「ちょっと!帰るの遅いよ!どこで遊んでたの!」
「いのり!すごいよ出来てるじゃん!」
(score1)
概要
漫画『メダリスト』に登場する、主人公結束いのりとその姉結束実叶の母親。
夫である結束ヒロノブと共に、共働き世帯の結束家を切り盛りする。いのりが生まれて間もなくから職場復帰したことがscore4にて触れられている。具体的な職種は不明だが、score12ではデスクで電話対応しているさまが描かれている。(職場が夫と別かは不明。)
社会人ゆえに対人コミュニケーションはそつなくこなすものの、作中ではやや内向的な性格を匂わせる描写が多い。交友関係も積極的ではないようで、次女が所属するルクス東山FSCで出来たママ友は、犬飼総太の母親ただ一人。
後述の理由で当初はいのりがフィギュアスケートをすることを快く思っていなかったが、娘の意志の強さと確かな成長を目の当たりにした後は彼女の夢へのサポートを決心している。
作中の動向(ネタバレ注意)
長女の挫折と、次女への抑圧
のぞみの2人の娘たちは、まったくタイプが異なる。
長女の実叶は、実質的な優等生タイプ。勉強も運動もコミュニケーションもそつなくこなす明るい性格で、フィギュアスケートをしていた頃は所属する名城クラウンFSCの名物選手として名を馳せていた。
次女のいのりは、逆に勉強も運動も集団行動も不得意でいってしまえば不器用で、自分に似てやや内向的。小学校高学年になっても九九が怪しいほど。
この2人を見比べて、娘たちの同級生の保護者らは「実叶ちゃんはいい子」「いのりちゃんはちょっとねえ…」と言いながらまるでのぞみがしつけに失敗したかのように陰口を叩いた。このことは本人の耳にも入っており、知らず知らずのうちに彼女の心を苛んだ。
それでも、のぞみは歳の差8歳の娘たちに分け隔てなく愛情をそそいだ。長女がフィギュアの大会に出るときは全力で応援し、必ず次女も同伴させた。いのりは、姉の実叶が可憐に滑るさまに心をときめかせ、これがきっかけでフィギュアへの憧れを強めていった。
だが、当時中学生だった実叶が足にひどい骨折をしたことでフィギュアを引退することになった。
優等生だった長女が5歳から続けていた長年の努力が水泡に帰したさまを目の当たりにしたことが、彼女の次女への対応を変えた。
まず、いのりが自分もやりたがっていたフィギュアへ関わることを禁止した。不器用なこの子がフィギュアなんて出来るわけがない、必ずケガをする。そう理由付けた。
そして本人に対して「普通の子」であることを求めるようになった。自分でもいのりの宿題を指導するなど面倒を見続けていたが、彼女が奇抜なチャレンジをすることを様々なかたちで拒んだ。
次女には、いのりには普通であってもらいたい。でも、彼女に自信を付けさせたい。
矛盾したおこないが上手いくわけがなく、小学校入学から高学年になるまで、いのりの学校生活はできない子の烙印と共にあった。イジメこそ無かったが、クラスでは半ば孤立した。
この間、いのりの心の支えは、幼き日に感じたフィギュアスケートへの憧れだけであった。クラスメイトに後ろ指さされ劣等感に苦しみながらも、時間があれば母親に内緒で近所の大須スケートリンクへ通い、受付の瀬古間さんの厚意で中に入れてもらい、彼の指導と1冊のフィギュアの手引書を手がかりにスケートの練習に励み続けた。すべては自分を見失わないために。
そんな次女の葛藤を、のぞみは長い間知らないままであった。
score1:氷上の天才
そんな母娘のすれ違いの日々は、いのりが小学5年生になったある日、彼女が元・アイスダンス選手であった明浦路司と出会ったことで変化を見せる。
いのりの境遇を知った司は、彼女に「もし本気でスケートを極めたいなら小5はもうギリギリの歳だ。はやく親を説得してスケートクラブに入れ。間に合わなくなっても知らんぞ!(要約)」と警告した。
自分が崖っぷちにあることを知ったいのりは、ついに意を決して母のぞみに事情を話した。が、問題はここからであった。
次女がまたフィギュアなんかに興味をもった。そう思ったのぞみは、常軌を逸した行動に出る。なんと、居住地域である名古屋中のフィギュアチームを廻り「いのりがいかにダメな子か」を説いてまわったのであった。当然、その場にはいのり本人がいる。プロの口から断られれば本人も諦めがつくだろうというのが目論見であったが、当人にはそれは愛娘の心を完全に折るものであることを気が付いていなかった。
この毒親ムーブ全開な行為に、長女の古巣である名城クラウンで対応した千羽倫太郎はその陰の気にあてられ断りに同意してしまい、最後に2人が赴いたルクス東山FSCにて再会した司とチームを経営する高峰瞳も思わずドン引きしていた。
完全に萎縮し、絶望の淵にあるいのりに「とりあえず一回滑らせてみましょう」という司は助け舟を出す。そして、リンク上で試しに基本の指導が始まったが元・全日本選手の司と瞳が驚くほど容易にその内容をこなしていった。いのりの長年の密かな努力がここに生きたのであった。そしてそれは、司が思わず天才だと感想するほどの才能の片鱗を秘めたものであった。
のぞみ「いのり!すごいよ出来てるじゃん!」
いのり「お母さん今褒めてくれたの?」
のぞみ「すごいねこんなにできたんだ…ニコニコしている顔見たの久しぶりで感動しちゃった…」
いのり「それじゃあやってもいいの⁉」
のぞみ「それはダメ」
のぞみは娘の才能の片鱗を見ても拒絶の意思を示した。彼女の内部にはまだ実叶の挫折が後遺症となって渦巻いていたのだった。そして「スケートなんてやらせなければもっと出来ることがあった」「この子が今からものになるとは思えない」「この子がもっと普通の子だったら…」と口走る。
しかし、自分の希望が潰えかけたいのりが、ついに限界を迎え感情を爆発させる。
「私は今が嫌なの」
「スケート絶対やりたかったの…」
「でもほんとはただのまねっこでできてない」
「できないわからない…」
「わたし何もない………ッ」
そしてこのまま、のぞみがいう「普通の子」になれず惨めな思いをし続けるよりも、自分が大好きなスケートを極めて存在価値を確立したいのだと泣きながらと訴えたのであった。
そして、今度は彼女の「リンクに賭ける執念」に心を打たれた司の情熱に着火。
彼は「もうさっさとやらせましょう」「俺がこの子のコーチとしてスケートを教えます」「全日本選手権に出場できる選手にしてみせます!」「絶ッッ対やらせるべきです!!!」とパッションを全開にしてのぞみへ熱弁を展開。
この怒涛の展開に勢い飲まれたのぞみは「そこまで…先生がおっしゃるなら…」と引き気味に応答。ついに、いのりのスケート受講を認めたのであった。
score4:名港杯初級女子FS編①
ついに次女のスケート受講を認めたものの、それはあくまでいのり本人の懇願と、司のゴリ押しとの相乗効果によるもの。
ようやく憧れのフィギュアを始められたことで次女が以前より明るく振る舞うようになったので情操教育の面では効果を認めたものの、この段階ではまさか娘がスケート選手として大成できるとは夢にも考えておらず、スケート受講は中学生までが条件だといのりへ告げた。母のぞみからの宣告に、いのりはまたもや意気消沈した。
この事をいのりから聞いたフィギュア天才少女として既に世間へその名を轟かせている狼嵜光は、期待の新人である彼女へ「自分が上手になりたいことを伝えないと大人は分かってくれないよ。」とアドバイスする。
これを受けていのりは自身のコーチである司へこの一件を相談する。司は、「周囲が自分を支持してくれるようになるには大会で実績を残すしかない」という現実を説明。そして、その第一歩として間もなくに開催される名港杯の初級部門制覇を目標に掲げることになった。
こうして、いのりと司、2人の特訓の日々が始まった。
この間、母のぞみはどうしていたかといえば普通に大会までの日々を楽しみに送っていた。
……こんな感じである。なんやかんやで次女が晴れ舞台を迎えるのが嬉しかったらしい。
テンション高い母親の様子を、長女の実叶は「いのりが大会に出るのを楽しみにしている」と断言した。
そして迎えた名港杯当日ーーー。
満を持してリンク入りしたいのりであったが、本番直前の練習タイムにて、調整に失敗して調子が乱れてしまう。前述のように優勝狙いの構成を組んでいたのだが、緊張からかジャンプもスピンも満足に成功出来ないまま練習時間が終わってしまった。
これを観客席から垣間見たのぞみは、一転して不安に駆られてしまう。
本番までの待機中、気持ちを切り替えるよういのりに指導する司であったが、その司に対してのぞみはもっと簡単な構成にするよう願い出る。
のぞみ
「せっかく楽しんでるのに勝負なんてさせなくてもいいじゃないですか…」
「スケートまで失敗の思い出を作らせないでください」
のぞみは、今までの不器用な次女のイメージに囚われており、またフィギュアでしくじりそのもう一人の娘が傷つくことへのリスクに拘泥していたのであった。
次女を必死に庇うべく司に詰め寄る母親を、いのり本人が「お母さん待って」と制止する。
いのり
「私を見てて かっこよくなれるようがんばるから」
そこに居たのは、今までの「できないせいで大人を困らせる」弱い子ではなく、「私がスケートを特別にするんだ」と決心した強い姿であった。
その次女を、のぞみはあっけにとられた様子で見送った。
そして迎えた本番は、怒涛の展開であった。
最初のシングルアクセルこそ失敗したものの、続くシングルループは不完全ながら着地に成功。この間にいのりは完全に調子を取り戻し、次々と技を成功させていった。特に、司や高峰瞳に仕込まれたアイスダンス由来のスケーティングのレベルの高さは審査員が舌を巻くほどであった。そしてその顔は、さっきまでの沈んだものではなく、スケートを楽しむ笑顔が浮かんでいた。
実叶
「のんちゃんマジで上手じゃん⁉」
「初級どころか2級や3級のレベル超えてるよ!」
「全然知らなかったよ…!」
のぞみ
「うん…そうね…全然知らなかった」
「…私 母親なのに」
「何でだろう 何で気づけなかったんだろう」
「ずっと自信を付けさせたいっておもってたはずなのに」
次女の成長を喜ぶ以上に、のぞみは今までの自分の視野狭窄さを自覚してショックを受けていた。
そしてその脳裏には、かつて娘たちの同級生の保護者から浴びせられた心無い中傷がフラッシュバックしていた。
のぞみ
「出来ないって言い続けてきたの いのりの為なんかじゃない…」
「自分が傷つくのがこわかったんだ…」
「1人でちゃんと立ち上がれる こんなに強い子だったのに」
「いのりのこと全然見えてなかった」
「大嫌いだった他人の評価を私も信じてしまってたんだ」
そして最後のスピンで、いのりはぶっつけ本番でブロークンレッグを成功させ、最初の転倒での減点を自力で取り返すことにも成功する。
そして、そのまま首位に躍り出ることになった。ついに結束いのりは、初陣にして初優勝を手に入れることになったのであった。
いのり
「お母さん…!」
「私がんばってたでしょ?」
のぞみ
「いのりは何のメダリストになるつもりなの?」
いのり
「お…………オリンピック」
のぞみ
「ちゃんと見てたよ」
「すごくすごくカッコ良かったよ 素敵だった…」
「いのりはさ…苦手なことが多い分人よりもいっぱい頑張ってきたんだね」
「スケートもここまで上手になるまですごい頑張ったんだね」
「一人で頑張らせちゃってごめんね 褒めてあげられなくてごめんね」
「いのりの夢をちゃんと応援できるお母さんになるね」
いのり
「お母さん…」
のぞみは、泣きはらした目で次女を抱き、自分の狭量さを謝ると同時に、彼女の今までの努力を讃え続けた。
すれ違い続けた母娘は、ついに和解の時を迎えたのであった。
その後の動向
名港杯でいのりの成長と本当の強さを目の当たりにし、自分の視野狭窄さや狭量さを自覚。今まで無意識に可能性を否定してきたその次女へ謝罪し、和解してからはそれまでのような毒親じみた言動はしなくなった。
以後は長女と夫と共に、「オリンピック出場」を目標に掲げたいのりの夢を実現するべく、彼女をサポートする日々を送っている。
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備考(※引き続きネタバレ)
いのりがフィギュアを始めて1年後ー---かつで自他共に認める劣等生だった少女は、同年代の選手が警戒を要するほどの実力を秘めたダークホースへと急成長を遂げていた。
のぞみは、ノービスAでの次女の活躍を目撃する度に、その中部ブロック大会ではただ一人ノーミスクリアを達成したことで「きゃーっ!」と絶叫し、続く全日本大会では初手で4回転サルコウを成功させたことで衝撃のあまり失神することになる。
次女の成長を楽しく見守っているようで何よりである。