概要
OS/2とは、PC-DOSの後継としてIBMとマイクロソフトが共同開発したオペレーティングシステムである。
特徴
- バージョン1は16ビット(CPUは80286以上)、バージョン2以降は32ビットOS(CPUは80386以上。一時はPowerPC用も開発された)である
- ファイルシステムとして、DOSのFATに加えて、途中からHPFSが追加された
- MS-DOSコマンド類似のOS/2コマンドを持つ
- 最初からプリエンプティブ・マルチタスクを実現していた
※プリエンプティブ・マルチタスクとは、割り込み機構を使って現在実行中のプロセスを中断させ、スケジューラを呼び出して次に実行すべきプロセスを決定させる。それによってある一定時間内で、CPU時間は全てのプロセスに(配分はどうであれ)分配される。
簡単に言えば、決められたタスク(プログラムの仕事)をプロセスに決定させて、分配させて処理すること。
名称
正式名称はIBM Operating System/2(マイクロソフトの場合はMicrosoft Operating System/2)であり、「2」は次世代を意味する。
尚、バージョン1.3以降はIBM版のみで、「OS/2 Warp」はバージョン3から付けられた名称である。
特徴
- DOS互換環境
バージョン1は1つのみ。80286で使用するための制約を受けてCPUのリアルモードとプロテクトモードを強引に切り替えることとコンベンショナルメモリを圧迫した設計により、特に日本で不評を博した。
バージョン2以降は、複数(マルチ仮想DOSマシン、MVDM)。仮想86モードを使用し、複数のDOS環境をプリエンプティブ・マルチタスク環境下で稼動させる。BIOSや一部のドライバーの実処理コードを別アドレス空間、MVDM上にそれらの呼び出しコードを配置したことでDOSアプリケーションが使用できるコンベンショナルメモリを広く確保できたため、WindowsのDOSコマンドプロンプトや、更にはDOS自体と比較しても、アプリケーションの動作を安定させることのできる場合があることで注目された。
- Windows互換環境(WIN-OS/2)
エミュレートではなく、マイクロソフトのライセンスを含むWindows本体のモジュールをOS/2のMVDM上で稼動させ、複数のWIN-OS/2同士を稼動することもできたため、互換性や、複数アプリケーションを稼動させた際の安定性は優れていた。
- OS/2バージョン1
基本版(PC単体での使用を想定した)と拡張版(データベース処理やホスト接続機能を含めた)が存在。
- OS/2 1.0:1987年4月2日:IBMとマイクロソフトの共同開発。GUI非搭載。
- OS/2 1.1:1987年:GUIであるPM(Presentation Manager)搭載。
- OS/2 1.2:1989年:HPFS採用。拡張版にREXXが装備された。
- OS/2 1.3:1990年:IBMの単独開発となる。基本版にもREXXが搭載された。
- 1991年6月:当時主にマイクロソフトが担当し開発中だったOS/2 3.0をWindowsNTと改名。
- OS/2 2.0:1992年:主にIBMが開発を担当。Windows 3.0用のアプリケーションをサポート(WIN-OS/2)。
1992年6月:IBMとマイクロソフトは、1993年9月まででOSソースの相互公開を中止することを決定。
- OS/2 2.1:1993年:Windows3.1が動く(WIN-OS/2がWindows 3.1相当になった)。日本語版において、IBM純正のATバスマシンだけでなく互換機もサポート対象に追加した。
1993年9月:IBMとマイクロソフトのOSソースの相互公開が終了。
- OS/2 2.11:1994年:ユーザインタフェースの改善など。
- これとV3、Connectは、WIN-OS/2の有無でパッケージが分かれる。
- OS/2 Warp V3:1995年:Ver.3にあたる。32ビット専用化。前述のOS/2 3.0とは別物・無関係である。
- OS/2 Warp Connect V3:1995年:Warp V3にLAN対応機能(TCP/IP、LAN Serverクライアント、NetWareクライアントなど)を追加。
- OS/2 Warp 4:1996年
デスクトップ版はこの後引き続き下記のWarp Server for e-businessをベースに開発続行。
- OS/2 Warp Server for e-business:1999年:NT 4.0 Server群をシームレスに管理可能。
- OS/2 Communications Server for OS/2 Warp, V6.1:2000年:SNAとTCP/IP間の通信を統合。
- Convenience Package for OS/2 Warp 4 (V4.51):2001年
- Convenience Package for OS/2 Warp 4 (V4.52):2002年
歴史
元来は、IBM PS/2のOSとして、IBMとマイクロソフトとの共同で開発されたものである。
OS/2 1.x
最初のVer.1.0ではGUIは搭載されておらず、16ビットのOS/2コマンドプロンプトとDOS互換環境をキーボードでスイッチできた。OS/2コマンドプロンプト間は最初からプリエンプティブ・マルチタスクであった。
次のVer.1.1でGUIとして、OS/2プレゼンテーションマネージャー (PM) が搭載された。外見はWindows 3.0とほぼ同一である(OS/2 PMもWindows 3.0も、IBM Systems Application ArchitectureのCUA'87準拠のため)。
Ver.1.2のリリース後、マイクロソフトはWindowsの開発に注力することになり、以降はIBMのみの開発となった。拡張版において、REXXを装備した。
1990年、IBM単独開発で更に軽量化したOS/2 1.3を発売。このバージョンにおいて、基本版にもREXXを装備する。
これ以降の開発は、OS/2 2.0を主にIBMが、OS/2 3.0を主にMicrosoftがそれぞれ分担することとなる。
Windows 3.0発売時、当時開発中のOS/2 3.0(後にWindows NTと改名)の主要な拡張Windows APIや拡張OS/2 APIを置き換えると決め、IBMとの緊張を生むことになる。マイクロソフトはその後、IBMとの一切の共同開発から手を引きWindows NTの開発に専念するようになった。
OS/2 2.x
1992年3月31日、IBMは世界初のパーソナルコンピュータ用32ビットOSである、OS/2 2.00を発売。Windows3.0互換環境(WIN-OS/2)、複数のDOS互換環境(MVDM)を持ち、統合プラットフォームとして一つの完成形を見る。また、UIをがらりと変更し、オブジェクト指向のGUIであるワークプレース・シェル(Workplace Shell、WPS)を標準環境とした。
ワークプレース・シェルは、CORBA準拠のオブジェクト間通信技術、SOM(System Object Model) / DSOM(Distributed SOM)の上で構築されていた。SOMは、オブジェクト指向ではないOSで、言語にほぼ依存せずにオブジェクト指向の機能を実現するオブジェクト管理用の開発環境である。また、ワークプレース・シェルは、操作のオブジェクト指向という点では、デスクトップに余計なもの(メニューなど)を表示させず、ユーザ側がアクションを起こしたときにしか表示されない(Warp 4以降は軌道修正でメニューバーが表示されるようになった)。
これらの技術背景により、オブジェクトの動的追跡などが可能というメリットがあるが、長期間使用していくとデスクトップが壊れたりファイル操作に時間がかかるといった問題も抱えることになった。
Ver.2.1ではWindows3.1用のアプリケーションが動くようになった(WIN-OS/2がWindows3.1相当になった)。386エンハンスドモードを要求するWindows 3.1用のアプリケーションも動作するようになった。(Ver.2.0ではスタンダードモードのみ対応)
Ver.2.11からは、導入済みWindows 3.1環境に上書き導入することで、パッケージにWindows 3.1モジュール(WIN-OS/2)及びそのライセンスを含まない低価格パッケージのJ2.11 for Windowsが追加され、以下の2パッケージとなった。
- OS/2 Ver.2.11:Windows互換環境(WIN-OS/2)を含む
- OS/2 Ver.2.11 for Windows:Windows互換環境(WIN-OS/2)を含まないが、導入済のWindows3.1があれば、それをWIN-OS/2として使用できる
1993年9月、IBMとマイクロソフトのソースコードの相互公開契約が満了し、これ以降のOS/2とWindows NTは完全に分化し、それぞれ別の発展をすることとなる。
OS/2 2.11は、対抗商品となったWindows NT 3.1の完成度の低さと、Windows 3.x系との互換性の高さから、当時のパソコン用32ビットOSとしては比較的リソースを消費せず、Windows 3.1のソフトウェアがほぼ完全に動作することから「OSごと落ちない完全なマルチタスク可能なWindows3.xマシン」として利用された。また、当時のパソコン雑誌「DOS/Vマガジン」と「PC WAVE」にOS/2 2.11の体験版(CD-ROM)が収録された(当時は雑誌でCD-ROMを付録にすることはできず、引換券を出版元に送付することにより入手できた)。このため、CD-ROMドライブの普及に貢献したと言われる。
1994年10月、IBMはモトローラと共にPowerPCを使ったプラットフォーム、PowerPC Reference Platform(PReP)を提唱。PReP向けにマイクロカーネル上で複数のOSを動作させる、Workplace OSの開発をIBMは表明したが、最終的には、OS/2 for PowerPCを作り上げるに留まった。
またこの頃からアップルコンピュータやノベルとともに、OpenDoc(マイクロソフトのOLEとほぼ同様の機能を、高機能・マルチプラットホーム化したもの)の開発に取り掛かりWarp4に搭載されたが、後年Javaの台頭により、普及には至らなかった。
OS/2 Warp 3.x "Warp"
1995年3月に発売されたVer.3.0(MSが開発中で放棄したOS/2 3.0とは無関係)では32ビットCPU専用となり、開発コードWarp(ワープ)を製品名としてグループウェアのLotus Notesや日本語IMのWritingHeads/2等のアプリケーションを多数バンドルして発売された。ちなみに、開発コードのWarpは米国SF TVシリーズのスター・トレックに由来するもので、当時新スタートレックが放映中であったこともあり、バージョン4.0の開発コードがMerlinになるまで、スター・トレック関係の固有名詞が開発コードに使用されていた。
日本では、「DOSも走る、Windowsも走る。OS/2なら一緒に走る」(J2.11のテレビコマーシャル)「ワープを使え」という、山口智子のテレビコマーシャルが流された。IBMが家庭向けに販売していたパソコンであるAptivaシリーズにバンドルされるなど、個人ユーザー向けに最も積極的に普及のための活動が行われたのがこのころである。しかし、同年11月に発売を予定していたWindows95の評価が固まるまで、双方の導入を見送ったユーザも多かった。
OS/2 Warp 4.x
1996年OS/2 Warp 4を発表。
OS/2 Warp 3に対して様々な改良・強化をしているが、対応デバイスが少ないという不満に対しては、「Device Driver Pak」が導入され、OS側ではOMNIプリンタドライバやGRADDなどの、ドライバを作りやすい工夫が盛り込まれた(これらの一部はWarp 3にもフィードバックされた)。また、ユーザのレベル別に内容を変えるオンラインヘルプのWarpGuideが導入されている。また、ワークプレース・シェルのUIを大幅に変更し、メニューバーの装備、WarpCenterなど、他のOSで採用されたメタファーを積極的に取り込んでいる。また、Java VMをカーネルレベルで取り込み、VoiceTypeをサポートしている。
[pixivimage:48949475&page=2]
1999年Warp Server for e-business(WSeB)を発表。
2001年OS/2 Warp 4.51を出荷(ベースはWSeB)
2002年OS/2 Warp 4.52を出荷
2005年7月にIBMは正式なサポート終了通告を発表し、2006年12月末をもって通常ルートのメンテナンスを完全に停止する事となった。
現状
IBMは2002年のWarp 4.52を最後にOS/2のバージョンアップを打ち切り、使用を続ける顧客に対してサポートを続けていた。IBMはパーソナルコンピュータ市場では、Windowsに加えてLinuxを重視し、また、OS/2終了までのロードマップではJava環境への移行を薦めていた。
OS/2はその保守サポートにより1997年以降に主流となったPCアーキテクチャ(AGP、ユニバーサル・シリアル・バス、DVD±Rなど)や現在発売されているプリンタやCD-RW、DVDなどの周辺機器について対応している。
なお、OS/2 WarpのOEMバージョンであるeComStation (略称 eCS)が存在する。
関連タグ
AIX:IBMが開発・販売するUNIXオペレーティングシステムのブランド名である。