概要
特定の個人・集団が、権力を集中・独占して支配する政治形態。広義には,他人の意見を聞きいれず一人でものごとを決めること。独裁による統治を採用している国家を独裁国家という。
独裁権力を持つ人物に関しては独裁者の項目を参照。
「1人に権力が集中し何でも決められる」の反対は「全員に権力が分散し何も決められない」であるため厳密に言うと対義語は無いが、民主制、合議制などが対義語として挙げられやすい。
基本的に近代以前の王制・帝政などが分類されることはあまり無い(王や皇帝が「名目上のトップ」に過ぎず、実際は配下の貴族たちにもそれなりの権限があるケースがとても多かったためと思われる)。
現代では民主制を是とする世界的潮流から独裁は否定的に評されることが多く、実際デメリットが少なからずあるが、メリットもある。
国家の状況によっては独裁でないととても政治が回らないこともあり、単純に独裁を否定することも難しいのである。
独裁のメリット
- 一個人が独裁的な政権運営を行う場合、派閥闘争とは無縁となり、指揮系統も統一される。そのため、独裁者以外の有力者を中心とした抵抗勢力による意思決定の阻害が起きにくく、意思決定や政策の実行が早く進む。
- きちんとした独裁者ならば、意思決定が統一され、個別の問題ごとにちぐはぐな政策が起きにくくなり、国家が一体となり筋を通した政権運営が期待できる。
- 幅広い政治参加を認めると政治的知識・教養に乏しい者(途上国の場合、教育自体受けていない者もいる)が政治参加することになるが、独裁にすることで知識・教養ある者に権限を集中させることができる。
独裁のデメリット
- 近代国家にあって国家が担うべき職務は非常に多岐にわたる。その指揮系統が集中しすぎれば、いかに独裁者が有能であっても単独の裁断では処理しきれない。特に平和な時代においては国家は優先順位が同じぐらいの課題を複数同時に背負うことになり、一個人がそれらを最良の解決に導くことは不可能であるためある程度の分掌が必要になるが、分掌すると抵抗勢力の発生が避けにくくメリットが減る。
- 完璧な人間などどこにも居ないのが現実であり、独裁者・独裁組織が恣意的に政権運営を行った場合、彼らの誤った判断、それによる暴走を誰にも是正できなくなる危険がある。
- 民の不安や不満をことごとく鎮められる名君などそうそういるはずもなく、結果として独裁制下では体制批判を禁じることで体制維持をする場合が多い。その場合表現の自由・言論の自由と言った政治参加の側面を持つ人権が著しく制限されやすく、選挙すら行われないこともある。
- 独裁者が死亡するなどで空白になった場合、意思決定ができず大混乱になる。また高齢などでいずれ引退することを想定しなければならないが、その場合に次代独裁者の決定が大きな政争、最悪の場合は内戦となる危険性もある。
- 抵抗勢力の発生を防ぎやすくする為、政府や軍などの主要ポストは独裁者自身の親族や同じ民族・故郷の出身者で固められる場合が多く、縁故・情実人事が常態化しやすい。
独裁の実状
世界的に民主制に向けた潮流ができている中、現在でも独裁制を布いている国は国際的に批判される場合が多く、先進国が支援(ODA)を行わないなどの制裁的な対応を取られることが多い。
しかし、国内に多種多様な人種・民族・部族・宗教などを抱え、常にそれらの勢力間の対立の火種が燻っている国や、または周辺諸国と激しく対立している国などにおいては、国内をまとめ上げる為の一種の必要悪とみなされている場合も少なくない。実際、独裁政権打倒により民主化が果たされた途端に内乱状態へ陥ってしまった国は中東やアフリカでよくある。
なお、民主国家であっても戦争や大災害、経済恐慌といった国家的な緊急事態対策としては意思決定のスムーズさが求められるため、緊急時にのみ例外的に特定者に権限を集中する独裁的意思決定を行うことを制度として組み込んでいる国もある。(暴政となった独裁の例も、こうした緊急事態を契機に独裁に移行したケースもある)