裸の王様―――
ありゃあ仕立て屋に化けたイカサマ師が
王様を騙すっていう、まぁ仕立て屋にとっちゃ
不名誉な物語だが……
穿った見方をすればな
仕立て屋は王様でも手玉に取れる
……って話でもあるのさ
どうだい? "馬鹿には見えない服" を作ってやろうか?
掲載誌
『オースーパージャンプ』2003年MARCH号(読みきり)
『スーパージャンプ』2003年14号-2011年21・22合併
『グランドジャンプPREMIUM』2011年創刊号-2013年15号
『グランドジャンプ』2013年7号-2024年15号
いずれも集英社。
連載および単行本
スーパージャンプ連載分を『王様の仕立て屋〜サルト・フィニート〜』として全32巻にて完結。また、本編の短編エピソードを再収録した傑作選集『王様の仕立て屋〜サルト・フィニート〜The Special Edition』が計4巻まで刊行。
グランドジャンプ系雑誌連載分である2ndシーズン『王様の仕立て屋〜サルトリア・ナポレターナ〜』が2016年3月連載分までまとめられて全13巻で完結。
2016年度以降の3rdシーズンとなるリニューアルシリーズ『王様の仕立て屋〜フィオリ・ディ・ジラソーレ〜』が(編集部による「読者に身近な環境を舞台とし、メディア化しやすい設定にする」目的によるテコ入れで)2018年7月連載分までまとめられて全7巻で完結。
2ndシーズン、3rdシーズン同様引き続きグランドジャンプにて2018年8月から新章日本編『王様の仕立て屋〜下町テーラー〜』が連載開始。『フィオリ・ディ・ジラソーレ』7巻のラストに収録された「維新の鋏」は『下町テーラー』へのジャンクションストーリーにして同編のプロローグにあたる。
2024年7月3日発売となったグランドジャンプ15号にて『下町テーラー』の最終回が掲載され(ファイナルカラーページやグランドフィナーレとしての扱いは無し)そのまま通常連載終了とあいなった。20年近くの長期連載として一時期には雑誌の屋台骨を担った作品としてはあっけない幕切れとなった(それも「らしい」といえば、この作品らしいが)。
登場人物
サルトリア・オリベ
ナポリにおいて“ミケランジェロ”とまで賞賛された伝説の仕立て屋マリオ・サントリヨの唯一の弟子で超絶技能を持つスーツ職人。特急仕事と呼ばれる即日納品・超高額の仕立てを武器に、数多の服飾関係の難題を解決し、依頼者の人生すらも好転させる、いわば服飾界のブラック・ジャック。性格は偏屈だが、その腕は、もはや神の域。
詳細は本人の項目を参照。
マルコ・ジュリアーニ
靴職人の見習いであると同時に靴磨きをしながら職人としての目を磨いている。
トラブルメーカーではあるが、その一方で織部にとっては家族同様の存在。
悠の家では炊事を担当しており、時を経るごとに料理に対する技術や知識が深くなっている。
通称:小動物
セルジュ・リヴァル
織部悠の一番弟子の青年。
元々はフランスの大ブランド「リヴァル」の御曹司にして人気モデルとして活躍していたが、父の怒りを買い家の工房に放り込まれ、その修業の厳しさのあまりにフランスから家出、ナポリの織部の元に転がり込み、最終的にナポリ式の仕立て技術が矯正不可能なレベルまで到達していたことから晴れて、悠の弟子となった。
形の上は、服飾留学でイタリアに渡ったことになっている。
織部はマリオに孫弟子が出来たと報告している。
ジラソーレ社
元々はフィレンツェのバザーで服を売っていた女子大生の服飾サークルが若者向けカジュアル服ブランドに事業化したもので設立後わずか数年でイタリア国内外に支店を構えるほどに急成長を遂げた。
社長以下12人の創立メンバーは全員が20代の女性で、その連帯感は非常に強い。
ちなみに「ジラソーレ」とはイタリア語でひまわりの事で、社章もひまわりが用いられている。そのため悠からは「ヒマワリさん」と呼ばれている。
創立メンバー
ジラソーレ社社長。ナポリ本店勤務。
かつて織部と共にマリヨ・サントリヨの元で学んだことのある大ブランド総帥「ジャコモ・ペッツオーリ」の一人娘。「ペルッツィ」は母方の姓。
母の死の間際でも仕事を優先した父を憎んでおり、大学時代の友人と共に創設したジラソーレ社を率い、父のブランドであるペッツオーリ社に挑む、いわば服飾版の女山岡士郎、あるいは服飾界の鵺野鳴介。
しかし肝心の父親からはライバル視されるどころか、むしろ自らの後を進む者として見られており「娘を後継として鍛えるために、その憎しみや悲しみを糧とするよう仕向けて利用し、対立するように仕組まれている」旨が各所で見られる(ユーリア本人は、それに気付いていない)。ペッツオーリ社、特にペッツオーリ家に近しい関係者にとってユーリアは対立社の社長(商売敵)になってなお「我が主家の大事な後継ぎのお嬢様」であり大事に思われ密かに慕われている。そのため幾度か父との和解の機会を設けられていたりもするが、ペッツオーリの思惑や自身の意地など様々な理由で自らおじゃんにしてしまう事、多々。ゆえにサンドラから「駄々っ子」「成長してないガキ」「大きな小娘」と非難されたり、ベアトリーチェから「正直すぎる」と呆れられ「起業家なら感情を殺して清濁併せ呑むくらいしろ」と苦言を呈され、アンナからすらも「私たちはもう多くの人の人生を背負っているんです」と言われたりしている。また、ここまで言ってくれる友人に恵まれている事からも解るように社長・リーダーとしての人望やカリスマは本物。
一方でユーリアが父と和解できないのは「既に対ペッツオーリの旗を掲げて集い背負った仲間を今さら見捨てられない」という部分もあり、父ペッツオーリからはその部分を見透かされて「(ユーリアは)間違いなく私の娘。因業なところが似てしまった(が、ゆえにこそ自らの後継として認められる)」と(ユーリアの知らないところで)嬉しそうに評されている。
また母に死なれ父に見捨てられた(と思い込んだ)トラウマから「一度、家族・仲間と見込んで懐に入れた者は、いかなる事があっても見捨てない」という、よく言えば仲間思い、悪く言えば企業家として決然とした処断ができない傾向を持つ(要はリストラに大きな抵抗を持ちやすい。ゆえに造反も同然の事をしたサンドラとベアトリーチェすらも社内で「仲間」として変わらず生き残れていたりする。ベアトリーチェいわく「甘い」のだが、そんな彼女ですら実は社長の事は苦々しく思えども現状、敵とは考えてはいない)。そのため、ある意味では友情・努力・勝利を志向尊重する正統派ジャンプ三大原則ヒロインでもある。ただ、これはジラソーレ社の起業時には大きなプラスの原動力となったものだが、社が成長して中堅あたりの力を持つようになると、逆にその足を引っ張るものになりかねなかったりしている(そしてベアトリーチェやサンドラに危惧される)。
織部とは対立を経て、今では掛け替えのない助っ人として重宝している……がコレは業務上、背に腹は代えられないが故の判断、という部分もあり織部に頼りきる事はよしとしていない。しかし織部の背負うモノを知り、態度を軟化させる事もある。
マリエッタ・カルドゥッチ
社長第一秘書。ナポリ本店勤務。創立時は副社長だったが、ナポリ進出に伴って第一秘書となった。悠からは「秘書さん」と呼ばれている。
暴走したユーリアを止める際に、よくプロレス技を用いる。読書家で、純文学や経済学を初め各分野の知識に精通している。
コンスタンツェ・ゼルビーニ
社長第二秘書。ナポリ本店勤務。ジェノヴァの海運王・ゼルビーニ家の長女。お嬢様育ちで物腰が柔らかく、性格は弱気。黒髪で髪型はセミロング。
会社創立時に筆頭株主となって資金を出資し、設立後も幹部として自ら経営に関わるだけでなく、立場を生かした資金調達も行なっていた。過去形なのは兄のマッシモに介入され筆頭株主ではなくなったからである。
アンナ・ミノッティ
ナポリ本店総務課所属。時に店に出て接客を担当する。童顔、お下げ髪で背が低く、悠からは「お下げのお嬢ちゃん」と呼ばれている。創立メンバーの中では年齢が若い方にあたる。
現在はナポリ中のサルトに取材に回って、秘伝の技術を修得したり・記録などしている、意志が強く積極的な面もある」
ソフィア・ドルチーノ
ナポリ本店総務課所属。長身でスタイルの良いショートヘアの美人。フィレンツェ出身でシスターだった経歴を持ち、クリスマスにはかつてシスターをしていた教会で手伝いをしている。悠からは「ノッポの姉ちゃん」と呼ばれている。
会社の創成期、パリに拠点を構築するため、エレナ、サンドラとともにパリでスーパーモデルとして名を馳せていた。本人はモデルをやったあとは非常に落ち込む。
モニカ・マルピーギ
ナポリ本店総務課所属。ボーイッシュな外見で、胸は小さい(Bカップ)。我慢強い性格とクラリッサに評されている。のちジャンニ親方(後述)の技術に希望を見るようになる。
スラム街育ちで、お屋敷の塀をいともたやすく乗り越えられる身軽さと、神業級のスリ(巾着切り)技が特技。更正施設(……というか少年院)で裁縫を習い、心を入れ替えて(社会貢献枠で)進学した大学で家族のように接してくれた仲間たち(姉のように叱り泣いてくれたユーリアら先輩たち、妹のように慕ってくれたアンナら後輩たち)と出会い友情の尊さを知り、ジラソーレに参加した。以降は自らの「特技」を封印して真面目に生きる事を誓っている(……が、ふとしたきっかけで「特技」が顔を出してしまう事もある)。
サンドラ・デストーニ
フィレンツェ支店長兼ジラソーレ社チーフデザイナー。初登場時は副社長だった。
スタイルが良く、エレナ、ソフィアとともにパリで売れっ子モデルとして活動していたこともある。
デザイナーとしてはペッツオーリの熱烈なフォロワー。そして、人格のよく出来た父に厳しくも愛情たっぷりに育てられたため、強烈なパパっ子。ゆえにユーリアとペッツオーリの確執に関しては全く無理解。むしろ父を嫌う娘が悪いと一方的に決めつけたり、トラウマまみれのユーリアの心が定まらぬのに和解をお節介して善意をおしつけたり、本社の方針を無視してペッツオーリ社と独自に懇意にしてコラボしたりと、こと対ペッツオーリ社の路線に関しては問題行動を取る事も多い。(もっともユーリアの掲げる路線の内容がそもそも苛烈であり「いやいや冷静になってよ」とツッコミがいのあるものである事情もあるが)
ベアトリーチェ・パスコリ
フィレンツェ支店長補佐。経理担当で、状況に応じて企画・広報・営業など様々な活動を行うが、工房で仕立てを行うことはない。髪型がショートボブであることから、悠からは「オカッパ」と呼ばれている。ヴェネツィア出身で経済学部卒。搦め手と裏工作が得意であるため、時折、黒翼と触覚の生えた小悪魔の格好で描かれる。
ジラソーレ(会社)に対しては「私が帳簿を見て育てた会社」として(ユーリアたちとは別の意味で)我が子にも等しい思いを抱いており、社長が対ペッツオーリ路線を掲げる(固執する)事でジラソーレの利益を損ねかねないバクチを打つ事に対しては非常に苦々しい思いを抱いている。(嫌うくらいなら、いっそ利用して先方を食い潰す程度の「ズルさ」くらいは持って欲しいとすら考えている)また、そのための裏取引や策略で自ら泥を被り嫌われ役になる事も辞さない、危険な策略家でもある。
ただし、そうした策略家の側面は自身が「嘘やハッタリが嫌い」であり、重大な局面で自らやジラソーレが、そうしたものに頼らないための予備布石でもある。
エレナ・フォルミキーニ
パリ支店長。ショートヘアで長身、やや中性的な外見をしている。
ソフィア、サンドラとともにパリでスーパーモデルとして活躍したこともある。大学を首席で卒業し、各種スポーツ、社交、家事(玄人級)などもそつなくこなし、更に裏表なく男性に一途に尽くす優しい性格という、非の打ち所のない完璧超人。唯一の欠点は貧しい農村の生まれであるため、交際する上流階級の男性はその完璧さに対する劣等感を出自に対する優越感で埋めようとしてしまい、交際はいずれも長続きしない。
悠に、職人としてだけでなく男性としても惹かれていった。その後、自身との交際をかけたシモーネ、チャールズとの勝負を制した悠に、公私に亘るパートナーとしての正式な交際を申し込んだが、悠は目標を持って支店長業務に励むエレナの意志を尊重し、またあくまで自分は一介の職人に過ぎないという立場を曲げなかったため、交際は成立しなかった。
しかし悠への思慕がなくなった訳ではなくクラリッサが悠のサルトに入り浸っていると聞きつけた時にはパリの仕事を放り出してナポリの悠の下に押しかけていた。
マルコからは『(交際)勿体無かった』
クラリッサ・レオーネ
ロンドン支店長。ロンドン支店ではカジュアル服を主に扱っているが、技術の研鑽も兼ねてサヴィル・ロウのテーラーの下職を手伝っている。仕立て屋の家に生まれ、サークル時代には裁断を担当するなど、会社創設時点で既に高い仕立ての技術を持っていた。
ジュリア・ヴィスコンティ
ロンドン支店所属の海外営業担当。ポニーテールと八重歯が特徴で、常に異様なほどテンションが高く、神経が図太く物怖じしない性格で、周囲を常に振り回し続けている。現地人でも酸欠で倒れるほどの高地でも平然としているなど、超人的な体力も持っている。
フェデリカ・テッサリーニ
ニューヨーク支店長。髪型はストレートで瞳が大きく、勝気でさばけた性格をしている。非常にグラマラスなスタイルの持ち主。
幼少期をアメリカ合衆国で過ごしていたためアメリカの流行・経済などに詳しく、性格もアメリカ人に近い。ベアトリーチェとは同じ経済学部、同じゼミ出身の同期だが、ベアトリーチェが論理やデータを重視するのに対し、フェデリカは勘や感覚を重視した経営を行うため、ベアトリーチェが苦手としている唯一の人間。そのベアトリーチェいわく「社長(ユーリア)以上のバクチ打ち」であり、ベアトリーチェがどんな条件を提示されてもジラソーレを離れないのは、他ならぬベアトリーチェが離れた後にジラソーレの帳簿を見ることが出来る(けど絶対に任せたくない)のがフェデリカしかいないため。
開発第二課
各支店に問題が発生した時に助っ人として派遣されるようになった。遊撃隊的な役割を担っているチーム。その気になれば彼女たちだけで店を起こせる。
ヴィレッダ・インパラート
マルコの妹弟子の靴職人見習い。元々は修復師だったが、言い寄ってきた靴マニアの同僚に感化され、ぺピーノ親方に弟子入りし靴職人に転向した。
美術品やアンティーク、その背景にある歴史に詳しく、悠から「物知り姉ちゃん」と呼ばれている。 好奇心と行動力が旺盛で悪ノリしやすい性格をしており、マルコとともに余計な事件を引き起こしてしまうことが多い。しかし頭の回転が早く思慮深い策士的な一面もあり、その手腕についてはベアトリーチェも高く評価している。開発第二課においては、ラウラとイザベッラを引っ張る司令塔としての役割を担っている。
イザベッラ・ベリーニ
ナポリの実力者・ベリーニ伯爵の令嬢。家出した時に酒場でヴィレッダと知り合い、ジラソーレお家騒動の時に父の後見のもとジラソーレ社の大株主となり、開発第二課に入社した。
通称「お嬢」。
服飾に関しては見識はあるものの飛び抜けた技能はなく、開発第二課ではヴィレッダやラウラの補佐に回ることが多い。しかし伯爵令嬢であるが故の豊富な人脈を持っており、しばしばそれを活かした立ち回りを見せる。相手の気持ちを汲んだ思いやりのある発言も多い。
大学の馬術サークルの同窓会でカルロと知り合って以来、カルロと交際している。おっとりした気品のある性格だが時に大胆な行動を起こすこともあり、特にカルロが絡むと思い込みが激しくなりしばしば暴走する。父親譲りの健啖家。
実はヴィレッダとマルコに引っ張り回された結果、秋葉原で迷子になった挙句、日本の伝統(pixivタグ的な意味で)の真髄に触れてしまい、拒絶反応(気絶→表現規制を狙って大量のユーロを関連業種に流し込みヴィレッダに止められる)を起こした果てに克服した結果、盆暮れに聖地へと赴く立派な秋葉&池袋&有明で伝説を刻む戦士となっている。
元々はペッツオーリ社の運営する服飾学校で天才と呼ばれていた少女。14歳にして自分の「究極の型紙」を完成させた自他ともに認める仕立ての天才で、ペッツオーリ社の服飾学校の秘蔵っ子だった。しかし織部に勝負を挑むも敗北を喫し、その雪辱を果たすため、織部を追ってナポリくんだりまでやってくる事になり、紆余曲折の果てジラソーレ社の一員となって修行の日々に邁進する羽目になった。詳細は項目参照。
イタリアの愉快な方々
カルロ・スパランツァーニ
没落し市井に暮らす貴族(男爵)のボンボンだったが、悠の仕立てたスーツ(と喝入れ)によりベリーニ伯爵の目に留まり、11か国語を話せる才能を買われお付きの通訳の仕事と婚約者(イザベッラ)をゲット。悠の仕立てにより大きく人生が変わった人物のひとり。その後もたびたび悠に仕事を持ち込み、「殿下」の愛称で呼ばれる。
ニコラ・ロンギ
カルロの執事。悠たちからは「三太夫さん」と呼ばれる。孫ほどの歳の差があるカルロに孫以上の愛情を注ぎ忠誠を誓う。「控えおろう庶民!!」で始まる彼の登場する回は「様式美」とまで言われる。
プレゼンティ
通称ドン・メローネ・ロッソ(スイカおじさん)。古き良きマルゲリータ(ナポリピッツァ)職人。修業時代の悠がよく通っており、のちにユーリアも密かな常連に。悠に入れ墨が見えないシャツを作ってもらいTVのグルメ番組に臨むが、食通気取りの出演者の態度にキレてしまい自ら入れ墨を晒してしまう。が、逆にそれが受けて遠のいていた客足が回復。悠やユーリアの愚痴にも的確な助言を送る人生の達人。
マッシモ・ゼルビーニ
コンスタンツェの兄で、家業の海運業を一手に引き受ける。M&Aや株の売買など経済活動はかなりえげつなく、のちにコンスタンツェを政略結婚させたい思惑を描き、その企みのために彼女からジラソーレ社筆頭株主の座を奪い「ジラソーレお家騒動」の引き金を引く。その騒動の最中で悠の存在を知り、その技術と職人の矜持に感服。悠を純粋に職人として認め、たまに悠へとお仕事をもってくる一人となる。
シモーネ・アゴスティ
マッシモの同業・アゴスティ社の跡継ぎ息子。父親は人格者なのだが、ベタ甘な環境で育てられた結果金と資産が判断基準のすべてというとんでもないドラ息子に。同業の恩師の息子であるためマッシモも強く注意出来ない(そもそも人の話を聞かない)。悠に突っかかってはそのたび返り討ちに遭う(悠達はこっそり「白鳥さん」と呼ぶ)。さすがに母親から待ったがかかり、「性根を叩き直すため」、海軍出身の父親から「帝王学を身に着けるため」などと称して強制的にイタリア軍に入隊させられて、海軍・空軍・イタリア陸軍のみならず軍警察にまで在籍していたが、いずれもごく短期間で除隊し、結果としてが焼け石に水の状態。その後も問題行動が収まらなかったため遂にはスペインのマグロ漁船(イタリアにもマグロ漁船があるのかとか気にしたら負け)に放り込まれてしまった。
そのため、かつては甘やかしていた父親からも「馬鹿野郎」呼ばわりされるなど、見捨てられつつある。
ジョナタ・ジャイオッティ
ナポリ仕立て屋業界の年若き俊英。容姿と口調とポーズが非常に独特なトラブルメーカー。
家は極貧であり、幼い頃から口減らし同然に近場のテーラーへと丁稚奉公に出され、そこで虐待もかくやというシゴキを受けて技術を身に付けさせられた過去がある。そのため仕立ての道にいる事は本人としては不本意なものであり、そこに若さゆえの無軌道もあいまって超絶技巧(に至るであろう冴えた基礎技術)を身に付けながらも自らそれを疎み裏社会への就職を志願していた。のちに悠(と、悠と個人的な取引のあるカモッラの皆様)の手引きによって、その目は潰されてしまい、仕立て業界の俊英・若手の金看板として技術を磨く事になるが、その後も自らの技術を鼻にかけた問題行動(ブランドに喧嘩を売ったり、他国に自らの腕を売り込みに行く、などの業界の仁義や秩序を無視した横紙破り)が目立つ。
ちなみに余談となるが、雑誌掲載(初登場)時の設定では「ジョナタ・ジョイオッティ」となっていた。
ロドリーゴ・サンチェス
悠も一目置くパンツ(ズボン)職人。ところが実はアイドル志願のアラフォー。芸能界にお近づきになるため借金に借金を重ねており逃亡の日々を過ごす。「ハリウッド編」で晴れて念願かない主演で映画デビュー、借金はこの時に得た契約金で完済するも、アメリカ銃社会に批判的な言葉を投げたせいで失脚する。が、いまだにカムバックを狙い借金を重ねる懲りないオッサン。
演劇人としては非常に面倒見がよく、彼の世話になった後輩が後々にビッグスターや成功者になった、という事例も少なくない。困窮の友のために自らの身を惜しまず駆けずり回る姿は紛れもない漢であるが、惜しむらくはそれが人脈構築や成果に繋がらない。(本人もそういう形で注目される事を望んでおらず、あくまでも磨いた「演技」一辺倒で認められる事を望んでいる)フェデリカは、そうした「不器用にもほどがある一途さや人の良さ」(他人を「利用」できない心の優しさや正直さ)こそがロドリーゴがビッグになれない最大の要因であると分析し評している。
幼い頃より仕込まれた服飾職人としての腕は壮絶によろしいため、いつも悠に惜しまれる。
ジャンニ・ビアッジオ
偉大なる我らがカサルヌオボのご隠居。(カサルヌオボはナポリ郊外にある町)
悠の師匠であるマリオ・サントリヨの同門にして、彼の兄弟子であり、誰の言葉も聞かず誰もが畏れていた生前のマリオ親方に、ただ唯一、対等な立場から率直に意見を言えた(マリオもまたその意見に素直に耳を借していた)人物。悠も「叔父貴」と頭を下げる。
服飾職人としては隠居状態にあり、息子は服飾の道に行かずパスタ屋となった。そのため一線を退いているが高齢にして、なんと『電撃萠王』を愛読し、培った服飾技術で健全エロス極まりない趣のある衣装を創り上げる日々を過ごしている。(そしてジラソーレ社幹部陣が、いつも、その衣装の犠牲になる)
ベリーニ伯爵
作中におけるナポリ1の実力者。「ナポリの文化を守ることこそ我が使命」と誓い、海外の要人ももてなし時に対立することも辞さない。悠の仕立てに「師匠の域を出ていない」と苦言を呈したが、悠の「仕返し」により見直し、裏社会からの借金の肩代わりとともに悠のスポンサーとなった。健啖家であり、また娘(イザベッラ)のこととなるとギロチンを持ち出すほどの親バカ。
ヨーロッパの愉快な人々
アラン・リヴァル
セルジュのパパン。ジラソーレ社と協力関係にあるパリの一流ブランド「リヴァル」の総帥。期待の新人は容赦なく針糸持てないレベルにまで叩き潰す大人げない人。自社工房の弟子に対しては精神崩壊まで追い詰める容赦ないMr.スパルタンX。そのせいで本来跡継ぎにしたい息子2人に家出されている。本作における武装おしおきの大家。
マダム・ロスタン
シチリアの針子からパリの一流ブランド「ロスタン」を興した、フランス服飾会の重鎮。さすがのアラン・リヴァルも彼女には頭が全く上がらない。
フレデリック・ウォーレン
英国の仕立て街、サヴィル・ロウの保護に努めるジョンブル貴族。悠の腕に敬意を抱き一目、置いている。
パウエル親方
サヴィル・ロウ仕立て界の重鎮の一人で、優れたウェストコート(ベスト)職人。職人気質で頑固者だが、同じく職人気質である悠の事は気に言っている。悠に本格的英国式ウェストコートの製作を手ほどきした。(悠はあくまでも客分であるため師と弟子というわけではない)
ジャコモ・ペッツオーリ
本拠地はミラノだが、世界中を飛び回っているお方でもあるのでここに記載。作品世界ではTwitterに乗っただけで大騒ぎされるほどの有名デザイナー。ユーリアの父。悠いわく「そうとうのタヌキ」であり、作中最強の一角。
妻(ユーリアの母)の今際の際にも世界中を飛び回っていたため娘の恨みを買っているが「これも不出来な父親の定め」と受け入れ「こんな不出来な父を『お父さま』とは呼ばせたくはない」「世間は私を持ち上げてくれるが、その実は(世間の名誉を投げ捨ててでも)最も愛し守らねばならないはずの娘(ユーリア)の心を守ってやる事もできなかった、世界で最も愚かな男なのだ」と自嘲して悲しみ続ける不器用な父としての一面を持つ。また娘の複雑な心境とそれゆえに背負ってしまったものを理解して見透かし「娘を鍛える大きな壁」として、あえてユーリアに対して企業家としての厳しい面だけを晒し、憎まれ役を演じている(が、それがユーリアのトラウマをさらに刺激しており、和解は絶望的)。そして織部やポンピエリなど事情を知る知人には「私(ペッツオーリ社)の事は良いから、娘(ユーリアおよびジラソーレ社)の力になってほしい」と秘密裏に頭を下げて、ユーリアがそれゆえに道を見誤り破滅しないように常に心を砕いている。ある意味では服飾界の無限界時空とも言える人。将来的にはジラソーレ社がより成長し、ペッツオーリ社を呑み込む事すらも望んでいる節が見られる。
本作の登場人物としては比較的穏和な人格者の範疇にある人ではあるもののユーリアとの一件にも見られるように企業人としては非常にシビアで厳しくリアリストな一面も持っており、またゆえに時に冷徹な一面を見せる事もある。本作屈指のスパルタンであるアラン・リヴァルを「面倒見の良い優しい人格者。あそこまで鍛えてくれる人に師事できる人は幸せ者」(自分は、その逆)と評している。
ごく短期間だがマリオ・サントリヨに弟子入りしており(悠からみると弟弟子)これを理由として悠の借金の保証人となって即拉致臓器売り状態となっていた悠の命を留めたため、悠が頭が上がらない人物のひとりとなっている。服飾業界における立場的には明らかに悠よりも上の人物なのだが、徒弟の関係から悠の事を常に「兄弟子」として立ててくれており、できれば兄弟子の悠には師匠マリオの弟子として、それなりの栄誉を受けてもらいたいという思いも抱いている。
ポンピエリ
辛口で鳴らす服飾評論家。新興ブランドに対し「方針はなんだ」「デザインに見えてこないと話にならない」とよく噛みつく(立ち上がったばかりのペッツオーリ社も倒産寸前まで追い込まれた)。当然のようにジラソーレ社にも突っかかってきたが、「女性が憧れる男性像を提供する」という方針を打ち出した彼女たちを認め手を引いた。のちにその陰に悠がいたことを知り、腕前を認めた。特急客の中でも非常に羽振りがいい(ただし注文はそれなりに厄介)。
リッカルド・サントリヨ
悠の師匠である、マリオ・サントリヨの実の息子。ナポリ出身ではあるが世界中を飛び回っている人物であるため、こちらに記す。
ナポリ仕立て開基以来の未曾有の天才と呼ばれた仕立て職人。悠と同じくマリオの技術を継ぐ者の一人だが、過去にナポリという街そのものに対して幾度となく壮絶な不義理を重ねたため、マリオの弟子としては認められなくなっている。(そもそもマリオの技術を覚えたのは家業のついでの側面が大きく、リッカルドの仕立ての正式な師匠とされるのは、強面の鬼師匠として知られリッカルドをトラウマ級にシゴいたドラゴネッティ師匠である)
マリオ親方の生前は、フラリと親方の元に里帰りしたかと思えばサルト(マリオ親方と悠)が確保していた高級生地を持ち出して呑み代に変える車寅次郎クラスの極道息子であった。また、やる事なす事、全く真剣身を感じられないスーダラ人間であり極度のサボり魔。その意味では父・マリオとは逆ベクトルの意味でダメ人間。しかして作り上げる服は何者の追随を許さぬ至高の出来映えを誇る、という努力の及びえぬ才能に愛された、ガチものの天賦の才の持ち主。つまり「努力しなくても才能だけで遊んで食える」人。しかし本人はそのような評価を疎ましく思っており、自らの家庭を壊した服飾の道で評価される事には時に嫌悪すら感じているフシがある。
悠が背負った借金の三割はリッカルド由来のものであり、その意味でも悠からは深く恨まれている。また、こうした経緯から何事も達観している悠が蛇蠍の如くに嫌う珍しい人物。通称「ナポリの寄生虫」あるいは「油虫先生」。
ナポリ仕立て屋協会の内紛によってジラソーレのモデリストに就任したが、そのスーダラな性格から問題を起こしまくり、のちにはラウラを針糸が持てぬほどのオーバーワークに陥れた。そのためラウラは今でもリッカルドに出会えば、その場で即座に気絶してしまう。
さらにはリヴァル工房に転身するがセルジュが地獄の工房とすら恐れるリヴァル社を、その才能をもって食い破り社内規律の危機に陥れる。リヴァル社を放逐された後はペッツオーリ社に転身。そして事情を知らないナルチーゾに引き抜かれるも、ナルチーゾの部門縮小に伴って放逐され、その後は再び消息を断った……とか思われていたが下町テーラー編でも油虫パワーでちゃっかりと居残ってしまっていた。
関連イラスト
関連タグ
スーパージャンプ / グランドジャンプ / 大河原遁 / 青年漫画