概要
鈴鹿御前の愛剣。
坂上田村丸に婚姻を迫るときにちらつかせてみたり、鬼退治のときには投げつけてみたりする。通力自在の名剣のため投げれば必ず鬼の首が打ち落とされる。
しかし清水の観音(清水寺)示現の物語という本質を考えれば、坂上田村丸へと継承されるべき宝剣というのが正しい説明だろう。
田村丸が入手するまでの経緯は物語の系統によって違いがある。
- 鈴鹿系(古写本系):天の魔焰・立烏帽子(鈴鹿の御前)が鈴鹿山に降臨し、討伐に向かった田村丸は三明の剣を持つ立烏帽子に押しきられて夫婦となり、天命で亡くなる立烏帽子から継承された。
- 田村系(流布本系):鬼神・大嶽丸が鈴鹿山に降臨し、討伐に向かった田村丸は夫婦となった鈴鹿御前が大嶽丸から大通連と小通連を奪ったことで退治。奥州に黄泉還った大嶽丸が「天竺に置いていた顕明連に魂を残していた」と嘲笑うが、田村丸は「これで三振りが揃う」と言い返す。
三明の剣を最初に持つ者は鈴鹿山に降臨する魔性で、三明の剣を持つ魔性に田村丸は勝てないものの、最後は鈴鹿御前と夫婦となった坂上田村丸に継承されることが共通している。
モチーフは神話における始祖誕生の発生装置である異類婚姻譚と神器の授受、つまり異類である鈴鹿御前から清水の観音たる田村丸へと文殊菩薩の打った剣が渡るという宝剣継承譚にこそ物語の真髄がある。
田村丸に三明の剣が継承された直後に冥界下りへと話が移り、大通連を振るって獄卒相手に妻を返せと暴れるなど、冥界で倶生神と閻魔王を困らせて二世の契りどころか、何気に不死の薬まで手に入れる。
田村丸へと継承された後もいくつかのパターンがあるのだが帝に奉られて神璽(八尺瓊勾玉)、宝剣(草薙剣)、内侍所(八咫鏡)という三種の神器とともに日本の宝となることが多い。
鈴鹿山は平安京と伊勢神宮の間に位置し、鈴鹿峠は神々が天下る聖地と魑魅魍魎が跋扈する異界という両義的な性質を合わせ持つため、三明の剣には王権から見た鈴鹿山の神秘が仮託されていた。
名前の由来
剣名の由来は仏教語の「三明六通」に由来すると考えられている。現在・過去・未来を知る宿命通・天眼通・漏尽通の三種の知慧を三明と呼び、三明に天耳通・他心通・神足通を加えて六通と呼ぶ。つまり三明六通とは神通力を指す。