概要
日本の奈良時代末期から平安時代前期に活躍した坂上田村麻呂と比翼連理の夫婦となり、高丸や大嶽丸など数多の怪異を討伐したとされる伝説上の鬼女、天の魔焰。娘の小りんも授かった。
神通力や三明の剣を自在に操り、神通車などを用いて夫である田村丸将軍の鬼退治に助力する。
物語
『田村三代記』の諸本によって細部に違いはあるが、父である天竺・第六天魔王(もしくは第四天魔王)の命令で神国である日本を魔国にするために鈴鹿山へと天下ってきた。しかし相応の夫がいなければそれは叶わないと田村丸将軍に目を付けたものの、悪魔退治に来臨した観音の化身なので可哀想だとやめた。そこで陸奥国の達谷窟に住む大嶽丸に度々文を送るが返事が来ない。そんな時に当初は目を着けていた田村丸将軍が自らを討伐しに現れた。ソハヤノツルギを抜き様に投げる田村丸将軍に大通連を投げ返し、田村丸将軍に「祖父は星の御子・中将利春であり、龍と交わって産まれたのが利光である。その利光が陸奥の悪玉姫と交わり産まれたのが田村丸将軍である。田村三代は観音の再来である。日本を転覆させるために遥々来たが悪心を善心へと改めて貴方と日本の悪魔を滅ぼすことにした」と出自を語る。勇敢さと精悍な出で立ちに一目惚れして改心し、夫婦となって2人の間には娘の正林が生まれた。
田村丸将軍が近江国の明石の高丸退治を命じられた時には、筑羅が沖の大輪が窟の岩戸に閉じ籠った高丸に対して、扇で天を招いて十二の星を降らせ稚児の舞で興味を引かせ、舞を見たさに少しだけ岩戸を開けた隙に「高丸の眼を的に一矢遊ばされよ」と田村丸将軍に神通の鏑矢を渡すなどの助力した。また、達谷窟の大嶽丸退治では、わざと捕らわれることで田村丸将軍を招き入れて、箟峰山の岩屋に逃れた大嶽丸をすでに呪縛にかけて鎖に繋いでいた。
大嶽丸を退治したあとに「二十五年という短い天命を全うして、この世を去らなければいけません」と告げて、三明の剣を田村丸将軍と正林に託した。地獄に赴いて立烏帽子を返せと大通連と小通連で獄卒(牛頭)まで倒した田村丸将軍に免じて、閻魔大王より近江国で少し前に死んだ小松の前という娘を生き返らせ、姿も心も変わらず田村丸将軍と二度二世の契りを交わして、再び日本の鬼退治をし、113歳まで生きて鈴鹿山の清瀧権現となった。
解説
鈴鹿峠は往来する旅人が多いことから盗賊が跳梁跋扈した反面、巫覡の徒が祓えをおこなう神聖な地でもあった。さらに鈴鹿関が置かれたように、天照大神を祀る伊勢の神宮と平安京の境界でもあった。これら二面性を持つ鈴鹿峠を背景にして物語が萌芽した鈴鹿御前と立烏帽子は、神女と鬼女という両義的な性格を有する。
性格
解釈は諸説あるが、総合的に言えば場酔いしやすい人。最初のうちは天魔サイドで国家転覆にノリノリだったたものの、田村丸将軍が登場してからは完全に乙女スイッチが入って一気にヒロイン昇格となっている。
討伐に来た田村丸将軍の剣をあしらって「私は三明の剣で貴方の御首を一瞬で討ち落とせます。しかし貴方の優しさを知りました。そこで悪心を改心して夫婦となり、日本の悪魔を退治しましょう。お返事は」と一方的なプロポーズをしている。帝と謁見した際にも、日本を魔国にしようとした理由を尋ねられると「帝は十善の位で私は十二善の位。上の位なので心のままに出来るのです」と返している辺りが魔王の娘である。
概略をだけ聞くと男をとっかえひっかえする悪女のようにも思えるが、本質的には非常に情愛の深い人物で、田村丸将軍に対して助力を惜しまず、逝去の際には娘の小りんに顕明連をお守りとして授けたりと、一度想いを固めれば非常に一途に深愛を注ぐ女性であったようだ。
関連タグ
関連キャラクター
『もののけ姫』
タタラ場の女性指導者
⇒エボシ御前も参照
CV:田中裕子
もののけ姫の登場人物。立烏帽子がモデルになったと宮崎駿監督が明かしている。