それほど遠くない昔、まだこの国が戦争を忘れていなかった頃……
概要
『終戦のローレライ』とは、2002年に単行本化された福井晴敏氏の長編小説。ハードカバー版上下全二巻。(この時の装丁を担当したのは後に実写映画版の監督を務める樋口真嗣氏である)
2005年に全四巻で講談社より文庫化。
同年「月刊アフタヌーン」にて、作画・虎哉孝征氏、脚色・長崎尚志氏にて漫画連載開始。コミックは全五巻。(※長崎尚志氏は三巻からクレジットから外れている)
第24回吉川英治文学新人賞、第21回日本冒険小説協会大賞日本軍大賞受賞。
後述の通り、本作は映画化を前提として、映画監督からの発注の上で執筆された(にもかかわらず発注を無視してしまい小説版と映画脚本版で大幅に内容を変える羽目になった)という特殊な作品である。
また、作者の福井は本作の前にも∀ガンダムのノベライズ(前編しかプロットができてないので後半は独自にやれという破格の内容)を依頼され、後に機動戦士ガンダムUCを描くことになる、公私ともに富野由悠季と接点のあるガンダム関係者である。本作におけるパウラの能力に関する設定は、ガンダムシリーズのニュータイプをガンダムを知らない層向けに描くといった意図もあり意図的に似た能力とされていることが当時のインタビューで語られている。
ストーリー
1945年7月、太平洋戦争が終焉に向かおうとしていた年、潜水学校にて教鞭を振るっていた絹見真一少佐は、浅倉良橘大佐からある特命任務を受ける。
それは、戦利潜水艦伊507を受領し、同艦の艦長に任命、五島列島沖に廃棄されたドイツ軍の特殊音響兵装PsMB1、通称ローレライの回収任務であった。
海軍の上等工作兵折笠征人、元ドイツ軍SSのフリッツ・S・エブナー、「無法松」と影で呼ばれる田口徳太郎兵曹長など、一癖も二癖もある人物が召集され、伊507は、やがて国の存亡をかけた数奇な運命へと舵を切る……。
登場人物(カッコ内左側は読み方、右側は映画版キャスト)
伊507乗組員
絹見真一(まさみしんいち/役所広司)
「伊507」の艦長。階級は少佐。四十三歳。優秀な海軍の軍人であり潜水艦乗りであったが、義理の弟が国是に背き自害したことで、潜水学校の教師へと左遷された。
征人や清永からは「石頭の軍人」「鉄面皮」と呼ばれているが、艦長としては非常に優秀で、型破りな作戦で艦の危機を何度も救っている。本編の主人公の一人。(本作は群衆劇なので全員が主人公といえるかもしれないが)
折笠征人(おりかさゆきと/妻夫木聡)
(イラスト左側の人物)
上等工作兵。十七歳。生まれは相模湾の近く。本編の主人公の一人。特殊潜航艇「海龍」の乗組員。(映画版では人間魚雷特攻兵器「回天」の隊員で特殊潜航艇N式潜の正操舵手。階級は一等兵曹)
良くも悪くも少年らしい真っ直ぐな感性の持ち主で、彼の言葉は時に艦の運命を変えることがある。
田口には「(物事の裏にある真意を感じ取れるという意味で)目が早い」と一目置かれている。潜水につきものの窒素中毒にかかりにくい体質で、素潜りは横須賀突撃隊(横突)一と評される。
「ローレライ」の回収要員に指名され、ローレライの「核」の真相に触れたことから彼の運命は大きく変わることになる。
映画版では苗字の読み仮名が「おりかさ」から「おりがさ」に変わっている。また出身地も長崎に変わっており、絵を描くのが趣味と設定されている。家族構成は原作同様の母親のほか兄がいたが戦死したらしいことが示唆されている。
絹見同様、現在彼が単体で描かれた作品は存在しない。主人公の一人なのに……。
清永喜久雄(きよながきくお/佐藤隆太)
上等工作兵。征人の友人であり、同じく特殊潜航艇「海龍」の操舵員。二十二貫(約82.5キロ)と巨体であるが、「海龍」の操舵の腕は随一であり、ローレライ回収ではその腕を如何なく発揮した。
家は時計店であり、弟妹が七人いる。良くも悪くもおおらかなひょうきんな性格で、その性格が征人を励ましている。
映画版では元・野球少年で、「世が世なら甲子園の花形だ」と呟き常に野球ボールを離さない。
また原作の様に大柄ではなく、征人と同じく回天の隊員。N式潜の副操舵手で一等兵曹という設定。性格は原作とほとんど同じ。
フリッツ・S・エブナー
元ドイツ軍親衛隊(SS)士官。階級は少尉。二十一歳。「UF4」、後の「伊507」のローレライシステムの整備担当官。祖母が日本人の日系ドイツ人の為、容姿は日本人そのものである。ドイツ軍では「黄色いSS」という渾名であった。
冷静沈着。鉄の意志と容赦ない実行力はナチの化身と揶揄される程。だがそれは自分と妹が生き残るための行動であり、決して悪人ではない。
妹曰く「一つのことに夢中になると周りが見えなくなる」性格で、SSに入ってからは感情を消す努力をしていたが、絹見に言わせれば「嘘が顔に出やすい」とのこと。基本的に一直線の人柄。
後述のローレライの「核」に深い関わりを持つ。
ドイツ軍親衛隊士官という設定からか、映画版にはパウラの回想で子供時代のフリッツが手術台に乗せられ絶命するシーンが出てくるだけで、本格的には登場しない。
パウラ・A・エブナー(香椎由宇)
音響兵装PsMB1、ローレライの「核」となる少女(映画版では「ローレライシステムオペレーター」という役職名がついている)。十七歳。フリッツの妹。本作のヒロイン。
ドイツ軍の人種改良施設「白い家」の投薬実験により、「水を媒介にし、対象物の正確な位置、数、詳細な形状を全て把握できる」という能力が偶然発現してしまい、兵器として扱われていた。原作では実験で感知限界距離は半径百十三キロという数値を実証している。
ただし、水を媒介に読めるのは他人の思考もであり、敵艦を撃破した際には死人の痛みや怨嗟の声・恐怖・絶望など全てを感知してしまい、パウラは気絶してしまう。
その為ローレライ・システムを使えるのは一回の戦闘で一度切り。
兄と共に壮絶な半生を過ごしてきたためか登場時は冷たい印象を与える少女であったが、征人他「伊507」の乗員と暮らすうち、徐々に心を開いていく。
pixivでは本作関係のイラストは彼女の絵が多く、特にフリッツと一緒に描かれることが多い。
映画版ではドイツ軍の実験のくだりは回想で少し触れる程度で、過去についてはっきりとは描かれていない。
田口徳太郎(たぐちとくたろう/ピエール瀧)
階級は兵曹長。「伊507」の掌砲長。四十七歳。
本来の砲術長である仲田大尉が出航間際の「伊507」が敵機に襲われた際に囮になって戦死したため事実上の砲術長代行も務める。
右頬に抉れたような傷があり、強面で見た目はやくざ者。征人からは「無法松」「鬼瓦」と呼ばれている。
外見と裏腹に人情に篤い面があり、時に征人やフリッツ等の艦の若者を導いていく。
南方戦線に配置されていた過去があり、頬の傷はその時にできたもの。
高須成美(たかすなるみ/石黒賢)
先任将校兼水雷長。階級は大尉。三十六歳。
物腰の柔らかい優男。艦のNo.2的な存在。駆逐艦「夕立」の生き残りと語っている。
映画版では先述の通りフリッツが登場しないため、彼がローレライ・システムの軍属技師として登場。後半では後述の土谷の役割を担うなど原作とは一番人物像が変更されたキャラ。
また映画版では彼に代わって水雷長を務める船田(粟根まこと)という乗組員が登場。原作ではフリッツが担当していたヘッジホッグの解説を担っている。
岩村七五郎(いわむらしちごろう/小野武彦)
機関長。機関大尉。五十一歳。「エンジンの振動がなければ眠れない」と豪語する大のエンジン好き。映画版では酒を吹きかけてエンジンを止めようとするなどコミカルな描写が目立った。
木崎茂房(きざきしげふさ/柳葉敏郎)
航海長。大尉。三十七歳。映画版では先述の高須が軍属技師へと変更されたため、彼が先任将校を兼任している。後述の早川の役割も兼ねる。
早川芳栄
特殊潜航艇「海龍」の艇長。階級は中尉。三十三歳。映画版には木崎に統合され登場しない。折笠や清永の直属の上官。彼の存在が清永の成長に大きく影響する。
小松秀彦
甲板士官。階級は少尉。二十四歳。作中では「瓜実顔」と表現され、漫画版ではひょろりとした体型で描かれている。
規律に厳しく融通の利かない面があり、船酔いをよく起こしている。映画版には未登場。
代わり(?)に同姓の機関員小松春平(KREVA)が登場している。こちらはふてぶてしい性格で陰で岩村を毒づいている。
時岡纏(ときおかまとい/國村隼)
軍医長。軍医大尉。三十八歳。帝国大学医学部出身で、やや空想家な気質がある。おしゃべりで人柄は穏やか。「能天気」とまで評される。
だがパウラの能力について鋭い考察を述べるなど決して医学者として無能というわけではない。
帝国海軍
浅倉良橘(あさくらりょうきつ/堤真一)
軍令部第一部第一課長。大佐。四十五歳。
「伊507」をローレライ回収任務に当てた張本人。華族の家系の生まれ。非常に頭が切れる軍人で、海軍学校を主席で卒業。海軍の石原莞爾と称される程の才覚と先見の明の持ち主。年齢の割に外見が若々しく、絹見や大湊いわく「赤い口腔が印象的な、人間味のない爬虫類を思わせる」とのこと。
そのまま順調に海軍大臣への出世の道を歩むかと思われたが、「確かめたいことがある」と激戦地である南方前線に自ら赴いた。
国の未来を憂慮しており、「この国の迎えるべき終戦の形」のため、裏で策謀を巡らせる。
大湊三吉(おおみなとさんきち/鶴見辰吾)
軍令部第三部第五課長。大佐。四十五歳。
浅倉とは同期であり、学生時代から彼の才能を見抜いていた。姿を消した浅倉、並びに「伊507」の行方を追う為に奔走する。
戦後は戦犯として巣鴨の拘置所に拘留されていたが、生き残った征人とパウラを守るため、アメリカ相手に浅倉とアメリカの謀議の証拠を盾にハッタリを仕掛け断固とした姿勢を取り続けた。
彼の行動は、後述の防衛庁広報課なる組織が生まれる土壌を作った。
中村政之助(なかむらまさのすけ/江畑浩規)
大湊の部下。大尉。三十五歳。
大湊と行動を共にし「伊507」と浅倉大佐の行方を追うが、志半ばで死亡してしまう。
映画版では最後まで生存する。
天本徹二
大湊の部下。少尉。二十四歳。中村の後を引き受けて大湊と共に「伊507」、浅倉大佐の行方を追う。映画では中村が最後まで生存するため登場しない。
原作の終章では防衛庁広報課に所属しており、これは後の福井作品に登場する非公開情報組織DAISの前身である。生き残ったパウラと征人をアメリカ軍の手から大湊と共に守ってきた。
ドイツ軍
カール・ヤニングス
「伊507」の前身・「UF4」の艦長。四十三歳。ドイツが敗戦し、日本への逃亡への道行き、「しつこいアメリカ人」に襲われ負傷した艦の沈降を防ぐため、重要なローレライ・システムが収められたナーバルを五島列島沖に廃棄するなど(ローレライについての詳細を知らなかったとはいえ)艦長としてはやや能力に劣る。(そもそも「UF4」が日本軍に受け入れてもらうための条件がローレライの譲渡であった)
彼以下、フリッツ以外の「UF4」の乗員が日本につきどうなったかは漫画版では描かれていない。
しかし原作では長崎の捕虜収容所に収容され、その後原爆投下で全員が死亡したことが示唆されている。
アメリカ軍
スコット・キャンベル
米潜水艦「トリガー」の艦長。四十二歳。上層部(ONI(米海軍情報部))の命令により「UF4」(「伊507」)を執拗に追いかけローレライ・システムを手に入れるため敵艦として立ちはだかる。その執念深さからフリッツやUF4の乗員からは「しつこいアメリカ人」と呼ばれていた。
ローレライ・システムの性能を図るための当て馬として扱われていたことを知りながら、それでも「伊507」と対決する。艦長としては決して無能というわけではなかったが、最後は絹見の奇策にはまり、艦を撃沈され死亡。
マーティン・オブライエン
米空母「タイコンデロガ」艦長。四十八歳。
CZ探知法という画期的な水中探査法の開発に関わった功績がある優秀な人物。物語後半の「伊507」の敵として立ちはだかる。
「艦長と話して見たかった」「戦うには、ローレライの魔女はやさしすぎたな」など、「伊507」にどこか共感しているのが窺える。
映画版では彼およびキャンベルに相当する駆逐艦「フライシャー」艦長フレッド・ジェイコブスが登場する。
土谷佑(つちやたすく/忍成修吾)
海軍技術中佐。三十八歳。
その正体は米海軍情報部(ONI)の対日工作員。日系アメリカ人で、「土谷佑」という名も任務に当たるにつけられた偽名。本名は不明。
激しい人種差別にさらされた半生のせいからか、非常に残忍な性格。他者を貶め、自分の目的の為には部下すら見捨てるのも厭わない。パウラからは「ナチスと同じ」と蔑まれた。
アメリカには忠義など感じておらず、ただ土谷の素質を見抜いたONIに「肌の色を利用されているだけ」であり、最後には田口と征人に撃たれ、パウラに内面をのぞかれ、重大な情報を知られ絶命する。
映画版では高須と同様立ち位置が大きく変わっており、階級は少尉。浅倉の忠実な部下として暗躍する。
下の名前の読みが「たすく」から「ゆう」に変更されている。
その他人物
ルツカ
ドイツ軍人種改良施設「白い家」でのパウラの友人。生まれはポーランドのロズで、14歳。ブルネットの髪と瞳を持つ活発な少女。右手首に彫られた被験者番号は4313-01。フリッツに惚れている。
「リンドビュルム計画」の新たな被検体として(ペテンを働き)パウラと同じ棟内に招かれたが、生体解剖にかけられ悲惨な最期を遂げる。
映画版ではフリッツに統合される形で未登場。
コルビオ
フランス潜水艦「シュルクーフ」の艦長。ひげもじゃで、パウラいわく「小説の挿絵に出てくる艦長そのもの」といった風情。ドイツ軍の捕虜となったあともローレライ・システムと艦を連結させる改装のために活躍する。
そこでパウラと出会い、二人は心を通わせる。しかし最後は老朽化したUボートごと最終実験の有人標的にされ、シャンソンに包まれながら艦と共に沈んでいき死亡。映画版には未登場。
兵器
日本
伊507
絹見が艦長を勤める戦利潜水艦。勿論架空の船であるが、船体は「シュルクーフ」という実在したフランスの潜水艦。史実では商船に衝突し沈没したが、本作ではドイツ軍に拿捕され「UF4」に改装される。
性能
排水量 | 3250t(水上)4303t(水中) |
---|---|
全長 | 110m |
全幅 | 9m |
喫水 | 7.25m |
機関 | ディーゼル二軸、水上:12,400馬力、電動モーター、水中:4,000馬力 |
速力 | 水上:25ノット、水中:15ノット |
兵員 | 8+110名 |
兵装 | 550mm固定式魚雷発射管×4門(前部)550mm旋回式魚雷発射管×4門(後部)400mm魚雷発射管×4門 203mm連装砲×1基 25mm対空機関銃×2基(映画版では撤去) |
潜航艇 | 特殊潜航艇N式潜(ナーバルPsMB-1)×1艇と海龍×1艇(物語途中で廃棄) |
(Wikipediaより)
シュルクーフ
実在したフランスの潜水艦。巨大な二門の大砲が特徴。詳細はリンク先へ。
ナーバル
パウラの後ろの潜水艇。
「伊507」の甲板に設置された小型潜航艇。ローレライ・システムの中枢である。映画版の正式名称は特殊潜航艇N式潜。パウラは「UF4」時代ここでの生活を強要されていた。
ナーバルとはドイツ語でイッカクイルカのこと。一応緊急時には単独で航行でき、自衛用にT3型魚雷が二本搭載されている。モデルはドイツの小型潜航艇「ゼーフント」。
ローレライ・システム稼働時には艇内は海水が注水され、パウラは温熱器を仕込んだ防水スーツと脳波感知の為のヘルツォーク・クローネという特殊なヘルメットを被る。
映画版では撮影上の問題か、艇内の浸水はなく、特殊な触媒液が防水スーツの内側に巡るという設定で、そのため防水スーツには触媒液注入のためのいくつものチューブが接続されている。
頭部にヘルツォーク・クローネは被らず、手から感知像を発令所に届けるという仕組みになっている。そして母艦からN式潜が離脱しなければローレライ・システムは稼働しない。
アメリカ
SS-223 "ボーンフィッシュ"
実在したガトー級潜水艦12番艦。史実では1945年6月19日に能登半島の七尾湾にて日本海軍海防艦に撃沈されたが、劇中では沈没したふりをして脱出後、司令部からの命令を受け「伊507」拿捕のため出撃する。
物語の序盤にて、回避不可能な距離から発射された「伊507」の魚雷が命中、沈没した。
映画版の冒頭にも登場し、原作同様に喪失。後述の駆逐艦「フライシャー」と共同で「伊507」を追い詰めていたらしい。
艦内は「伊507」セットの模様替えで撮影している。
SS-237 "トリガー"
実在したガトー級潜水艦26番艦。史実では1945年3月28日に豊後水道にて海防艦の爆雷攻撃で沈没したとされるが、劇中では「ボーンフィッシュ」と同様、表向きには戦没認定されながら「伊507」拿捕の任務に就く。序盤の強力な敵として立ちはだかり、フリッツたちドイツ人からは「しつこいアメリカ人」と呼ばれる。
沈没した「ボーンフィッシュ」に替わり派遣された「スヌーク」と共に「伊507」を追い詰めるも、ギリギリまで接近しイルカの曲芸の如く「トリガー」を飛び越え、牽引していた無人の海龍をぶつけるという奇策によって大ダメージを負う。ほぼ行動不可能な状態ながら「伊507」に一矢報いようとするが叶わず、水中で発射された20.3センチ砲弾が命中、轟沈した。
SS-279 "スヌーク"
実在したガトー級潜水艦68番艦。史実では1945年4月8日以降に戦没認定を受けている。増援として「トリガー」に同行するが、「トリガー」が攻撃された後に「伊507」が発射した魚雷が命中し呆気なく撃沈された。
"バルヘッド"
船籍を除籍された潜水艦で構成された「幽霊艦隊」(ゴースト・フリート)所属艦。テニアン島にて「伊507」を待ち構えるが、錨鎖を伸ばして体当たりした「伊507」に引っ張られる形で海中を引き摺り回された後「ラガード」に激突。何とか脱出しようと図るが「伊507」が対抗したためにもつれ合いに発展、最後は切断された錨鎖にぐるぐる巻きにされた状態で浮上し無力化された。
劇中ではガトー級と表記されているが史実のガトー級にバルヘッドなる名前は無く、恐らくバラオ級のSS-332"ブルヘッド"がモデルと推測される。
"ラガード"
「幽霊艦隊」所属艦。「バルヘッド」が離脱したため「アルバコア」と共に「伊507」を攻撃するが、隙を突いて後方に回り込んだ「伊507」が発射した信管抜きの魚雷でスクリューを破壊され、とどめにナーバルが放った魚雷が命中、沈没した。
モデルはバラオ級のSS-372"ラガード"。
SS-218 "アルバコア"
実在したガトー級潜水艦の7番艦。史実では1944年11月7日に津軽海峡にて触雷、沈没した。「幽霊艦隊」最後の一隻であり、「ラガード」が被弾した後に「伊507」を追撃したが、ナーバルの魚雷により撃沈された。
「幽霊艦隊」の潜水艦郡では唯一映画版にも登場している。
エセックス級航空母艦 "タイコンデロガ"
実在したエセックス級航空母艦の一隻。テニアン島への「伊507」接近阻止のため哨戒任務からテニアン島防衛に回される。終盤では「伊507」が撃沈されたと誤認される中、「タイコンデロガ」にぴったり張りつくように浮上した伊507が原爆搭載機を撃墜する様を見届けた。
クリーブランド級軽巡洋艦 CL-62 "バーミンガム"、CL-66 "スプリングフィールド"
クリーブランド級軽巡洋艦の8番艦。テニアン島にて「伊507」を迎撃するが、「バーミンガム」は信管抜きの魚雷をスクリュー部分に命中させられたことで行動不可に陥り、「スプリングフィールド」は魚雷二発が命中、機関が誘爆したため轟沈した。
なお、誤植かは不明だがスプリングフィールドが何故かボルチモア級重巡洋艦と表記されている。
フレッチャー級駆逐艦 DD-669 "コッテン"、DD-558 "ロウズ"、DD-671 "ガトリング"、DD-559 "ロングショー"
実在したフレッチャー級駆逐艦の同型艦。テニアン島にて伊507の雷撃の目標となり次々とスクリューを破壊され無力化された。
なお原作の設定時期(1945年8月)にはロングショーはすでに撃沈されている(1945年5月沖縄戦で沈没)。
サウスダコタ級戦艦 BB-60 "アラバマ"、BB-59 "マサチューセッツ"
サウスダコタ級戦艦の同型艦。「アラバマ」は雷撃によるスクリュー破壊で無力化され、「マサチューセッツ」は後退する駆逐艦に替わって「伊507」を追撃するも、急速浮上した「伊507」の砲撃で艦橋を吹き飛ばれてしまい無力化される。
ノースカロライナ級戦艦 BB-56 "ワシントン"
ノースカロライナ級の2番艦。「伊507」の砲撃を煙突部分に受け、反撃するが間に合わず逃げられる。
駆逐艦"フライシャー"
映画版のみに登場する架空のフレッチャー級らしき駆逐艦。「伊507」との戦闘で艦首部分に被弾し後続の二隻を失う。終盤ではテニアン島に集結した大量の駆逐艦と共同して「伊507」を攻撃した。
劇中の描写から、艦番号は418と分かるが実際にこの数字を冠した駆逐艦はフレッチャー級ではなくシムズ級である。
駆逐艦"シンプソン"、"ブラウンキル"
ともに映画版にのみ登場する架空のフレッチャー級らしき駆逐艦。テニアン島に集結し旗艦となった「フライシャー」の指示の下「伊507」を追い詰めるが、次々とスクリューを破壊され無力化された。
史実のシンプソンはクレムソン級(DD-221)。また当時発売されていた模型で艦番号は615とされているが、実際にはこの数字を冠した駆逐艦はベンソン級である。
潜水艦SS-353"ジュゴン"
映画版にのみ登場するバラオ級潜水艦。原作の「幽霊艦隊」に相当するポジションで、「アルバコア」とともに電池室異常によって航行不能になった「伊507」に止めを刺そうとする。
しかし木崎の犠牲によって「伊507」は復旧、N式艇から放たれた魚雷によって「アルバコア」ともども撃沈された。
劇中で艦番号353と描かれ、当時発売されていた模型でも艦番号353に相当する「ジュゴン」と命名されているが、史実のジュゴン(デュゴングとも)は1944年10月23日に建造が取り消されている。
B-29 "ドッグ・スレー"
東京に投下予定の第三の原爆を搭載する機体。史実のエノラゲイ、ボックスカーと同じ第509混成飛行群所属。機長はキャビン・レイシー中佐。
終盤にて、予定通り原爆投下のためテニアン島を離陸するも、浮上した「伊507」の砲撃により撃墜され原爆と共に海中に没した。映画でも同じ末路を辿るが、原作と異なりノーズアートが「犬橇に乗ったブロンド娘」から「翼を生やした犬小屋に入った犬が爆弾に跨がっている」ものへと変更されており、デザインは押井守が手掛けた。
映画版の撮影用模型は樋口真嗣氏が初めてスタッフとして参加した映画『零戦燃ゆ』で使用されたもの。
B-29 "モンスーン"
観測機として"ドッグ・スレー"に随伴する機体。テニアン島を離陸した直後に伊507に撃墜された。映画には登場しない。
単語
リンドビュルム計画
「白い家」にて能力が発現したパウラを革命的水中索敵兵器として運用するための計画。計画名のリンドビュルムとは、ドイツ語で「飛竜」という意味。
白い家(ヴァイセツ・ハウス)
東プロイセンのケーニヒスベルクに建てられた研究施設。表向きは「レーベンスボルン」の姉妹機関。
だが実態はSS長官ハインリヒ・ヒムラー直轄の人種改良施設。ドイツ国内やドイツ占領下の国から攫ってきた、四代前にアーリア人の血が混じっている、ユダヤ人ではない十五歳以下の子供が収容対象。(フリッツは収容時十六歳であったが、特例で収容が認められた)
オカルト狂いのヒムラー直轄施設なだけあって、「治療」の内容は外科的手術や麻薬めいた薬物投与など非常に過激。パウラは十二歳の時、ここで水を媒介とする感知能力に目覚めてしまう。
椰子の実
島崎藤村作詞の日本の童謡。本作のテーマともいえる歌。パウラがよく歌っていたが、映画版ではヘイリー・ウェステンラの「モーツァルトの子守歌」に変更されている。
主題歌変更はかなりギリギリだったようで、映画版でも折笠とパウラが甲板上から椰子の実が流れていくのを眺める未使用シーンがある。
夜のごとく静かに
征人の実家に置いてあった父親の形見のレコード。歌詞はドイツ語だが共産主義圏のロシアの歌手が歌っているので戦時中の日本では赤盤指定されていた。広島の芸者おケイが同じレコードを持っていたのを偶然聞いてしまった征人は、おケイと束の間の語らいの時を経る。
おケイは「これを聞いていると不思議と希望が湧いてくる」らしい。勿論現代日本では聞くことは禁止されていない。
映画版
2005年に作者と長い付き合いの盟友となる樋口真嗣監督により映画化。
というよりもそもそもはと言えば樋口からの「亡国のイージスを是非映画化したいが、とても2時間に収まる内容ではないので、映画化を前提とした2時間に収まる新作を書いてほしい」という注文がもとで書き下ろされたのが本作である。……にもかかわらず完成して見れば亡国のイージスの2倍近いボリュームという特大の事故を起こしており、二人して盛大に自虐している。
また、本作の題材となる「第二次世界大戦」「潜水艦」「女性搭乗員が鍵となる」といった要素は、映画化を前提とした樋口監督からの注文である。
奇しくもこの直後に『戦国自衛隊1549』、そして他の監督により実写化された『亡国のイージス』(樋口の懸念通り内容が大幅にカットされ不評の声も少なくない)が続く、福井晴敏原作映画3連発の初撃となる。
基本的なキャラクターやテーマこそ原作通りだが、経緯からすれば当たり前であるが原作そのままで2時間にするのは不可能である。
そのために大幅に内容をカットすることとなったのだが、作者自身が改変に(短くしろと頼まれたのに長くした責任として当然ではあるが)参加したためか、要点はおさえられている。
主な変更点としては
- 伊507出撃後の話に絞られ、出撃までのエピソードはまるまるカットされている。
- 主要人物の内、フリッツ・S・エブナーが故人となっており彼に関連するエピソードは全てカットされている。
- 反乱に関連するエピソードの経緯やメンバーが変更され、これに伴いキャラの生死や死因も一部が変化している。
- 高須成美が複数のキャラクターの要素を合わせた形に統合され原作と役回りが大きく異なる。
- パウラ等の主要キャラについて原作では過去エピソードが存在したが、基本的には短時間のイメージカットのみで省略されている。
- 「生き残った乗組員の子孫である作家(上川隆也)」が現代で米駆逐艦乗組員の生き残り(ゴードン・ウェルズ)に「鋼鉄の魔女」について取材しているという様式であり、冒頭・結末及び米軍の一部シーンで作家の男や元米駆逐艦乗組員によるナレーションが挿入される。
- パウラの歌う曲(映画版テーマソング)が変更されている。
等。
樋口真嗣による特撮表現によるハッタリ重視の戦闘シーンの他、米兵のシーンはアメリカ人スタッフに任せてよりアメリカ人らしく描いてもらう等、監督の持ち味が活かされた内容となっている。
一方で、先述の他の福井原作映画と比べても、迫力重視のためにリアリティよりノリと勢いを重視したような映像も目立つ。前述のように主要人物の過去の描写をほとんど省略したために「南方戦線になぜ浅倉たちが赴いたのか」など主要人物の行動理念の説明が不足しているなどの批判点も見られる。
「長」にアクセントを置いた「艦長」や「だいさ」、「だいい」読みなどの当時の海軍独特のイントネーションや、当時の潜水艦の狭さについても、考証に基づいたこだわりがなされており、雰囲気の再現度の高さは必見。
ただし、そのままでは地味になるために指示の伝達に身振り手振りを加えるといった、映像映えとしての独自アレンジも見られる。
CGコンテの一部には庵野秀明も参加している他、庵野に加え福井とはガンダムを通し接点のある富野由悠季がカメオ出演している。
その他、佐藤直紀による劇伴音楽の一部は長年にわたりバラエティで多用される人気曲となっている。
2007年2月24日にフジテレビ系列「土曜プレミアム」で地上波初放送された際には、作家の男と元米駆逐艦乗組員のナレーションと登場シーンが全てカットされ、未使用に終わったN式艇内での折笠とパウラの会話シーンで締めくくられた。
別名・表記ゆれ
ローレライ :題名のモデルとなったドイツのライン川の魔女の名。美しい歌声で船乗りたちを惑わせる。映画版のタイトルでもある。
余談
pixivでは潜水艦作品ということで艦隊これくしょんや蒼き鋼のアルペジオとのクロスオーバー絵が多い。