概要
田中芳樹の長編伝記アクション小説。およびそれを原作とした漫画、アニメ、ドラマCD。
第1巻が刊行されたのは1987年。中途での執筆の大幅な遅延と中断によって完結が危ぶまれたが、2020年12月23日に発売された15巻をもって完結した。
執筆期間は、昭和~令和にかけて延べ33年。
挿絵は媒体によって違っており、新書版は天野喜孝、YA!ENTERTAINMENT版は田島昭宇、文庫版はCLAMPがそれぞれ担当している。
四海竜王の子孫であり転生した姿でもある四人兄弟が、人界や天界の悪と戦っていく物語。
田中の初期の短編である『炎の記憶』『夜への旅立ち』『夢買い人』の三作が原案となってる。『銀河英雄伝説』の大ヒットにより一躍ヒットメーカーとして名を馳せた田中に講談社が強くオファーした際に、田中が「スペースオペラ以外で」という条件をつけたことでこれを再構成して著された。
(ちなみに、『創竜伝』の題名を付けたのは池波正太郎すら認めた名物編集者であったとされる。)
作者の現代社会に対する批判が、最もストレートに表現されている作品でもある。
ただし、執筆期間が巻ごとに長らく空いているため「現代」と言っても発表当時の、である。
第2巻の巻末に記された作者の言葉曰く、
「悪口なら一晩もつ」
『田中の作品で現代(1980年代後期以降)の日本が舞台になった作品のなかでも、とりわけ社会に対する批判的な視点が文章の随所において時にシニカルに、時にはかなり直接的に表現されている。この文中において言及されている内容は、読者がモデル(元ネタ)を類推できるものが多く、右傾化する現代日本への警告を意図しているとの説もある』(Wikipediaより)
作中では、本編ストーリー以上にこの部分に筆力が強くなっている部分が多く、田中作品のファンの中でも評価を真っ二つに分けている。
(もっともこれは主に原作における評価で、CLAMP版コミカライズではP数制限や作画担当の趣向もありキャラの魅力を全面に押し出した「普通の」アクション物といった色彩が強くなっていて、媒体ごとに作風が微妙に異なる。)
作品の一部を描いた恵広史とCLAMPによるコミカライズがある。
アニメ版はキティ・フィルムと講談社の制作により、1991年~1993年に全12話のOVAとして発売。その後フジテレビ他一部放送局にて全話が放送された。原作1~4巻に相当するが、ラストは原作と異なる。
登場人物
声優はアニメ(OVA)/CDドラマ1(1995年)/ CDドラマ2(1996年~1997年)の順。
竜堂4兄弟
祖父から受け継いだ洋館に住む四人兄弟。普通の人にはない驚異的な身体能力があるが四人は平穏な生活を望むが周囲によってその生活が脅かされる。しかし一族の家訓や自身と家族を脅かす輩には断固とした態度で挑む。
彼らには竜種の血が流れており、その中でも竜王たる一族・敖家の117代目だと伝えられる。その為かは不明だが兄弟は全員1月17日生まれ。これは、中国の数秘術が117であることに関係しているという。
元々は、中国奥地の竜泉郷に住んでいた一族であったが、明代末~清代初頭の混乱期に日本の長崎に移住して現在にいたる。
自称、「大陸からやってきて、色々悪さをして水戸黄門にやっつけられた海賊の末裔」。
長男、23歳。頑固で厳しいが、弟思いの大黒柱。「長兄がいる所こそが竜堂家」と家族達からも慕われている、元世界史講師の“活字中毒者”。前世は「東海青竜王敖広」で、地(空母も軽々と浮かび上がらせる斥力と重力)を操る青竜に変化できる。
次男、19歳。美形だが毒舌家で、敵対する相手には冷徹極まりなく基本的に長兄の始の決めたことにしか従わない。前世は「南海紅竜王敖紹」で、熱(基本的には超高温による炎だが、低温による冷気攻撃も可能)を操る紅竜に変化できる。
三男、15歳。腕白坊主。純粋に戦闘技量なら兄弟中随一。食べることが大好きで、得意技はヘリ落とし。前世は「西海白竜王敖閏」で、風(建物が吹き飛ぶ強風や真空刃)を操る白竜に変化できる。
四男、13歳。おとなしい気性だが、時として無邪気に終をヘコませる影の毒舌家。時間と空間を超越できる「夢」を見る能力がある。前世は「北海黒竜王敖炎」で、水(軍隊を丸ごと押し流す豪雨レベル。また雲自体が水によるものだからか、雲の中で発生する雷のみを支配することも可能)を操る黒竜に変化できる。
鳥羽家
四兄弟の父方の従姉妹、18歳。勝気で明るい性格。竜堂家の家事を一手に引き受けてくれる大恩人。始とは他の兄弟も公認の恋仲にある。前世は西王母の末娘である「太真王夫人」。
「太真王夫人」は鳥類の女神である。当人は四兄弟のように変身ができるわけではなく、超絶的な身体能力も有してはいないが、前世由来の能力(能動的に使用できるわけではないが)で、鳥の群れによって幾度も窮地を救われている。
- 鳥羽冴子
鳥羽茉理の母で共和学院の常任理事にして学院附属幼稚園の園長と女子短期大学の学長を兼任。「笑顔を見た人がほとんどいない」と言われる程の無表情な人物であり、当初は夫である靖一郎と組んで学院乗っ取りを企てているとされていたが、物語の進展とともにキャラクターが後述の小早川奈津子同様に一人歩きをし始め、(同行こそしないものの)茉理に「自分の信じた道を行け(大意)」とメッセージを送るなど竜堂兄弟及び茉理寄りの思想の持ち主である事を仄めかす描写がある。(始曰く『彼女もまた竜堂司の娘であり、鳥羽茉理の母であった。』との事。)
更には余と同じく「不思議な夢」を見ることがあるらしい。
なぜこんな大人物でありながら靖一郎という小人を婿にしたのかが最大のミステリー。
- 鳥羽靖一郎
茉理の父で共和学院の現学院長。茉理からは「歩くリトマス試験紙」などと揶揄される小人物。
元々は熱心な教育者として知られていたが、義父である司や甥である始への被害者意識(劣等感?)に苛まれ、しだいに卑屈になっていったという。そのため、義父の死後に学園を乗っ取るための運動を起こし、最終的に最年少理事であった始を学園から追い出した。
(実態としては「必死すぎる叔父が哀れになった」というのが始の本音らしい。)
無能な働き者枠の一人だが、やっていることは政治家等への献金や談合、忖度など、一般的な教育法人経営者(?)の範疇を逸脱しているわけではない(※)
※これに関しては「靖一郎が「権力に弱い無能な働き者」なら、(自らの超絶的な能力に裏打ちされた)正論・理想論を振りかざして叔父の不手際を責めるばかりで、代案すら示さず、実際には学校維持・運営の為に何の努力もしていない竜堂始は「学校経営者・理事としては無責任」である、とする意見すらある。
悪人たち
- 船津忠巌
「鎌倉の御前」の異名で呼ばれる日本の黒幕で、小早川奈津子の父。竜種の故郷・竜泉郷で竜種の力を入手し、更なる力を求めて竜堂兄弟に宿る竜種の力を狙うも覚醒した余に敗れて死亡する。
- 小早川奈津子
船津忠巌の娘で、父が手に入れた「竜種の力」を受け継いだ本作世界における人類最強の女であり、驚異のドラゴンスレイヤー。当初の構想ではいわゆる「今週の怪人」的な扱いで蹴散らさられるはずであったが、その怪異な、かつ縦横無尽なキャラクター性が一人歩きをし始めてレギュラーに定着する。
物語後半には父親の仇であるはずの竜堂兄弟と手を組み(?)京都幕府なる組織を立ち上げ自らを征夷大将軍と僭称する。(ツッコむまでもないが、『幕府』も『征夷大将軍』も明治維新以前の政体・官職である)
一部読者からは属性の一部がこの人物に投影されていると指摘されている。
- 四人姉妹(フォー・シスターズ)
作中のアメリカ合衆国を裏から支配する4大財閥の総称。竜種と異なる牛種の力を持ち、そのことで竜堂兄弟と敵対する。「姉妹」とあるが各当首の性別は全員男性で、その敬称はなぜか日本語由来のタイクーン(大君)となっている。
実は竜種を裏切り、蚩尤側についた竜種分流の蛇神共工に支配されていた。
初期設定では、竜堂4兄弟と相対する普通の4姉妹であったとされる。
牛種の首領で実質的な黒幕。殷周革命の際、竜種に敗れる。四人姉妹を操り人界を支配しようと目論む。
物語後半以降の展開は、ほぼ完全に天界から来襲する蚩尤ら牛種の手先である怪異たちと竜堂兄弟との異能バトルなものになっていく。
評価
中国や中東、SFといった非日常世界を多く著してきた田中が作品の舞台を始めて現代日本に移したものとして、翌1988年に発売された『夏の魔術』と共に記念するべき作品である。近年、さる大手新聞によって代表作を「合戦と少女漫画の合体」と評された田中芳樹作品の真髄として、男性読者は切れのある痛快なアクションと悪党成敗に感情移入し、女性読者は美男子・美少年な4兄弟との夢妄想に没頭できる構図となっている。このため、『銀河英雄伝説』でも幅を利かせた淑女な方々からの猛プッシュもあり人気を博した。
14巻発売の際に配布された告知チラシや宣伝記事は紹介文を書いたとされる担当編集者が過去に茉莉に嫉妬心を燃やしつつ竜堂兄弟を相手に夢妄想に励んだと告白する内容となっている。
書版ごとに別々の著名イラストレーターによる美麗な挿絵も有名で、特に新書版の天野喜孝絵と文庫版のCLAMP絵でファンの間では二大派閥になっているといってもいい。90年代後半には広くメディアミックスが展開され同作のビジュアル面が大きく補完された。
天野喜孝版 | CLAMP版 |
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しかし、ファン・アンチ双方の共通認識として以下の問題を抱えている。
問題点
時代背景の急激な変更(あるいは基本設定の崩壊)
第1巻は1987年に発売され、当初は 『21世紀があと数年後に迫った』90年代末の日本を舞台にした内容となっていて、およそ10年以内での完結が見込まれていたような節がみられる。
だが、結果的に執筆期間が30年以上、つまり21世紀に突入した上に昭和・平成・令和にまたがってしまうと、この前提が崩壊してしまった。
このため、21世紀になってから発売された第13・14巻ではこの部分が強引に修正されているうえに、その以前ではアナログであった世界観が一転してパソコンやスマホ、SNSが普及している設定になっている。
この他、本作はその時々の時事ネタを多分に盛り込んだ作風と開き過ぎた刊行ペースの影響(後述)でストーリーの至る所がチグハグになっている。
社会評論の増加
もう一方の現代伝奇作品と共に、リアルヤン・ウェンリー(by道原かつみ)とも言われた田中芳樹がその毒舌を現代社会に向けた作品としても知られる。
作品が発表された当時は、憲法改正が議論にされはじめ、90年代初頭にはPKOでペルシャ湾やカンボジアに自衛隊が派遣されるようになるなど、一部の表現でいうならば日本の右傾化が見られるようになった時期でもあった。また、1988年に有名な贈収賄事件であるリクルート事件が起きるなど政治家の汚職も問題になっていた。当初からリベラル寄りな記述を多くしていた田中はこの作品でそれらへの批判を展開している。
しかし、『創竜伝』における田中芳樹の凄みは、社会評論を作品のスパイスとして用いる以上に本編と並行して展開される主要構成要素であるかのように扱っていったことであった。これら社会風刺・社会批判、あるいはそれらに付随して展開される田中自身の持論等々はいささか極論にすぎるという意見が当初から見られ、なおかつそれらは巻数が進むごとに本編のリソースを割く形で増加していると指摘する読者も少なからずいた。
もっとも、あくまで『創竜伝』があくまでフィクション作品であることと、後に幼稚園児が主人公の作品にまで政治家の汚職がネタにされるようになるなどこの手の社会批判に対してはむしろ需要がみられた為に当初はある程度は容認する向きが主流であった。
だが、著者側がだんだんと自重しなくなっていった結果、作品が最盛期になった90年代末の段階で『単行本1冊のうち本編に該当するページは半分以下で、他はすべて社会批判などの著者自身による評論』という読者コメントが見られるまでになり、この影響でストーリーの展開速度が目に見えて鈍化していった。ついには関係者が「執筆の際には横道にそれないでもらいたい」と苦言を呈したと発表した。(→内容はこちら)
含まれる思想に関して
ついでに、そのサヨクチックな言い回しから後のネット右翼に連なる人種からやり玉にあげられるようにもなっていった。このあたりは著者自身のイデオロギーに関する考察や読者間の認識の差異が原因で収拾が困難なレベルで錯綜したものとなっているため、詳細が知りたい人は各自でググってもらいたい。
兵器・戦闘描写の間違い
作家としての田中芳樹は『銀英伝』や『七都市物語』などでの戦術・戦略描写で名を成した側面も持っていて、当然他作品から『創竜伝』に流入したファンもこの部分に少なからず期待する一派もいた。しかし、どういうわけかこの作品の実在の兵器やそれを用いた戦闘に関する描写は必ずしも正確ではなく、というより明らかに間違っている部分が多く見られ、一部読者を戸惑わせた。
例・第4巻にてアメリカ空軍の作戦機としてF18Eスーパーホーネットが出撃するが、これは本来は空母搭載用の海軍機。このF18Eが竜化した竜堂始を攻撃する際に近距離兵器であるバルカン砲(搭載機銃)を撃ってから遠距離兵器であるミサイルを発射するという、演出としても意味のない間違いがみられる。
こうした現実との乖離や過激な毒舌も作者なりのジョークとされていたが、あまりに無茶が過ぎたばかりにそればかりでは済まされない騒動が起こった。
事の発端は、1988年発売の第3巻における90式戦車に関する記述であった。その名称が示す通り、この戦車は1990年に正式化が予定されていた当時は第1線未配備の新型戦車であったが、この巻では現実には未配備の90式戦車が陸上自衛隊第一師団作戦車両として登場した。
問題は「始と続、余と茉莉がジャックしたこの戦車の主砲が140㎜と実際より破格に記載する一方で、 川を渡って対岸に渡ろうとしたら車体底面の装甲が大きな石にぶつかって破れてしまい 、その原因を 搭乗員用のエアコンが搭載されたので装甲が減らされたから と説明され、まるで90式戦車がポンコツ兵器であるかのように描かれたことにあった。」
以前から90式戦車には「北海道でしか運用できない可能性がある」とか「レオパルドのパクリでしかない」といったネガティブなイメージが付きまとっていた上に、 『銀英伝』や『七都市物語』などでの緻密な戦闘・戦略描写で有名になった田中芳樹には軍事面でも定評があるとされていて、なおかつ以前からその軍事面におけるアドバイザーの存在も仄めかされていたため、この第3巻の記述もおおむね事実であろうと無批判に受け取る読者が多かった。
だが、この部分が『創竜伝』ファンに限らず純粋に軍事業界を分析している階層に「情報」として耳に入るようになると、徐々に疑問と批判が寄せられるようになった。まず、当時はまだソ連が崩壊する前であるため東西冷戦が終結しておらず、 たとえバブル景気の最中であろうと国防に手が抜ける状態でなかったこと、自衛隊車両はもとより万国の軍隊共通の常識としてごく一部のぞいて搭乗員用のクーラー搭載の車両は存在しないのが普通であったこと(※1)、身も蓋もない意見としては「搭載しただけで装甲が減らされるレベルのクーラーってどれだけ巨大なんだよ」という声すらあった。
この結果、「これはきちんと裏をとった内容なのか?」という疑問から始まった波紋が90式戦車の正確な情報が広まるにつれて「90式戦車=クーラー搭載車両(※2)」という記述が根拠のないものであることが明白になる。そして、実は射撃精度と防御力(=装甲)が世界トップクラスであることが判明し、海外での遠征(演習)での活躍や2004年度の世界主力戦車ランキングで第3位にランクインしたことが報じられていくと、最終的に「田中先生はどうしてあんなしょうもないデマを!?」といった類に変化していった。
一応、『創竜伝』の(本来の)スタンスが『21世紀を間近にした90年代後半の日本』を80年代から書いているというものであるため、近未来小説の側面もあるのだから多少の齟齬は許容の範囲であろうという擁護の意見も見られているが、それでも田中芳樹の作品を軍事的な部分で評価していた層には衝撃が強い一件であったために田中個人の実際の軍事知識を危ぶむ声が現在までみられるようになり、大手サイトにも『90式戦車が受けた風評被害』に該当する一項にこの一件が掲載されるまでに至っている。(→参考)
もちろん、このようなことがあったからといって『創竜伝』の面白さがなくなるわけではないが、実際に一定の範囲の関係者へ少なからぬ影響を与えてしまった事例としてここに特記するものとする。何度も書くが、一般的にはこの段階まで田中作品は軍事記述にも定評があると見做されていたのである。 この一件に関して、田中芳樹本人は現在に至るまで直接のコメントを出しておらず、著作権を管理するらいとすたっふ側も『田中個人は左翼ではない』という旨の声明を出すにとどまっている。
※1:純戦闘車両へのクーラー搭載は地球温暖化が顕著になってきた2010年代においてようやく考慮されはじめた事項である。後継の10式戦車でもあくまで機器冷房用機材の冷気が多少乗員にも当たるように設計されている程度である。
※2:補足として、機械類の冷却ファンなら搭載されている。底面装甲の部分に関しては、近年の有志による研究では、過去に74式戦車が渡河訓練中に車体の底が凹むという事故が起こり既存の車両に補強が施されたという事例があったようで、恐らく(上記の記述は)この逸話の改編であろうという考察が一部ではされている。ただし、噂以上のものではないため真偽は不明。
約16年におよぶ執筆中断
理由は不明だが、2003年の第13巻の発表を最後として以降10年以上にわたり作品の刊行が停止していた。
2000年代は他の田中芳樹の長編作品ファンにとっても冬の時代といっても過言ではなく、コンスタントに執筆されていたのは『薬師寺涼子の怪奇事件簿』だけで辛うじて更新されていた『アルスラーン戦記』も刊行ペースが5~6年は空くのがザラであった。それ以外は『夏の魔術』が2002年に完結したのみである。
この当時の田中作品は最大時には約10作品ものシリーズ作品が中断されていて、良くも悪くも『田中芳樹=未完作家』という見方が成立していった時期でもあった。
『創竜伝』に関してだけいえば、2006年に一度は最新刊の発売が告知されたが結局発売されず翌2007年に 告知が撤回 され、ファンを落涙させた。こんな状況であったため、ときには「『創竜伝』は未完結になると告知された」といったデマがまことしやかに囁かれるようになるなど、多くのファンは絶望とも諦観ともとれない状況に陥ることになった。
刊行停止が10年を超えた段階になると、特徴の一つであった社会風刺が時流に対応できていない部分が出てきたことも踏まえて読者の一部から「せめて90年代中には完結させていて欲しかった」といった身も蓋もないコメントが出るなど、まさにどうあがいても絶望といった趣ですらあった。
完結へ
続「作者<おとーさん>がこのごろガラもなく悩んでいるのは、ラストをどうきちんとおさめようか、思案してるからなんですよ。」
約16年間の沈黙を破り、2019年10月7日付けで発売された最新第14巻にて、本作の完結予告がなされた。最終巻となる第15巻は2020年発売予定と発表。この時、往年のファンの多くは一先ずの完結をみることに安堵した。
しかし、あくまで『予定』でしかなく、すでに記したように一度は続刊予告をすっぽかした前科があるため、この段階ではシュレディンガーの猫でしかない見方が主流であった。
致命的なことに、この14巻はカバーイラスト以外は天野喜孝の挿絵が一切に掲載されていないという前代未聞の状態であり、「本当に大丈夫なのか…」という不安が読者の間で拭われることはなかった。
そして、遂に2020年12月23日のイブイブの日、コロナ禍で世の中が大混乱のなか、無事(?)に最終巻である15巻は発売された。(もっとも結局一部ネットでささやかれていたようにラスボスとは決着どころかまともに戦うことすらなく「俺たちの戦いはこれからだ」エンドではあったが)
なにはともあれ、田中先生今までお疲れ様でした。
…ちなみに、最終巻においても天野による挿絵が掲載されることはなかった。
終「へー、ラストがあるんだ。おれ、未完になるかと思ってた。」
(14巻より原文ママ)
余「作者は現在、冬眠状態です。」
(15巻より抜粋。)
エピソード
- 2010年代に出版された柳内たくみの『自衛隊彼の地にて、斯く戦えり「炎龍編」』では炎龍に遭遇した航空自衛隊のF-4EJ搭乗員たちが「(MBTレベルに堅い相手に)搭載機銃の20㎜機銃(※F18Eと同口径)なんてただの豆鉄砲だよ」という趣旨の会話して避退するシーンがある。『創竜伝』との直接の関連はないが、この作品は各サブカルチャーのオマージュ・パロディ的な要素も多く、当の炎龍退治は伊丹ら特殊作戦群が特定の地点まで炎龍をおびき出した上でF-4EJが空対空ミサイルで撃墜、その上から特科(砲兵)の203㎜~155㎜砲弾を土砂降りのように叩き込むことで達成されており、上記第4巻のアンチテーゼに満ちている。(同作中では『空対空ミサイルでは第三世代MBT級の装甲は貫けない』としている。)
関連イラスト
関連タグ
タイタニア:同じ作者の作品で、執筆中断期間が22年に及んだ。
七都市物語:同上。こちらは執筆中断期間26年で、未だに更新中である。
HUNTER×HUNTER、ベルセルク:同じく執筆中断と執筆期間の長さに定評がある。残念ながら後者は2021年に絶筆となった。
こち亀:荒唐無稽な内容ながら取材内容の作品へのきちんとした反映と兵器描写の正確さで人気を博した。