概要
食肉類イヌ科に属する。漢語では豺。1種のみでドール属を構成する。背中が主に赤褐色、お腹は淡褐色や黄白色。尾の先端は黒い。
一般的には英名ドールで呼ばれることが多い。一応「紅狼」とも書くので、和名が「アカオオカミ」になったらしいのだが、ドールは狼の仲間より乳首の数が多いので、別の種類。
なお、北米には「アメリカアカオオカミ」という種類がいるが、ドールとは別種で本来のオオカミに近い(オオカミとコヨーテの雑種という説もある)。
分布は南アジアから北アジアにかけてと広範囲で、主に森林などに生息する。更新世の分布は今よりもかなり広大だった模様で、ヨーロッパ、台湾、日本列島、北アメリカにも分布していた。
生態
昼行性だが、夜間に活動(特に月夜)する事もある。5-12頭からなるメスが多い家族群を基にした群れを形成し生活するが、複数の群れが合わさった約40頭の群れを形成する事もある。狩りを始める前や狩りが失敗した時には互いに鳴き声をあげ、群れを集結させる。群れは排泄場所を共有し、これにより他の群れに対して縄張りを主張する効果があり嗅覚が重要なコミュニケーション手段だと考えられている。
食性は動物食傾向の強い雑食で、昆虫から鹿や水牛などの大型哺乳類、果実、死骸などを食べる。獲物は臭いで追跡し、丈の長い草などで目視できない場合は直立したり跳躍して獲物を探す事もある。横一列に隊列を組んで逃げ出した獲物を襲い、大型の獲物は他の個体が開けた場所で待ち伏せ、背後から腹や尻のような柔らかい場所に噛みつき内臓を引き裂いて倒す。また群れでトラやヒョウなどから獲物を奪う事もある。
なお、稀に(数十頭単位の群れにおいて)トラやクマなどの大型肉食獣を(獲物略奪以外の目的で)わざわざ襲うことがあることが近年報告されている。当然単体はおろか数頭単位でも敵わない相手のはずだが、ドールの側に最大で20頭近い犠牲を出しながらもとうとうこれらの相手を倒して食らい尽くしてしまうとされる。理由は全く不明。一方で生息域の重なるオオカミに対してはこのような抗争を仕掛けないとされる。
民俗
狩りの手法があまりにも残虐だと恐れられ、犬の舅とされた。(漢字も「才能のあるけもの」である)
当然、後輩の犬はは森ですれ違うと頭を下げると言われる。
また、中国では昔、悪口として
「豺虎に食わさん」「豺狼に食わさん」(ヤマイヌに食われろ!)
という語があった。
『礼記』『王政篇』に、「カワウソ魚を祭りて中略、豺肉を祭りてしかる後に田猟(狩猟 は大昔の中国ではこう書く)す」と書いてある。
後漢の張綱は、腐敗した政治を改革しようと「豺狼路に当たれり、いずくんぞ狐狸を問わん(目の前に残虐なヤマイヌがいるのに、何でタヌキやキツネを相手にしているのだ)」と大将軍梁冀らの悪事を記した告発状を順帝に上奏した。
人間との関係
上野動物園では1978年から飼育していたが、飼育スペースの問題などから新しい個体を導入することがむずかしくなり、2003年2月11日によこはまズーラシアからオスの「キュウ」「カーン」「ダン」、メスの「ミコ」とともに来園し、2016年7月26日に死亡した「エリ」が最後の飼育個体となっている(1996年に作られた展示施設は、2015年度末に施設が老朽化のため取り壊されたアメリカバクが現在生活している)。大阪府の天王寺動物園においても「シュタイン(メス)」の展示が行われていたが、2018年3月20日に亡くなっている。2021年にはトルコから新たにメスの個体(名前・モーア)がズーラシアに導入。2023年にモーアが5匹の子供を出産し1匹が甲状腺ホルモンの低下で死去するも、生き残った4匹は元気に成長している。
因みに2023年現在国内でドールに会えるのは前述の神奈川県の『よこはまズーラシア』のみである。
前述したように残虐な狩りをする猛獣としてオオカミ以上に人類から嫌われ、懸賞金まで掛けられて徹底的に駆除された。更には開発による生息地の破壊や飼い犬由来の伝染病の影響もうけ、現在では多くの野生イヌ科動物と同様に絶滅危惧種となってしまっている。
関連項目
ドール(けものフレンズ) 本種をモチーフとした、けものフレンズの登場キャラ。