概要
艦橋は、一般の船における船橋(せんきょう・ふなばし、ブリッジとも)に相当するもので、航海や戦闘の指揮を行う場所。艦橋内部には羅針盤や操舵装置などが設けられており船の中枢部としての役目を持つ。
また、艦橋を収める、甲板上に設けられた構造物(建物)のことを指す時もある。こちらは厳密には「艦橋構造物」と呼ぶ。
狭義の艦橋
第二次世界大戦前後の大型軍艦は、航海用と戦闘用の少なくとも2つの艦橋を持つ多層構造になっていた。旗艦設備を持つ艦は艦隊指揮用の艦橋も持っていた。空母では操艦用の艦橋と航空機の発着艦指揮用の艦橋の2つを設けている場合があったほか、戦艦などでは後部にも予備指揮所があった。
艦橋は重厚な装甲を施すことが困難であり、大型の砲弾が直撃すると司令部が全滅、ということも起りかねない。そのために艦橋の下に装甲された司令塔を持っており、砲戦時は司令官はここで指揮を執ることとされていた(※)。
情報通信機能が発達した最近の軍艦では、戦闘関係の指揮は艦の中心部で防御された戦闘指揮所に移り、艦橋の役目は航海、操艦などに限られている。
※もっとも砲戦時も艦橋で指揮をとって、戦闘中に艦橋が破壊されて死亡した司令官もいる。日露戦争の黄海海戦におけるロシア旅順艦隊司令長官代理ヴィリゲリム・ヴィトゲフト少将は部下が司令塔への移動を勧めたにもかかわらず「何処で死のうと同じだ」と述べて旗艦ツェサレーヴィチの艦橋で指揮を執り続け命中弾により幕僚達や艦長、操舵手ともども戦死している。
また、旗艦三笠での連合艦隊司令長官東郷平八郎大将も黄海海戦、日本海海戦と部下が司令塔に入るのを勧めたのを拒否し露天艦橋で指揮を執っており、中でも黄海海戦で三笠が命中弾に見舞われ負傷した水兵の返り血が東郷の髭を赤く染め、運ばれるその水兵からも司令塔への退避を懇願されながらも依然として露天艦橋で指揮を執り続けたという逸話が残っている。
しかし当時の司令塔も分厚い装甲の壁に守られているものの、その上部をトーチカの銃眼のように横に細長い覗き穴が窓枠状のものはあるものの横断しており、これは防弾ガラスもなにもはめ込まれていないただのくり抜かれたような穴で、日本海海戦におけるバルチック艦隊司令官ジノーヴィ・ロジェストヴェンスキー中将は司令塔附近での命中弾で散乱した破片が覗き穴からも司令塔内に注ぎ込み、重傷を負い、同じく三笠でも司令塔附近への命中弾で同じ現象が起き、司令塔内にいた幕僚が負傷している。
艦橋構造物
初期の戦艦の艦橋は、吹きさらしの橋のような姿(露天艦橋)であった(外輪船時代に外輪と外輪の間に橋を架け、そこから艦長が指示をしていたのが船橋・艦橋をブリッジという由来と言われる)が、しだいに多層化し、外壁や窓をめぐらすようになり、マストと一体化して高くそびえるビルのような姿になった。これを檣楼という。
艦橋は戦艦では一本マストから三脚マストが主流となり、日本の超弩級戦艦は、改装で三脚マストを芯に多層の艦橋を積み木状に積み上げた、まるで天守閣(海外ではパゴダ・マストと言われる)のような一見塔型艦橋のような重厚な艦橋構造物を持っており、浮かべる城ともたとえられるその威容から人気が高い。
その一方、アメリカは軽量の割に頑丈ということで駕籠マストを採用していたが、戦艦ミシガンが嵐で倒壊事故を起こして強度が問題視され、コロラド級戦艦以外は三脚マストに改装されていった。
条約型戦艦、それ以後の戦艦は搭型の艦橋となっており、また改装によって塔状艦橋になった戦艦もある。
また搭型艦橋でもイタリアは特徴的な円筒型艦橋をヴィットリオ・ヴェネト級戦艦、改装した戦艦巡洋艦などに多用している。
(金剛型戦艦榛名の第一次改装と第二次改装後の姿。榛名は改装で初めてパゴダ・マスト化した戦艦である)
特に改装後の扶桑型戦艦、とりわけ1番艦の扶桑の艦橋は時に違法建築とまで言われ、その特異な艦容から、日本国外で人気があるという。
一見、日本戦艦の艦橋は不安定で重心が高そうに見えるが、実はそうでもない。艦橋には重さがかさむ装甲が付いていないので比較的軽いし、軍艦は外見的に目立つ艦橋構造物や砲塔よりも、水面下に半ば隠れている船体の方がはるかに大きいからである。
巨大な艦橋を持つ長門型戦艦も、水面下はこの通り。どっしりと安定感のある姿をしている。
また、戦艦ほどではないが、高雄型重巡洋艦もきわめて大型、重厚な艦橋構造物で知られる。
大和型戦艦の艦橋構造物は、従来の日本戦艦のそれではなく、重巡洋艦の艦橋構造物を発展させたものである。
空母の艦橋構造物は、平たい飛行甲板の上に飛びだして見えるため、アイランド(島)の別名で呼ばれる。
アメリカ戦艦の特徴的な駕籠マスト。(上側のイラスト、下側は改装後)
イタリアの特徴的な円筒型艦橋。
フィクションにおいて
宇宙戦艦ヤマトではヤマトの船底に予備の予備の第三艦橋が設けられているが、敵の攻撃などでしょっちゅう破壊され真田工場長の超技術で1週間で修復している。
また、ロボットアニメなどでは「艦橋を破壊されるとなぜか船体ごと爆発して撃沈」という描写がまかりとおっているが、これは大間違い。
事実大戦期に特攻などで米戦艦の艦橋が破壊された事例は多数あるが、轟沈に至った事例は無い。戦闘中は大抵艦でもっとも頑丈に作られた艦橋基部の司令塔(大戦中からCIC等の戦闘指揮所を併設する事が多くなる)に人員は大抵移ってしまうので人員の殺傷は難しくなる。
むしろ危険なのは弾薬庫や機関に被害を被った場合なのである。
ただし宇宙空間だと艦橋に被害がいった場合、気密維持出来ずに急減圧が発生し艦橋要員が軒並み全滅してしまう。宇宙という関係上、その被害は水上艦艇の比ではないだろう。(宇宙戦艦ヤマト2199のムラサメとか、STARWARSのエグゼクターとか)
実際、STARWARS第8作「最後のジェダイ」では敵機の攻撃により艦橋が破損、急激な減圧が発生し乗組員の悉くが宇宙空間に吸い出されレジスタンス首脳陣が軒並み戦死すると言う悲劇が起きている。
実際の未来の宇宙船に艦橋なるものが存在するのであればだが。(アニメでは作劇上芝居をさせなくてはならないため描かれるが普通にかんがえてCICで指揮をとるだろう)そもそも創作物の艦橋構造物は、始祖の宇宙戦艦ヤマト以来広すぎるのである。実際には装甲と防弾ガラスで密閉されている(それでも直接防御力は皆無といっていい)ため一般家庭の居間程度しかなく、旗艦ともなればそこに十数人もつめるという芝居にならない過密ぶりである。このあたりはそろそろアニメ関係者もせめて芝居の取れる最小面積にするなど再考していいころなのではないだろうか。
これらの考察を受けてか、リメイク版のヤマトでは第二艦橋にある装甲化されたCICで指揮をとる描写もあるにはある。ただし、こちらでの戦闘指揮もそれほど多いわけではなく、遭遇戦などでは第一艦橋の配置のまま戦闘を続行することも多く、CICが明確に使用されたのは冥王星攻略戦と対次元潜航艦UX-01戦くらいである。
また実写版ヤマトでは旧作に比べて第一艦橋がかなり狭くなったのと同時に、作劇上最低限の広さを確保するため、第一艦橋の広さからヤマトの全長を再設定すると言う力技を行った。