呼称
アラビア語: الدولة الإسلامية(翻字ad-Dawlah al-ʾIslāmiyyah 〈ダウラ・アルイスラミーヤ〉)
英語:Islamic State〈略称はIS〉
イラクとシリアで主に活動する、イスラム教スンニ派の過激派組織。略称は『IS』、『ISIS(イラクとシリアのイスラム国)』。西洋諸国、日本政府からは『ISIL(イラクとレバントのイスラム国)』と呼ばれる。アラビア語圏では批判的に『داعش(Daesh/ダーイシュ)』と呼ばれる。本記事では『ISIL』の呼び名を使用する。
国家として2014年に名乗りをあげているが、他国からは国家として認められておらず、「イスラム教徒の代表面をするな」という多くのイスラム教地域の意向などもあり、エジプト政府やトルコ大使館などは「イスラム国」という呼び名を使わないよう呼びかけている。実際にアメリカ軍は「ダーイシュ(Daesh)」を使うよう公式に発表しており、フランス政府もこの呼称を使っている。その為、日本国内のモスクがメディアに対し「イスラム国」の呼称をしないよう呼びかけていた。日本でも与党である自民党は「ISIL」「いわゆるイスラム国」という呼称を採用し(当然ながら「イスラム国」の呼称を採用する日本のマスコミなどもこれを国家として認めているわけではないのだが、嫌マスコミのネット右翼にはこれを曲解しマスコミをテロリスト扱いするような極論を唱える者も多々存在する)NHKも2015年2月13日より呼称を「IS=イスラミックステート」に変更している。朝日新聞、東京新聞、毎日新聞では、記事の初出ではイスラム過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)として残し、2回目以降は「IS」と呼称している。
概要
ISISの最高指導者は、「カリフ」を自称する1971年生まれのアブー・バクル・アル=バグダーディーを名乗るイラク人(アブー・バクルという名は初代カリフから拝借した名乗りで本名はイブラヒーム・アッワード・イブラヒーム・アリー・アル・バドリー・アル・サマッライ)。
イラクとシリアの混乱に乗じて勢力を拡大し、残虐なテロ行為などで世界にその名を知られることになった。また、支配下に置いた地域ではクルド人やヤジディ教徒やキリスト教徒に対して大規模虐殺を行ったり、女性や子供を拉致して奴隷として売買するなどしている。
また歴史的な遺跡の破壊も行っている。
2015年には日本人2人(ジャーナリストとPMCを自称した男性)が囚われ、殺害したことをほのめかす動画が公開されている。
当初は王族の一部が資金援助をする等していたサウジアラビアさえも後に批判に転じており、イスラム教では禁じられている火刑を行ったことでスンニ派の聖職者からも非難声明が出ている。
元々イスラム教原理主義を掲げる国際テロ組織アルカイダの系列に属していた(組織の前身はムジャーヒディーン諮問評議会で、さらにその前身はイラクの聖戦アルカイダ)が、アルカイダすらISISの過激さについていけず「野蛮な組織」と非難し破門されている。そのためアルカイダ系のアル=ヌスラ戦線やアラビア半島のアルカイダとは対立している。
しかし他のテロ組織でも過激さで知られるボコ・ハラムやアブ・サヤフなどが連携を表明している。
イラク政府軍やシーア派民兵組織(過激派であるマフディー軍なども含める)、クルド人部隊(ペシュメルガやYPG人民防衛部隊)、シリアの反政府勢力のアル=ヌスラ戦線や自由シリア軍、シリア政府軍やヒズボラなどと交戦している。
なおシーア派国家のイランはISILを敵視しており、イラク政府軍とシーア派民兵組織の支援としてイスラム革命防衛隊の動員(義勇軍としてシーア派民兵組織に参加しているとも)や、F-4ファントム戦闘機での空爆などを行っている。そのためISIL対策でアメリカとイランは間接的に協力しているとも言える。しかしアメリカ政府はイランと公式に直接協力する気はないとの事。
野望など
野望としてはかつての大サラセン帝国であり、イベリア半島(スペイン・ポルトガル)から中央アジア(インド)に至るかつてのイスラム教徒居住地域と新蒙ウイグル自治区を統合することを目指している。長期計画としては、イギリスを含めたヨーロッパ全土やロシアや中国全土はたまた朝鮮半島までその勢力の拡大を目指している。「カリフ制」の復興を掲げ近代国家(国民国家)を全否定。また、現代的な管理通貨制度を否定し、金本位制度への回帰を掲げる。
特徴
- 製油所などを抑え、石油の闇売買などでかなり潤沢な資金を持っていた(現在は原油安で困窮)
- Youtubeなどネットで積極的に宣伝し、外国からも構成員を多数採用
- 人質に対する極めて残虐な仕打ち
などがある。動画配信では子供達への配給など福祉に力を入れるイメージを打ち出す一方で、捕虜とした外国人の残酷な拷問や処刑の動画を公開したりしている。その仕打ちとしてか、逆に捕虜になったISIL戦闘員が凄惨な拷問を受けたり処刑される映像などもかなり存在している。こうした事情から、関連動画や画像を検索する際にはグロ耐性の無い方は気をつけることをおすすめする。
資金源
先述しているが支配地域に豊富な油田を抱えており、それらの売買でかなりの収益を上げている他、農民からの寄付、公共交通機関からの手数料の徴収、支配地域にとどまることを選んだキリスト教徒からの安全保障料の徴収などを主たる資金源としており、1日200万ドル以上を荒稼ぎしていると見られている(現在は減衰している)。
なお、人質解放のために身代金を払えというニュースが一時多く報じられたことから身代金でかなり稼いでいると思われがちだが、そもそも身代金が支払われた件数が少なく、安定した収入源にはなっていない。
勧誘される若者
欧米や北アフリカ諸国からも、若者が彼らの宣伝動画やSNSでの勧誘に釣られて参画することが増えている。外国からの参画者は数千人に及ぶと言われる。こうした若者の中にはマイノリティや元からのムスリムだけではなく、十分恵まれた層にいながら日常生活に不満や閉塞感を抱くヨーロッパ系の白人達もいる。中には十代の少女達も少なからずいた。
しかし参画した彼らを待ち受けるのは傭兵としての戦地への投入やテロ行為の手先であり、逃亡しようとすれば殺される。女性は組織メンバーと強制結婚させられたり、性奴隷として扱われたりし、妊娠してしまって祖国に帰れなくなってしまう悲劇的な運命をたどった少女達もいる。また組織にハマってしまった若者達が外国人の誘拐や殺害も度々行っていたりもするため欧米諸国も危機感を募らせており、2014年にはアメリカが彼らの資金源である製油所を空爆したりISISと対立するクルド人民兵組織への支援もしており、その後も自国の軍パイロットを殺害されたヨルダンもISILへの空爆に加わっている。
日本においても、2014年に大学生がアングラ書店に張ってあった求人を見て加入のため渡航を試みようとしたのがバレて、仲介などに関わった元大学教授(中田考)も含めて家宅捜索を受ける事件が発生している。この大学生は就職活動に失敗してヤケになっていたのが志望動機と言われている。
なお、この摘発にあたっては「刑法の私戦予備及び陰謀罪」が初めて適用されたことでも話題となった。
既に日本人らしき男性が加入しているとの情報もあるが、信憑性に均しいので真相は不明。
また、組織に直接関わっていなくても、ISILに感化された者によって世界各地でテロを起こす事件が相次いでいる。
大事なことなので二回目
イスラム過激派組織「イスラム国」はイスラムを国教とする国々から非難されており、「イスラム国」の人々をムスリムとは認めていない。日本のムスリムもその例外ではなく、各報道機関に「イスラム国」の呼称をやめるよう訴えていることは前述のとおりである。
ジャーナリストの後藤健二さんを殺害したとみられる動画がインターネット上に公開されたことを受けて、パキスタンで生まれたイスラム教系新宗教アフマディーヤの日本支部「日本アハマディア・ムスリム協会」(愛知県)が、2015年2月1日に公式サイト上でイスラムを自称する「イスラム国」を非難する声明を発表した。
冒頭に
「日本国民と団結し、イスラム国によるこの卑劣な行為を非難し、また後藤健二氏のご両親、ご家族には心からお悔やみ申し上げます」
と後藤さんの家族にメッセージを送り、
「日本に住むムスリム(イスラム教徒)としてアッラー(神様)に、日本国民がテロリストグループによる様々な被害から守られるように祈っています」
とした。
その上で、「イスラム国」の行為を
「すべて許し難く、苦痛を伴うもの」
「真の教えを信じ、平和を愛するムスリムにとって、イスラムの教えとかけ離れた概念を持つイスラム国のような過激派グループが行っている行為は決して許されるべき事ではありません。彼ら(イスラム国)は断じてイスラム教徒ではありえません」
と厳しく批判した。
イスラム教の聖典「コーラン」にある「アッラーは平和の根源であり、安全を与える者である」との記述を引用しつつ、教義ではテロ行為を禁じていると主張、
「残念ながら、自己利益を目的にイスラムの名を使って戦乱を起こそうとしている一部の人たちがいます。しかし、彼らは正しいイスラムとは無関係です。人類の敵であり、またイスラムの敵であります」
と強い調子で指摘している。伝統的なイスラム教徒たちも『バグダディーへの手紙(Letter to Baghdadi)』という合同批判書簡を発表している。
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カリフ・・・イスラム教用語、意味は『開祖ムハンマドの代理人』、すべてのイスラム教徒の中心的存在となる役職で、キリスト教カトリックでの『開祖キリストの代理人』であるローマ教皇に匹敵する。オスマン帝を最後に公式のカリフ職は消滅。
【参考文献】
『マイペディア百科事典』