、二の脚が速く促した程度で2番手に。残り300mで逃げ馬を捉えると、ルメール騎手が後ろを振り返りつつ、ノーステッキで3馬身半差で圧勝した。
レース後、ルメール騎手は「大きな馬でちょっと緩いですが、パワーもスタミナもあります。伸びしろも大きいと思います。いいダートホースになれます」とコメントした。
その後はやはり放牧となったが、期間はこれまでより短く、12月22日に帰厩。「元気いっぱいですよ」と前走のダメージがなかったとのことで、年明け1月14日の3勝クラス雅ステークス(京都ダ1800m)への出走が発表された。
4歳(2024年)春:3勝クラス 雅S
予定通りに迎えた1月14日の雅ステークス。武豊騎手も怪我から復帰。単勝1.3倍の一番人気。なお、馬体重は前走+6kgの582kgであった。
レース前の返し馬では左前脚の動きが硬く、違和感を感じた武豊騎手は10分ほど除外すべきか否か思案し、いつもヤマニンウルスに調教で乗っている団野騎手とも相談の上、獣医に見てもらうことに。最終的に獣医が「大丈夫そう」との判断であったことに加え、次第に問題となった左前脚もほぐれてきたことで出走することとなった(なお、周囲の騎手は聞き耳を立てており、急にやる気になったとのこと)。
レースではハナを切ると思われた2番人気で3連続2着の逃げ馬ミラクルティアラが出遅れる中、まずまずのスタートを決めると二の脚で先頭に立ちそうになるが武豊騎手が抑えて2番手につけた。4コーナーで先頭に立つと、武豊騎手もほぼ追わず、電光掲示板をちらりと見るなどして、負担をかけないようにレースを運ぶ。そのままラスト100mを流して、猛追する2着バハルダールをノーステッキで1馬身1/4離してゴールイン。4戦4勝での無敗OP入りを果たした(なお、3着に3馬身差をつけた2着バハルダールもまた2週間後に舞鶴Sを完勝しOP昇格を果たすこととなる)。
ゴール後、当のヤマニンウルスは全く止まらずに3コーナーまで走っていってしまったが、武豊騎手によれば、これは目一杯走らせなかった馬に起きることだという。また、「だんだん競馬を覚えてきて、行きっぷりが良すぎるぐらいでした。」とのこと。
その後、1月17日に武豊騎手の公式サイトで「次はいよいよ重賞ということになりますが、調教師と相談して、あくまでも馬本位でということになりました。」と次の目標が重賞挑戦であることが語られた。
4歳(2024年)夏:G3 プロキオンS
2月27日、G3平安ステークス(5月18日・京都)で重賞に初挑戦することが報じられたが、裂蹄により見送られ、4月12日、G3プロキオンステークス(7月7日・小倉)を目標とすることが発表された。
そのプロキオンSではOP戦を使わず、ぶっつけでの重賞挑戦であることを不安視されていたものの単勝1.7倍の一番人気に支持される。
レース本番ではスタートを決めて、道中は好位を追走。逃げたブルーサンとバスラットレオンをピタリとマークし続けた後、ハイペースにもかかわらず3コーナーから進出を開始。4コーナーで先頭に並びかけると突き抜け、2着スレイマンに3馬身差をつけて優勝。無敗5連勝での重賞初制覇となった。またこの時点での馬体重は584kgであり、昨年覇者のドンフランキーに次ぐJRA重賞史上歴代2位の重量記録となった。
レース後、武豊騎手は「まだレース5回目でこの強さ。どこまで強くなるのか楽しみです。現時点ではまだ良くなってほしい部分もたくさんありますが、可能性を秘めた馬。名馬になれるよう、一緒に頑張っていきたいですね」とコメントを残している。
今後については斉藤調教師は「放牧に出す予定です。年末のG1(チャンピオンズC)には行きたい。直行になるのか、一戦挟むかは分からないけど。また一つステップアップできましたね」と述べた。また、武豊騎手共々、将来的に海外遠征に挑戦する可能性についても示唆した。
4歳(2024年)冬:JpnⅢ 名古屋大賞典
注目されたチャンピオンズカップは、元々収得賞金の少なさから出走自体厳しいと目されており、最終的に賞金不足により除外。現役王者レモンポップとの対決はついぞ叶わなかった。
だが、除外された場合はJpnⅢ名古屋大賞典に出走予定であることが事前に明かされており、こちらは回避馬が出たため何とか繰り上がり出走に漕ぎ着けた。
相手もジャパンダートクラシック2着のミッキーファイトや一昨年のジャパンダートダービー馬ノットゥルノ、地方からもホッカイドウ三冠馬ベルピットや高知の期待馬シンメデージーなどの顔ぶれが揃い、前走から更に強化された形となった。
その中でヤマニンウルスは単勝1.8倍の1番人気に支持された。ちなみに、馬体重は591kg(+7kg)とまたまた過去最高を更新。
レースでは積極的に逃げるノットゥルノの後ろで控える形となり、ミッキーファイトやベルピットとともに前方集団を形成してレースで初めて揉まれることに。そのせいか、終盤の手応えが悪くなって抜け出せず、ミッキーファイトの6着に敗れた。レース後、武豊騎手は「状態は悪くないと思いましたが、これだけ乾いた深いダートは初めて。走りが空回りしていた感じでした。いつもは3角から反応してくれるんですが、今日は反応がなかったですね」と分析した。
これにより連勝記録は「5」でストップ、初黒星となった。また、入着を逃したことから賞金の加算にも失敗。GⅠ出走への課題も見え、道程がますます厳しくなる中、今後も体質や賞金と相談しながらの難しいレース選択を強いられることになるであろうことは想像に難くない。
今後について、斉藤師は「負けましたね。次々と来られてタフな競馬になった。思ったよりもダメージがなかったし、次は様子を見て考えたい」と述べている。
未だ底の見えぬ砂の大器ヤマニンウルス。彼が大舞台で真のポテンシャルを発揮できるかどうかはまだ誰にもわからない。
特徴
馬体
競馬メディアから「ド迫力ボディー」「ノンストップ・ビッグベア」「新冠生まれの巨大なヒグマ」等と表現される雄大な馬体が特徴。1戦目536kg→2戦目560kg(+24kg)→3戦目576kg(+16kg)→4戦目582kg(+6kg)→5戦目584kg(+2kg)と増量し続けているが、斉藤調教師は「(582kgも)太くはなかったし、体はもっと増えてくると思う」「実は体のフレーム的には(馬体重が)もっとあってもいいぐらいだと思っているんです」と評している。一応、5月生まれであり、競走馬としては遅生まれであることに加え、4歳の今もキ甲は抜けていない(首の付け根の形状が大人になっていない)。
プロキオンS前に嶋津助手は「すごい大型馬なので、トビやストライドが大きいのはもちろんあるんですけど、乗っていると1完歩の稼ぎ方が違うというか何というか。滞空時間が長いのか、感覚で乗ると調教時計をミスしてしまいます」、武豊騎手は「まだ緩さもあって正直、乗っていていいと思ったことがないんだよね。それで、あのパフォーマンスだからね。乗っていても速く感じない。ゴールドアリュールがそういう馬だったよね。楽に走っているのにちぎってしまう感じ」と語っている。
なお、競馬場の小回りコースは平気であるものの、馬房や角馬場等、狭い場所での動きは苦手で、馬房の中では結構どんくさく、寝起きもどんくさいという。
一方、休み休みでしか使えない現状であるが、武豊騎手は、課題について脚元というより体(走り)のバランスとして述べている。嶋津助手によれば、体質は兄弟と似ており、「若い時はちょっと弱くて、4歳や古馬になってからしっかりしてくる馬が多い印象です」「(ヤマニンウルスも)4歳で体もだいぶしっかりしてきましたね。」とのこと。また、斉藤師曰く「このきょうだいはコースで追うと、ガタッとくるんです」とのことでヤマニンウルス含めた兄弟の調教は坂路メインである。なお、兄弟は480kg前後であり、何故ヤマニンウルスだけ大きくなったのかについては嶋津助手も「何ででしょうね」と首を捻っている。
ちなみに、ジャスタウェイ産駒の巨漢馬については前例が複数ある。
性格
性格について関係者からは以下のように語られている。
- 斉藤師「気の強さはありながらも、おっとりしています。扱いやすい馬です。掛かることもありません。競馬で本気を出した時はいい結果を出してくれていると考えています。真面目で素直、競馬が上手です。」
- 嶋津助手「基本的に温厚ですね。急な物音とか、ふとした見慣れないものがある時にピッと反応して怖がることがたまにあるくらいです。」
- 和田氏「性格は真面目で調教で掛かったりすることもありませんし、操縦性も高い」
- 今村騎手「ゲートが仕切り直しになったり、イレギュラーな中でもホントに精神的に大人だなと感じさせてくれました。馬の方が堂々としていました」
芝馬疑惑
複数の関係者から以下のような発言があることから「実は本来の適性は芝であるが、脚元を考慮しダートで使われているのではないか?」という説がファンの間で囁かれている。
- 和田氏「芝の中・長距離が合っていそうです」
- 斉藤師(デビュー戦後)「いずれは芝でもと思いますが、まだキ甲も抜けず緩さがあるので様子を見て」
- 武騎手(雅S後の武豊TVⅡ)「まだダートでいいと思いますしね。芝行くとそういう怖さもありますね。馬が壊れちゃうんじゃないかなとか」
- 嶋津助手(プロキオンS前)「斉藤先生も『まずはダートからデビューかな』とダートを使ったんですけど、(ダートでの強さを見せられたことで)もうダートしか使えなくなっちゃいましたね。」
また、父ジャスタウェイの馬主大和屋暁氏は「お母さんの成績を見ると芝も対応できそうな感じもします」と語っている。競馬メディアからは「砂の大器」等と表現されるヤマニンウルスであるが、この説の通りであった場合、更なる可能性を秘めていると言えよう。