CV:中村悠一
概要
北宇治高校吹奏楽部の顧問である滝昇が、吹奏楽コンクールの関西大会(支部大会)に向けて部員たちのレベルアップを図る目的で招いた外部の指導者(コーチ)。専門はパーカッション(打楽器)で、主にパーカッションパートの部員たちに対する指導を行っている。
通称「はしもっちゃん」。派手な柄のシャツをラフに着こなし、明るく朗らかな振る舞いのもとに部員たちと接している好人物であるものの、演奏の指導に関しては「折り紙つき」と評されるほどの高い実力を誇っている。また、北宇治高校吹奏楽部の顧問である滝とは音楽大学に通っていたころからの気心の知れた仲であり、指導の合間にはしばしば彼と無遠慮なやり取りを繰り広げている。
北宇治高校吹奏楽部の黄金時代を知る同部のOB(卒業生)でもある橋本は、かつての顧問の息子である滝から依頼を受けて母校の吹奏楽部を教えるという、運命の巡り合わせのような形で外部指導員としての仕事を引き受けている。以降は、自身と同じく吹奏楽部の指導を引き受けた新山聡美とともに、北宇治高校吹奏楽部とその部員たちがさらなる成長を果たすことを期待しながら精力的な指導に乗り出している。
人物
容姿
短く刈り上げた頭髪と日に焼けた浅黒い肌が目を引く、賑やかで親しみやすい雰囲気を漂わせる小柄な男性(原作2巻、60ページ、62ページ、原作3巻、162ページ)。また、TVシリーズでは無精髭を生やして眼鏡をかけた姿で登場しており、彼がある程度の年齢を重ねた大人であることを如実に示している。
北宇治高校の吹奏楽部に指導に訪れる際には、毎回派手な色合いのシャツに短パンというラフな出で立ちで現れており、その奇抜な格好は指導を受ける部員たちから「この人、本当に服のセンスがないな」などと呆れられるようなものとなっている。(原作2巻、60ページ、62ページ、184ページ、原作3巻、162ページ、第二楽章後編、163ページ、190~191ページ)
性格
ニカッと人懐っこい笑みを浮かべる陽気な好人物で、他者との距離感の構築や信頼感の醸成(じょうせい)といったコミュニケーション能力に長けている(原作2巻、60ページ、68ページ、184ページ、原作3巻、163ページ、最終楽章後編、240ページ)。ガハハと大口を開けながら豪快に笑ったり、大仰(おおぎょう)に身をのけ反らせるような彼の仕草もまた、張り詰めた場の空気を和らげるような力を持っている。(原作2巻、191ページ、301ページ、原作3巻、162ページ)
なお、彼の明るさや気さくさは生まれ持ってのものであるものの、橋本自身は人生経験を積んだことによってそれらの自身の性格を対人関係における強力な武器として使えることを認識しており、それらのコミュニケーションスキルを用いることで自身が教える吹奏楽部員たちがもっとも効率よく取り組めるような環境を仕立て上げることに努めている。そのような彼の振る舞いを観察していた低音パートの久石奏は、橋本のことを「自己開示しているように見せて、肝心のガードが固い」というような相当なやり手であると評している。(第二楽章後編、193ページ、199ページ)
余談だが、TVシリーズで橋本の声をあてている中村悠一は、彼を演じるにあたって「血液型はO型」というキーワードを主軸に据(す)え、軽薄でありながら優しく大らかという彼の人物像を確立することに努めている。あわせて、吹奏楽部の外部指導員という立ち位置による彼の振る舞いについても、「先生というより生徒と横並びな空気、でも時にピシッとプロらしく指導する」ことを意識しながら演じていたと語っている。(『響け!ユーフォニアム2 コンプリートブック』、83ページ)
その他
- 若いころから大食い気質であり、音大生時代には同級生の滝に「飯食えー」とご飯を食べることを勧めた際に、その量の多さを知った彼から逃げられている。また、外部指導員として北宇治高校吹奏楽部の宿泊に同行した際にも、夕食のカレーライスを三杯もおかわりするような見事な食いっぷりを見せている。(短編集2巻、118~119ページ、最終楽章後編、347ページ)
- 学生時代にはたったひとりで世界一周の旅に出た経験があるほか、指導を受ける部員から「はしもっちゃん、英語しゃべれるんですか」と問われた際には、「I will be back」と英語でふざけた回答をしている。(第二楽章後編、163~164ページ、劇場版『誓いのフィナーレ』)
吹奏楽部への指導
概要
プロのパーカッション奏者である橋本は、これまで楽団に所属して国内外を問わず活動するかたわら、指導員(コーチ)としていろいろな学校の吹奏楽部を教えて回っている。その人好きのする性格とプロの演奏家としての経験を存分に活かした指導は、優秀な指導者である滝が「実力に関しては折り紙つき」と認めるほどであり、実際に専門性の高い指導内容と親身なフォローアップ(徹底)によって指導を受ける部員たちの演奏力を大いに向上させている。(原作2巻、60ページ、184ページ、301~302ページ、原作3巻、162ページ、第二楽章後編、163ページ)
指導者として部員たちの前に立つ際には、彼は自身のことを「はしもっちゃん」とニックネームで呼ばせたり、機知に富んだ小話を指導の合間にはさむなど、部員たちが指導に前向きになるような雰囲気を創り上げている(原作2巻、67~68ページ、165ページ、最終楽章後編、141ページ)。同時に、彼は演奏を指導するにあたって持ち前の確固とした理念のもとに問題点や指摘事項を遠慮なく直言するような熱血な一面をあらわにしており、そこから彼の音楽に対する真摯(しんし)な姿勢や理想像を見て取ることができる。(原作2巻、62ページ、188~190ページ)
パーカッションパートのみに注力して指導する際には、スネアドラム(小太鼓)のロールを叩く際の音の粒を正確にするためのコツや、ティンパニやシロフォン(木琴)、シンバルなどの各種打楽器が全体演奏のなかで噛み合うようにするための指摘、さらには本番のホールでの演奏において打楽器がもっとも効率よく活用できるようにするために各種打楽器の配置の相談に乗るなど、顧問の滝がカバーしきれない専門的な領域まで踏み込んで教えている(原作2巻、67~68ページ、原作3巻、298ページ、第二楽章後編、187ページ、最終楽章後編、138ページ、TVアニメ版2期1話、2期3話)。また、ほかのパートや全体演奏の評価においてもその指摘の質は顧問の滝と同等であり、曲中の各楽器の音量のバランスや音程の違和感について言及したりするほか、部員全体に対して「最初の一音で演奏のよし悪しが八割がた決まる。冒頭のミスは最後まで引きずるため絶対に防げ」というようないくつかの心構えも示している。(原作3巻、165~167ページ、第二楽章後編、316ページ)
指導方針
プロの演奏家としての活動に軸足を置いている橋本は、指導で携わるさまざまな学校の吹奏楽部がコンクールで好成績を獲得することを期待しながらも、それ以上に部員たち一人ひとりが一人前の「音楽家」になることを強く望んでおり、そのために指導の始終を通してたえず自身の理念を口にしている。
彼は指導の合間に、事あるごとに「音を楽しむって書いて音楽」という話を部員たちの前で説いている。これは指導先の吹奏楽部がコンクールに向けて取り組むなかで、ともすれば「よりよい成績を獲る」という結果の追求と外発的な強制力にとらわれてしまいかねない部員たちに対して、内発的(自発的)な動機と意気込みに基づく音楽づくりによって意欲を盛り上げようという狙いのもとに語られており、その言葉の端々から彼の持つ「自分たちがやりたい音楽を貫いてほしい」というような熱意をうかがい知ることができる。(原作2巻、188~191ページ、原作3巻、165ページ、第二楽章後編、227~228ページ、256ページ、最終楽章前編、367ページ、最終楽章後編、140~141ページ、168ページ、322ページ)
また、橋本は自身が教えている部員たちのみならず、その部員たちをまとめている指導者に対しても自身の思いを語っており、部員たちから見えないところで顧問とともにコンクールシーズンの部活運営に関する意見を交えている。北宇治高校吹奏楽部の顧問である滝との対話のなかでは、橋本はコンクールでの残念な結果を悔しがる滝に対して「残るのは結果だけか? コンクールで上を目指すことはプラスな面ももちろん多いけれど、それだけに固執させるのは大人のエゴだ」と諭(さと)し、彼の顧問としてのあり方に一考の余地を与えている。(最終楽章後編、321~322ページ)
経歴
滝昇の父親である滝透(たき とおる)が顧問を務めていたときの北宇治高校吹奏楽部の部員であり、彼の指導のもとに吹奏楽コンクール全国大会に3年連続で出場し、同大会の金賞を目指して精力的に取り組んだ過去を持っている(原作2巻、60ページ、301ページ、原作3巻、198ページ)。北宇治高校を卒業後、同じ吹奏楽部の同級生である千尋とともに一緒の音楽大学に進学した橋本は、学業のかたわら入団した学内のオーケストラサークルにおいて同学年の滝や後輩の新山聡美と親しくなり、千尋も含めた4人組で楽しいひとときを過ごしている。(原作2巻、205ページ、原作3巻、187ページ、193ページ、195ページ)
音楽大学を卒業する際に、プロ奏者を志す橋本は滝や千尋とは異なる道に進んだものの、彼らや新山たちとは引き続き交友関係を保ち続けている。そうして社会で働き始めてから数年後、滝と結ばれた千尋が亡くなったという知らせを聞いた橋本は、妻を失ってふさぎこむ滝の姿に際して「ボクとか新山クンじゃ、結局奥さんの代わりにはなれへん」と彼の繊細な部分に触れることをためらい、新山とともに遠くから見守ることしかできなかった。そののち、落ち込んでいた滝が自身の力でふたたび立ち上がると、歯がゆい思いを抱いていた橋本は心からの安堵(あんど)を覚えたほか、顧問としての活動を始めた彼から外部指導員としての仕事を依頼された際には「正直ちょっと泣きそうやった」と彼の熱意と変わらぬ信頼に心を動かされている。(原作2巻、205~206ページ)
そうして、かつての顧問の息子であり自身の旧友でもある滝が率いる北宇治高校吹奏楽部に外部指導員という形で戻ってきた橋本は、コンクールに向けて練習に取り組む部員たちを教えるなかで、パーカッションパートのメンバーや低音パートの1年生である黄前久美子といった多くの部員たちと関わっている。橋本は彼らと交わるなかで、彼らが滝が顧問であることを心から喜んでいることを知って「ボクもそう思う」と満足した想いを告げたり、合宿での厳しい練習を乗り切った記念にパーカッションパートのメンバーと一緒に記念写真を撮ったりするなど、指導者と卒業生の両方の立ち位置から部員たちを強く応援している。(原作2巻、207ページ、TVアニメ版2期5話)
また、吹奏楽コンクール全国大会への出場前に副部長である田中あすかが退部を迫られて練習に参加できなくなった際には、橋本は部全体として士気を大いに落としていることを察し、そのような部の舵取りを任されている滝を「ここが正念場やで」と励ますとともに、彼と一対一の場を設けて今後の部の方針について話し合っている。(原作3巻、163ページ、168ページ、171ページ)
主要キャラクターとの関係
滝昇
北宇治高校吹奏楽部の顧問。
橋本は滝のことを「滝クン」と呼んでおり、対する滝は「橋本先生」と呼んでいる。
かつて音楽大学に通っていたころに一緒のオーケストラサークルで活動していたことが互いに知り合うきっかけとなっており、世渡り上手な橋本と理屈屋な滝は互いに正反対の性格をしているものの、人間的な波長が合うために現在まで続く長い交友関係を保ち続けている(最終楽章後編、322ページ)。橋本は何かと一人で抱え込み過ぎる節がある滝のことを昔から気にかけており、持ち前の愉快な振る舞いで彼の空気感を変えたり、彼に無理やりご飯を食べさせて体調を立て直そうとするような数々の気遣いを見せている(原作2巻、61ページ、原作3巻、191ページ、第二楽章後編、228ページ、短編集2巻、118~119ページ)。時には調子に乗り過ぎた橋本が滝に懲らしめられるような一幕もあるものの、その際の両者の雰囲気は決して険悪なものではなく、これまでに培ってきた互いへの信頼が感じ取れるものとなっている。
また、橋本は滝の持つ卓越した指導者としての才能にも着目しており、周囲の人間を動機づけて導くことができる彼の能力を「人望がある」という形で評している。(最終楽章後編、168~169ページ)
新山聡美
北宇治高校吹奏楽部の指導に携わる外部指導員。
橋本は新山のことを「新山クン」と呼んでおり、対する新山は「橋本先生」と呼んでいる。
橋本と新山は音楽大学に通っていたころの先輩後輩の間柄であり、互いの専門の楽器は異なるものの同じオーケストラサークルのメンバーというよしみから親しくなっている(原作2巻、205ページ)。橋本は後輩である新山に対して、自身の親友である滝の人柄を理解するように促すといった交友関係を潤滑剤にするような関わりを見せている。(短編集2巻、114ページ)
また、彼らは音楽大学を出て以降も互いに親しい関わりを続けており、橋本は自身の仕事に打ち込むなかでも新山の結婚といった近況を逐次(ちくじ)耳に入れている。(原作2巻、204ページ)
滝千尋
滝昇のかつての妻。
橋本は千尋のことを「千尋ちゃん」と呼んでおり、対する千尋は「橋本君」と呼んでいる。
橋本と彼女はもともと北宇治高校吹奏楽部に所属する同級生同士であり、当時の顧問である滝透の指導のもと、吹奏楽コンクールの「全国金賞」を目指して精力的に取り組む間柄であった。同校を卒業後は偶然にも同じ音楽大学に進むことになり、機会があるたびに二人で高校時代の思い出を語り合っている。(原作3巻、195ページ)
橋本は自身の親友である滝と彼女が結ばれて以降も交友関係を保ち続けていたものの、彼女が滝に先立つ形で亡くなってしまうと、彼女の人柄や存在をよく知っている橋本はそれゆえに彼女の夫である滝を元気づけることができず、ただ遠くから見守ることのみに徹している。(原作2巻、206ページ)
語録集
———北宇治の演奏は技術的に言うと、もうほかの強豪校に引けを取らんくらいまでなってると思う。
でも、君らには表現力が足りてへん。明工とか秀大附属とか大阪東照とか、そういう超強豪校との差はそこにある。
高校生に何を求めとんねんって言う人もいるかもしらんけど、ボクはやっぱり音楽をやる以上そこだけはみんなに考えてほしいと思う。
北宇治はどんな音楽を作りたいん? みんなは合奏中に滝先生が言ってる言葉の意味を、きちんと理解できてるん?
先生は君たちにテキトーに指示を出してるわけやない。こういう音楽を作りたいっていうのが先生の頭のなかにはあって、君たちはそれをみんなで協力して作り上げなあかんわけ。
そのためには技術的なものはもちろんやけど、それにプラスアルファで表現的なもんが必要になってくるわけやねんな。
楽譜どおりに完璧に吹けるようになるっていうのがこれまでの目標やとしたら、今日からはそれをどう表現するのかも考えてほしい。
(原作2巻、190~191ページ)
———これね、いろんな学校の子に言うてるんやけどさ。ボク、じつはコンクールってあんま好きやないねんな。
正直な話、一生懸命やってんなら金とか銀とかなんでもええやーんって思ってる。けど、それを言うと部活の子たちに『金やないと嫌です!』とか言われんねんな。まあ、当たり前の話やけど。
他人の評価は当然大事やで? そんなもん、音楽なんて聞かせてなんぼやねんから、自己満足な演奏ってのはもちろんあかん。けど、評価を気にしてがんじがらめになる必要はないとボクは思うねんなあ。
だいたいさ、音に楽しむって書いて音楽って読むわけやんか。やっぱ吹くやつも楽しまんとあかんと思うのよ。『きゃーコンクールや! 上手く吹かなきゃ!』って縮こまったら、聞いてるほうもつまらんやん。『おっしゃ、この大舞台でワタシの音楽聞かせたるで!』ぐらいの意気込みでいかんとね。
やっぱメンタルって音にめっちゃ出るからさ、じめじめした演奏は避けようや。
(原作3巻、164~165ページ)
———コンクールの評価の仕方って、やっぱり演奏会とは違うやん? きちっと評価ポイントを押さえていくのはもちろん大事なことやし、滝クンはちゃんと細かいところまで気にしてくれてる。
でもボクはね、正直言うと、そんな結果とか評価ばっかりにこだわってほしくない。結果がどうなろうと、自分たちがやりたいって音楽を貫いてほしい。
ステージに上がった君たちは、もう立派な演奏者であり表現者。まずは自分が音楽を楽しんで、それからお客さんに楽しんでもらう。
そのことを、肝に銘じておいて。
(第二楽章後編、256ページ)
関連タグ
滝昇 - 北宇治高校吹奏楽部の顧問。橋本とは旧知の仲。
新山聡美 - 北宇治高校吹奏楽部に携わる外部指導員。滝や橋本たちと同じ音楽大学の出身で、彼らの後輩にあたる。
田邊名来 - パーカッションパートのリーダーを務めている3年生。橋本にかなり懐いている。
井上順菜 - パーカッションパートに所属している1年生。橋本が初めて紹介された際に、彼の指導に対して期待を寄せている。
鎧塚みぞれ - ダブルリードパートでオーボエを担当している2年生。橋本は彼女の無感情な演奏に懸念をあらわにしている。
黄前久美子 - 低音パートに所属している1年生。橋本がふと漏らした言葉をきっかけにして、滝の過去を知るようになる。