概要
その名の通り、砲撃訓練や爆撃訓練、新型兵器のテストなどにおいて用いられる標的の運用のために用いられる艦艇のこと。どのように標的を運用するか、という観点において、以下の2タイプに分ける事ができる。
- 自らの船体を標的(実艦的)として用いるもの
基本的に、標的艦という艦種のほとんどがこちらに分類される。演習用模擬弾の命中に耐えられるように装甲を強化したり、機関部への模擬弾進入による故障を防止するため煙突キャップが施されるなどの工夫が施されるなどしている。また、無線操縦による遠隔操舵が可能な艦も多い。
- 標的の曳航や操縦などを行うもの
無線操縦技術開発以前の「摂津」のように、実艦的としてではなく標的曳航用の艦として用いられていた標的艦も存在する。また、自ら実艦的として運用されながら「摂津」の遠隔操舵用の機器を引き続き装備していた「矢風」のような例も存在する。現在の海上自衛隊で運用されている「訓練支援艦」(「くろべ」、「てんりゅう」など)は、対空射撃訓練用の無人標的機を運用するための専用艦という意味で、こちらに近い性質を持っている。
例
日本海軍の標的艦
日本海軍において、標的艦は特務艦として扱われ、軍艦籍には含まれていなかった。
ワシントン海軍軍縮条約により、「陸奥」の代艦として退役、標的艦に艦種変更。当初は標的曳航のみを行い実艦的としては供されていなかったが、1937年の改装により、砲撃訓練では無線操縦による無人航行、爆撃訓練では回避訓練を兼ねた有人航行という形で実艦的として運用されるようになった。
「摂津」の無線操縦対応改装に伴い、当初は駆逐艦籍のまま無線操縦用機器を搭載し「摂津」の遠隔コントロールを行っていた。後に1942年に自らも標的艦に艦種変更され、改装の上実艦的として運用されることとなった。
- 波勝
1943年に竣工した、日本海軍初の新造標的艦。爆撃訓練の実艦的としての運用の他、訓練海域への移動のついでに船団護衛を行えるように電探や水中聴音機、機銃などが装備されていた(これらは訓練時に支障とならないよう取り外し可能な構造となっていたという)。
- 大浜型標的艦
(※法令上の名称ではないものの、改マル5計画で同時に計画されていたことから普遍的にこのように括られている)
波勝の改良型として速力や復元性を改善した新造標的艦級。また「波勝」同様に船団護衛にも供することができるよう機銃や爆雷などの兵装も搭載されていた。ただし、建造が戦争後期~末期であったため、5隻計画されていたうち実際に竣工したのは1番艦の「大浜」のみで、2番艦の「波勝」が進水後建造中止となり未成、それ以外の3隻は起工に至る前に計画中止となった。
海外の標的艦の例
アメリカ海軍の標的艦。1919年に退役し標的艦に艦種変更され、1922年には艦船として世界で初めて無線操縦装置を搭載している。
- ユタ(元フロリダ級戦艦2番艦)
アメリカ海軍の標的艦。ロンドン海軍軍縮条約締結に伴い退役し標的艦に艦種変更される。しかし1941年の真珠湾攻撃により日本軍機の雷撃によって横転転覆し、その後サルベージが行われるも失敗し、現在でも真珠湾に横転したままの姿で放棄されている。
- ヘッセン(元ブラウンシュヴァイク級戦艦3番艦)
ドイツ海軍の標的艦。1935年に戦艦から艦種変更されたのち2年間かけて改装され、無線操縦艦「ブリッツ」(元V180級大型水雷艇「V185」)からの無線操縦が可能な標的艦となった。第二次世界大戦終結後は戦時賠償艦としてソ連海軍に渡り「ツェール」と改称、「ブリッツ」改め「ヴュストレル」とともに引き続き標的艦として運用されていた。
その他の用法
正式には標的艦に分類されているわけではないものの、廃艦となった艦艇や未成艦などの処分も兼ねて実艦的として供用される艦艇についても、俗に「標的艦」と呼称される事がある。著名な例として、クロスロード作戦において原子爆弾投下の標的として用いられたレキシントン級航空母艦「サラトガ」などの老朽艦や長門型戦艦「長門」・アドミラル・ヒッパー級重巡洋艦「プリンツ・オイゲン」などの接収艦の計約70隻の実艦的が挙げられる。