浦沢直樹による漫画作品。1993年から1999年にかけて『ビッグコミックスピリッツ』に連載された。コミックスは全23巻、完全版は全15巻。
概要
編集部よりもう一度スポーツ漫画を描いて欲しいという依頼を受けて描いた作品。前作のYAWARA!より、テニスを題材に、金を稼ぐプロスポーツという大人をターゲットにした作品となっており、アニメ化はされなかったが、連載終了から数年後にテレビドラマ化がされた。2006年4月7日にTBS系列でスペシャルドラマとして放送された後、2006年12月26日に『Happy!2』が放送されるなどした。
ちなみに当時はライジングショットで一世を風靡した伊達公子全盛期(96年に女子シングルスでウィンブルドンベスト4)であり、海野幸は彼女をモチーフにしたと思われる描写も少なくない。他に当時は4大メジャーでベスト8入りを果たした沢松奈生子や杉山愛などが注目を浴び、国内女子テニス全盛期でもあった。
あらすじ
高校3年生・海野幸(うみのみゆき)は、中学校のときに両親と死別し、幼い弟妹の世話をする苦学生。ある日、事業に失敗したうえに蒸発した兄・海野家康の借金2億5000万円を背負うことになってしまう。それで借金返済の手立てとして連れてこられた斡旋先は特殊浴場の風俗嬢であった。
彼女はそれだけは嫌だと涙ながらに逃走するが、途方に暮れていた矢先プロテニス大会の賞金の多さを知り、一度は手放したラケットを握って、プロテニスプレイヤーになることを決意し、中学時代にお世話になった先輩、鳳圭一郎に会いに行こうとする。だが、日本プロテニス界の有力者にして鳳財閥会長でもある、圭一郎の実母、鳳唄子からテニス界からの永久追放を通告されてしまう。幸の父・海野洋平太は鳳唄子のテニスのコーチだったが、唄子が洋平太に失恋したことで(唄子が告白しようとした日に洋平太が別の女性との婚約を告げた)、海野家を半ば逆恨み状態で、敵視していたのであった。
しかし、唄子のかつてのライバルにして、ともに財界を牛耳っていた竜ヶ崎花江の娘・蝶子がテニス界のヒロインとして注目されたため、それに対抗する形で幸をテニスプレイヤーとして仕立てることになる。こうして幸は、片想いの相手だった鳳の御曹司、圭一郎と、取り立て屋だったが、彼女の素性を知って徐々に味方することになった桜田という二人の男たちに見守られながらプロテニスプレイヤーとして活動していくことになるが、幸を排除しようとする蝶子の裏工作によって世間のバッシングにも晒されることにもなる。
登場人物
主要人物
- 海野幸(うみのみゆき)
演:相武紗季
主人公で海野五兄妹の長女で初登場時は高校三年生、兄に大学生だった家康、弟に小学生の舵樹と幼稚園児の三悟、妹に小学生の沙代里がいる。大の家族思いだが、兄が多額の借金を作って蒸発してしまったため、借金を返済するためにプロテニスプレイヤーになることを決意する。真っ直ぐな性格なゆえに、無意識で敵を作ってしまうことが多く、そこを蝶子に付け込まれて、終盤まで世間からバッシングやブーイングを受けながらテニスを続けていくことになる。かなりのお人好しで前向きな思考のため、蝶子の嫌がらせを受けてもそれに気づかないことが多く、最後まで蝶子をいい人だと思っていた。中学時代から、テニス部で爪弾きされていた自分に気をかけてくれた圭一郎に片想いしており、劇中で告白も受けキスを交わすなど相思相愛の関係でもあるのだが、周囲の妨害や婚約者の存在を知り、大きく心の揺らぎを生むことにもなる。また、いつも気丈に振る舞っているが、人が見ていない時には案外弱く涙脆いところもあり、困ったときに自分を何度も助けてくれた桜田にも次第に惹かれていく。
テニスに対しては、ライジングショットを得意とする攻撃タイプで、パワーはないが、瞬発力と足腰のバネの強さでそれを補っている。制球力も高く、フットワークも軽い。また、土壇場に追い込まれれば追い込まれるほど集中力を高め、ボールが見えてくるようになるタイプで、動体視力も抜群に優れている。また、脚力もサッカー経験者だった桜田を軽々追い抜くほど速い。ただ、お金を返すことだけに必死だった頃はあまりテニスを楽しめていなかった。
父親は四大大会制覇に最も近い男といわれる人物だったが、鳳唄子の私怨によってテニス界を永久追放。しかし、テニスへの情熱は捨てておらず、娘をマンツーマンで鍛え、必死に働いて名門テニス部の私立中学も通わせていた。圭一郎とはその頃に出会っており、彼に想いを寄せながら素質を開花しジュニア大会で優勝、しかしその直後の家族パーティーで悲劇(後述)が訪れたため、一時は、自分のテニスは他人を不幸にするとばかりテニスを嫌っていた。
- 鳳圭一郎(おおとりけいいちろう)
鳳財閥の御曹司。幸とは2つ年上。幸の中学時代の先輩であり、今でも幸を気にかけている(幸も彼に憧れている部分がある)。イケメンで真面目な優等生タイプだが、典型的なお坊ちゃまで、母親の唄子に頭が上がらず「おかあしゃま」と呼ぶ。最初は決断力もない、非常に頼りないお坊ちゃんだったが、幸やスクールの賀来、恋敵の桜田などの刺激を受け、次第にたくましくなっていき、自立心を培っていく。大学テニスチャンピオンになるほどテニスの資質はあったが、プロにはなれないと実母や世界的コーチからも烙印を捺されてしまい、新たな自分の生き方を模索することになる。至ってウブな性格だが異性受けは良く、幸とは相思相愛で、蝶子、雛からも惚れられているが、後に幸の心が桜田に傾いていたこと(自分が追い求めていた幸の笑顔を、桜田の前では普通に見せていたこと)を知り、心に迷いが生じていくとともに、彼女の幸せを願って桜田の味方になっていく。
- 桜田純二(さくらだじゅんじ)
演:宮迫博之
幸とは3~5つ年上(高校のときにサッカーがプロ化する噂を知るとあり、サッカーのプロ化の話があったのは89年から)。高利貸し「ビッグバンファイナンス」営業主任で、そこそこ立派なマンションで一人暮らししており、中古だが自家用車も持っている。しかし、上司からは鈍ニ(どんじ)とあだ名をつけられていた。借金返済のためにテニスを始めた幸を次第に応援するようになる。高校時代はサッカー少年でプロサッカー選手になることを夢見ていたが、地区大会決勝戦で必死に飛び込んだディフェンスのプレイが皮肉にも決勝点となるオウンゴールを招き、それ以来サッカー選手人生を挫折し、高利貸し業者に拾われるとともに、社会に対しドライな見方をするようになっていた。仕事の絡みで幸を風俗店に連れ出そうとした張本人だが、彼女の涙を目の当たりにして心が揺らいでいく。後に、幸の実直さに惚れていくとともに、彼女が想いを寄せる圭一郎との関係を知り、心の葛藤が始まる。なお、彼も父親は幼い頃に死別、三人の兄は家族のことをお構いなし、母親は寝たきりと暗い過去を背負っているが、それを全く表に出さないでいた。なお、劇中初期はスモーカーでもあったが、ある時期からかぱったり吸わなくなっている。
- 竜ヶ崎蝶子(りゅうがさきちょうこ)
演:小林麻央
竜ヶ崎財閥の令嬢。全日本ジュニア選手権を制し、ルックス、実力を兼ね備えたテニス界のアイドル的存在。愛らしい性格で絶大な人気を持つが、本性は目的のためなら手段を選ばない狡猾な策謀家。圭一郎に片想いしているため、彼と親しくする幸を目の敵にして、彼女を排除すべく陰険悪質な策略をしかけて、幸の評判を徹底的に貶めるなど、前作の本阿弥さやかと加賀邦子の嫌な部分だけを全てかけ合わせたような腐れ外道。全仏オープンでニコリッチ、そして後の大会で幸に敗れてから、だんだん享楽的思考が変わっていくが、根本的な性質は最後まで相変わらずであった。
練習嫌いで遊び好きの割にテニスの実力も世界屈指で、蝶のように舞うと評されるほど身のこなしが軽い(劇中で幸を何度も破っており、幸がジュニア大会で優勝できたのも、その年には彼女が不参加だったため)。しかし、ニコリッチには最初から勝てないと思いこんでいた部分があり、それで引退後の後釜を狙おうとしていた。
- 鳳唄子(おおとりうたこ)
演:片平なぎさ
鳳財閥会長。圭一郎の母親。鼻の左に大きなホクロがある。若い頃は日本女子テニス界の先駆けともいえる天才テニスプレイヤーで、幸の父・海野洋平太は唄子のコーチだった。しかし、洋平太に失恋したことで(唄子がラブレターを渡そうとした日に、洋平太から別の女性と婚約したと告げられた。その後、失意のうちに見合い結婚したため、最初で最後の恋愛経験だった)、海野家を毛嫌いして、テニス界から追放してきた。プライドが高く完璧主義。現役を退いたが、テニスを見る目は確かで、幸と同じく優れた動体視力とコーチング力を持つ。竜ヶ崎花江とは長年のライバルであり、その娘・蝶子に対する当て馬として幸をテニスプレイヤーとしてあてがう。オペラが趣味だが、話が進むにつれてだんだん下手になってしまっている。
- 賀来菊子(かくきくこ)
演:夏川純
鳳テニスクラブ会員で代表テニスプレイヤー。「かきくけこ」と読み間違えられると不機嫌になる。世間では「お菊さん」と呼ばれ、鳳側の全面支援を受けていたなど、事件前まではファンも多かった。幸の数少ない理解者で、プロテニスプレイヤーを決意しようとした幸が最初に戦った相手だが、ブランクの空いていた幸に完敗してから、彼女に関心を抱き始める。幸の悪評や不幸の大半が蝶子による嫌がらせだと知り、幸の潔白を証明すべく蝶子に詰め寄るが、逆に罠にはめられて窮地に陥る。その後は無期限追放に遭うが、テニススクールのコーチやテニスショップ店員などをこなしながらも、陰で幸を支えていた。蝶子や周囲からは同性愛者と告げられており、それは本人も否定していない。幸に対しても複雑な感情を抱いていたため、それで幸からも一定の距離を置かれるようになる。ただ、彼女に対しては恋愛対象とかでなく、もう一度戦いたい好敵手という意識に変わっている。
- 弁天橋雛(べんてんばしひな)
テニス界でも名を馳せていたという弁天橋財閥の令嬢で、唄子が一方的に決めた圭一郎の婚約者。圭一郎と見合いをして以来、彼にぞっこん惚れ込む。最初は蝶子の策略もあって、彼の心を奪った幸のことをよく思っていなかったが、後に幸の優しい人柄に触れて考えを改める。母親に褒められれば良いような他人に靡いた生き方をしていたが、圭一郎や幸がきっかけで、自分らしさを振る舞うことにもなる。なお、蝶子は彼女と圭一郎の関係も知っていたため、それも同時に排除しようとしていた。
- 鰐淵京平(わにぶちきょうへい)
桜田の勤務する高利貸し屋の親会社「クロコダイルエージェンシー」の社長で、血も涙もないような冷酷な男であり、海野に借金返済を迫った張本人。逆らったものは遠慮なく拷問をかける。劇中で幸に惚れ込み、何度か彼女に迫ろうとする。また、幸の兄の居所を把握しており、生殺与奪の権も握っていたため、幸は何度も翻弄されるようになる。桜田が幸の味方になったのは、彼が自分の女にしようと目をつけ始めた(上司から、タチの悪い遊び人で、すぐ相手をポイ捨てすると聞かされていた)ことがきっかけ。それで、幸を彼の魔の手から守ろうと次第に裏切り行為に出るようになる。あまりに周囲に敵を作りすぎたため、皆に裏切られた挙げ句、最後はもっと危険な団体に命を狙われることになり、イギリスで無様な醜態を晒しながら命乞いをする有り様に。
- サンダー牛山
演:笑福亭鶴瓶
アメリカロサンゼルス出身の日系人。鳳唄子の依頼を受けて幸のコーチになる。いやらしい目つきに手入れをしない禿頭と胸毛、不健康そうな太鼓腹に加え、登場時には酒の臭いをプンプン漂わせていたなど、見た目からして怪しげな人物。だが、コーチ兼トレーナーとしては超一流で、他人の身体を触っただけで、コンディションや怪我の状態を即座に見極める能力を持っている。将来的な成長を期して選手を育てることがモットーだったが、試合結果にはこだわらなかった(時にはわざと負けることも指示していた)ことで、契約選手と齟齬が生じていた。八百長疑惑や教え子へのセクハラなどの疑義をかけられ、テニス界を永久追放されていた(尤も、これは本人の故意ではない部分もあった)。本人も当初は、彼女を食い物(賭博興行の当て馬)にするつもりだったが、唄子の推薦で幸のコーチをしていくうちに、その能力に魅入られていき、彼女と強い信頼関係を築いていくようになる。なお、女性に興味を持っているのはあくまで肉体美(アスリートのボディ)であり、ニコリッチの全裸を目撃しても全く性的な興奮はなかった。同居相手が男性(オカマ)だったりする。半野良の猫を数匹飼っており、その中でアナルという名前の子猫が海野家の一員となっていた(幸は恥ずかしい名前を変えようとしていたが、結局最後までそのままだった)。
- サブリナ・ニコリッチ
東欧出身の世界的プレイヤーで劇中最強の選手。淡々としたクールな性格。昔は貧しかったため、初心を忘れないためでも、今も質素な暮らしをしている。幸が清水の舞台から飛び降りるつもりで買おうとしたセール品のカーディガンを先に買われてしまったことも、彼女にライバル意識を持つようになったきっかけ。家庭環境は海野家以上に壮絶なもので、父親は巨額の脱税容疑で収監、兄は薬物中毒となっていた。それが原因で引退するのではと囁かれていたが、彼女の引退の意図は別の部分にあった。
その他の人物
- 山口百太郎(やまぐちももたろう)
桜田の助手。中卒で、品性がすこぶる悪い。桜田のことを兄貴と呼び慕っている。勉強は苦手だが仕事に必要な最低限の知識は備えており、調査、諜報能力に長けている。
- 桂木
鳳家の執事。唄子が若い頃から仕えており、彼女が海野家を毛嫌いする秘密を圭一郎に教えたりした。
- ジョン・トラボルタ
唄子の愛犬(フレンチブルドッグ)。二百万する純金の首輪をかけているが、その重い首輪を外すと迅速に行動する。性格は獰猛で、気に入った相手しか懐かない。幸、圭一郎を気に入っており、一時は家出し、自立しようと姿を晦ませていた彼の行方を捜す手がかりとなった。
- 竜ヶ崎花江(りゅうがさきはなえ)
竜ヶ崎財閥の会長で京都在住。蝶子の母親。鳳唄子とはかつて日本女子テニス界を二分したライバルであり、テニスプレイヤー引退後も財界で熾烈な争いを繰り広げている。操は守る鳳唄子に対し、この娘にしてこの母ありというほど男遊びが趣味で、ホスト通いに興じている。洋装を好む唄子に対し、和装を好んでいる。また、話には出て来ないが蝶子の発言によると旦那もいるようである。その一方で、テニスに関しては真摯な一面があり、トレーニング嫌いな娘に対し思うことがあった。なお、ドラマ版では原作以上に挑発的かつ策略家であり、唄子を挑発したり、蝶子の演技(幸が酷いプレーをしたかのようにわざと倒れたりした)にも「あの子も演技がうまなって…」とほくそ笑んでいた。
- 辰己(たつみ)
桜田の上司で、ビッグバンファイナンスの営業部長。仏の辰巳と自分で呼ばせているが、かなり性格は粗暴(ただし、鰐淵や三枝と較べると、まだマシと思える人格)。
- 三枝十三(さえぐさじゅうぞう)
桜田の上司で、ビッグバンファイナンスの店長。鰐淵に忠誠を誓う余り、部下にはきつく当たる。しかし、死の淵まで追い詰められた鰐淵をただ一人、最後まで匿ったりと仁義は通す性格でもある。
- クラゲの仁吉
仙人のような面構えをした賭場の敏腕ハンデ師。どちらの味方につくでもないこととガタガタの入れ歯が外れると骨がないような喋り方をすることから、クラゲの仁吉と呼ばれているが、サンダーは彼に恩義を感じていた。
- ナタリー
本名は岩田一徹(いわたいってつ)。サンダー牛山と同じアパートに同居しているオカマのおっちゃんでバー勤務。帰りが遅いので彼の部屋に住み着くこともしばしば。自分は女性だと思っているが、その形相故に周りからは妖怪(桜田曰くタタリー)と思われている。料理が得意らしいが、おにぎりぐらいしか登場しない。幸がアメリカやヨーロッパに遠征している間、保護者として弟妹三人の世話をしていた。
- アーリー・キャリントン
アメリカロサンゼルス出身のテニスコーチ。サンダーとは小学生のときに知り合った旧知の仲。サンダーからは理由あってウンコたれと呼ばれてしまい、以後もお互いの意見の相違から仲違いを繰り返していた。サンダーとは対照的に、徹底した管理主義で勝利にこだわり、そして自分の地位名声が上げてテニス協会会長になることを目論んでいたが、選手にとってはそれを窮屈に感じていたことを後で思い知ることになる。コーラを飲むと腹を下してしまい、以来コーラを毛嫌いしている。
- ウェンディ・パーマー
全米ナンバーワンコーチ、アーリー・キャリントンの目にかけられていた期待の星。正確無比で、安定したストロークを売りとするが、徹底した管理教育によって築き上げられたもので、本人は決してテニスのプレー自体を楽しんでいなかった。ウィンブルドンで幸をあと一歩まで追い詰めるほどの実力者だが、心が突然乱れた(失恋)せいで自滅してしまう。その後、ラケットをへし折るほど悔し涙を流すが、お互い言葉が分からないまま幸と意気投合する。
- タマヨ
日系人の女性で元はテニス経験者。いわゆる肝っ玉母ちゃんタイプで、11人の子供を育てあげたらしい。西海岸で幸に出会ってから彼女のファンとなり、ブックメーカーでは彼女の勝利を信じ100万円を賭けていた。
- 二子山景子(にこやまけいこ)
竜ヶ崎の遠い親戚で、どこまでもがめつい守銭奴。どぎつい名古屋弁を語る。若菜と貴菜という底意地は悪いが、世間では人気を得ていたアイドルテニスプレイヤーの双子の娘がいる。幸たちは蝶子の計略で、一時的に彼女の双子の娘のヒッティングパートナー兼お手伝いとして居候させられてしまうが、金策に必死だった彼女に覇気が削がれることがなかった。名前のモチーフは二子山部屋の若乃花と貴乃花。
- 飛鳥(あすか)
圭一郎が一時的にバイトしていたホストクラブ『ビスコンティ』のナンバーワン。客には優しい一方で仕事にはどこまでも厳しく、腑抜けていた鳳に対し「(ホストの)仕事ナメんなよ」と一喝するシーンも。竜ヶ崎花江が贔屓にしていた相手でもある。
- 由利薫(ゆりかおる)
特定危険団体「由利組」の親玉で、金を返さない相手は手段を選ばず人をフルチンで殺すという大悪党。柄に合わずドールハウス収集が趣味。フィリピンパブなど風俗業が収入源となっており、無数のフィリピーナをタコ部屋労働させていた。
- ルビー
由利組が経営していたフィリピンパブで働いていた女性。内職(無断接待)を重ねていたことがバレて倉庫に監禁されてしまう。二十代そこそこだが子供が三人おり、父母は病気だったためやむなくお金を工面していた。救出してくれた桜田に惚れ込み、彼のことをサグラダサンと呼ぶようになる。
海野家の人々
- 海野家康(うみのいえやす)
演:荒川良々
幸の兄で、幸より4つ上。幸が中3のときに大学生で学生実業家となっていた。夢見がちでお人好し、そして全く懲りない性格で、途轍もない借金を作ったまま姿を消した。いわゆる物語の元凶。不慮の事故(素人によるフグ調理)で父母を死なせてしまったことを負い目に思っており、失敗を挽回しようと色々なインチキ事業に手を染めて、借金だけを雪だるま式に増やしていた。元は兄も父に教わって幼少からテニスをやっていたらしいが、妹の方が上手くなったためテニスをぱったりやらなくなり、それでテニスに変わる何かを模索していた(兄がテニスをやっている場面は劇中にない。それも妹にとっては負い目に感じている)。一億円の保険金がかけられていたため、ずっと鰐淵の部下に付け狙われていた。
- 海野舵樹(うみのかじき)
幸の弟で海野家の二男。五兄妹の三人目。幸とは8つ差(姉がテニスをやってたのは小学2年ぐらいだったと発言しているが、幸がテニスを再開して2年後もまだ小学生だったため、矛盾がある)。プロレス好きで三男の三悟と一緒にタッグを組むのが夢。小学校ではやんちゃ坊主であり、よく幸が保護者に代わって謝りに出ている。
- 海野沙代里(うみのさより)
幸の妹で海野家の二女。五兄妹の四人目。おませな性格で、自宅に彼氏を連れ込んだこともあるらしい。また、勝手に姉の下着や化粧品を使ったりして姉の手を焼かせている。彼女が長男に買ってもらったミカちゃんハウスというドールハウスが話の終章にも登場し、話の展開の鍵を握っていた。
- 海野三悟(うみのさんご)
幸の弟で海野家の末っ子三男。初登場時は幼稚園児。無口だが人の善悪を見極める能力に長けている。第六感が優れており、大人が口に出せないようなことも平気でズバッと言ってしまうなど、この作品のある種、キーマンでもある。
- 海野洋平太(うみのようへいた)
幸の父。故人。元はテニスプレイヤーでグランドスラムに最も近い日本人といわれるほどだった。鳳のテニスクラブのコーチにもなり、鳳唄子の初恋の相手でもあったが、彼が婚約者の福子を紹介し、そのまま結婚してしまったため、逆恨みでプロテニスプレイヤーの道を絶たれる(劇中に具体的な描写はない)。しかし、子宝に恵まれ、貧しくとも兄妹にテニスを教え、幸を私立中学に行かせることができたなど普通に幸せな暮らしをしていた。幸は色々父親との思い出を語っており、「負けて悔しくない人は強くなれない」が座右の銘となっているほか、彼に連れてもらったニンニクたっぷりのネギラーメンが思い出の味となっている。
- 海野福子(うみのふくこ)
幸の母。故人。父より出番は少なく、幸の語りのみ。幸が得意とするカレーライスは母親に教えてもらったものらしい。また、八代亜紀のファンだったらしく、よく振り付けをしながら歌っていたことを幸が語っている場面がある。
余談
テニス版YAWARA!と思えるほど、外見や雰囲気が似ているキャラが多く登場する。これについては作者曰く、前作の『YAWARA!』に対し、本当に浦沢が描きたかった作品と位置づけている部分があるためだが、前作と本作には色々と決定的な相違点がある。
題材のスポーツ:YAWARA!では一般的に女子への受けが悪く、女子スポーツとしては発展途上だった柔道(これは『帯をギュッとね!』『柔道部物語』でも触れている部分がある)に対し、Happy!では一般的に女子への受けが良いが、逆にいえば当時においても、最も女子プロスポーツ界隈が爛熟していた狭き門のテニスを扱っている。また、競技の描写はフィクション的な要素が強かったYAWARA!よりずっと本格的(魔球など一部フィクション的要素もある)であり、試合の展開だけでなくフィジカルや身体の怪我、メンタル、トレーニングの部分にも触れたりもしているほか、試合での対戦無敗だった柔に対し、幸は何度か試合で負けており、悔し涙も流している。また、中3のときに全日本ジュニア大会で優勝しているが、そのときが大会初優勝だった。
主人公の環境:住所は同じ世田谷区北下沢。猪熊家は一等地に構える庭付きの一戸建て(ただし父親が失踪、母親はその父親を日々捜索など家庭関係は海野家より複雑)なのに対し、海野家は、幸が中学ぐらいまではテニス部強豪の名門私中に入れられるほど、暮らしぶりはまだマシだった(それでも周囲からは貧乏人と言われ、中学では差別を受けていた)が、両親を不慮の事故(フグ中毒)で失ってからは住居を売却し、私立中学を退学してから公立高校に進学、弟妹三人と商店街の一角にあるボロい木造アパート暮らし(ただし、姉弟とも仲は良い)で、幸はプロテニスプレイヤーになるために、高校も三年で自主退学、内定企業も蹴っている。
主人公:YAWARA!の猪熊柔はどちらかというとセンシティブな性格であり、それゆえ劇中で心の情景、内面が複雑だった(回想シーンも多い)。対するHappy!の海野幸は不遇な家庭、社会環境からか世間や周囲からは鈍感であり、内面はそこまで作品に掘り下げられていない(柔より心象がわかりやすく描かれている)。嗜好は、オシャレに敏感で、ファッショナブルな料理を好んでいた柔に対し、幸はコロッケパンやにんにくたっぷりのラーメン、梅干し、納豆、酢こんぶを好むなど嗜好が庶民的で、柔よりはっちゃけたリアクションも多い。また、蛇足的な情報だが、スタイルにコンプレックスを抱いていた柔に対し、幸の方がプロポーションは良い(風俗業にスカウトされるぐらいなので。劇中にはスリーサイズも書かれている)。髪型は柔は左分け、幸は両分け。顔は瓜二つに見えるが、柔は横長で少し垂れ目気味であり、幸は縦長で下瞼が短め。
お互い三歳からスポーツに打ち込んでいたという点は共通するが、柔はどちらかというと祖父にやらされていた、自分のためより周りに影響されて柔道を続けていた、対する幸は家庭事情でやめざるを得なかった、しかしテニスは自分の家族や生活のためにやって、最後には自分から競技の楽しさを見つけている違いもある。また、盛んに天才と呼ばれていた猪熊柔に対し、海野幸は一度も劇中で天才という言葉で呼ばれていないなど、生まれ持った身体能力や集中力はあっても基本は不断の努力とハングリー精神で、頂点にまで這い上がった人物でもある。
熱血漢:松田はボロアパート暮らしでゴミまみれととことん生活能力が低く、物事をあまり掛け値で見ないタイプ、そして柔に対しては出会ったときから惚れ込んでいた。乗り物はバイクに乗っている。対する桜田は金融業の営業マン故に羽振りはまだ良い方(1LDKマンション暮らしで、中古のスポーツタイプに乗っていた)で、部屋もきちんと整理整頓しているなど生活能力もそこそこ高い(ただ、料理は松田と同じぐらい苦手らしい)。物事に対しては、割と打算的な部分がある。幸に対しては徐々に惚れ込んでいくが、鳳圭一郎との関係も把握しているため、彼の味方になることも少なくなく、最後の最後まで幸とは一定の距離を置き続けていた。また、松田より血の気が荒く喧嘩慣れしており、サシの勝負だとかなり強い。顔は桜田の方がサル顔である。ちなみに、盛んに猪熊柔の名前を呼んでいた松田に対し、桜田は劇中で一度も、海野幸のことを名前はおろか名字ですら呼んだことがなかった(営業的な挨拶を除いて)。
御曹司:風祭が口先がうまい女たらしなのに対し、圭一郎は女性関係はウブで、人が良い。その半面、風祭と違い世間には相当疎く頼りないところがある(風祭はお坊っちゃんの割に世間に明るい)。何においても要領が良かった風祭に対し、圭一郎はテニス以外の能力はまるで欠けていた(ホストクラブでバイトしていたときに何度も失敗を繰り返している)だけでなく、自分で何も決断できなかった。また、お互い反目しあっていた松田と風祭に対し、桜田とはお互い認め合っている部分もある。お互い、あがり症で土壇場の場面で弱いという共通点もあるが、いざという時の勇敢さは鳳が遥かに上回っており、劇中で成長を遂げたキャラという点においては、松田に近いものがある。
お嬢様:さやかが、根は泥臭いこともいとわないスポ根少女なのに対し、蝶子は練習嫌いの遊び好きで、いわば才能だけで勝っていくタイプ(また、竜ヶ崎家は鳳唄子曰く成り上がり)。また、卑怯なことは嫌いフェアプレーに徹していたさやかに対し、蝶子は自分のためなら、卑劣な手段も享楽にしか考えていない、徹底されたヒールでもある。また、周囲をあまり気にせずあくまで自分のペースで競技を続けていたさやかに対し、プロになってからスポンサーの機嫌を取ったり、自分を売り込むためにキャラを作ったりと蝶子の方が計算高い。また、柔道に関しては一度も天才と呼ばれなかったさやかに対し、本作で天才と呼ばれているのはヒロインではなく蝶子の方である。
色物コーチ:滋悟郎が社会的に地位、名声を得たコーチなのに対し、サンダーは一度テニス界を追放されており、賭博界隈で働いていたはみ出し者の存在。また自我が強い滋悟郎に対し、サンダーは選手(幸)の意思を尊重していた。
親友:公私共に柔を支え合っていた富士子に対し、菊子は幸に対しては恋愛対象としても見ていたため、彼女から一定の距離を置かれるようにもなる。また、気が弱い富士子に対し、菊子は目的のためなら怪我を圧して試合に出るなど、気がどこまでも強い。
恋愛関係:ネタバレになってしまうので多くは語らないが、YAWARA!とはまるで模様が異なっている。ただし、幸の心が最終的にどっちにあったのかについては読者が想像する余地が残されている。また、前作が女たちの心のすれ違いならば、本作は男たちの心のすれ違いが軸となっている。
完全版に記載された作者のあとがきによると
作者は当初、団体戦を主眼としてバレーボールを題材に描こうとしたが、着地点が同じ五輪になっては前作と差別化を見出せないということで、お金を稼ぐプロスポーツ、そしてウィンブルドンを最高峰とするテニスを描こうとしたとある。また、観客から歓声が飛び交った猪熊柔に対し、ブーイングを浴びせられるヒロインという構図も意図的な設定であった。
そのため、記録的ヒットを続けた他作品に比べ、愛情を持って描いた割に人気もそこまで上がらず作者曰く地味なままで終わった。しかし、完全版刊行を機に、自分で読み返してみれば逆境に負けないヒロインのサクセスストーリーも悪くないのではないか、むしろ今のご時世こそこういう作品が求められるのではないかという思いを抱くようになり、満を持して完全版刊行を決意したという。連載終了後に再評価されていった作品でもあり、完全版を含めた累計発行部数は1800万部に上っている。
また、浦沢直樹関連の書籍が電子化することに際して大きな話題となったが、この作品だけなかなか電子書籍版が刊行されていなかった。しかし、発表から1年余りの時を経て2023年1月から漸く電子書籍解禁となった。