インターセプターを目指して
アメリカ空軍はF-106戦闘機に続くマッハ3級の高速迎撃戦闘機としてXF-108を開発していたが、予算及び航続距離の問題から開発中止を余儀なくされた。
それに代わる高速迎撃戦闘機として、CIA向けに開発されたA-12偵察機をベースにした戦闘機に白羽の矢が立った。すでに基本設計が完了している機体であることからXF-108よりも低コストで開発できると考えられたのである。
A-12からの主な変更点は以下のとおりである。
- 火器管制レーダーの装備
- XF-108用に開発されたヒューズAN/ASG-18火器管制レーダーを搭載した。
- これに伴い機首周りの設計が変更された。
- ベントラルフィンの追加
- 機首周りの設計を変更した関係で空力特性が変化したため、胴体下とエンジンナセル下部にベントラルフィンを追加した。
- レーダー手席の追加
- A-12は単座だったが、レーダー手席を追加して複座とした。
- ウェポンベイの装備
- A-12では偵察装備を装備していた部分にウェポンベイを装備した。
搭載装備はAIM-4ファルコンの改良型のAIM-47Aファルコン空対空ミサイルを3発。こちらもXF-108に搭載予定だったものである。
本来は4発分のスペースがあったが火器管制システムの搭載スペースに1発分が潰されてしまい、搭載数は3発までとなっている。
しかし原型が超音速偵察機という特殊用途の機体だったこともあって、即応性が求められる迎撃機にはふさわしくない要素が存在した。
- 離陸前の準備が面倒
まず高い耐熱性を持つ常温で固体のオイルを使用する関係上、エンジンの始動には相当の準備が必要だった。
エンジンの自力始動ができないため専用の始動機を必要とし、燃料の点火にもエンジンを予回転させてそこに燃料を噴射する必要があった。
- 搭乗員も準備が必要
コックピットは与圧されてはいるが、高高度での任務には不十分でありパイロットは宇宙服のような高度与圧服を着用した。
さらに急減圧対策のためにパイロットは着用後長時間純酸素を呼吸して血液中の窒素を追い出す必要があった。
- それに伴い運用コストが高い
専用の始動機や与圧服など装備が多く運用コストも高くなった。
- 肝心の戦う相手がいない
本来この高速迎撃機と相対するべきはソ連軍の開発した高速爆撃機であった。
それら以外の相手ではマッハ3の高速では速すぎて敵機を追い越してしまい迎撃できない。
しかしソ連がそこまでの高速爆撃機を保有していないことが明らかとなってしまい、戦うべき相手がいなくなってしまった。
搭載するAIM-47ファルコンはYF-12による発射試験では13発中12発が命中と好成績を残しているが、原型のAIM-4ファルコンはベトナム戦争での戦績が好ましくないなど評価は低い。
ただしこれはAIM-4自体が爆撃機の迎撃に特化したミサイルで戦闘機との交戦に不向きだったことが一因であり、もともと爆撃機の迎撃に特化した機体であるYF-12ではそれほどのリスクにはならなかった可能性もある。
試験飛行の成績こそ優秀ではあったが、戦うべき相手が見当たらないという高コストが割に合わない事実が明らかになったこともあって、1965年に93機が発注されたもののキャンセルされてしまった。
尽きない野望
このような特殊極まりない航空機ではあったが、派生型(?)も計画された。
- YF-12A
実際に3機制作されたA-12の派生機。
開発中止後もNASAの実験機として余生を過ごし、1970年代まで運用されていた。
- F-12B
93機が発注されたF-12の生産型。機首レドームの形状が変更され、空力が改善される予定だった。
- YF-12C
ジョンソン大統領により、初めて公表された時の名称。
後述のように事故で全損したYF-12の試作3号機の代替としてSR-71A1機をNASAに貸与したものであり、厳密にはYF-12ではない。
総生産機
総生産数は3機だが、このほかに1機がYF-12を名乗っている。
- 60-6934
生産初号機。1966年8月に着陸時の事故で大破。残った後部とロッキードの静態テストの機体前部と組み合わされてSR-71Cへと改造された。
ニコイチ修理の機体だったため他のSR-71と操縦特性が異なり、安定性が不足したことから「バスタード(粗悪品)」と揶揄された。
現在はユタ州・ヒル空軍基地の空軍兵器博物館に保存されており、YF-12の名残であるエンジンナセル下部のベントラルフィンが確認できる。
- 60-6935
2号機。3機のYF-12のうち唯一無傷で退役し、オハイオ州デイトン近郊にあるライト・パターソン空軍基地の国立アメリカ空軍博物館に保存されている。
- 60-6936
3号機。1971年6月に燃料導管の欠陥に伴い飛行中に炎上、パイロットの脱出後に墜落した。3機のうち唯一全損した機体である。
- 60-6937
YF-12C。1971年に全損した60-6936で行う予定だった新型推進装置の試験用に1968年に退役していたSR-71をNASAに貸与したときにYF-12に編入された。
1978年に空軍に返却され、現在はアリゾナ州トゥーソンのピーマ航空博物館に展示されている。
登場作品
主にSR-71が武装して登場する際にはYF-12名義で登場する。
- 鋼鉄の咆哮シリーズ
一部の作品で艦載機として登場する。PC版ではSR-71名義のままミサイルなどを搭載している場合もあるが、家庭用版では『ウォーシップガンナー2』でYF-12ブラックバードとして登場している。
YF-12を改修した特殊偵察機が登場。ネイキッド・スネークの乗ったドローン改造機を搭載、ソ連領空付近で射出した。
- エースコンバットシリーズ
基本的にはSR-71のみの登場だが、『エースコンバット3』ではゼネラルリソースの運用する高高度戦闘機RF-12A2 ブラックバードが登場する。
他のゼネラルリソースが運用する実在機の改修機はF/A-18IやB-1Cなど実在機に次ぐアルファベットになっているが、本機のみRF-12DではなくA2である。