「トゥエルブYears.Old……十二歳の時代は、わたしとともに終わるんだ」
概要
『Twelve.Y.O.』は、1998年9月10日に講談社より単行本が出版された福井晴敏のサスペンス・スペクタクル・アクション小説。福井氏のデビュー作にして、第44回江戸川乱歩賞受賞作品である。
2000年に発表された氏の処女作『川の深さは』の続編であり、次作であり、大ヒットした『亡国のイージス』や『戦国自衛隊1549』の物語の軸にもなっている。
2001年には講談社より文庫本が出版された。
『川の深さは』は第43回江戸川乱歩賞の受賞を逃したが、当時の選考委員だった大沢在昌が同作を大いに絶賛して再挑戦を伝えるメッセージを送り、福井がそれに応えて応募したものが本作である。
ストーリー
謎のテロリスト「トゥエルブ」が、防衛庁よりコンピューターウイルス「アポトーシスII」と「ウルマ」なる兵器を盗み、電子テロを仕掛けてきた。要求は沖縄の米海兵団の撤退と、現アメリカ副大統領への謁見。
元・優秀なヘリパイロットで、現在は自衛隊地方連絡部所属の平貫太郎は、ふとしたことでかつての命の恩人の東馬修一に出会う。東馬の娘と紹介された謎の美少女「東馬理沙」、DAISの辻井護や夏生由梨ら工作員と「トゥエルブ」や「ウルマ」との戦い、「BB文書」と呼ばれる日米の政府をひっくり返す程の謎の文書を巡り、平はやがて日米政府をも巻き込む巨大な陰謀に関わることになる・・・・
登場人物
平 貫太郎(たいら かんたろう)
自衛隊地方連絡部所属(通称地連)の陸曹長で本作の主人公。大柄な体躯で、まるで生活指導の体育教師のようだと小説内では表現されている。
元々は優秀なヘリコプターパイロット(略称ヘリパイ)を集めた「海兵旅団」の創設メンバーとして声が掛かるほどの有能なヘリパイだったが、訓練中の事故によるトラウマでヘリコプターに乗ることができなくなっている。
過去の事故で瀕死状態になったところを助けたのが東馬修一であり、彼には恩義と、しかしその後黙って姿を消したことに対する恨みの入り混じった感情を持っている。
「海兵旅団」の創設メンバーに選ばれる程自衛官としての戦闘能力は勿論、ヘリの操縦の腕は一級品。しかし前述のとおり事故にあい、その時のトラウマでヘリに乗れなくなってしまう。その後は「海兵旅団」は廃止。平は厄介払いのように地方連絡部へ左遷され、その後地連の仕事である自衛官候補を街中などでスカウトしながら、十年間空っぽな生活をすごしていた。
しかしひょんなことから再び東馬修一に出会い、DAISと彼らの戦いに巻き込まれていく。
『亡国のイージス』にもヘリパイロットとして終盤のワンシーンに登場する。
東馬 修一(とうま しゅういち)
かつてDAIS局員として辻井護らの教官として活躍していた。父親がある高名なアメリカの政治家で、碧眼の持ち主。若い頃に父親の「仕事」を手伝っていた。
夏生からは「彼は善人」と呼ばれている。実際、心根は優しく、血のつながりのない理沙へ本当の父親の様に接する。過去に「三条弓里」という恋人がいたが、自身を暗殺しようとしていたアメリカのCIA工作員の手で殺されている。後述の夏生との馴れ初めも、彼女の名が同じ「ゆり」だったから。
温厚な人物で、平を事故から救出したのも彼であるが、その正体は「トゥエルブ」を名乗る電子テロリスト。
コンピューターウイルス「アポトーシスII」と、「ウルマ」こと最強のDAIS局員を防衛庁から盗み、日米政府にとって非常に重要な文書で、彼の生い立ちにも関係する「BB文書」を盾に日米両方にテロを仕掛ける。彼の真意とは・・・・?
東馬 理沙/村瀬 香(とうま りさ/むらせ かおる)
東馬修一の娘として「東馬理沙」を名乗り行動を共にする華奢な少女。非常に高い戦闘能力を持つ。
DAIS採用時に受ける富士の訓練キャンプで、最終試験のアメリカ海兵隊を敵に回しての野戦訓練にて、唯一彼女の組だけがゴールにたどり着けた。
彼女は相棒になけなしの食料と水をほとんどやり、自身は一週間飲まず食わずで負傷した相棒を担ぎ帰隊報告を見事果たした。
この話はアメリカ海兵隊や他のDAIS局員に広まり、彼女の名は伝説になった。
高い戦闘能力と内に秘めた母性から、当初は戦いの女神「アテナ」と呼ばれていたが、いつの間にか沖縄語で「珊瑚」を意味する「ウルマ」と名づけられ、それが彼女の通称になっていった。
辻井護とは同期で階級は一曹。
本名は村瀬香。親から虐待を受けていたようで、腕や背中に無数の煙草の押し痕がある。そのような半生からか無表情で自身の生には無頓着。上からの命令に絶対服従でそれ以外は何の興味も抱かない様子から、夏生由梨等からは「人形」とまで呼ばれている。
その非常に高い戦闘能力から、彼女はウルマという「兵器」としてDAISから認知されていた。
この物語の鍵を握る人物。
辻井 護(つじい まもる)
DAIS局員の二曹。夏生由梨の部下に当たる。同期である東馬理沙ことウルマに想いを寄せている。そのため物語途中で上官の由梨を裏切りウルマを庇い、以後平達と行動を共にする。
夏生 由梨(なつき ゆり)
DAIS局員の二等陸尉。表向きは陸上幕僚監部調査部第2課別室(調別)の士官。辻井の上官。東馬修一とは過去に恋人同士だった。
「キメラ作戦」と「ウルマ」の回収作戦の指揮をとる。
過去に父親に捨てられ、カトリック系の施設で育った彼女は、同じ施設の悪ガキの嫌がらせに対抗し、生き抜くためには強くならなくてはならない事を学び、上昇思考を持ち続けることで精神のバランスを保ってきたが、ある日大学で理不尽な単位未履修をつけられたことで、腹を立て大学の学生事務所のデータベースに侵入し成績を改ざんする。それが治安情報局(後のDAIS)のリクルーターに目をつけられ、そのまま情報士官として歩み、組織再編された防衛庁情報局、DAISの局員となる。
常に東馬と共に行動し、東馬から(娘としての)愛情を受けている「ウルマ」こと東馬理沙には(本人は無自覚だが)嫉妬しており、また彼女を「人形」と呼ぶなどあまり良い感情は抱いてない様子。
前作の「川の深さは」のエピローグにも彼女は登場している。
古武 正巳(こたけ まさみ)
DAISにおける国外事案を担当する外事部のトップである外事統括本部長。本作の黒幕。政財界に一大閨閥を形成する古武家の血筋を引く。性格は怜悧にして冷徹。利害が一致すれば何でも取り込み、必要無くなったら躊躇なく利用したものを捨てる。
井島とは旧治安情報局の時代から敵対関係にある。
井島 一友(いじま かずとも)
DAISにおける国内事案を担当する内事部の東部方面内事部長。夏生の上官。丸顔で局員からは「タヌキ」と渾名されている。その渾名通り、人の好さそうな顔とは裏腹に、緊急時には抜群の統率力と指揮能力を発揮する。必要さえあれば、部下の越権行為を見逃す器の大きい人物。
古武とは旧治安情報局の時代から敵対関係にある。
坂部 亨(さかべ とおる)
元左翼活動家。現在は町工場を経営。東馬に命を救われたことがあり、今回の事件では東馬修一に協力し、家をアジトとして提供している。非常時には銃を持って戦う。
坂部優子
坂部亨の妻。40代半ば。学生運動時の内ゲバの負傷で当時妊娠していた子を流産し不妊になる。ウルマに「理沙」と名づけた張本人。その名は過去に流産した子に付けるはずだった名である。
理沙を本当の子のように扱い、理沙も優子に上着につけられたダックスフントのワッペンを任務に必要なくとも外したりせず大事にしている。
伏見
内務監査室長。市ヶ谷の警察長官。
的場 丈史(まとば たけし)
「海兵旅団」の創設者。40歳前後。海兵旅団とは独立した活動権限を有し、独自のヘリコプター部隊と輸送部隊によって機動性と自己完結性を有する彼曰く「戦える自衛隊」。平を海兵旅団にスカウトした張本人で、ヘリパイロットの資格を持つ幹部海上自衛官。自衛隊の陰から生じた鬼子と平から評される。しかし彼の提唱した「海兵旅団」は結局理由不明のまま廃設された。
戦国自衛隊1549にも登場するが、幹部陸上自衛官という設定になっており、映画版では「的場毅」という名前に、海兵旅団に相当する組織の名前がFユニットになっている。
ロバート・コフリン
アメリカ国家安全保障局(NSA)の極東駐在職員。辺野古基地で東馬修一たちを待ち受ける。
デビット・ローグ
アメリカ海兵隊強襲偵察海兵(マリーン・レコンズO-5)の中佐。辺野古基地で東馬修一らと対決する。