概要
陸上自衛隊の第三世代主力戦車。車体は三菱重工業、主砲の44口径120mm滑腔砲はドイツ・ラインメタル社のライセンスを受け、日本製鋼所が生産する。
自動装填装置、高度なFCS(射撃管制装置)による高い射撃性能と世界最高水準の正面防御力を誇る。調達が開始された90年代初頭はソ連邦がいまだ崩壊していなかったこともあり北海道に重点的に配備されている。調達価格は一両あたり約8億円であり(採用年次は11億だったが、量産効果により下がった)、高価格がやり玉に上がることが多かったが、実は調達価格はレオパルト2とほぼ同等、ルクレールやチャレンジャー2より安く、第三世代主力戦車としては特に高価な部類に入る訳ではない。
北海道千歳市にて、東千歳駐屯地から北海道大演習場までの一般公道を自走で移動する光景が見られる(本州では装甲戦闘車両が公道を走ることは滅多にないので、北海道の田舎道を自家用車に混じって走る90式戦車を見て道外の人は驚くかも。なお、この際に通る道路は戦車の重量に耐えるため、アスファルトではなくコンクリートで舗装されている)ことで有名。最高時速70kmという、第3世代戦車として十分な高速移動ができる部類に属し、前述の通り高い射撃性能を持つため、『流鏑馬戦車』とも呼ばれる。
日本最重量戦車
90式戦車は日本陸軍が八九式中戦車を採用して以来の日本戦車史において、図面のみに終わった“100トン戦車”を除けば、最大・最重量級となる戦車である。その重量、なんと約50トン!
かつて40トンに満たない四式中戦車すらもてあました日本にしてみれば、良くぞここまでのものができたと言える。
とは言え、実は90式は第三世代戦車の中では最軽量だったりする。
90式の高い評価のひとつはそれを実現した複合セラミック装甲にある。攻撃優位とされがちな現代戦車の中で装甲まで高く評価されているのだ。
ディフェンスに定評のある90式戦車
で、この90式の複合セラミック装甲であるが、実はとんでもない機能を持っている。
旧世代のセラミック装甲は「セラミックの硬さを活かし、敵弾を貫通させつつ摩耗させて貫通を防ぐ」というものだった。
しかし90式の装甲はそうではなく、「ガチガチに固めて敵弾を粉砕する」という真逆の設計思想で造られた。
具体的に言うと、高強度の合金で出来た箱で高密度のセラミックをぎゅうぎゅうに密閉したものをタイル状に並べた構造になっているらしい。
また、セラミックというのは陶磁器のような焼き物である。そのため、旧世代型は1発食らうとヒビだらけになって防御力がガタ落ちしてしまう欠点があった。
しかし90式の複合セラミック装甲は被弾すると、その衝撃と熱でセラミック部が再焼結されヒビを埋め、防御力の低下を抑えるという自己再生じみた能力を持っている。
これまた具体的に言うと、硬い箱にぎゅう詰めになっているお陰で、砕かれたセラミックは被弾によって開いた穴以外に行き場がなく、そこに集まったところを砲弾が起こした摩擦熱によって焼結され固まってしまうわけである。かがくのちからってすげー!
拘束セラミック複合装甲と呼ばれるこの構造の装甲は、海外の戦車でもレオパルト2などで採用例がある。だが、90式の正面装甲は世界水準で見てもトップクラスの分厚さを兼ね備えているのだ。
(砲塔部分で、90式の装甲再厚部が80cm、レオパルト2が60cm)
このお陰で、対弾試験では同じ90式戦車の主砲を最低5発(HEAT-MP3発、APFSDS2発)正面に撃ちこまれても自走可能だったという結果を叩き出しており、前面の防御性能は湾岸戦争で鉄壁の防御力を見せつけたM1A1エイブラムスを若干上回っているとも言われている。リアルではブリキ缶などとは言わせない!
でも、防御力にいささかポイントを振り過ぎたせいか、同じ第3世代戦車のなかでは攻撃力が少し残念なことに…。
的外れな批評
実戦こそ経験してないものの、専守防衛という特殊なドクトリンの下で強大なソ連陸軍戦車隊の猛攻をいかに寡兵でもって弾き返すかを可能な限り突き詰めた日本国陸上自衛隊が誇ったかつての主力戦車であって、よりシステマチックな戦闘を可能にした10式戦車にその座を明け渡した現在もそれは変わらない。『最後の砦』を自称する陸自にとっては、海を越えて侵攻してくる敵対勢力に対する目に見える形での抑止力として機能している。
…が、登場当初は総重量50.2トンというある種の衝撃と、1台につきお値段が8~10億円という情報のみに一部の評論家や某マスコミが食いつき、
『重すぎる!ひょっとしたらマトモに道路が走れなくて北海道くらいしか運用できない欠陥品ではないか!?』
『そもそも、狭い国土の日本において高額なだけの戦車自体が不要ではないか?』
…といった批評が一時期主流となっていた。
ぶっちゃけたところ、ほとんどの国道では最大積載量40~50トン+自重十数トンの大型トレーラーが通過しても大丈夫な作りになっているため、『北海道しか運用できない』というくだりは必ずしも正確ではない。
というか、日本その他の国では戦車の無用な損傷・故障を避けるために陸上においてはトランスポーターや特大型運搬車といった大型トレーラーによって移動するのが常識であるため、これができなかったら兵器としての需要を満たしていない。
↑特大型運搬車と輸送イメージ
そもそも総重量の件も、旧西側諸国の第3世代主力戦車の重量は50トン台後半から60トン台後半(例としてM1A1エイブラムスは約57トン、レオパルト2はA4型で約55トン・最新型のA7型で67トン)であり、それらに比べれば軽い方である。
後者のくだりも、仮に日本に侵攻してくる敵勢力があるとすれば、それらは一定以上の兵力・武力を持ち、かつ90式戦車と同等かそれ以外の性能をもった戦車を保有していることも考慮しなければならないため、実際に使うかどうかはともかく、相手を牽制する意味での抑止力としてはむしろ持っていなければマズイことになる。
ある小説の90式戦車
さらには、何かを勘違いしたある某フィクション作家が自身の作品内にて、
『川底の石にぶつかったら車体底面装甲が破れる』
『なぜなら装甲よりもクーラーといった居住性を優先したからだ』
…といった嘘八百のデタラメをさも本当かのように著したことで、一部界隈では「90式戦車=役立たず」という図式が一時期は信憑性をもって語られていたほどであった。
(不整地を疾駆することも当然あり得る戦車がどんな部位だろうと石にぶつかった程度で装甲が敗れるというのはあり得ないことであるし、戦車における空調設備一般は通常は熱をもちやすい機械類の冷却用として搭載される代物であって、搭乗員用のものは地球温暖化が著しい近年においてようやく考慮され始めたばかりで、当然ながら90式には「搭乗員用のクーラー」は搭載されていない。)
著者サイドの言い訳では、『権力者をおちょくってみたかっただけです。サーセン』とのこと。
余談ながら、正確でない情報でもって『人格』を否定され、それを保有する集団の攻撃材料とされた被害にあったのは90式戦車だけではなく、先輩格の三式中戦車チヌが司馬遼太郎により被害にあった前例がある。
この国の戦車は自称リベラルな作家にコケにされる宿命でも背負っているのであろうか…?
真相(?)
詳細は当該作品の項に譲るが、この作品に登場する「90式戦車」とは「当時開発されていた自衛隊の戦後第3世代戦車を模した架空の戦車」のはずだった。「140mm砲を装備」、「水陸両用戦車」、「最高時速80キロ」など明らかに完成した90式戦車よりオーバースペックになっている描写も多い。とはいえ当該作家は当時軍事描写にも定評がある作家としても有名だったがために、氏の評判を大きく下げる結果となってしまったのは言うまでもない。
登場作品
『やわらか戦車』
「90式先輩(きゅうまるしきせんぱい)」という敬称で呼ばれる。
やわらか戦車たちと違って完全に戦車だが、喋るし、くねくね動く(主にキャタピラと砲台のジョイント間で)。非常に常識的で失態や醜態をさらしてばかりな兄者(やわらか戦車)を叱る上司としてしっかりしており、戦場でもかなり優秀だが、後にピンク色の戦車の後輩に恋をして、デレデレしたり暴走したりしていた。
『クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦』
終盤に敵の巨大ロボットに対抗するために派遣されるもあえなく撃沈。上記の調達資金が高いというネタも(12億と脚色しているが)しっかり拾っている。
平成ゴジラ、ミレニアムシリーズ、『シン・ゴジラ』
自衛隊あるいは防衛軍の戦車として登場。意外ではあるがvsシリーズには「ゴジラvsビオランテ」と「ゴジラvsデストロイア」にしか登場しない。また「ゴジラvsビオランテ」は実車の制式化前後だったため、パンフレットで「89式戦車」と呼称されている。
ちなみにvsシリーズ当時の小林源文の漫画『ゴジラ1991』では対ゴジラにおける損耗の多さについて「あの戦車いくらすると思ってるんだ」と調達資金が高い話を拾っている。
ウルトラシリーズ
TDG三部作でTPCおよびG.U.A.R.D.の主力戦車として登場して以来、防衛軍の戦車などとして登場する。
コンバットチョロQ
初代PS「コンバットチョロQ」とPS2「新コンバットチョロQ」に登場。
「コンバットチョロQ」では前述の90式先輩に似た茶色に塗装されている。
終盤に登場する戦車ということもあってゲーム中に登場する実在戦車の中ではトップクラスの性能を誇る。
「新コンバットチョロQ」では終盤のある町を守る精鋭部隊の一員として登場。