ビーストウォーズリターンズ
びーすとうぉーずりたーんず
概要
正式名称は『超生命体トランスフォーマー ビーストウォーズリターンズ』。原題は『ビーストマシーンズ』(英題『Beast Machines』)。
カナダ制作のアニメ作品でCG版『ビーストウォーズ』シリーズの第3弾。欧米では『ビーストウォーズメタルス』(シーズン3)終了から半年後の1999年に放送。一方、日本では後述の事情から2004年にモバイル放送『モバHO!』にて放送された。
時系列的には、G1(Generation-1)より続く『トランスフォーマー』シリーズの最終章にあたるが、厳密には海外では玩具だけの独自展開シリーズ『トランスフォーマーユニバース』へと続く。
一方、日本では『フィギュア王』に掲載された『ビーストウォーズリボーン』へと続き、更にその未来に和製シリーズの『ビーストウォーズⅡ』と『ビーストウォーズネオ』が位置づけられ、そこでG1の歴史は一区切りとなる。
あらすじ
惑星エネルゴアこと太古の地球でのビーストウォーズの終焉により、セイバートロン星に帰還したサイバトロン戦士達。しかし、気がつくとそれまで自分が何をしていたのか記憶を失い、謎の機械軍団「ヴィーコン」に襲われ、更にロボットモードへの変身もできなくなっていた。
なんとか仲間達と合流し、セイバートロン星地下深くに逃げ込むコンボイ達。そこで最初のトランスフォーマーの創造主「オラクル」と出会い、フォーマットの書き換えによって、機械と生物の融合体へと生まれ変わった。
何が起こったかを突き止めるためにビーコン軍団を撃退し、セイバートロン星の議会に辿り着いたコンボイ。しかしそこにいたのは、セイバートロン星を支配したかつての宿敵・メガトロンだった。
後にコンボイたちはかつてセイバートロン星には自然が存在していた事を突き止めそれの復活を目指しつつ、惑星の完全な機械化による支配を目論むメガトロン率いるビーコン軍団との戦いを繰り広げていく。
特徴・評価
原題を見てもらえばわかるように、本作は『ビーストウォーズ』の直接の続編である一方で、新たなシリーズの第一弾としても製作されていた。TFシリーズに新たな風を吹き込んだ『ビーストウォーズ』の続編であることから、海外では当時かなり期待値が高かったが、いざ蓋を開けてみると、本作の内容は大多数派のTFファンの期待を悪い意味で裏切るものであった。
- TFのデザイン
本作のTF達はクリーチャー色の強い有機的(グロテスク)なデザインが最大の特徴。これまではリアルな動物からメカニカルなロボットに変形していたのに対し、本作のロボットモードはTFでありながらメカニカルな要素が大幅に減り、ゴリラからゴリラになると例えられたコンボイ等従来のTFのイメージからかけ離れた人間寄りの獣人に近い姿へと変貌した。チータス役の高木渉曰く「クスリ打って見えた幻覚をそのまま使った感じ。」
前作からの続投組もかつての面影は全くといって良いほどになくなってしまっており、ブラックウィドーに至っては本来の眼に加え時折り額からもう一対の眼が覗くシーンがあり、トラウマになるという意見も続出した。
- 陰惨なストーリー
日本語版のイメージだとあまりピンと来ないかもしれないが、原語版の『ビーストウォーズ』はシリアス寄りのストーリーであり、仲間同士の対立、死、裏切り、第三勢力によるオカルト的な介入など、決して明るい作品とは言えず日本語版も子供人気を出すためにアドリブで明るくしているとはいえ『メタルス』からその傾向が強くなっていった。
本作の陰鬱度はさらに深化し、記憶が欠損したことで以前よりも深刻化した仲間割れや、信じていた仲間の裏切りなど味方サイドでの内紛、自然か機械かをメインにしたシリアス展開が相次いだ。また、キャラクターや背景の色使いが全体的に暗めなことと、上述のキャラデザもダウナーな空気に一層拍車をかけている。アメコミ並にギスギスしたストーリー展開に加え、難解な宗教的精神論が登場した際は「メイン視聴者の子供に理解できるのか」という意見もあった。
日本語版でもそういったシリアスで崩せないストーリーや台詞については比較的忠実に吹き替えられており、おふざけは交えられているとはいえ暗いストーリーであることは誰の目にも明らかであった。
とは言え、先の通り『ビーストウォーズ』シリーズ自体元々はシリアス路線なうえ、G1の系譜として考えると少々暗い印象の強い作品群であった。また、タンカーことライノックスの裏切りはよく唐突な展開と指摘されるが、実は伏線のようなものは前シリーズから存在した。例えば彼は初期のビーストで横暴な性格になってデストロン側についた際は、メガトロンを裏切り自分がリーダーになり変わろうとしており、出世欲のようなものは描かれていた他、そもそも争いを好まない性格という点が謀反の理由にもなっている。元々海外の視聴者はシリアスでダークな内容を好むことに加えて、話の筋が破綻しているわけではなく、テーマには沿った内容であることから当時より評価している視聴者も存在していた。
- TFシーンの演出
TFの醍醐味と言えば変形(BWならば変身)であるが、本作の変形の描写は変形完了までのプロセスを端折り、光に包まれて文字通り変身するという、TFの様式美とグッズコンセプトを潰してしまうものであった。
こうした描写が採用された理由は、アニメ制作チームと玩具を製作するハズブロとの連携が悪かったために変形描写が統一できず、やむなくアニメチーム独自で変身描写を制作したため。そもそも、本作はそれまでのシリーズからスタッフがほぼ一新されており、ノウハウがあるスタッフの多くが抜けてしまったこともアニメ制作の混乱に拍車をかけた。そのためか玩具の出来そのものは良く、変形ギミックもシンプルながら従来のシリーズのように遊ぶことができるのは幸いか。
なお、変形自体は光に包まれてプロセスがカットされているものの、変形時のモーション自体は同じ。例えば変形後にポーズを取るコンボイや、変形前に下半身を横にぐるぐる回すラットルなど、こういった点はシリーズ恒例の要素を踏襲している。
結果
あまりにも攻めすぎた作風が災いし、アニメ視聴率の低下、玩具の売り上げ不振などを招き、これに伴い海外で酷評の嵐に見舞われたこともあり、商業的には大失敗と言わざるを得ない結果となってしまった。本作の不振によって、『ビーストウォーズ』が持ち直したシリーズ人気が一気に下落し、TF市場を崩壊寸前にまで追い詰める事態となってしまった。シーズン1~3で大人気を博した『ビーストウォーズ』が、「トランスフォーマーを危機に陥れた元凶」としても知られているのは、ひとえにこの作品の失敗によるものである。また流石に擁護できないが、アニメの出来に失望したファンが制作スタッフにインターネット上で殺害予告を送り付けたという物騒なエピソードも存在する。
当初はシリーズ化の構想があったものの、本作の不振が影響して打ち切りとなり、次回作として控えていた『トランステック』もお蔵入りとなってしまった。その後、海外市場ではTF復活のために日本で製作された『ビーストウォーズⅡ』『ビーストウォーズネオ』『トランスフォーマーカーロボット』の3作を一部アメリカ仕様に編集した上で市場に投入することを決定(タイトルは『Transformers Robots in disguise』に変更)。これが目論み通りウケたことで、何とかTF存続のピンチを切り抜けたのである。これ以降和製TFシリーズの要素があちら側にも取り入れられる機会は増えており、皮肉ではあるが立役者となったのであった。
何かと酷評されがちな本作ではあるが、より陰鬱なストーリーやクリーチャー的なデザインを好むファンがいることを忘れてはいけない。「自分が面白ければいい」という理由のみで周りを憚らず過度なネタ化・作品disを繰り返すことは言語道断である。作品を語る際には周囲への配慮を持つことも心がけよう。
元々本国アメリカではこういったダーティな作風を好む風土があったためか、時間が経つにつれて再評価の機運が高まっており、時間の経過もあって再評価も進んでおり、アメリカのアマゾンのレビュー数の中で500レビューで★4.7といった高スコアをマークするといった当時からは考えられない快挙も成し遂げている。
そもそもお話的には前作『メタルス』以上に暗すぎること、メタルスとは雰囲気の違う暗い作風だったことが批判の大半であり、実際ストーリー的な破綻はない。
突っ込まれるメガトロンのアンチ有機体思想や、唐突と言われがちなタンカーことライノックスの裏切りも、前シリーズの要素を引き継いでいる。
有機体と無機物のバランス、というテーマは現実にも即したものであり、そういった疑問の投げかけに対するアンサーはある程度出来ている。
こういったこともあり、リターンズことビーストマシーンズは海外では徐々にファンから受け入れられている現状がある。と言ってもあくまでもアメリカのオタク層がメインだが。
またシリーズ内でおいても実写版のような異形のTFや、ユニクロンやプライマス、アメコミのストーリー展開、パワーオブザプライムでの原初の13人のプライムといった精神面、宗教色も強いディープなストーリー要素、本作で追加されたセイバートロン星の要素など後々のシリーズで形を変えながら取り入れられており、良くも悪くもシリーズに影響を与えた意欲的作品の立ち位置になっている。
日本語版
上記の当時の悪評のため日本では地上波での放送が見送られていた、というより諦められていた。仮に放送するとしても商品が売れる見込みがなく、タカラトミーとしてはあまり利益のある話ではなかったためである。
しかしワスピーターを演じていた加藤賢崇の元には、ファンからのマシーンズの放送を心待ちにする声が多く届いていた。それもあって、加藤的には「やれば成功するだろう」という自信めいたものがあったという。
実際、日本版作成を望む声もあって、上述のモバイル放送という限定的な体系で、『超生命体トランスフォーマー ビーストウォーズリターンズ』と改題をしつつ2004年に吹き替え版が配信された。これは後にソフト化され、一部ではなんと実際にTVで放送された。
なお原語版タイトルは『ビーストウォーズマシーンズ』ではなく『ビーストマシーンズ』であり、本来『ビーストウォーズ』は惑星エネルゴアの戦いで区切りがついたということになっている。劇中でもそのことには言及されているが、認知度を考慮してか本質をあえて無視した改題となっている。
国内放送版では音響監督兼脚色担当の岩波美和による大幅なアレンジが行われた脚本と出演声優陣によるアドリブの嵐によって、当時子供だったが今は大きなお友達になった人向けの、R-18指定な作品に仕上がっている。なお、本作は勘違いされがちだが、派手にアドリブを飛ばしているとはいえ、基本的なストーリーはしっかりと抑えている。そのためか、「アドリブがあっても陰湿さは消えてない」との感想は絶えず、本作=原語版のストーリーが日本ではより不評な要因にもなっている。
とはいえ、吹替版のおかげで「キモイデザインに慣れた」「意外とヴィーコンのデザインはカッコいいと思えるようになった」「そもそもビーストの続編が見られて嬉しい」という声が生まれた。さらにビーストシリーズ初のオーディオコメンタリー(という名の座談会)も制作され、アニメ業界で伝説とまで呼ばれたシリーズの裏側を知る機会ともなった。
岩波自身、「ビースト的なものをやってくれと言われるが、条件が多く付く以上、ここまでのものは二度とできない」と発言しており、本作はいろんな意味で伝説となっている。後に同じ路線で行ったサイバーバースは必ずしも成功とはいかず、本作はまさに時代が噛み合ったといえる。
登場人物
サイバトロン
サイバトロン総司令官。ヴィーコン軍団に追われる形で「オラクル」と出会い、そこで有機物と無機物がバランスよく混ざり合ったテクノオーガニックボディにリフォーマットされる。最終決戦でメガトロンと相打ちになる形で…。
BWシリーズほぼ唯一の良心だったが本作でちょっと壊れ始める。
「イボンコペッタンコイェイ♪」
チータス(CV:イアン・ジェームズ・コーレット(米)/高木渉(日))
本作からは射撃ではなく曲刀のような武器を使用する。副官ポジションとしてコンボイ不在の時などは指揮を執るなど、成長した一面を見せた。
みんな大好き校長先生。チーメラン。
ラットル(CV:スコット・マクニール(米)/山口勝平(日))
他のメンバーと異なり上手く変形できず、ようやく変形できたのはいいものの武器が使えないという状態だった。だが得意のハッキングや発明を生かしてヴィーコン軍団を翻弄するなど、他のメンバーにも負けず劣らずの活躍を見せた。淫獣。
ブラックウィドー(CV:ヴィーナス・ターゾ(米)/柚木涼香(日))
前作からデストロンからサイバトロンの一員になっている。
行方不明になったシルバーボルトを探していたが、彼のことを思いすぎるあまり無茶をしでかす事も多かった。なお、当初はスラストと彼を取り間違えていた。シルバーボルトの復帰直後も何かと衝突が絶えなかったが、最終的にはよりを戻すことができた。
シルバーボルト(CV:スコット・マクニール(米)/岩田光央(日))
侍を意識したデザインになり、日本語版では口調が変わり「わし」「お主」「そち」などと殿様を思わせるしゃべり方をする。語尾は「〜ギョエ」。
ナイトスクリーム(CV:アレッサンドロ・ジュリアーニ(米)/神奈延年(日))
コウモリに変身するセイバートロン星の住民。オカマキャラ。
植物に変身する女性科学者。ロボットとビーストの境目が曖昧。受精。
元はセイバートロンの生き残りを名乗っていたが、実際はメガトロンが臨時でスパークを宿していた有機体の化物。後に自我を取り戻し、ナイトスクリームに協力する。オペラ口調で歌に乗せて喋る事が多い。
ヴィーコン
前作の最終決戦で敗れ、護送されていたが、タイムワープを逆手に取りサイバトロンがやってくる前の2ヶ月前にタイムスリップ。その後ウイルス爆弾でセイバートロンを制圧した。ビーストウォーズでの経験から完全な平和には有機体と個人の意思の排除が必要だと考え、自身の命令のみに従うヴィーコンを作り出し、セイバートロンの完全支配を狙うようになる。
中の人の暴走に拍車がかかっている。「メガトロン音頭」は必聴の価値あり。
フライングC(CV:クリストファー・ゲイズク(米)/千葉一伸(日))
メガトロンの側近となって働く小型ドローン。
タンカー(CV:ポール・ドブソン→リチャード・ニューマン(米)/中村大樹(日))
戦車型ドローン達のリーダー。口癖は「~ダナ」。
ジェットストーム(CV:ブライアン・ドラモンド(米)/岩田光央(日))
戦闘機型ドローン達のリーダー。口癖は「~デス」。
スラスト(CV:ジム・バーンズ、スコット・マクニール(米)/加藤賢崇(日))
バイク型ドローン達のリーダー。口癖は「バリバリ」、「ぶ~ん」。
オブシディアン(CV:ポール・ドブソン(米)/小野坂昌也(日))
戦闘ヘリ型ドローン達のリーダー。関西弁で喋る。
ストライカ(CV:パトリシア・ドレイク(米)/愛河里花子(日))
装甲車型ドローン達のリーダー。ドローンでは唯一の女性(?)。
ナビ子ちゃん(CV:エリザベス・キャロル・サヴェンコフ(米)/柚木涼香(日))
メガトロン陣営のサポートプログラム。やたらとハイテンションで気まぐれな女の子風なのは相変わらず。
その他
オラクル(CV:エリザベス・キャロル・サヴェンコフ(米)/神奈延年(日))
最初のトランスフォーマーを生んだとされる、セイバートロン深部にある伝説の巨大コンピューター。ベクターシグマのホストコンピューターである。
コンボイ達サイバトロン戦士のリフォーマットを行った。(日本語版では唯一アドリブ演技のない役だったものの、コンボイが見たビジョンの中で若本規夫風の口調になったり、フライングCに改ざんされた際は「アクセスの権限は認められません。アクセスはダメ。アクセスすんじゃねぇよ、バカ」と言葉遣いを徐々に軟化させている)
ビースト戦士の面々に「はずばなー(フリートーク対決・恥ずかしい話)」を振ったDVD特典のリミックスは役柄&画面無視の下ネタ座談会と、(ある意味)恒例のモノマネ大会と化しており、自身も過激なネタをブッ込んだ。
余談
- 声優無法地帯なことで有名なビーストウォーズだが唯一コンボイだけはアドリブを禁止されていた。これは無印やメタルスでは主人公のコンボイだけは格好良くして欲しいというスポンサーのタカラからの要請と、コンボイまでふざけるとストーリーラインが崩壊するためという理由があり、「なんで俺はコンボイなんだ」と悔しがっていた子安武人氏だったが、本作ではある程度のおふざけが解禁された。とはいえ今作でもストーリーラインを崩すと困るため、間を埋めるためのアドリブは全面解禁といった程度であった。このため生まれたのが「面白いことを言え!!」という酷い無茶振りである(ちなみに全員から無視された)。なお、子安氏はふざけられなかった反動で皆のアドリブを見て笑うのが楽しみだったという。
- 本作の有名なアドリブ「イボンコペッタンコ、イェイ」であるが、流石にこれはタカラから物凄く怒られたのも有名。岩波氏の説明によると、当時のトランスフォーマーにとってコンボイ(オプティマスプライム)は日本で言うならガンダムと同じレベルのブランドネームであり、これをイジられ貶められることを嫌ったためである(ガンダムをムダンガと茶化す様なモノ)。なお、この影響でトランスフォーマーは海外名を主軸にしたのでは?と言われているが、このイジられ方をされているのはビーストコンボイだけなうえ、以降『ギャラクシーフォース』までコンボイという名のトランスフォーマーが登場しているため事実無根。海外名が主軸になったのは実写版との兼ね合いのためである。ビーストウォーズのキャラが登場した実写映画「ビースト覚醒」では「世界的戦略」と説明されている。
- メタルスの時は抜き撮りが多く、ネタの置き土産が常態化しており、「先に収録したもの勝ち」な状況が成立し先に収録されたアドリブに返すのに苦労したと言う。これが関係しているわけではないが、リターンズはわざわざ収録予定日を少し遅らせてまで全員集合のアフレコにこだわっていた。なお、本作は毎回2本撮りだったという。
関連タグ
トランスフォーマー ビーストウォーズ ロボットアニメ 玩具 動物
ビーストウォーズ→ビーストウォーズメタルス→ビーストウォーズリターンズ→ビーストウォーズⅡ→ビーストウォーズネオ
※日本におけるアニメの時系列。TF初の全編3DCGで始まり、TF最後のセルアニメで終わる、ある種の対比となっている。
ビーストウォーズ→ビーストウォーズメタルス→ビーストウォーズリターンズ→ビーストウォーズリボーン→ビーストウォーズⅡ→ビーストウォーズネオ
※日本における(小説含めた)時系列。