概要
東方Projectに登場する宇佐見菫子と博麗霊夢のカップリング。
二人は菫子が初登場した『東方深秘録』で出会っており、菫子による「異変」に霊夢が立ち向かったのが二人の出会いである。
菫子と霊夢の物語を通して『深秘録』を巡る中心的なストーリーが進行し、そしてそれは『深秘録』に留まらない次なるストーリーへと結びついてゆく。
『東方深秘録』
冒頭の霊夢のストーリー
『深秘録』における冒頭の霊夢ルートにおいて都市伝説の蔓延やそれに連なるオカルトボールを巡る怪異を探っていた霊夢はとある夜に何者かに遭遇する。
シルエットだけで全身像が見えず、声をかけても反応しないそれは一時的に幻想郷へとやってきていた菫子であり、霊夢はこの怪異に挑むも、この際は決着とはならなかった。
この一件は翌日に霊夢が霧雨魔理沙や茨木華扇に話しており、このときの菫子について、魔理沙との対話では「 オカルトオーラにまみれた影の人 」や「 影人 」と例えられている。霊夢がこの影の人と出会って以降、幻想郷ににわかにオカルトボール集めの不穏な空気が生まれたようである。
一方の菫子もこの夜の一件では霊夢にいきなり襲われたことに驚いたようである。
霊夢ルートでの出会いの以後、魔理沙や華扇がオカルトボールを通して菫子と出会い、さらに華扇は菫子に対して策を考案した。霊夢も魔理沙とともにこの策に乗っている。
また豊聡耳神子を通しても「 神社周辺の連中 」がこの異変に対して独自に活動していることが語られており、霊夢は魔理沙や華扇とは違い菫子との直接的な対面は未だ果たしていないものの、その存在に立ち向かうべく準備を進めていたのである。
そして霊夢は魔理沙や華扇、あるいは華扇を通してこの異変に解決側として関係した二ッ岩マミゾウらをはじめとした各キャラクターのストーリーを経て幻想郷へとやってくることに成功した菫子本人とついに出会うこととなる。
終盤の霊夢のストーリー
霊夢と菫子が対面する機会は、最後の霊夢のストーリーにある。
華扇やマミゾウらの策で幻想郷から脱出できなくなり、一時的に外の世界に帰還するも再度幻想郷に引きこまれるという追い詰められた状況にあった菫子と、一方で菫子さえも把握していなかったオカルトボールの真実、意味するところに辿り着いた霊夢が急ぎ外の世界まで菫子を追った所に両者の出会いがある。
このとき霊夢は強い危機感を抱いていたが、それは菫子に対してではなく菫子を介してこの異変に関わっていた何者かの意志に対してである。終盤の霊夢ストーリーの紹介テキストによれば、状況によっては、霊夢は菫子に対して強い処置に出る事も選択肢に入れていたようである。
そして外の世界で菫子に追いつき霊夢はその「 保護 」を試みるが、一晩幻想郷を追いまわされ精神的にも疲弊しきってきた菫子はオカルトボールの力を解放し、「 自らが幻想郷の結界を破壊する鍵 」となると宣言する。
霊夢はそれこそが何者かが仕組んだ罠であるとし、菫子を止めるべく『深秘録』最後の闘いを挑むのである。
菫子「 追い詰められた女子高生の死に様はさぞかし記憶に残るでしょう!
ああなんて美しい死 なんて価値のある死 」
霊夢「 そんなこと美しくない! 自爆に価値は無い!
私は楽園の巫女 博麗霊夢である! どうあっても結界は守る!
そして人間を軽々しく死なせるもんか! 」
さらに続く口上では互いのフレーズが重なり合うなど、その根本の気持ちの同調が描かれている。
「異変」以後
霊夢はオカルトボールの開放も菫子の「 自爆 」も回避し、幻想郷へと菫子を伴って帰還した。そして魔理沙や華扇、マミゾウとともに菫子についてどのように処置するか意見を交換する。
この際霊夢は菫子を幻想郷の住民にする事を提案したが、他の三名の意見も聞き、菫子を外の世界に返すことに賛成した。その際には菫子にもうここには訪れないよう念を押したようである。
しかし菫子は夢を通して幻想郷を訪れる術を本人も自覚のないままに身につけ、後日眠りと夢とを通して幻想郷を再訪問する。
霊夢はこの再訪問に驚くものの菫子の言葉や態度からもう以前のような異変を起こすような意志の無い事を見て取るとまろやかに菫子と対話するような穏やかな表情を見せた。
菫子は以後度々幻想郷を訪れるようになり、その際には霊夢が巫女を務める博麗神社に「 匿って 」もらいつつ幻想郷を楽しみ、幻想郷の住民もまた菫子の語る外の世界に興味を惹かれていた様子である。
なお、windows版の東方Projectでは異変の首謀者と最終的な異変解決者がいずれも人間であるというケースは、『深秘録』を最新作とする時点では初めてのことである。
EXステージとしては人間である藤原妹紅が『東方永夜抄』においてそのボスとして登場した事があるが、妹紅は永夜異変の本筋には関わっていない。
霊夢と菫子のふたりの物語は、人間が外の世界から幻想郷に対して異変を起こし、そして「 楽園 」の結界を守るべく人間が異変を解決するという、特筆性に富むものとなったのである。
『深秘録』以後
『東方茨歌仙』において、菫子と霊夢が対話する様子が描かれている。
熱い夏の博麗神社の縁側で、お茶とお茶受けを横に菫子と思しき相手が語る物理学の話に興味をもつ霊夢の表情は晴れやかである。
同作では『深秘録』の「異変」の名前や菫子の「夢」にまつわる現象の名前等が語られた他、菫子が霊夢らをどのように呼ぶかも語られているなど、霊夢と菫子が出会った一連の物語についてさらに詳細が語られるものともなっている。
例えば菫子は霊夢について「 霊夢さん 」と呼びかけており、会話の際は対等な話し方と敬語を織り交ぜて話す。東方Projectにおいてはこの二種の話し方が織り交ざることがよくあり、菫子についても霊夢に対してこの話し方がみられている。霊夢からは一貫して対等な口調で語りかけられている。
この機会では博麗神社に謎の「 シャボン玉 」が出現しており、これから菫子をかばうように霊夢が前に出ている。そして霊夢は幻想郷と外の世界との違いを語って得意げにするものの、その隙もあって「 シャボン玉 」に接触することとなってしまうのである。この「 シャボン玉 」については「夢魂(東方Project)」記事も参照。
『東方香霖堂』では、菫子が香霖堂を訪れた際に霊夢とのかかわりを尋ねる森近霖之助からの問いに対し、菫子がすぐに(霊夢について)よく知っていると回答しているなど、以後も菫子が幻想郷を訪れる際には霊夢との交流がある。
このとき、菫子が幻想郷を訪れる際は博麗神社がその拠点となっている様子であり、『深秘録』の異変以後時点から、そのシーンでは菫子が神社を居心地良く感じている様子が描かれている(対戦モード・対霊夢戦菫子勝利セリフ)。
先述の『茨歌仙』においてもリラックスした菫子と霊夢の二人が描かれている。
霊夢が元気がないと聞いた際には華扇と協同して珍しい食べ物を調達したり「 イベント 」を企画したりしており、逆に雪景色の幻想郷で遭難しかけた際には霊夢(及び射命丸文)に救助されたり(『香霖堂』)と、二人それぞれの交流がもたれている。
文による菫子のインタビューの際も霊夢が同席している(『東方文果真報』)。
菫子は霊夢に強い信頼と安心を寄せており、霊夢もまた菫子の来訪が「 イレギュラー 」にして積極的に手の打ちようがない状態にあり、かつ菫子の積極的すぎる危うさを警戒してはいるものの、その想像の上をいく未知の刺激である菫子個人について気に入っている様子も語っている。時には霊夢に怒られてもすぐに切り返して霊夢をやり込める菫子(『茨歌仙』)など、仲の良い友人関係のような間柄も見られている。
初めての二人の出会いであった『深秘録』では立場こそ対岸に位置しつつも、直接対面すればセリフの共鳴など根の部分での共感性も見られた。以後、『茨歌仙』での複数の機会や『文果真報』など他者を介した場面でも、二人の、一人の人間同士としての相性の良さなども語られているものともなっている。
『東方憑依華』では、霊夢はPS4版『深秘録』でも自らが体験し、そして『憑依華』でその様子が本格的に語られることとなった「完全憑依異変」に幻想郷側で立ち向かうこととなり、一方の菫子は完全憑依異変に巻き込まれる形で、幻想郷ではない「夢の世界」に至ってしまうなどそれぞれが異なる物語をたどった。
本人たちはストーリー中では出会っていないが、菫子は「夢の住人」側の霊夢に出会っており、普段の霊夢(現側の霊夢)との違和感を感じている。
また本作では現側の菫子が一時夢の世界に閉じ込められ、代わって夢側の菫子が現側に現れて暴れるという事態となったが、この事態に対して八雲紫が夢の世界から菫子を引き上げており、この際紫が菫子に憑依していたドレミー・スイートから完全憑依異変にみる夢の世界も巻き込んだその仕組みの情報を得たことで後に霊夢と組んでの完全憑依打破にも結び付くなど、霊夢と菫子は紫やドレミーという本作中で関わり合った他者を通して異変解決にも強い関連性をもっている。
この他『憑依華』では菫子は霊夢について「 レイムっち 」と呼びかけており、菫子側からの霊夢への愛着の様子がみられている。同種の呼びかけ方は魔理沙についてもみられており、『憑依華』では菫子は魔理沙を「 マリサっち 」と呼びかけている。
菫子は『香霖堂』では『深秘録』以後縁の深まった華扇を「 カセンちゃん 」とも呼んでいるが、霊夢本人をはじめ霊夢とかかわりの深い人間関係に対しても、先の『茨歌仙』の際の様子(または『外來韋編』や『文果真報』)からまたさらに馴染んでいる、なついている様子も見られている。
『憑依華』ではその自由対戦モードにおいて完全憑依のコンビを自由に設定することができるが、この際二人の組み合わせ、また二人のマスターとスレイブの設定の仕方によって完全憑依のコンビとして様々に二つ名が変化するという本作ならではの要素がある。
二つ名は本作中で登場する際の二つ名の前後をそれぞれ組み合わせる形で形成される。
霊夢と菫子の場合は霊夢の二つ名である「自由奔放で無計画な巫女」と菫子の二つ名である「神秘主義で扱いに困る女学生」とがそれぞれのマスターとスレイブの設定の仕方によって組み合わされる。
霊夢がマスターの場合(「霊夢&菫子」)は「 自由奔放で扱いに困る二人 」、菫子がマスターの場合(「菫子&霊夢」)は「 神秘主義で無計画な二人 」となる。
残された謎
霊夢は『深秘録』以後も終盤の霊夢ルートの動機ともなった菫子も知らない内に紛れ込んだ「月の都」のオカルトボールについて考えを巡らせている。
『深秘録』作中から霊夢はこれが菫子の意志によるものでないと気付いており、「 結界を内側から破らせる 」という性格のオカルトボールを利用したという事も相まって警戒を続けている様子である(対戦モード・対菫子戦霊夢勝利セリフなど)。
この一連の物語は、霊夢などの視点も通して『深秘録』から物語が続いた『東方紺珠伝』、PS4版『深秘録』へとさらに結ばれていくこととなった。
なお霊夢は『深秘録』以前に結界の裏側の「月の都」を体験したことがあり、その際には実際に触れ合った住民たちについて肯定的な感想を抱いている。
二次創作では
霊夢と菫子の物語ついて、二次創作では『深秘録』作中、特に終盤の熱い展開をモチーフとするものや『深秘録』以後の菫子と霊夢の様子を想像するものも多い。
一度は相手を侮りあるいは見えない相手を警戒し、その後は緊迫した直接対決を経て、今では縁側で共にお茶を愉しむ間柄という霊夢と菫子について、原作での動向も併せて二次創作においても様々な物語が想像されているのである。
なお、二人の呼びかけあいや異変以後の緊張状態でない対話の様式が明確に描かれたのは『深秘録』(またはそのエンディング)後の『茨歌仙』以降であり、特に菫子からの「 霊夢さん 」との呼びかけ方は『茨歌仙』、「 レイムっち 」の呼びかけ方は『憑依華』でそれぞれ初めて描かれたものである。
それまではファンの間でもどう呼びかけるのか様々な考察と試みがあった。
菫子は以後も複数の書籍作品等で幻想郷に顔を出している様子が描かれているため、二次創作においても霊夢との関係についての多様な想像が広がり続けている。