概要
アメリカのロックウェル・インターナショナルが1970年代に開発した試作V/STOL戦闘機。廉価な小型空母でも運用可能な艦載機として開発されたのだが…
開発の経緯
空母というのはその特性上、艦体を大型化せざるを得ないため製造・運用コストがかかる。だからもう少し小さい「お手頃サイズ」の空母が欲しい…という考えで、制海艦という小型空母がアメリカ海軍にて構想された。
だが、そうなると飛行甲板も小さくなり滑走距離を確保できなくなる。となると、VTOL機を艦載機として使うという発想に行き着く。ちょうどその頃、イギリスでハリアーが実用化されており、VTOL機も現実味を帯びていた。そういうわけで「制海艦用のVTOL艦載機」として開発されたのが本機である。
仕様
試作機であるためか、機首部分はA-4、翼桁やエアインテークなどはF-4から流用されている。翼はエンテ翼付きのデルタ翼。垂直尾翼は主翼の端部に付いている。
VTOL機構に関しては「オーギュメンター・ウイング」というものを採用している。これは簡単に言うと、主翼の上面にジェット噴射を行い揚力を「水増し」することで、V/STOLを可能とするものである。ジェットエンジンからの排気をダクトを用いて主翼上面に導き、(計算上では)推力の55%を浮上に回せる。一般的な推力偏向式よりも可動部品が小規模で済み、信頼性は高い(はず)。なにより見た目もカッコイイ。それでいて最高速度はマッハ2級を目標。…あれ、これだけ聞くとなんだかF-35Bよりも高性能じゃない?
さてどうなった
で、完成した機体をクレーンで吊るして試運転してみたけど…
「あれ?」
なんと、予定していた推力が出ない。
どれだけかと言えば、前翼のノズルからはエンジン出力の6%、主翼のノズルですら19%しか出てない。55%どころか浮上に必要な推力の75%程しか出なかったのだ。
…実は本機の機構そのものに問題があった。ジェットエンジンからの排気を導くためにダクトを使うのだが、ここの配管の曲がり角で圧力損失が発生し推力が減ってしまったのである。
おまけに制海艦の構想そのものが、「普通の空母作ったほうが高くても使い勝手がいいんじゃないか」という結論に行きついた結果立ち消えとなり、本機の存在意義そのものが失われてしまった。
関連タグ
ハリアー:こちらはV/STOL機として成功した例。
YaK-38:こちらも「実用機」として量産されたが、通常飛行用のエンジンとは別に垂直離着陸用のリフトンジンを搭載した事で重量がかさみ、運用にも大きな制約が出てしまった。だが、西側に威圧感を与えたという意味では成功と言える。
関連イラスト