ダッソーの異端児
ミラージュF1の特徴は『水平尾翼のあるデルタ翼機』ということである。
もともとデルタ翼には
・高亜音速から超音速飛行に向いている(高速向きの翼形)
・主翼の構造強度を高めることができ、水平尾翼も省けるので空気抵抗も小さい
という特徴があり、
当時とくに後退翼で悩まされていた『エルロンリバーサル』解決としても期待されていた。
だが、デルタ翼には
・主翼の後端が後退翼よりも短くなり、フラップ(高揚力装置)をあまり設置できない
という欠点がある。
結果的に離着陸性能が悪くなってしまい、これが原因でフランス海軍からは見放されてしまった。
そこでダッソー社はミラージュⅢを基にした「ミラージュF1」を開発し、ここに返り咲きを目指したのであった。
エルロンリバーサル
超音速で補助翼(エルロン)が空気抵抗に負けて、
舵を利かせるどころか、逆に主翼がねじれて操作とは逆に利いてしまう現象である。
もちろん解決策は『主翼を頑丈にすること』だが、重量の制約とは常に隣あわせの戦闘機にとっては難しい課題である。
尾翼付きデルタ翼へ
ダッソー社戦闘機と言えば、純デルタ翼のミラージュ3が思い浮かぶ。
だが純デルタ翼には
・高速での性能は良くなるが、代わりに離着陸性能が悪い
という欠点があり、これが原因で艦載機の選定からは漏れてしまった。(ここまでは前述)
このミラージュF1が無尾翼形式を採用しなかった理由は離着陸性能向上のためである。
この変更のおかげでミラージュIIIよりも大幅に離着陸性能は向上したのだが、その後海軍から注目されることは二度と無かった。
(フランス海軍は結局F-8を使い続け、ラファールでようやく更新した)
売れっ子への道
ミラージュF1は1966年12月23日に初飛行を遂げたが、翌年5月に墜落して失われている。
事故原因の解明と対策に時間を取られたのか、フランス空軍への配備は1973年からとなった。
低速での扱いやすさが良くなった事もあり、輸出でも非常な好評を博した。
フランス以外にも採用国は12か国にもおよび、
スペイン・ギリシャ・リビア・クウェート・南アフリカ・モロッコ・ヨルダン・カタール・エクアドル・イラン・イラク・ガボンで運用された。
内、スペインとガボンはそれぞれ、フランスと南アフリカの中古である。
またイランは湾岸戦争の際にイラクから多数亡命した機を使っている。
現在でも多数が現役に留まっており、
最近ではマルタへ亡命したリビアの機が有名である。
ライバルも尾翼付きデルタ
当然、輸出するからには競合する規模の戦闘機、すなわちライバルが存在することになる。
このライバルがゼネラル・ダイナミクスF-16「ファイティング・ファルコン」で、こちらは主にNATO諸国への売り込みに成功している。
これに危機感を募らせたダッソー社はミラージュ2000を生み出し、対抗していく事になるのである。