「——この機を逃すな!無人在来線爆弾、全車投入!」
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概要
矢口蘭堂ら巨災対メンバーの奮闘、里見祐介首相代理の政治努力、諸外国の研究機関とフランス政府の協力により、核攻撃のタイムリミットギリギリになって予定量の血液凝固剤の生産が完了した。
そしてゴジラに血液凝固剤を経口投与し、体内原子炉をスクラムさせることによって凍結する「ヤシオリ作戦」が発動した。
この作戦が観客の度肝を抜いたのである。
作戦の流れ
まず、伊福部昭氏の「宇宙大戦争マーチ」をバックに東海道新幹線N700系が2編成で颯爽と登場し、先陣をつとめた。
無人操縦の車両が大量の爆薬を搭載して、東京駅構内で休眠中のゴジラの脚部に突っ込む。脚部に多大な衝撃を受けたゴジラは覚醒を余儀なくされ、咆哮を上げながら周囲を見渡す。
続いて現れたのは空を埋め尽くさんばかりの無人機の群れ。
米軍から供与されたミサイルを満載した多数の無人機が同時に攻撃を行うが、放射線流の背部多発同時発射により、その発射機ごとあっけなく撃墜されてゆく。
しかし、それにも構わず無人機の波状攻撃が敢行され、遂にゴジラのエネルギーは枯渇し、熱線を封じ込められる。
そこへ周囲の高層ビルを倒壊させてゴジラを転倒させ、血液凝固剤の第1次注入に成功。
そして作戦最終段階。(鈍くはなったものの)まだ動けているゴジラに決定的ダメージを与えるために登場したのが…
この無人在来線爆弾である。
最終決戦の最終段階に満を持して登場したのが、ごくごく普通のなじみ深い平凡な在来線。
それだけでギャップ満載の映像に「無人在来線爆弾」と、あまりにもぶっ飛んでいるのにやたらと語呂が良い字幕が、エヴァでおなじみの明朝体でデカデカと表示されるのだ。
ゴジラがよろよろと東京駅の線路上に踏み込んだ時、無人在来線爆弾は誘導爆発によってゴジラの体にまとわりつくように噴き上げられ、起爆。
黒い巨体に猛烈な爆発の嵐を叩き込み、東京駅駅舎を押し潰す形で2度目の転倒をさせることに成功した。
前述の無人新幹線爆弾と合わせて、後で思い返せば笑いがこみ上げてくる単語だが、巧みな演出と伊福部氏の音楽が荒唐無稽な印象を打ち消し、手に汗握る最終決戦としてヤシオリ作戦の戦闘シーンを完成させている。
観客の抱いた印象は様々であろうが、「宇宙大戦争マーチ」の軽快なメロディ(但し、この無人在来線爆弾が登場する時に流れる楽曲は「Under a Burning Sky」と言う別の曲)、インパクト満点な映像が強く脳裏に刻み込まれただろうことは間違いない。
また、劇中のゴジラは米軍機から攻撃を受けて学び、飛来する物を自動的に迎撃すると言う能力を備えていたが、戦車や装甲車と対峙した際には圧倒的に優位だった為か、足元に突っ込んでくる車両への警戒をおろそかにしていた。本作戦は正にその死角を突いた攻撃だったのである。
思えばすべての怪獣映画の元祖とも言えるキングコングから始まり、ゴジラ、初代ラドン、東宝版キングコング、新旧ギャオスなど、怪獣たちから散々な目に遭い続けてきた電車群の反撃シーン…と見るのも面白いかもしれない。結局は自爆なのだが。
なお、作戦に際し、損傷していた線路や架線は突貫工事で修理されている。
ゴジラの活動停止から作戦の確立まではほとんど時間が無かったのに、この復旧力は驚異的というほかない。
ちなみに……
冷静に分析してみると、この無人在来線爆弾、実はかなりえげつない。
強固なレールの上を堅牢な金属車輪によって走る列車は、『レールがなければどこにも行けない』と言う不便さの代償に、強力なペイロードと高速性を手に入れている。その耐荷重性能は他の車両とは一線を画すものがあり、未だ史上最大の砲である80cm列車砲の存在がそれを証明している。
在来線もまた例外ではない。
客車とは言え、時に乗車率200%に達する都心の近郊型車両は、通勤ラッシュ時の酷使に耐えるべく、非常に大きな輸送能力を与えられている。例えば、劇中に登場する車両のうちの1つ、モハE233の定員は160人、旅客1人の重さを荷物込みで80kgとすると、定員と同程度の積載量で1両12.8t。通勤ラッシュなどで乗車率は最大で250%に達することを考慮すると何と1両あたり少なくとも32tもの積載が可能である。
1編成ではない、1両あたりである。
で、この積載量32tがどのくらいかというと……
- ダイナマイト16万本分
- 第二次大戦代表B-29爆撃機4機分
- 米軍の虎の子B-1爆撃機1機分
- (元)史上最重の爆弾グランドスラム(11t)も余裕どころか恐らく3ついける
- 史上最強の通常爆弾MOAB(約9.8t)もなんとか4つ搭載可能
- 劇中でゴジラに唯一ダメージを与えた大型貫通爆弾(推定約13.6t)だって楽勝で2つ
- TNT換算で1.3×10^11(130億)ジュール、160万立方mのコンクリートを粉砕可能!!
これが10両編成を6本と11両編成を4本、15両編成が4本で都合164両分。推定される爆薬の量は少なくとも5250トン。重さで言うと川内型軽巡洋艦1隻分。
広島型原爆の3分の1の爆発威力、もしくは2020年にレバノンで発生したベイルート港爆発事故を想像してもらうとお分かりいただけるかもしれない。
そんなもん言われてもわからん、と言う人のために架空の事例も合わせると、こんな感じ。
技・兵器 | エネルギー | TNTトン | 無人在来線爆撃に匹敵するための回数 |
---|---|---|---|
戦艦大和の主砲 | 4億4千万J | 0.105 | 5万発(なお、あくまで砲弾に搭載された火薬量基準での計算) |
雷 | 15億J | 0.358 | 1万4千発 |
神聖滅矢(BLEACH) | 50億J | 1.2 | 4300本 |
大玉螺旋丸(NARUTO) | 104億J | 2.5 | 2100発 |
パンプキンボム(スパイダーマン) | 134億J | 3.2 | 1500個 |
アンパンチ(アンパンマン) | 280億J | 6.6 | 795発 |
光子力ビーム(マジンガーZ) | 420億J | 10 | 525発 |
火拳(ONEPIECE) | 1300億J | 31 | 170発 |
ガメラの火焔(昭和ガメラ) | 8400億J | 200 | 26発 |
出典:『空想科学読本』シリーズ他
参考動画「TNT1000トンの爆破実験」
バッテリーの搭載や座席、空調設備の除去で積載量が減ったり増えたりしている可能性はあるが、単一の兵器として史上最大威力であることは間違いなく、総炸薬量は戦略爆撃に匹敵する(あの東京大空襲ですら爆薬使用量はおよそ1/3の1700t程度である)。なお体重あたりのダメージに換算すると、人間が爆薬4.14㎏(ダイナマイト約19本分)の爆風を浴びたのと同等となる。
また、あまりにもぶっ飛んだネーミングや作戦のインパクトの陰に隠れがちだが、これが全て、デカいとは言えたかだか100mそこらの生物に集中投入され、しかもそれで転ばせて一時的に足止めするのが精いっぱいだったのであるから、ゴジラがいかにタフで恐ろしい存在かということもよくわかる。
ただし、無人在来線爆弾はあくまでヤシオリ作戦の最重要行動への繋ぎである為、その点では大成功だったとも言えるだろう。
かくして、無人在来線爆弾は現実的に実現可能な兵器でありながらゴジラを相手に多大な戦果を上げた数少ない存在へ、堂々たる仲間入りを果たしたのである。
実際には…
しかし、32tという数値はあくまでも在来線車両の容量限界まで隙間なく爆薬を詰め込んだ場合を想定した仮定の数値である。
シン・ゴジラの資料集『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』では、無人在来線爆弾にはJDAMを搭載してあるとの設定が明らかにされた。JDAMの種類にもよるが、一番大型のMk84のものでも爆弾の炸薬量は爆弾自体の重量の約半分なので、仮に隙間なく満載したとしても上述のような大爆発は起きない(それでも相当な威力には違いないが)。
そもそもヤシオリ作戦の主目的は、ゴジラを転倒させたのちに薬剤を経口摂取させることである。あのベイルート港爆発事故でさえTNT1000t級の爆発でしかなかったのに、広島型原爆の3分の1などといった大爆発を起こせば周辺で待機している作戦部隊にも害が及び本末転倒になってしまう。
そのため、無人在来線爆弾は「ゴジラを転ばせられるが、待機中の部隊には影響が出ない」ようにぎりぎりの搭載量で調整されていたと考えるのが自然である。
余談
jin氏による二次創作漫画『しんごじくん』第18回では、ゴジラの小指や脛といった地味に痛い所にピンポイントで当てており、これは流石のしんごじくん…もといゴジラも声を上げられないほど悶絶していた。しかも次話を見る限りでは原作より威力が増しており、まさに「この威力!」状態である。
なお、JR東日本及びJR東海の撮影協力はしていないとのこと(外部リンク)。
このせいか、中央線のE233系の塗装が違う、山手線のE231系にクラッシャブルゾーンがある、N700系新幹線の編成の向きが逆等のミスがある。
また、アニメ映画版『GODZILLA』の前日譚を描いた小説『プロジェクト・メカゴジラ』の作中では、富士山麓においてメカゴジラがゴジラに破壊された後、東京に上陸したゴジラに向けて、鉄道を走らせたとの証言が記載されている(証言者はハルオ・サカキの母親であるハルカ・サカキ)。無人在来線爆弾をオマージュしたものではないだろうか。
しかし、この時の人々はメカゴジラを失い、絶望的な状況の中でもはや決死ですらない、ただの自殺同然の攻撃をしていたとされており、この際の鉄道による攻撃は、「有人在来線爆弾だったのでは?」と推測されている。
テレビアニメ『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』第5話では、「在日米軍用のジェット燃料を輸送する貨物列車(米タン)を走行中に爆発させ、それに巻き込む形で怪獣メガゴンを倒す」という似たような作戦が描写されている。ただしこちらは通常ダイヤの中で事故を装い爆発させているため、おそらく有人である。
恐らくは史実でも発生した同種の鉄道事故が元ネタで、同作の製作時期は『シン・ゴジラ』と被っているものの、時期が被ったのは偶然の一致であろう。
後に公開された『ゴジラ-1.0』でも、海神作戦で無人の松型駆逐艦「欅」、峯風型駆逐艦「夕風」の2隻をゴジラ目掛けて突撃させている。
もっとも、こちらは無人の駆逐艦に放射熱線を空撃ちさせて再発射までの時間を稼ぐのが目的であり、どちらかといえばヤシオリ作戦中の米軍無人機群のポジションに近い。
関連イラスト
関連項目
無人新幹線爆弾(無人在来線爆弾のテロップに比べてインパクトが劣るためか扱いが低いのだが、上記の通り「宇宙大戦争マーチ」は彼らの登場とともに流されている)
京急800形(無人在来線とは逆に劇中でゴジラに盛大に吹き飛ばされた電車。尚、京急はJR東日本と異なり「正式に」車輛破壊の許諾を出している模様)
山手線、京浜東北線、中央線快速、東海道本線(使われた車両の路線)
特攻兵器(無人だけど)
IED(一応これにカテゴライズできないこともない。規模は前代未聞だが)