アイドル声優(声優アイドル)とは、1990年代半ばあたりから生まれた俗称である。
文字通り「アイドル」のような売り方、扱い、人気、活躍を示す声優のこと。
概要
本業である声優業だけでなく、CDの発売やライブなどの音楽活動(キャラクター名義での活動も含む)、声優専門誌などへのグラビア出演、写真集やイメージビデオの発売、アニラジなど幅広く活躍し、主に若年層のファンから支持を得ている声優を指す。
アイドル声優と称される者同士で結成される声優ユニットも多数存在する。
アイドルのように活動をする声優は、遡ると1970年代くらいから存在していたが(アイドルから声優に転向した日高のり子や櫻井智のような例もある)、現在言うところの「アイドル声優(声優アイドル)」の定義が定着したのは1990年代以降である。人気声優はとにかく歌手デビュー(キャラソンではなく個人名義で)するという展開が、ファンの間でも広く受け容れられ現在に至る。
アイドル化の経緯
1990年半ばとは、世間のアニメ文化への硬化が徐々に和らぎ、同時にオタク文化への受け入れの土台も形成されていった時代であった。
それはアニメを見て育った世代が社会人として活躍するようになった時代を意味し、二次元創作作品への抵抗感や偏見も薄まっていった時期でもある。
分厚く見応えのあるストーリー演出の一環として、声優がキャラクターとして劇中歌を披露する機会も増え、その曲をフルで聞きたい希望するファンも登場する。もともと出演者がOPやEDのテーマソングを歌うことは珍しくなかったアニメ業界だが、それはあくまで「児童向けアニメらしい雰囲気を出す」ための一環だった向きもあり、一般的な童謡やオリジナルの歌謡曲を本格的に歌わせ始めたのもこの頃だろう。
出演者が歌うことで人件費を抑える目的もあったのだろうが、とかく声優志望者に「歌える」という条件が生まれてきたのは、およそこの時期と思われる。
そして2000年代初頭、オタク文化がよりオープンなものとなっていくにつれ、声優の実態についての世間の興味は日増しになり、それまで「専業声優を志すなら顔出しはNG」という風潮を声優が所属している事務所側から軟化していくようになる。
理由は単純に「売れるなら」「事務所の利益が増すなら」という、この点に尽きる。
2000年代初頭には並行して第一次萌えブームが到来しており、キャラソンの需要も爆発的に増加すると共に、担当声優へのアイドル視も強まっていくことになる。
この連鎖により、「声優でもオタク相手ならアイドル並みに稼げるのでは?」と結論されたのは、ある意味で自然な流れだった。
こうして「売れる声優」の定義に、「見目が良く、若々しく、歌える」というアイドルそのままの条件が追加されたことで、今日のアイドル声優の登場へと繋がった。
2000年代後半になると動画サイトの登場により深夜アニメなどの知名度が向上し第二次萌えブームが到来。キャラソンが飛ぶように売れ、これによりアイドル声優商法は確立したものとなった。
2010年代以降は若年層への声優人気に加え、従来は滅多になかったバラエティ番組での声優の出演などが増加している。
賛否
本職を超えた幅広い活動を見られること(ドル売り)自体は、一時期において人気を得ている声優であることの証明であり、ファンからは基本的に歓迎される傾向があるものの、ベテラン声優や声優全体のファン(またはアニメファン)、アニメ監督やアニメーター等アニメ製作に携わる者の中には、「演じるキャラクターに対するファンのイメージを壊してしまうかもしれない」などの理由から声優が素顔を晒すこと自体に否定的で、声優がアイドルのように活動することや、そのように売り出している声優を快く思わない者もいる。
しかし、現実的にはギャラの安い新人のうちは声優業だけでは食べていくのは困難なため、音楽活動をやむなく両立しているケースも多い。
また一般的なアイドルと同様に、「声優としての実力(演技力)の面で劣る」という認識を持たれがちであることから、声優本人も「アイドル声優」と称されることやアイドル扱いされることを嫌がる者もいる。そのため、近年は「声優アーティスト」という表現が用いられる傾向が強くなっている(ただし、例えば南條愛乃、高垣彩陽などのように歌唱力を活かした活動に重点を置く声優や、田所あずさ、鈴木みのりなどのようにデビュー時から歌手活動との並行を前提に活動する声優が存在する一方で、芹澤優などのように自身を「アイドル声優」と明確に位置付ける声優もいるので、必ずしも一概にまとめるのは難しいともいえる)。
ドル売りが大当たりして、一時期に爆発的な人気を博した平野綾は、自身は「声優はアイドルではない」と発言するなど、アイドル声優として扱われることへの反発や、立ち位置に対する複雑な心境を窺わせていた。また内田彩は、自分名義で歌手活動をすることについて、当初は「はっきりと、イヤでした」と思っていたことを明かしており、その理由としてアイドル声優として扱われることが怖かったことを示唆している。
実状
新人が毎年出てくるうえに、人気の浮き沈みが激しい業界であるため、「アイドル声優」として一時期に絶大な人気を得たものの、わずかな期間のみの活躍で若い世代にポジションを取って代わられ、仕事も露出も大幅に激減するというケースが非常に多い。
あの人は今どうしてるんだろう?と調べると、既に引退していることもある。
"アイドル"と付く以上は年齢による世代交代は避けられず、加齢によりいずれは表舞台からは去らねばならない。
アイドル声優同士の声優ユニットも、人気低下にともない自然消滅するパターンが多い。
桑島法子は新聞のインタビューで「アイドル声優は旬が過ぎてしまうと、この業界では使ってもらえなくなります」とシビアな現状を吐露している。
もっとも、ドル売りをしているか否かに関わらず、声優という職業自体がもともと生存競争が過酷な業界であるため、仕方がないといえる。
勿論実力も兼ね備えていて、あるいは地道に演技力を身につけていくことで、40歳以上になってもベテラン声優のポジションにシフトして生き残っていくアイドル声優もいるが、一線で活躍を続けられる声優は一握りしかいない。その点においても一般的なアイドルと同じような状況と言えるだろう。
また、本業である声優以外にも様々な仕事をこなさなければならない重圧やストレス、さらにはある日突然人気が出て周囲の環境が一変してしまったことに心身がうまくついていけない等の理由から、結果として体調不良に陥り、人気絶頂期にも拘わらず早々に引退を余儀なくされてしまうというケースも散見されるようになってきており、こうした若い芽を潰してしまうようなドル売りを続けていけば、将来的に声優業界全体が危機的な状況に陥るのではないかと警鐘を鳴らす声も出てきている。
主なアイドル声優
アイドル性、アーティスト性があるという意味で、とりあえず武道館ライブの開催を実現させたことがある声優を挙げておきます。なお、一覧として挙げている声優の中には、「アイドル声優」と呼ばれることを嫌がっている(いた)声優が含まれていることに御留意頂ければと思います。
女性
椎名へきる(声優で初の武道館ライブ)