鬼退治
おにたいじ
日本の英雄、豪傑の伝承にもよくあげられることが多く、西洋で例えるとドラゴン(悪竜)退治のような一種のステータスとなっている。
こうした伝承は、体制側に抵抗した部族(まつろわぬ者)や、山賊・海賊などを討伐した伝説をもとに作られていることが多い。日本に限った話ではないが。
とにもかくにもはみ出している桃太郎のお話をパロディしたもの。
- 桃太郎:「ももたぬう」と読む。「郎」の6画目がはみ出ており「ぬう」と読ませている(正確には「ヌ」ではなく「ウ」と「ム」の間といった感じとのこと)。生まれた時も桃からはみ出し、最後でも船からはみ出した。気は優しくて力持ちと言う豪傑のステレオタイプだが、一回だけ鬼を不意討ちした。
- 老夫婦:お爺さんは扉からはみ出し、お婆さんは片乳がはみ出している。
- 猿:お腹から腸がはみ出す大怪我をしており、桃太郎にキビ団子を貰って救われた。話し方が渋い。
- 犬:名前はクロ。犬小屋からはみ出しており、「うまいっちゃあうまい」など「~ちゃあ」をつけて話す癖がある。大量のキビ団子ばかりか、仲間の雉まで食べてしまう食いしん坊。
- 雉:唯一まともだったが、食べられてしまい犬の口からはみ出した。旅の一行に食用になる動物がおり、仲間に喰われると言う気の毒な最期を遂げる点が「西遊記~旅の終わり~」の猪八戒に類似する。
- 鬼:扉に挟まれており、桃太郎に不意討ちの刀攻撃と説教をされる。お宝と姫様の身柄を返還することで許してもらった。パンツ(もしくは局部)をはみ出させている。姫様誘拐やお宝略奪などの悪さをしているが、間抜けでシュールな憎めない悪役的存在。
- 姫様:鬼ヶ島に捕まっていた。やはり、扉からはみ出していた。
古来より、鬼とは「祓う」ものであった。
それは鬼が「陰(オン)」の転訛であり、つまり「正体不明の闇そのもの」であるという、日本人特有の概念に依拠しているからである。
夜の闇にどれだけ刃を振るおうと、決して夜明けまで闇は目の前から消えることは無い。
ゆえに人々は、闇に潜む鬼は闇をねぐらとして無限に生まれては消えるものとして、「殺す」ことは不可能でも「追い払う」ことは可能と信じ、「祓う」という概念で相対することを選んでいる。
実際、節分の豆まきの原形である「追儺」も、鬼を始めとした疫病神たちを追い出すという信仰の下に端を発しており、なにより「退治」という言葉は「“退”け“治”める≒追い払って元に戻す」というのが大意であり、「退治」と「討伐」は決してイコールで結ばれた概念という訳ではない面を含んでいる。
あの酒呑童子さえ、逸話では首を斬られて後に改心し、首から上の病を癒す神となって現在も首塚で祀られている。
厄介事さえ片付き、余計な手出しさえしなければ、追撃や殲滅は考えないものとしている。これは戦国時代の領土争奪戦でも似通った通念が見られ、「武力は最低限に控えて余計な諍いを避ける」という通念を日本人が重視してきたことを感じ取れる。
しかし近年、特に20世紀末から徐々に「鬼は討ち果たす」ものという認識に切り替わっている。
これは幕末から明治時代、大正時代から昭和時代へと、時代が移る中で日本人にも西洋的な「駆逐」の概念が時代とともに浸透し、「悪しきは滅すべし」の通念が根付いていった可能性が考えられる。
西洋において、敵を駆逐することは単純な追い出しではなく、追い出した後にその場所を自分たちのルールで染め上げ、占領する意味を多分に含んでいる。そこまで含めて正義という概念を振りかざすことも珍しくない。これには西洋の一神教信仰による、信仰の拡充と制圧の概念の影響もあると考えられる。
加えて明治以降、世界情勢は食うか食われるかの弱肉強食の時代を迎え、先進国同士による領土争奪と権威争いの時代へと移行した。この過程で日本も「西洋に負けない正強な国家へ」という指針を打ち出し、情状酌量の余地を狭め、厳格な法規と国家主義を推進し、攻撃的な精神が増幅したとも考えられる。
そして20世紀末からは、インターネットによる「顔の見えない自由交流」が普及し、同時に電子掲示板やSNSの発展による無遠慮な批判・中傷も増加している。
前段階として、高度成長期以降の核家族化による地域自治体との連携の希薄化、個人主義への寛容の拡大と、全体の調和よりも一個人の利権が重視され、図らずも精神構造がより西洋的に傾く結果を招いたと思われる。
鬼は「祓う」か、「滅す」べきか――。
今、日本人の「悪」に対する線引きの概念が、こうしたかたちで顕れているのかもしれない。
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