概要
理屈よりも感性に訴えかける、ハチャメチャに見えて絶妙なバランスを保っている芸術（ピカソ）的なダイナミックな作風と、よく調べられた元ネタの数々、自由奔放なルビが特徴である。
あらすじ
始原（はじまり）はその男だった——
メジャーリーグにて全ポジションでベスト9（ALL-MLB）を獲得、
20年連続で投・打全部門のタイトル獲得を総ナメした、
球極の野球人（アルティメット・ボーラー）
"九刀流（クトゥルー）"
最終的に監督、球団社長、オーナーも兼任したこの男———
その圧倒的存在感（カリスマ）を武器に 瞬時に日本国首相へとのぼりつめ さらに―—
全世界連合 初代総裁に就任した!!
「全世界首脳の皆さん… 今日の私があるのはっ 全てッ!! 野球のおかげである!!」
「ウオオーーーッ!!」
この瞬間全世界首脳は 否、全人類は気づいてしまった―——
最優秀人間（M・V・H）をつくるには 野球が一番だと!!
かくして野球は究極の立身出世の道（ナリアガリノカイダン）となり、
全国家で"義務球育"がスタートし…
野球至上主義（ヤキュウコソガパワー）に基づく、
80億総野球人時代が幕を開けたのである!!
世界観
「野球がうまい人間こそが偉い」「あらゆる職業は野球の応用に過ぎない」という価値観に染まった世界である。
"義務球育"にかかれば学校の時間割もこの有様である（投京都導夢小学校 6年1組の例）
野球の時間は座学で配球を勉強したり、机を片付けて教室内でノックを受けたりする。
さらに朝礼の挨拶も「起立！例！守備姿勢！」で、一斉にみんなグローブを片手に中腰に構えたり、先生の叱り方も「ちゃんと野球しないと立派な大人になれないぞ!!」など徹底して野球人として成長することが最重要視される。
都道府県や学校の選抜チームに入れると、1～2限の授業を免除される。
さらに一般人の生活のあらゆるシーンにも野球が入り込んでいる。例えば自転車やドアの握りの部分が球になっていたり、じゃんけんが審判（グー）/ピッチャー（チョキ）/キャッチャー（パー）とそれぞれ呼ばれていたり、除夜の鐘をバットで鳴らしたり、球食では「硬球おにぎり」が大人気だったり、寿司屋の大将が2900回転を超える「マグロ4シームにぎり」を客の口に投げ込んだり、オーケストラでは楽器としてメガホンを叩いたり…と枚挙に暇がない。
そのためテニスやサッカー、フィギュアスケートなど、あらゆる野球以外の競技は徹底的に軽視され、存在自体を知らない者も多い（ボクシングの世界チャンピオンになるよりも、市内野球大会で3位に入る方が遥かに喜ばれるのである）。しかしそれでも、そうした「異種競技」たちを愛する人たちも、少数派ながら確かに存在する。
登場人物
※モデルは全て推測
投京都選抜チーム
投京都（とうきょうと）小学生の選抜チーム。vs零阪府選抜戦の時点で、ほとんどがモブである。
- 永遠嶋魅州太（とわしま・みすた）
本作の主人公。背番号3番の三塁手。『沙蔵（サクラ）の背番号3番』の異名をとった、元九葉県選抜（オール・キュウバ）の選手。市対抗戦で全打席本塁打を記録するも、監督のサイン無視を繰り返したことで事実上追放され、沙蔵小から導夢小へと転校してきたのであった。よく大舞台で野球をする夢を見るが、それが何なのかわからないままいつも目覚めている。
走攻守問わず卓越した野球センスによりあらゆる敵の必殺技に対応し、その魅力（カリスマ）により多くの選手（ライバル）たちを虜にしていく。
モデルはミスター野球の異名をとった長嶋茂雄。
- 波場照栄（はば・しょうえい）
背番号18番の投手。投京都選抜（トップ・オブ・トーキョー）のエースで、未来の日本を背負って立つ球財（エリート）。決め球は音速擬態直球（マッハチェンジアップ）。
小学生とは思えぬ超高身長をバカにされてきたことをバネに、24/7（ネンジュウムキュウ）全てを捧げる徹底した鍛錬を日課とする。そして練り上げられた正確無比な握り・正確無比な体重移動・正確無比な角度・正確無比な回転・正確無比な放射（リリースタイミング）による、ロボットのごとき精密さを武器とする。至球世代（ベースボールネイティヴ）トップの彼の投球の威力は、社会人野球で鳴らした職員室最強（トップ・センセイ）を一球（イチゲキ）だけで戦意喪失（チンチン）に追い込んでしまうほど。
モデルはジャイアント馬場。プロレスラーとして知られる前は巨人に所属する投手で、最初に長嶋がキャッチボールをしてもらったのが馬場だったというエピソードがある。
- 緋廊下竜狼（ひろうか・たつろう）
背番号2番の遊撃手。投京都選抜主将兼監督（マネージング・キャプテン）。
小学生ながら生涯打率8割をたたき出し、そのスイングの鋭さはかまいたちに喩えられる。
彼が監督として繰り出す、敵が読めないほど速い高速サインはただの指示のみならず、サブリミナル効果で恐怖心に支配されてしまった選手をも奮い立たせることが可能である。
女子の追っかけが大勢いるが、選手同様に一喝して彼女たちの統率を取っている。
モデルは広岡達朗。
- 雨宮井出雄（あまみや・いでお）
導夢小学校6年生。永遠嶋のクラスメートであり、彼に魅せられている人間の一人。一方で永遠嶋も、野球至上主義（ヤキュウコソガパワー）の世にあってなお、己の好きなものを貫く雨宮の姿勢を高く買っている。
野球の成績は万年最下位（ドべ）で球歴経験（シアイケイケン）無しの文化系（ノンスポ）だが、絵の才能が有り、投京都小学生絵画コンクール審査員特別賞受賞の実績がある。野球選手たちのプレイも芸術だと捉えており、様々な名比喩を繰り出す。
投京都が球魂崩壊（ゼツボウ）に追い込まれた際、ルール99条の発動と永遠嶋の強い推薦により、まさかの観戦席からの全国大会ナイン入りを果たす。
零阪府選抜チーム
零阪府（ぜろさかふ）小学生の選抜チーム。能占が野球至上主義（ヤキュウコソスベテ）の世界で冷遇され続ける、異種競技者（オルタナアスリート）の反骨精神溢れるトップ選手たちを選りすぐって結成。これは決してロマンなどではなく、彼なりの勝算（ガチンコ）によるものである。
- 能占克矢（のうら・かつや）
野球知能指数（B.B.Q）800を誇る頭脳で徹底したデータ収集・分析を行った上で、キモの据わった大胆な戦略を採るのが持ち味。
永遠嶋がいつも見ている「夢」の正体を知っている様子で、何らかの因縁により永遠嶋を倒すことに執念を燃やしている。
自ら組織した選抜チームを引き連れ、投京都選抜チームの本拠に突如乗り込んで合同練習（モミモミ）してやり、投京都のレギュラーのほとんどを球魂崩壊（ゼツボウ）に追い込んだ。
モデルは野村克也。
- 偉堂最智代（いどう・さちよ）
零阪府選抜の監督。フォロワー数50億、世界No.1インスタグラマーの女。能占のことが大好きで、「カッちゃん」と呼ぶ。
圧倒的な経済力で能占を支援しており、U-12（フューチャースター）全国野球選手権の大会役員全員を買収し、一回戦で零阪府vs投京都を実現させた。どうやら能占は彼女のヒモらしく、皇に斬（ドゥーーーム）られた球の墓も、偉堂の金で買っていた（そして偉堂もそんな能占を「野球一筋（バカ）すぎてステキ!!」と甘やかしている）。
モデルは野村の後妻であった、サッチーこと伊東沙知代。
- 鶴田太興（つるた・たいこう）
背番号18番の投手。ボクシング小学生世界王者。
ボクシングで鍛え抜かれた痛みをも恐れぬ精神力に腕力、ストレート、フック、拳闘戦術（フェイント）などを駆使する技術力、即ち拳球（ボクシング）が持ち味。そのパワーは凄まじく、野球未経験ながら波場を投球だけで吹っ飛ばした。
永遠嶋に球を打たれて以降、永遠嶋に対する思いが熱すぎて語彙力が貧弱になり、永遠嶋絡みだと完全に「永遠嶋ァ!（だが!!）永遠嶋ァ!!（ヨウシャしねぇ!!）」というルビ頼りの意志疎通になってしまっている。
モデルは亀田兄弟。
- 皇宿命（すめらぎ・さだめ）
剣道のようにバットを振り下ろし、バットの角で球を破壊し送球を困難とする白球滅殺（ドゥーーーム）を必殺技とする。
モデルは竹刀の素振りで特訓をしていた王貞治。
- 五億村京（ごおくむら・けい）
三塁手。バスケットボール世界No.1小学生。
圧倒的な高身長とジャンプ力を誇り、永遠嶋のライナーをもキャッチする。
モデルは八村塁。
- 神木高貴郎（かみき・こうきろう）
右翼手。サッカーNo.1小学生。
バットの後ろからさらに蹴っ飛ばす、足を活かした戦い方をする。
モデルは松木安太郎。
- 羽竜夕月（うりゅう・うづき）
遊撃手。フィギュアスケートJr.金メダリスト。
球をペアの女性だと思って大切に扱っており、イメージトレーニングのためにわざわざナイトプールに持ち込んだ球を撮ってスマホに収めている。
モデルは羽生結弦。
- 岸和田アンジェリカ（きしわだ・あんじぇりか）
二塁手。テニス小学女王。
その他
- 毛利義昌（もうり・よしあき）
導夢小学校6年生。永遠嶋・雨宮のクラスメート。豊富な知識やネットでサッと調べた情報によって解説役を務める。
実力もそこそこあるようで、波場と永遠嶋の投vs打（イッキウチ）では捕手を務めた。が、永遠嶋が波場の球を全てホームランにしてしまったので、一度も捕球することは無かった。
