※ここでは、2007年に営業運転を開始したN700系新幹線について説明しております。2020年に営業運転を開始した後継車両のN700Sは完全な別形式であるため、当該記事をご覧下さい。
N700系新幹線電車
車両形式の「N」は「NEW」「NEXT」を表し、700系の次期車両を意味する。
2005年に先行試作車が登場し、2007年より量産開始。
2007年7月1日より東海道・山陽新幹線で主に「のぞみ」として営業運転に就き、その後は両社において増備が続けられ、東海道・山陽新幹線系統の最大勢力となった。また、九州新幹線全線開業に伴い2011年3月12日より山陽・九州新幹線直通列車「さくら」「みずほ」にも7000番台・8000番台が投入され、JR九州も本形式を保有することとなった。新幹線電車においてJR3社が保有する車両は本形式が初となる。
改良型「N700A」を含めると、2020年までに合計2976両が製造されている。(※代替製造車両を除く)
先代の標準形である700系をベースとして、曲線通過速度・最高速度・加減速性能、乗客の快適性、環境対策、それぞれを向上させることを目的として設計された。最高速度は300km/h(山陽新幹線区間)。営業用新幹線電車としては初となる車体傾斜システムの導入などで東海道新幹線においては300系投入時以来となる所要時間の短縮を実現している。当初は東京~博多は最速4時間50分(基本停車駅のみ停車)、山陽新幹線内ほとんどの「のぞみ」が基本停車駅+姫路駅、福山駅、徳山駅、新山口駅のうち1駅追加停車していたこともあって大半の列車については従来同等~停車駅増加した分遅くなっていた……のだが、その後の山陽新幹線内ATC改良に伴い東京~博多間最速4時間46分となっており、ついに500系が到達した記録である4時間49分が更に塗り替えられることとなった(なお当時品川駅は未開業であり新横浜駅と新神戸駅は通過であった)。
編成価格は約46億円と700系の約36億円より高価であり、実は500系と同等。
2008年に鉄道友の会よりブルーリボン賞を受賞。他、グッドデザイン賞やブルネイ賞など多数の賞を受けている。
番台区分
すでに使用可能な番号が枯渇するほどの制約がある上、JR3社が使用している事もあり使用番号が複雑化している。
使用形式 | 77X形、78X形(8両編成は766形、78X形) | 製造本数 |
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0番台 | Z編成、JR東海所有の16両編成 | X編成へ改造 |
1000番台 | G編成、JR東海所有の16両編成 | 51編成 |
2000番台 | X編成、0番台から改造 | 80編成 |
3000番台 | N編成、JR西日本所有の16両編成 | K編成へ改造 |
4000番台 | F編成、JR西日本所有の16両編成 | 24編成 |
5000番台 | K編成、3000番台から改造 | 16編成 |
6000番台 | 未使用 | |
7000番台 | S編成、JR西日本所有の8両編成 | 19編成 |
8000番台 | R編成、JR九州所有の8両編成 | 11編成 |
9000番台 | JR東海所有の16両編成で試作車。X0編成 | 1編成 |
合計201編成、2976両。(代替製造を除く)
これは、0系の3216両に次いで新幹線車両では第2位の製造数である(ただし0系は同形式同士での置き換えを行っていた為、全編成が全て揃ったことはなかった)。
最終編成であるG51編成、F24編成が落成したのは2020年1月であり、2019年2月に廃車になった試作車のX0編成を含めると全編成が揃ったことはない。
量産車のみだと、全編成揃った期間はX12編成が廃車されるまでの2020年7月までの約半年間のみであった。
製造両数や種類の多さもあり製造は日本車輌・日立製作所・川崎重工業・近畿車両の4社が担当している。
9000番台
2005年に登場した先行試作車。JR東海所有の16両編成1本が在籍した。量産車とは喫煙ルームが無い事、車掌室の位置や客室形態が異なる事等の理由で営業運転に就くことは最後までなく、専ら新技術の実車試験やデータ収集などに用いられていた。走行に関しては1000番台・4000番台にあわせる改造工事を施行したが、番号は9000番台のままであり、編成番号のみがZ0編成→X0編成へと変更した。
N700S9000番台に置き換えられる形で、N700系の廃車第1号として2019年2月6日に廃車となった。このうち1、8、14号車の3両は解体されずにJR東海が運営する鉄道展示施設「リニア・鉄道館」へと搬入され、同年7月17日より屋外にて静態保存された。
0番台・3000番台→2000番台・5000番台
2006年に最初に登場したグループで16両編成。耐用年数を迎えた300系を置き換えるために製造された。JR東海所有のZ編成が0番台、JR西日本所有のN編成が3000番台として登場した。
Z(→X)編成が80本、N(→K)編成が16本製造された。
2007年〜2012年に亘って製造されており、製造時期によっては一部仕様変更がなされている。
Z43・N10編成以降は5・12号車の主変換装置が走行風冷却式に変更された。
のち1000番台・4000番台相当に機能を向上させる改造工事が行なわれた。主な改造内容は以下の通り。
- 車輪ディスクブレーキのブレーキディスクのボルト締結方式を、内周締結式から中央締結式に変更しブレーキ性能を強化
- 定速走行装置の搭載
- 地震ブレーキの搭載
- 車体傾斜装置の改良
車番が+2000され、全編成が2000番台・5000番台となった。編成記号も変更され、JR東海所有の2000番台がX編成、JR西日本所有の5000番台がK編成である。
2020年7月より、後継形式のN700Sへの置き換えが行われており、同年7月2日のX12編成を皮切りに、9月26日までにX12~X14編成の3編成を廃車。
なお、廃車・解体された車両はリサイクルされ、N700Sの部品の材料に生まれ変わる予定。
7000番台・8000番台
2011年の九州新幹線(鹿児島ルート)全線開業に伴う山陽・九州新幹線直通列車向けに製造された。8両編成。JR西日本所有のS編成が7000番台、JR九州所有のR編成が8000番台である。
S編成が19本、R編成が11本製造された。
S編成・R編成の相違点として、車内チャイムの違いや車体のJRマークの色が挙げられる。
車内の内装は東海道系統のそれとは異なり、和風の木目調を用いた落ち着きのあるデザインとなっている。
座席は700系「ひかりレールスター」をベースに改良が施されており、指定席の座席は通路を挟んで2列ずつとされている。また、6号車がグリーン車・普通車の合造車という珍しい構成である。
九州新幹線内の急勾配に対応するべく、全電動車構成とされた。一方で、東海道区間とは異なり主要区間が線形の良い山陽新幹線でもあるため車体傾斜装置は未搭載であり、準備工事に留めている。
1000番台・4000番台
2012年末から改良型の1000番台・4000番台が製造開始。
「Advanced」の意味を込めて「N700A」の通称が与えられたが、あくまでN700系の一員である。
主に耐用年数を迎える700系を置き換えるために製造された。16両編成。JR東海のG編成は1000番台、JR西日本のF編成は4000番台を名乗っている。車体側面のロゴマークには大きく「A」の文字がある。
G編成が51本、F編成が24本製造された。
従来車からの改良点は、概ね以下の通り。
- ATCと連動した定速走行装置を搭載
- 車輪ディスクブレーキのブレーキディスクのボルト締結方式を、内周締結式から中央締結式に変更することでブレーキ性能を強化
- 台車振動検知システムの採用
- 車体傾斜装置の改良
- デッキ・洗面所・トイレの照明をLED化、2016年度落成分以降は客室部もLED照明化
- 車内自動販売機の廃止
- ドア開閉警告灯を設置
- 一部部材を変更
- トイレに温水洗浄便座を装備(2014年度落成分以降)
- ブレーキライニングを新型に変更し、制動距離を削減(2016年度落成分以降)
車両設計
車体
700系と同様の、アルミニウム合金によるダブルスキン構造の構体であるが、車体傾斜装置の搭載を前提として、車両限界に収まるよう車体幅が狭められている。車体幅を狭めた分、側構体を薄くすることにより、従来と同等の車内空間を実現している。
側構体を薄くした上で強度を維持するため、窓面積を小さくしている。その窓についても、従来の複合ガラス構造から、透明なポリカーボネート板に変更し、大幅に軽量化。
先頭部形状
700系のエアロストリームを発展させた、エアロ・ダブルウィングと呼ばれる形状を採用。
ノーズは700系よりも少し長い約11メートルで、運転室扉に干渉しており、またその直後の客用扉はプラグドアとなっている。
圧力波抑制にあまり寄与しないノーズの先端部の断面積変化率を大きくすることで、ノーズの長さを切り詰めることに成功した。また、トンネル突入時の圧力変化を抑えるため、先頭車は後ろのデッキ部を除いて屋根が低くなっている。さらに、左右に長い窪みを設け、前面ガラス周辺を盛り上がらせることで、気流の整流作用を向上させている。
これにより、300系と同じ座席配置を維持しつつ、300km/h走行時のトンネル微気圧波基準を満たせるようになった。
全周幌
700系では一部の号車に装備されていたセミアクティブ左右動ダンパを、N700系は全車両に搭載した。これにより、車体の横揺れが少なくなったので、車体の端部同士を繋げてしまう形で全周幌を搭載することが可能になった。
全周幌本体は四角いタイルのようなパーツとなっており、車体に1つずつねじ止めされ、連結部を跨いだ白いカバーの形態となっている。伸縮性のある特殊な素材でできており、高い強度と耐久性を持つ。
車両全体が平滑になるので、空気抵抗の削減が期待できる。
走行機器
300km/h運転を目的として、主電動機は連続定格出力を305kWに増強し、歯車比も2.79まで落とすことで、高速性能を確保。
主変換装置は従来よりも小型軽量化・信頼性向上を図った新型を採用。16両編成のうち中央寄りの6両には、走行風冷却方式の主変換装置を搭載している。1000番台・4000番台は全車両に走行風冷却方式の装置を採用し、さらなる小型軽量化を実現。
700系に引き続き、グリーン車の駆動装置にはTD継手を採用し、惰性走行時の床振動を無くしている。
台車は300系以来の円筒積層ゴム+コイルばね軸箱支持方式である。一方、九州新幹線直通用の7000・8000番台では、500系以来の軸梁式となっている。
パンタグラフは新形状のシングルアーム式を採用。下部のアームが極端に短くなった。
電動車比率を14M2Tに高め、車両制御伝送システムによる遅れ込め制御を導入したことで、常用ブレーキを全て電動車の回生ブレーキで賄うことが可能になり、よって渦電流ディスクブレーキを廃止。
700系では東海車と西日本車で走行機器に違いが見られたが、本系列では特に見られない。
車体傾斜装置
東海道新幹線内に多数点在する半径2500mの曲線を高速で通過するため、新幹線車両で初めて空気ばね圧力制御による車体傾斜機構を搭載する。半径2500mの曲線において、本則+15km/h、270km/hでの通過が可能であり、曲線通過時の加減速を不要とした。
車両の傾斜制御プログラムと地上設備の位置情報を元に、正確な車体傾斜を行い、乗り心地を向上させている。
N700Aでは車体傾斜の動作条件を半径5000m未満の曲線にまで拡大し、半径3000m以上の曲線において285km/hでの通過を可能とする。
なお、仮にこれら車体傾斜装置が故障した際は、700系と同じ運行ダイヤとなる。
山陽新幹線においては曲線通過速度の向上が必要ないため、車体を水平に保つ制御のみを行う。また、東海道区間での運用が無い7000・8000番台では準備工事措置とされている。
設備面
座席は、軽量化と座り心地を両立するため、座面クッションに金属のSバネと樹脂を合わせた複合バネを仕込んでいる。
グリーン車の座席は、リクライニングと共に座面後部が連動して沈むようになっており、包み込まれるような座り心地を実現。また、荷棚下には飾り照明が付いている。
受動喫煙防止の観点から、車内は完全禁煙とされた。ただし、喫煙需要にも応えるべく、16両編成では3・7・10・15号車に、8両編成では3・7号車に喫煙ルームを設置。
また、痴漢防止や犯罪抑止を図り、運転室と全ての客用ドア上部に防犯カメラが設置された。ドア上部のカメラは、デッキの出入口周辺を撮影する位置になる。
しかし、2015年の東海道新幹線火災事件を受け、更なる防犯措置としてデッキの通路を撮影するのに1台ずつ、さらに客室用として案内表示器の右側に1台ずつカメラが増設された。
車掌用設備として運転室および車掌室に乗務員連絡用の編成付属のPHS端末を搭載、車掌が客室内で業務中であっも乗務員間での連絡が行える。また万一の際は手元のPHS携帯端末から直接編成全車内へ向け一斉放送を行う事も可能。
性能
電動車比率の増加、車体傾斜装置など重量増加の要因が増えたため、700系よりも編成重量は増加しているものの、708tに対して715tとかなり抑制されている。
運行ダイヤの過密化が進む東海道新幹線において、後続列車からより素早く”逃げる”ため、起動加速度は2.6km/h/sとかなり高めに設定。JR東海の313系と同等であり、しかも定格速度が100-120km/hであるため、並の在来線車両ではこの加速力に追いつくことは不可能である。
山陽新幹線内では、最高速度300km/h運転を行う。
車体傾斜装置によって曲線通過時の余計な加減速を無くしたことと、全周幌の採用による空気抵抗の削減により、東京〜新大阪間走行時の消費電力が700系比で19%カットされた。
運用範囲
東海道・山陽新幹線用
JR東海所属車・JR西日本所属車が両者共通で16両編成の「のぞみ」「ひかり」「こだま」で運用されている。N700Sと共通運用。
山陽・九州新幹線用
JR西日本所属車・JR九州所属車が両者共通で8両編成の「みずほ」「さくら」「つばめ」「ひかり」「こだま」で運用されている。なお、JR西日本所属の7000番台・S編成に関しては博多南線での定期運用があるが、JR九州所属の8000番台・R編成はダイヤ乱れ時の突発的代走以外での同線での運用はない。(JR九州所属車は博多総合車両所へは入庫しない為)
その他
祝!九州縦断ウエーブ
2011年2月20日、8000番台(R10編成)に、虹色の特別ラッピングを施し、同編成通過時に沿線の住民に手を振ってもらうというCM撮影が行われた。
綺麗な映像を撮影するため、予定より速度を落とし走行、トンネル内等で回復運転をするなどの努力も行われた。(開業前試運転の段階であったのでこのような走行が可能であった)
3月4日から放映されたが、開業前日の3月11日に発生した東日本大震災の影響により、わずか6日で放映中止。しかしこのCMがYouTubeに投稿された事で、後に大きな反響を呼ぶことになった。
アニメ・映画への登場
新幹線変形ロボ_シンカリオン
1000番台がJR東海初のシンカリオンとして「N700Aのぞみ」が登場。
1号車と16号車の2両で変形するノーマルモードの他、5号車を強化合体させるアドバンスドモードがある。
アニメでは12話から登場。詳しくは当該記事参照。
シン・ゴジラ
ゴジラを倒すヤシオリ作戦に登場。
無人新幹線爆弾として、N700系2編成(1編成は9000番台)がゴジラに突っ込んだ。
詳しくは無人在来線爆弾を参照。
ちなみに、東京方が1号車になっていた。(実際と逆)
君の名は。
主人公・立花瀧が、東京から岐阜へ行くシーンに登場。
ただし、車内の座席配置が海側が2列、山側3列と実際と逆の配列だった。
このシーンを印刷した記念toicaも発売された。
事件や事故など
東海道新幹線火災事件(放火事件)
2015年6月30日、X59編成(2000番台)がのぞみ225号として新横浜~小田原駅間を走行中、乗客がガソリンを撒き放火、1号車の車内が大きく損傷した。
事件後、当該編成は車掌の運転(※運転士は煙を吸い込んだため病院へ搬送)にて三島車両所へ低速にて回送され現場検証を行い、現場検証終了後の終電後に浜松工場へ回送された。事件から約1年になろうとしていた2016年6月29日未明に、代替新造のための新たな1号車が日本車輌から陸送された。
車体の修理扱いのため車番に変更はない。
因みに代替新造された車体、前照灯は1000番台と同様の形状だが側面の青帯やロゴマーク、車内設備等は2000番台のものとなっている。その為、編成の前後でライトの形状が微妙に異なる編成となった。
のぞみ34号重大インシデント
2017年12月11日、K5編成(5000番台)がのぞみ34号として京都を発車して名古屋に向け走行中、乗務員が異常を感じ、次の名古屋駅にて車両点検を行ったところ、13号車の台車に破断寸前な亀裂が入っている状態であるのを係員が発見した。
そのまま当該列車は運転を打ち切るも、脱線の恐れがあることから回送が行えず、現場において浜松工場から輸送した正常な台車と交換する作業をクレーンを使い終電後におこなわれた。12月17日に、ようやく当該編成を名古屋車両所へ回送。それまでの期間、現場となった名古屋駅14番線が使用できなかった。
本件は日本が誇る高速鉄道である「新幹線」の安全性を揺るがす重大な事態と認識され、徹底した検証が行われた。
その後の運輸安全委員会の調査により、発生原因が車両製造元である川崎重工業の台車製造工程における構造的ミスであった事が判明、この件の影響により川崎重工業は国鉄時代から繋がりがあった東海道・山陽新幹線系統における次世代車両開発から完全に除外されるという厳しい処分を受けた。
輸送中の事故による代替新造
2019年3月12日、博多中央ふ頭から博多総合車両所へトレーラーにて陸送中のF19編成の5号車が、交差点を曲がる際にマンション外壁に接触する事故が発生した。
6月19日に同一番号にて代替製造された車両が搬入され、当該車両は車両メーカー(日車)へ返却された。