概要
Gone With the Wind(風と共に去りぬ)とは、マーガレット・ミッチェルによる長編小説である。1936年刊行。
1860年代のアメリカ南部を舞台に、女傑スカーレット・オハラの半生を描く。
ヴィクター・フレミング監督による映画版も傑作として名高く、1940年のアカデミー賞で9部門を受賞している。主人公スカーレットを演じたヴィヴィアン・リーと、レット・バトラー役のクラーク・ゲーブルの代表作ともなった。
舞台版も日本で人気の安定した演目となっている。
原作と映画版(1939年)の相違
本作の一般的なイメージを決定付けたのは1939年の映画版だが、この映画版と原作の間には、
- 原作では主人公のスカーレット・オハラは「美人ではないが魅力的だった」と明記されており(それも本作の最初の文章で)、少なくとも当時の規準からすると「わかりやすい美人」ではない。(きつめの顔、首は太く短かい、スタイルに関しては、胸は出てウエストは細いが背は低い、と美点・欠点の両方が有る、など)
- 原作では主人公が生まれ育った「タラ」の家は、いかにもな豪邸ではなく、ある種の趣きは有るが、必要に応じて建増しされたのが見てとれるなど、利便性重視の野暮ったい外見として描写されている。
などの相違点が有る。
原作は「当時のアメリカにおける『恋愛もの』『旧き良き南部を舞台にした作品』の『御約束』『テンプレ』を無視またはわざと外している箇所が少なくない」のに対して、映画版は当時の「御約束」「テンプレ」準拠と言えるであろう。
この為、「風と共に去りぬ」を批評する場合は、原作と映画版は分けて考える必要が有る。
(ただし、ややこしい事に、現在、原作小説の版権を持っている原作者の親類の子孫は、原作小説ではなく1939年の映画版のイメージを壊すような二次創作には否定的な意見を持っているようである)
登場人物
ケイティ・スカーレット・オハラ
もっぱらミドルネームのスカーレットで呼称される。魅力的だが激しい気性の持ち主。農園主の令嬢。機敏で非常に計算高く、エゴイスト的。折れないプライドと当時としては女性らしからぬ商才、そしてその女性的魅力で何度も難所を乗り越える女傑。
幾人もの求婚者がいるが、彼女が思うのはアシュレただ1人。
レット・バトラー
南部と北部、両方に通ずる裕福な無頼漢。聡明でスカーレットと似たエゴイスト。しかし彼女と違ってうわべを取り繕うとはせず、南部の上流社会の偽善に唾吐く態度を隠そうともしないため反感を買っている。
その一方で、危険を犯して密輸した武器を南軍に売り、最終的には南軍に志願兵として加わることを決意する複雑な人物でもある。
実はスカーレットを愛している。
ジョージ・アシュレ・ウィルクス
もっぱらミドルネームのアシュレで呼称される。温厚で教養ある美男子。名家出身。理想主義のきらいがある。
スカーレットに惹かれていることを認めつつ、精神的に支えあえる従姉妹のメラニーと結婚する。
メラニー・ウィルクス
アシュレーの従姉妹にして妻。心優しく純真で健気、ここぞというときには勇気を発揮する善性にあふれた女性。周囲の人々に惜しみ無く愛情をそそぎ、レットさえも彼女には敬愛の念を抱く。
自身に激しい嫉妬を抱いているとは知らずスカーレットを心から信じ、実の姉のように慕っている。
「melanie」はギリシャ語で黒を意味する単語mealaniaに起源する名である。melaniaはScarlettと、「落ち着きと情熱」「貞淑さと奔放さ」「信仰(聖職者の服の色)と俗世間(ドレスに使われる事が多い色)」というような意味合いの下で対比されることの多い色である。
ジェラルド・オハラ
スカーレットの父で、タラ農園の主。豪快で奔放。アイルランドからの一世移民で、農園は彼が一代で築き上げたもの。
エレン・ロビヤール・オハラ
スカーレットの母。タラの支柱的存在。フランス貴族の家の出。古式ゆかしい女性像、良妻賢母を体現したような「真の貴婦人」。
スカーレットさえ彼女のことは深く敬愛している。
マミー
エレンが実家から連れてきた女黒人奴隷。エレンとスカーレットの乳母。奴隷たちのまとめ役。非常に忠実で、オハラ家のために尽くすことを誇りに思っている。
礼儀に関してスカーレットに口やかましく言うが、それもスカーレットのためを思ってのこと。
余談
- 原作が出版されて数年後、作者のマーガレット・ミッチェルが、日本で無断での映画化の話が進んでいるらしいとの噂について書き残している。この噂が本当であれば、明治維新から西南戦争の頃の鹿児島に舞台を置き換える予定だった模様。ただし、この噂の真偽・出所は不明。
- 日本のアニメであるアンパンマンのドキンちゃん、ばいきんまん 、しょくぱんまんの三角関係は本作の勝気でワガママなスカーレット、ワルではあるが報われない愛を貫く純情さもあるレット、物腰の柔らかい貴公子のようなアシュレーの関係をモチーフにしている事が作者のやなせたかし氏のインタビューで明らかになっている。
- 「風と共に去りぬ」より前から、アメリカの大衆向け文学において「南北戦争以前の南部を舞台にした恋愛小説」は一大ジャンルを成しており、「風と共に去りぬ」はその中でも「テンプレ外し」「御約束外し」が多い作品であり、作者のマーガレット・ミッチェルも同じジャンルの先輩作家・先行作品には批判的だった。だが、結果として「そのジャンルにおける名作ではあるが、同時に異端作」である「風と共に去りぬ」を残して、このジャンルそのものが衰退し忘れ去られる事になった。
関連タグ
星のカービィ:やたらとこの小説のパロディが多いアニメ。
ケビン・ミッチェル:原作者と同性の元プロ野球選手。かつて福岡ダイエーホークス(現:福岡ソフトバンクホークス)に在籍していた際に、問題行動を起こしてクビになったのだが、球団相手に年俸の全額を請求する裁判を起こし、「金と共に去りぬ」と揶揄された。